ハジメテノ

1

　いい天気だった。

　呆れ返るほどに空は青く高く、雲ひとつない。


　こんなにいい天気なのに、しかしながら隣を歩く君はすごく不機嫌そうだ。



　人生で初めてゴムを買った。
　ゴム、というのは健全な男性諸君がまず間違いなく思い浮かべるであろう薄いアレだ。

　奮発して0.01を買ったのは少し積極的すぎると思われたかもしれない。


　これから親のいない僕の家に行くというのに、僕ら2人の間に流れる空気はまるで通夜のようだった。


　僕の隣を歩く真っ黒なストレートのロングヘアを腰まで届けた真面目そうな美人、つまるところ僕の彼女である対馬 遥は、依然として不機嫌そうな顔をしているが、実際のところ満更でもないのは、頑なに離れない恋人繋ぎから伝わってくる。


　そう考えれば、この通夜のような空気感もある意味嵐の前の静けさということだ。

　僕の心は嵐なんてものじゃないが。


　初めての彼女と、初めてセックスをする。
　それは僕にとってもそうだし、彼女にとってもそうだ。


　期待に踊る胸の鼓動がどうか手のひらを通じて彼女に届いていないことを祈って、僕は家路を急いだ。