高火力に転生したけど、コントロールがダメでした

カズキ響ゼツ

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高火力に転生したけど、コントロールがダメでした! 3話

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「ふぁ……ねむ……」
 翌日の朝、僕は目をこすりながらトマスおじさんの畑へむかっていた。
 ピリポさんが改めて訪れるはずだから、家で待っていたかったけれどそうもいかない。
 畑の賠償は今年いっぱい、トマスおじさんの畑を手伝う事だ。
「あ……だとしたら、魔法学院に行けない!」
 僕はひじょうにがっかりする。
 畑を燃やしたのも僕がやったことだし、賠償を放りだすわけにもいかない。
 かといって、魔法学院には正直今すぐにでも行きたいという気持ちがある。
「どうやって、トマスおじさんを説得しよう……?」
 そう考えながら畑へむかっていると、そこにピリポさんがいた。

「おはようございます、ハレル」
「お、おはようございます? って、ピリポさんなんでここに?」
 僕は畑に立っていたピリポさんにびっくりする。
「ここであなたが魔法を使ったのだと聞いて調べていたのです」
「ああ、なるほど……?」
 黒焦げになっている以外、なにかわかるだろうか? と僕は首を傾げる。
「魔法が使われた形跡を調べる魔法も存在するのですよ」
「三日以上過ぎてるのにわかるものなんですか?」
 僕は疑問に思ったことを質問する。
「はい、行使された魔法が大きければ大きいほどその残滓は色濃く残りますから」
 僕はそれを聞いてついはしゃいでしまった。
「それって、それだけ僕の力が強いってことですか?」
「そうですね。それと同時に危険も大きいということです。
 被害が畑と君の両手だけで済んだのは奇跡です」
 さりげなく釘をさされて僕はしょんぼりする。
「ははは、はい。すみませんでした――あれ?」
 そこで僕はあることに気が付いた。

「畑がキレイになってる?」

 畑を見回してみれば、あれほど黒々と焦げていた箇所がすっかりなくなっていた。
 炭になった野菜を取り除いただけでは、まだ畑は黒かったハズなのに!
「ああ、それですか。
 私が魔法で直しましたよ。
 流石に野菜はまた種をまく必要がありますが、この畑はこれで大丈夫です」
 ピリポさんはにこにことそう僕に言った。
「……ということは、トマスおじさんの手伝いをする必要はない?」
「そうですね。ですけど、改めてトマスには謝罪と挨拶をした方がいいでしょう」
 どうやらピリポさん、魔猪事件の話を聞きがてら、畑の賠償とアフターケアについても
交渉していてくれたらしい。
 僕は飛び上がって喜んだ。



 それからとんとん拍子に魔法学院行きの話は進んだ。
 最初は渋っていた父と母も「力が制御できない方が危険で不幸である」とピリポさんに説得されて、学院行きを了承した。

 それからさらに三日間の間に荷造りと近隣への挨拶を済ませて、僕の魔法学院への旅立つこととなった。


 旅の路程はこんな感じだ。
 まず、近隣の街を経由して王都方面へと目指す、そこから東を目指し魔法学院と至る……
というのが大雑把な路程だ。
 そうして僕は今、王都行の乗り合い馬車に揺られながら王都前の街に向かっている。
「ピリポさーん、魔法で空を飛んで行くとか、瞬間移動するとかしないんですかぁ~」
 お世辞にも乗り心地がいいとは言えない馬車の揺れに、お尻だけじゃなく体のあちこちが痛い。
 泣き言の一つも言いたくなるってものだ。
「そうですね、そういった方法もあるんですが。
 魔力の消費量が多いため多様できないんですよ。
 瞬間移動なんか、通行人とうっかりぶつかる危険もありますし使いにくいんです。
 それから、私たちのような勧誘員は基本徒歩で情報を集め、今回のハレルの様な子供を探すんですよ」
「そうなんだ……」
 思いがけず、魔法の不便さとピリポさんの業務内容を聞けてしまった。
 僕は魔法師になったら、絶対馬車の揺れを緩和する魔法や、お尻の負担を軽減する魔法を発明すると心に誓った。

 旅の路程は順調で、途中オークの群れに襲撃される王女様に出会ったりせず平和なものだった。
 それもそのはずで主要な街道は、王都の騎士団が見回っているし、
各地の街にあるギルドに所属する冒険者も治安維持に一役かっていた。
 なので、よっぽど整備されていない道や森に入らない限り、盗賊や夜盗の類には合わないそうだ。
 僕はそれを聞いて、いまさら自分がずいぶん治安のいい国と村に生まれついたことを知った。 

 馬車には様々な人種……エルフやドワーフだとか、獣耳のついた狩猟民族。
 商人や街へ出稼ぎに行く農民、冒険者など、いろんな人が乗り込んでは降りて行った。
 中には魔法師と農民の子供という組み合わせに、興味を持って話しかけてきた冒険者もいた。
 僕は「魔法師になるために魔法学院に行くんです!」と、ちょっとだけ誇らしげに話してみせた。
 ピリポさんはちょっぴり苦笑いしていたけれど、
冒険者の男性は「お、いいじゃねぇか、頑張って出世しろよ?」といってエールを送ってくれた。

 ……こんな具合で約五日間の路程を終え、いよいよ魔法学院へと到着した。



「ほわー! すごーい! すごーい!!」
 僕はそびえたつ塔の連なりをあんぐりと見上げひたすら「すごい」を繰り返した。
「――ピリポが戻りました、開門を願います!」
 ピリポさんは背筋をピンと伸ばすと、門に飾られたガーゴイル(多分)に名前を名乗った。
 すると、ぎぎぎぎぎぎと重い鉄をひきずるみたいな音をたて、門が開く。
「さぁ、ハレル。こちらへ、中に入りましょう」
「は、はい!」
 僕は緊張で心臓をばくばくさせながらピリポさんの後に続いた。

 門をくぐり、塔の一つに入ると、中は意外なことにとても明るかった。
 てっきり中は薄暗いものとばかり思ってたから、びっくりしてキョロキョロしてしまう。
 ピリポさんは驚く僕を無視してるのかな?
 それとも気づいてないのか、すいすい先に進んでしまう。
 僕はおいてかれないよう、慌てて後を追いかける。
 当の中は昼間のように明るいだけでなく、大きな木が生えていたり、小川が流れていたりした。
「これ、全部魔法でやってるんですか?」
「まさか、純粋な人の手による技術も使われていますよ」
 奥に進んで行くと、大きな吹き抜けになったホールに出た。
 そこには、様々な階をつなぐ通路や階段が入り乱れており、学院生たちらしき姿がちらほら見える。
 その中には僕らに気が付いて、物珍しそうに見つめる視線を投げかけてる人もいた。
 僕は気恥ずかしさを覚え、ついうつむいてしまう。
 そしたら「クスクス」とした笑い声が聞こえ、余計恥ずかしくなった。
『今更だけど僕、すごい田舎者っぽくない?』
 いや、事実田舎者なんだけれども。
 僕は少ししょんぼりしながら、ピリポさんの後を追い続けて――悔しそうに泣いている赤毛の女の子とすれ違った。
 彼女は走っていたのであっという間にその背中は小さくなる。
 僕はなんとなくその背中をぼうっとみおくって立ち止まった。

「ハレル。どうしました?」
「あ、はい、すみません」
 ピリポに催促され慌てて彼のもとに駆け寄る。
 ピリポは人間サイズの鳥かごのようなものに乗り込んでいて、僕もそれにならう。
 それから、ピリポは鳥かごの床に生えた柱……高さにして僕の腰くらい……
に手をかざしていった。
「『上昇せよ』」
 ピリポが命じるとするすると鳥かごは上え昇りはじめる。
 どうやらこれはエレベーター装置らしかった。
『ファンタジー世界にもエレベーターあるんだ』
 と妙に感心する。
 ひょっとして、エスカレーターや歩かなくていい通路とかも存在するんだろうか?
 とか考えている内に目的の階に到着したらしく、エレベーターは停止した。
 ピリポは慣れているのかひょい、と簡単に鳥かごを降りた。
 のだけれども停止の時に鳥かごがかなり揺れるもんだから、僕はおっかなびっくり降りる。
 足元がスースーする思いでピリポに追いつくと、
いかにもここには『一番偉い人がいますよ!』的な重厚で大きな扉の前にたどり着く。
 
 ピリポは獅子の頭を模したノッカーで扉をノックすると扉は門と同じくひとりでに開く。
「失礼します」
「し、失礼します!」
 僕もピリポにならい、扉をくぐる。
 するとそこには古そうな木製の椅子に腰かけた、いかにも魔法使い! な白髭をたくわえたおじいさんが座っていた。
 


 つづく
 
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