銀のリボンを結んで

吉岡果音

文字の大きさ
上 下
15 / 21
ギフト

寂しそうな瞳

しおりを挟む
「凛子、眠れそう?」


 横になってしばらくすると、隣のベッドからリールが声をかけてきた。


「はい……。寝つきはいいほうなんで大丈夫です」


「このベッド、寝心地がいい感じよね。安宿じゃなくてほんとよかったわ」


「あの……」


「なあに? 凛子」


「リールさんは……、リールは、ギフトをもらってよかったと思っていますか……?」


 カーテンの隙間から少し、月の光が差し込んでいた。


「うん……。そうね。私はどちらでもないわ。私は私だし。ミルゼやディゼムのように、遠くへ行ってみたいとかそんなに思わないしね。生まれたときからだから、もうそういうものだって思ってる……。でも自分の能力に関しては、私は誇りを持っているわ」


「そうなんですね……」


「ギフトは……、妖精の植えた『種』だって思ってる人もいるわ」


「え……?」


「妖精が、あとで自分の食料にするため人間に種を植え付けているようなものだって感じている人たちもいる。人間が魔力を使ったときが収穫どき。妖精って、人間が力を持ったら使わずにいられないってことを知ってるのね」


 確かに、不思議な力があったら自分だって喜んで使うだろう、と凛子は思う。


「妖精に反発して、あえて魔力を使わない人もいるわ」


「え……?」


「一生魔力を使わないって誓って、あえて普通の職業を選んで普通に生活していく人もいる。ミルゼがよく食事に行く店の店員さんもそうね」


 ――あ、あの牛の角の店員さん!


「別に、魔力を使わない人たちがいても、他に使う人がたくさんいるから妖精はまったく困らないわ。魔力の残り火は妖精の主食でもないし。人間が魔力を行使するかどうかは妖精にとってはおそらくどうでもいいこと。でも――。ギフトや妖精に複雑な思いを抱く人は、たとえ意味がないささやかな抵抗だとしても、あえて普通の生活を選んでいくわ」


 ――いろんな人がいる。いろんな捉え方、生き方があるんだ――。


「これから、凛子はどんな道を選んでいくのかしらね。ふふふ。勉強して、恋をして、働いて……。変わっていくことを恐れず、どんどん自分の世界を広げていきなさい。遠い世界から応援してるわ」


「リール……。ありがとう」


「ふふふ。明日は早いからね。そろそろ、おやすみなさい」


「リール……、ありがとうございます……。おやすみなさい」


 ――元の世界、自分のいた世界は今何時頃なんだろう、みんな心配してるのかな――。


 暗闇の中、両親や友達のことを考えていた。それから、学校のことも。不安や心配や寂しさが、凛子の胸をよぎる。様々なことに思いをめぐらせていたとき、唐突にミルゼの顔が浮かんだ。


 いつの間にか凛子はミルゼの寂しそうな瞳を思い出していた。


 ――ミルゼに海、見せてあげたいな……。


 海に憧れるミルゼ。叶わないささやかな願い。切ない横顔――。


 ――あれ? お父さんやお母さんや友達や学校のことを考えていたのに、どうして私、ミルゼのことばかり考えているんだろう――。


 凛子は、思いがけない自分の心の動きに当惑する。


 ――それから、ミルゼの優しい笑顔、子供のようにすねた顔、そして私のために怒ってくれた顔――。


 いろんなミルゼの表情が、凛子の頭に浮かんでくる。


 ――それから――、腕に抱かれたときの、ほのかな甘い香り――。


 凛子は、顔を隠すように布団の中にもぐりこんだ。


 ――私、ミルゼのこと悪魔だと思ってたんだっけ――。でもいつの間にかこんなにも心を占領されちゃうなんて……。やっぱりミルゼは悪魔、だったりして――。

 
 顔が熱くなる気がした。布団にもぐったせいかな、と顔を出し寝返りを打つ。


 ――神秘的な銀の瞳、銀の髪。まるで月からの使者のよう。


 ほどなく凛子は眠りに落ちていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...