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ギフト
寂しそうな瞳
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「凛子、眠れそう?」
横になってしばらくすると、隣のベッドからリールが声をかけてきた。
「はい……。寝つきはいいほうなんで大丈夫です」
「このベッド、寝心地がいい感じよね。安宿じゃなくてほんとよかったわ」
「あの……」
「なあに? 凛子」
「リールさんは……、リールは、ギフトをもらってよかったと思っていますか……?」
カーテンの隙間から少し、月の光が差し込んでいた。
「うん……。そうね。私はどちらでもないわ。私は私だし。ミルゼやディゼムのように、遠くへ行ってみたいとかそんなに思わないしね。生まれたときからだから、もうそういうものだって思ってる……。でも自分の能力に関しては、私は誇りを持っているわ」
「そうなんですね……」
「ギフトは……、妖精の植えた『種』だって思ってる人もいるわ」
「え……?」
「妖精が、あとで自分の食料にするため人間に種を植え付けているようなものだって感じている人たちもいる。人間が魔力を使ったときが収穫どき。妖精って、人間が力を持ったら使わずにいられないってことを知ってるのね」
確かに、不思議な力があったら自分だって喜んで使うだろう、と凛子は思う。
「妖精に反発して、あえて魔力を使わない人もいるわ」
「え……?」
「一生魔力を使わないって誓って、あえて普通の職業を選んで普通に生活していく人もいる。ミルゼがよく食事に行く店の店員さんもそうね」
――あ、あの牛の角の店員さん!
「別に、魔力を使わない人たちがいても、他に使う人がたくさんいるから妖精はまったく困らないわ。魔力の残り火は妖精の主食でもないし。人間が魔力を行使するかどうかは妖精にとってはおそらくどうでもいいこと。でも――。ギフトや妖精に複雑な思いを抱く人は、たとえ意味がないささやかな抵抗だとしても、あえて普通の生活を選んでいくわ」
――いろんな人がいる。いろんな捉え方、生き方があるんだ――。
「これから、凛子はどんな道を選んでいくのかしらね。ふふふ。勉強して、恋をして、働いて……。変わっていくことを恐れず、どんどん自分の世界を広げていきなさい。遠い世界から応援してるわ」
「リール……。ありがとう」
「ふふふ。明日は早いからね。そろそろ、おやすみなさい」
「リール……、ありがとうございます……。おやすみなさい」
――元の世界、自分のいた世界は今何時頃なんだろう、みんな心配してるのかな――。
暗闇の中、両親や友達のことを考えていた。それから、学校のことも。不安や心配や寂しさが、凛子の胸をよぎる。様々なことに思いをめぐらせていたとき、唐突にミルゼの顔が浮かんだ。
いつの間にか凛子はミルゼの寂しそうな瞳を思い出していた。
――ミルゼに海、見せてあげたいな……。
海に憧れるミルゼ。叶わないささやかな願い。切ない横顔――。
――あれ? お父さんやお母さんや友達や学校のことを考えていたのに、どうして私、ミルゼのことばかり考えているんだろう――。
凛子は、思いがけない自分の心の動きに当惑する。
――それから、ミルゼの優しい笑顔、子供のようにすねた顔、そして私のために怒ってくれた顔――。
いろんなミルゼの表情が、凛子の頭に浮かんでくる。
――それから――、腕に抱かれたときの、ほのかな甘い香り――。
凛子は、顔を隠すように布団の中にもぐりこんだ。
――私、ミルゼのこと悪魔だと思ってたんだっけ――。でもいつの間にかこんなにも心を占領されちゃうなんて……。やっぱりミルゼは悪魔、だったりして――。
顔が熱くなる気がした。布団にもぐったせいかな、と顔を出し寝返りを打つ。
――神秘的な銀の瞳、銀の髪。まるで月からの使者のよう。
ほどなく凛子は眠りに落ちていった。
横になってしばらくすると、隣のベッドからリールが声をかけてきた。
「はい……。寝つきはいいほうなんで大丈夫です」
「このベッド、寝心地がいい感じよね。安宿じゃなくてほんとよかったわ」
「あの……」
「なあに? 凛子」
「リールさんは……、リールは、ギフトをもらってよかったと思っていますか……?」
カーテンの隙間から少し、月の光が差し込んでいた。
「うん……。そうね。私はどちらでもないわ。私は私だし。ミルゼやディゼムのように、遠くへ行ってみたいとかそんなに思わないしね。生まれたときからだから、もうそういうものだって思ってる……。でも自分の能力に関しては、私は誇りを持っているわ」
「そうなんですね……」
「ギフトは……、妖精の植えた『種』だって思ってる人もいるわ」
「え……?」
「妖精が、あとで自分の食料にするため人間に種を植え付けているようなものだって感じている人たちもいる。人間が魔力を使ったときが収穫どき。妖精って、人間が力を持ったら使わずにいられないってことを知ってるのね」
確かに、不思議な力があったら自分だって喜んで使うだろう、と凛子は思う。
「妖精に反発して、あえて魔力を使わない人もいるわ」
「え……?」
「一生魔力を使わないって誓って、あえて普通の職業を選んで普通に生活していく人もいる。ミルゼがよく食事に行く店の店員さんもそうね」
――あ、あの牛の角の店員さん!
「別に、魔力を使わない人たちがいても、他に使う人がたくさんいるから妖精はまったく困らないわ。魔力の残り火は妖精の主食でもないし。人間が魔力を行使するかどうかは妖精にとってはおそらくどうでもいいこと。でも――。ギフトや妖精に複雑な思いを抱く人は、たとえ意味がないささやかな抵抗だとしても、あえて普通の生活を選んでいくわ」
――いろんな人がいる。いろんな捉え方、生き方があるんだ――。
「これから、凛子はどんな道を選んでいくのかしらね。ふふふ。勉強して、恋をして、働いて……。変わっていくことを恐れず、どんどん自分の世界を広げていきなさい。遠い世界から応援してるわ」
「リール……。ありがとう」
「ふふふ。明日は早いからね。そろそろ、おやすみなさい」
「リール……、ありがとうございます……。おやすみなさい」
――元の世界、自分のいた世界は今何時頃なんだろう、みんな心配してるのかな――。
暗闇の中、両親や友達のことを考えていた。それから、学校のことも。不安や心配や寂しさが、凛子の胸をよぎる。様々なことに思いをめぐらせていたとき、唐突にミルゼの顔が浮かんだ。
いつの間にか凛子はミルゼの寂しそうな瞳を思い出していた。
――ミルゼに海、見せてあげたいな……。
海に憧れるミルゼ。叶わないささやかな願い。切ない横顔――。
――あれ? お父さんやお母さんや友達や学校のことを考えていたのに、どうして私、ミルゼのことばかり考えているんだろう――。
凛子は、思いがけない自分の心の動きに当惑する。
――それから、ミルゼの優しい笑顔、子供のようにすねた顔、そして私のために怒ってくれた顔――。
いろんなミルゼの表情が、凛子の頭に浮かんでくる。
――それから――、腕に抱かれたときの、ほのかな甘い香り――。
凛子は、顔を隠すように布団の中にもぐりこんだ。
――私、ミルゼのこと悪魔だと思ってたんだっけ――。でもいつの間にかこんなにも心を占領されちゃうなんて……。やっぱりミルゼは悪魔、だったりして――。
顔が熱くなる気がした。布団にもぐったせいかな、と顔を出し寝返りを打つ。
――神秘的な銀の瞳、銀の髪。まるで月からの使者のよう。
ほどなく凛子は眠りに落ちていった。
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