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13・連休明け

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 あっという間に連休は過ぎ去り、通常授業が始まった。とはいえ、今日を乗り切るとまた土日。やる気の出なさ加減は、飛び石連休の罠だ。

「おっはよー。バカシンジ、連休はお家でゴロゴロしてたの?」

 今日は白い服で二郷木さんが現れた。
「一昨日、田村さんと映画に行ったけど」
「……ふーん。バカみたい。せっかくのバカンスを、わざわざ人混みの中で過ごすなんて。私はパパが帰ってきて軽井沢の別荘でママと三人で過ごしたわ。パパは国際線のパイロットなのよ」

 ああそうですか、と言いたくなるような、いわれのない格差を突きつけられていると、

「やあ真二君。連休はゆっくり休みましたか」

 やって来た渚君がカバンを肩に笑いかけてきた。

「それが――連休明けは映像制作の課題があるっていうから、その準備をやってて」
「なあんだ。結局家でお勉強じゃない」
「明日香、それが学生のあるべき姿だよ。それで、田村さんは?」
「ああ。えっと、牛乳配達が終わったらって――」

 僕も昨日まで知らなかった。朝のチラチラもコーヒータイムもなくなっていた。

「そこまでバイトして、いったい何に使うわけえ? 全っ然、理解不能」
「そうですか。大変なのですね。朝の講義前に教えてほしい箇所がありましてね。彼女、優秀ですから」

 言っているそばから彼女がやって来た。

「あらまあ、これは皆さんお揃いでいらして」
「田村さん、おはよう。渚君が教えてほしい――」
「いいんですよ真二君。それより講義が始まります。僕らは向こうですから、またあとで」

 二人は第一講堂へ向かった。

「ほら、バカシンジ。私たちも行くわよ」
「――うん」



 二限目が終わり、学食はいつもより人が多めだった。

(渚君と二郷木さん、いないのか――)

 見回していると、

「あら、こちらいいかしら」
『もちろん、君のために空けておいたよ』
「まあ、そんなお上手を」
『それより君もカレーかい。奇遇だねえ』
「まあ同じね。お互い、いつかはカツカレーよね。『そうだねいつかは』――」
「田村さん、一人芝居はいいから座って」
「へい」

 まずはスプーンを動かす。

「それで、牛乳配達なんて休めないんじゃないの」
「基本的にそうね。日曜はお休みよ。それにお盆とお正月は休んでいいと聞いているけれど」

 ハードだ。

「いくらになるの?」
「時給ではなく出来高だから、五十件を回って月に一万五千円ほどよ。自転車で運びきれないから店舗を何度も往復するわ。竜崎君もやりたいのね」

「いや、朝早いのはちょっと――それに雨でも雪でもやるんでしょ」
「新聞屋さんは台風でも休まないわ」

 言うと彼女は絆創膏だらけの左手で、黙々とカレーを口へ運ぶ。

「そういえば渚君たち見ないね」
「テラスでお弁当を食べていたわ。リア充逝けばいいのに」
「そういうこと言わない。なんか二人、水と油みたいだけど、上手くいくんだね」
「しかし私たちは冷水とぬるま湯。混ぜる分には問題がないわ」

 よく分からない例えだったけれど、彼女なりに何か言ってみたかったのだろう。

「それで――田村さんって仕送りとかはないの?」

「ないわ。入学金も家賃も親に借りたの」

 即答だった。

「それでバイト多いんだ……」

「奨学金が払われるのは月末からだし、でも『赤たぬき』の方は週払いでもらえるから。どうしてそれが気になるのかしら」
「いや、そう言われると特に理由は――」

 あった。彼女が「僕と同じ大学へ行く」と告げた時、本気にしなかった僕のせいだ。そのせいで彼女は、引っ越した家族と不仲になっている。

「その、田村さんがよかったら、これから日曜日はウチで食事していかない? 一時はずっと作ってもらってばっかりだったし、その代わりに今度は僕が作ってあげたいから」

 彼女はしばらく黙り込んだ。

「別に、嫌だったらいいんだけど」

「『ブラッスリー・Shinji』、そういう名前でよければ」

 名前を考え込んでいたのか。しかもフランスっぽくなっている。

「母さんに作ってた何種類かしかできないけど、いいかな」
「ある意味で、おふくろの味ね。それじゃあ、甘えさせてもらおうかしら」

 そう言った彼女が、なぜか普通に思えて胸がざわついた。それは彼女が以前ほどのおふざけを入れずに答えたからだ。まるで普通の女の子のようだと思った。最近はそういうことも多くなった。それを悲しく思う僕の方がおかしいのだとして――。

 それから食事が終わり、トレーを二人で戻し、スタスタと教室へ歩き始める彼女を思わず呼び止めた。

「田村さん、お願いがあって――」

 彼女は足を止めて振り返る。

「お願いとは何かしら」
「今度、映像制作の課題があって、街中の風景なんだけど。もしよかったら、撮影モデルになってもらえないかなって思って。本格的な機材はなくてもスマホ撮影でいいっていうから」

 彼女はまたしばらく黙る。

「日曜ならいいわ。街中で裸になることに人並みの抵抗はあるとしても」
「脱がない脱がない!」

 言いつつ、喜んでいる自分がいる。

「じゃあ、日取りが決まったら教えるから」
「持ってる服の中でいちばんいいものを着てくるわ」

 そう言って、また歩き去っていった。
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