楽園島

超山熊

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順応

処刑島と新たな力

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 2ⅩⅩⅩ年。
 
 日本は世界の中でも有数の犯罪発生率となる。
 政治的腐敗、国民の反乱、テロの勃発。
 
 日本人の大半は海外へ移住を余儀なくされた。
 それでも言語や生活感、金銭的理由により日本を離れられない人も多くいる。

 それは俺、復水 蒼汰ふくみ そうたも同じである。
 親とは子供のころ死別し孤児院で育った俺は勉強に力を入れた。
 そのため国公立大学への進学が叶い孤児院を出て寮生活を始めた。

 しかし大学入学直後のことだった。
 それまで少しずつだが情勢が悪くなっていた日本で大規模なテロが起きたのだ。
 テロ組織”太陽”の構成員は不明、全員の服に太陽のシンボルマークがついていた為そう呼ばれるようになった。
 さらに計画自体が入念に練られており、警察や自衛官が必死に捜索及びテロの制止に動いたが止められず。
 その波に乗るように全国各地で犯罪が勃発する。

 大学という様々な物が揃った場所で避難生活を始めたが、どこに犯罪者がいるか分からない状況で安定した場所など無かった。
 多くの人が自衛官の護送を受けながら海外へ逃げていたが、それにも金が必要だった。
 もちろん大学始めたての俺にそんな金は無く、明るい未来を思い描きながら日本を出ていく人達を見てることしか出来ない。

 自衛隊と海外からの援軍により少しずつ建物が解放されたのは、テロから約1年のときだった。
 解放された某コンビニで俺はアルバイトしていた。
 アルバイトの倍率がとんでもないことになっていたが、孤児院で人の顔色を見ながら生活していた俺にはある特技があったため難なく合格出来た。
 俺の特技とは、そのとき最善の人格を演じきれること。
 アルバイト面接では店長のおっさんが胆力と元気を求めていたため典型的なスポーツマンを演じた。

 コンビニで働き始めてすぐのこと。
 海底火山の大規模噴火が起き、太平洋上に大きな島が出来た。
 各国から科学者が集められ、その島の調査が始まった。
 調査団は島について驚愕した。

 まだ噴火が治まってすぐの島では生態系が確立されていたのだ。
 既存の植物と動物に交じって新種の動物と植物も多数発見された。

 調査が始まり少しした頃、島全体が霧に包まれた。
 それは2回目の調査団が島へ入島していた時期と被る。
 調査団が帰って来たのは霧が晴れたのと同時。
 帰ってきた人間の中にまともに喋れる者は一人もいなかった。
 全身から流血し動かない者、傷1つ無いが言葉を忘れている者、首から上が無くなっている者。
 しかし全員に共通することが1つだけあった。

 それはなぜか全員の手に共通の花が握られていることだった。
 
 科学者が総出で花を研究した。
 その花に毒は無い。
 その花は水が無くても光が無くても栄養が無くても生き続ける。
 その花は大量の蜜を出す。
 花から出る蜜には味も匂いも無い。
 蜜を接種もしくは投与された者は島へ向かいたくなる。

 それは一種の薬物反応であり、さらに驚くべきことが分かる。

 蜜を接種もしくは投与された人間が島へ入ると特別な”力”が手に入る。
 ある者は1km先を見通す。
 ある者は1km先でコインが落ちた音を聞く。
 ある者は1tの物を片手で持ち上げる。
 ある者は紫電をまとう。
 ある者は口から火を吹く。

 その力を皆が欲しがった。
 しかし力を得ると島に向かい、さらには島の外でその力を使うことは出来ない。
 島はいつまた霧で覆われ、生きて帰って来られるかも分からない。

 そんな島に行こうとする国は無かった。
 新しい動物、新しい植物、新しい毒物、新しい力。
 それらを回避しながら科学者を送る国力を持っている国は無かったのだ。

 そこで各国は考えた。
 島の全容は知りたい。
 しかし優秀な科学者を送るわけにはいかない。

 ならば、どうするのか。

 優秀だが、消えても問題ない者を送れば良い。

 その考えに反発は多く。
 それでも最終的に全ての国が承認した。
 全ての国が厄介な犯罪者を抱えていたから。
 更生不可能な凶悪犯罪者たちは様々なスキルを持っていた為、島へ入るのに適してもいた。
 様々な国から選ばれた、様々な犯罪者は島へ入る前に花の蜜を投与される。
 各国は1回目の調査団が島に設置したカメラの映像を見ながら島が人間へ与える影響を観察した。

 その観察は徐々に各国上層部にとっての娯楽となる。
 犯罪者は互いを殺し、自分の力を誇示する。
 徐々に犯罪者の数が減ったとき各国は新たな犯罪者を島へ送る。

 犯罪者は凶悪な者から軽犯罪者まで送られるようになった。

 そうして島は新しい生態系と多数の犯罪者で構成される。

 島は名づけられた、新しい生態系と犯罪者で満たされた島。

 それは「楽園島」。
 

 別名「処刑島」と……。


⭐︎⭐︎⭐︎



 日課になりつつあるコンビニのアルバイトを終えた俺は大学の寮へ帰る。
 疲れた体を動かしながらたった数分の道を歩く。

「疲れたー。タクシーでも通らねえかな。……走ってるわけ無いか」

 テロと多くの犯罪が蔓延る最近の日本ではタクシーやバスなどの交通機関が止まり、徒歩か危険を知って自動車を使う人が多くなった。
 自動車を運転すれば故意的な事故を起こされるか、車ごと爆破されるなどするため自動車を持つ者自体珍しいが。
 
 数分の道ですら歩きたくない。
 そんな怠惰なことを考えながら歩く。

「くそっ。テロリスト共め」

 日本国民の大半が思っていることを、まるで世界の代弁者にでもなったつもりで吐き捨てる。

 そんなときだった。目の前にある避難民のテントの集まり。
 その陰から自分と同年代程度の女性が出てきた。
 
 街灯の下に出た女性は、美人で綺麗な女性だった。
 酔っているのか少しふらついている。
 女性は俺の方へ向かってくるともたれかかってきた。

 気分が最悪だったが、もたれかかってきた女性の甘い匂いで気分を良くした俺は女性を介抱しようと肩を支える。
 女性は呼吸が荒い。

「大丈夫ですか!?」

 何かの病気かと思った俺は女性に声をかけた。
 女性は顔を上げ、荒い呼吸の中で何かを言っている。
 聞き取るために耳を近づけると。

「――彼が追ってきてるの……逃がして……」
 
 彼氏が追ってきていて逃げていると考えた俺は女性を路地まで連れていく。
 俺はもう一度元居た場所まで戻ると一人の男性が来た。
 その男性は半袖のTシャツとジーパンを履いており服装だけ見れば軽装の男性だが。
 Tシャツから出る腕と首には彫り物がしており、体は鍛えているのがはっきり分かるほどに筋肉がついている。

 その男性は俺の方へ向かってくると険しい表情で口を開いた。

「おい、お前」
「はい?僕でしょうか?」
「お前しかいないだろうが!」

 とぼけた表情の俺に男性は怒鳴り声を上げながら胸倉を掴む。

「ここに女が来なかったか!」

 人通りのいない時間、ここにいる俺。
 もしここで見ていないと言っても信じないだろう。
 だから嘘をつくことにした。

「さっきふらついた女性なら向こうへ行きました。今すぐ行けば間に合うんじゃないでしょうか?」
「そうか。すまんかったな」

 男性は俺のシャツから手を放し俺が指さした方向へ走って行った。
 その方向は女性が隠れている路地の反対方向で、俺は走る男性を見ながらやってやったと笑う。
 俺は女性の隠れている路地へ向かう。
 すると女性の姿はそこに無く、冷たいコンクリートの道があるだけだった。

「なんなんだよ!」

 お礼も無しに消えた女性。
 それにイラつきながら大学寮へ帰った。

 次の日、情勢を考えて授業が無くなった静かな大学がなんだか騒がしかった。
 それは寮の入り口から聞こえてくる。
 何を騒いでいるのか、気になった俺は着替えて部屋を出る。
 寮の入り口には大勢の警察がいる。
 警察官は階段を降りてきた俺の顔を見ると指を差し、手に持っている紙と俺を見比べている。
 周りがざわざわとしているため警察の話し声は聞こえないが。

「彼です」

 その一言だけははっきり聞こえた気がした。

 警察官はぞろぞろと俺の方へ寄ってくると、俺の目の前に紙を突き付けた。
 その紙には逮捕状と書いてある。
 状況が理解できない俺に警察は淡々と言う。

「復水 蒼汰君だね。君をテロリスト”太陽”への加担した容疑で逮捕状が出ている。同行してもらおう」
「は、はあ!?いや、俺は何もしてないですよ!」
「詳しい話は署で聞く」

 警察は俺の腕に手錠をかけて半ば強引にパトカーへ連れ込む。
 周りにいる人たちは避けて道を作りながら。

「なんでこんなところにテロリストが……」
「やっぱり……」

 ありもしないことを他人事のように言う周りの人。
 パトカーに乗り、意味の分からないまま連行される。

 聞かされた話では昨日の夜、とあるカップルの男性が彼女の日常的に怪しい動きに気づき調べた。
 彼女がテロリスト”太陽”の一人であることに気づいた男性。
 それを彼女に問い詰めようと夜人気のいない公園へ彼女を呼び出した。
 しかし話をする前、トイレに行きたいと言った彼女はトイレへ向かった後帰ってこなかった。
 男性は騙されたことを悟って追いかけた。
 幸い逃げるルートの少ない公園だった。
 しかしもう少しで追いつけるところで何かに躓き転んだ。
 男性は彼女が曲がった角を見ていたため追いかけたが、その先にいた青年に嘘をつかれたので彼女を逃がしてしまった。

 なぜ嘘をつかれたと言えたのか。
 それはあの先が行き止まりだったから。

 蒼汰は不要不急の外出をしないようにしていた。
 だから大学周辺にも詳しくは無く、自分が指差した先の道が行き止まりであることも知らなかったのだ。

「ですが、俺は彼女がテロリストなんて知らなかった!」
「そうだね。でも君が”太陽”の構成員で無い保証もない。さらに加担したのは事実であり。調べた限りでは両親を亡くしてすぐ、君はスリの常習犯だったね?幸い少年だったこと、なぜか被害者たちが君を許していたことで大事にはなっていないが。つまり君は犯罪をする可能性のある人間であるということだ」

 俺は両親を亡くしてすぐ精神的な不安定さからスリをしていた。
 しかし相手の心に擦り寄る性格から相手の好みの性格を演じ許されてきた。

 警察の言うことは全て事実だ。
 その上で確実に俺を疑う、その目に俺は言葉を失った。

 すぐに刑務所へ入れられた。
 それから1週間後のこと俺の部屋が開けられ、外には看守とスーツを着た大人が数人いた。

「出ろ」

 一言の後、立たされた俺は別室へ移動した。
 別室で飲まされた水を飲んだ瞬間、眠気が襲い気を失った。
 起きてからここにきたときの服に着替え、高級そうな車へ乗り込む。

「どこへ向かうんですか」

 俺を挟んで座るスーツの男二人。
 その二人に聞いたつもりだったが答えたのは助手席に座る男だった。

「君は選ばれた」
「……何に?」
「新たに誕生した島に犯罪者が送られていることは知っているか?」
「はい。――楽園島、ですよね。……まさか!?」
「そうだ。第10回目の楽園島送り。君はそれに選ばれた。今向かっているのはヘリポートだ」
「あそこはいつ霧が出て死ぬかも分からない島なんですよ!なんでそんなところに……」
「ヘリに乗る前、君には薬を投与する。それは送られる犯罪者全員に投与されていて、今のところ霧に対する特効薬とも言われている」
「霧はまだ1回しか出てないはず。それにその薬は島から離れられなくするものですよね!?」
「君に拒否権は無い。……そろそろ着くぞ」

 車がついたのは広い敷地にポツンとビルの立っている場所。
 そのビルに入り屋上まで連れていかれる。
 屋上には同じように手錠でつながれ、後ろにスーツの男を控えた人が4人いる。
 一人は派手な格好の女。
 一人は細い男。
 一人はガタイの良い男。
 一人は線の細い少年。

 俺は隣に並ぶように言われる。
 5人が並ぶと、ヘリと俺たちの間に男が立つ。

「君らはこれから楽園島へ向かう。楽園島で君たちがすることは犯罪者たちの中で生き抜くこと。それ以外は自由にしていい。島に法律は無く、全ての行為が許されている」

 男がそこまで話すと後ろに立っていたスーツの男に注射器で刺され薬を注射された。

「聞いている通り。その薬には島で使える力、霧に対する特効薬、島から離れられなくする効果がある。さらに刑務所を出るとき君たちの体には海外の言葉を理解できるチップを埋め込んである」

 なぜ眠らされたのか分かった。
 他の4人も覚えがあるようで自分の体を見ている。

「最後に、島は5年で出られるとしているが薬の影響もあり出られるとは思わないことだ。では……楽しませてくれ」

 男は俺たちを通り過ぎ、下の階へいなくなる。
 その後スーツの男にヘリへ乗せられ、飛び立った。

 これから向かう楽園島へ向けて。






 花の蜜から得た力。
 不可能を可能にするその力。
 

 人はそれを「花能かのう」と呼ぶ。


 
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