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2章英雄と龍魔王

夕陽

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 アタマカラは目立った反応が無いことに、溜め息をついて、空を見上げた。
 丁度、太陽が真ん中に登った頃合いだった。
 手を掲げて、太陽を掴むということで、この休憩の一時を過ごすかと考える。
 しばらくして、空を見るのに飽きると、だんだんと眠気が襲ってきた。
 下に生い茂る草が暖かくて気持ち良いのだ。
 そして、アタマカラはうとうとしながら、寝てないけないと思い頭の位置を変えたりするが、イリスの美しい姿態に目を奪われ、眠りについてしまう。

       *
 だが、その心地良い眠りは突如として、強烈な冷たさによって醒めてしまう。
 アタマカラは声を張り上げ、物凄いスピードで起き上がる。

「冷たぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 アタマカラは眼を見開き、何があったのか理解できず放心状態。
 両手から防具越しではあるが、この冷たさの正体は滝から湧き出るような冷水だと分かる。
 すると、上品な、小さな少女のような笑い方をする声がした。

「ふふふっ」

 見上げると、銀髪の女ことイリスが口を隠して笑っているのだ。
 側には空になったバケツが捨てられている。
 アタマカラは白い両眼をムッとさせ、怒鳴る。

「冷たいじゃないか?」

「ごめんなさい……なんか……すやすや寝てるもんだから……腹が立ったの」

 アタマカラが怒鳴っているので、反省したイリスは捨てられた子犬のような両眼で、そう言った。
 アタマカラは女の子を泣かしては悪いと思い、慌てて怒りを沈める。
 イリスは心配な紅の両眼で、傾げる。

「冷たい?」

「そりゃあ冷たいさ……防具着ているのになんで……」

 事態が呑み込めていない様子のアタマカラに再度、イリスは笑いを漏らす。
 それは、生まれて初めて笑ったようにぎこちなかった。
 けれど、彼女らしくていいと思った。

「ふふふ」

「何がおかしいんだ?」

「……それはね……その水はこの池から採集できる水……グラード王国の名水……寒水《かんすい》と呼ばれているわ……とても栄養が採れるの」

 イリスはこの故郷を愛しているのか、とても、幸せそうに語ってくれる。
 アタマカラはイリスの笑顔に癒やされたのか、自然に笑みが零れてきた。


           ※
 アタマカラはだいぶ寝ていたのか、もう夕刻を回っていた。
 地平線にはオレンジの夕陽が半分だけになり、必死で輝きを残そうとしていた。
 そんな二人はとぼとぼ、歩き、少し話をしながら、帰宅の途に移っていた。
 イリスは下を向いて、影のある場所を歩きながら、無言だ。
 アタマカラはこのまま沈黙を続けても、別に構わないが、逆にイリスがきまずいのではと思い、

「そういえば……毒キノコの採集終わったのか?」

 イリスは待ってましたとばかりに顔を上げるも、それは表情には出さない。

「うん。終わった。あなたの分の報酬はちゃんと振り込まれているはず」

「え? 俺寝ていただけで、何もしてないじゃないか? 報酬貰っていいのか?」

 アタマカラは不安な態度を取る。
 一方、イリスは無表情な顔をアタマカラに顔を向けて、クスッと笑う。

「面白かったから……別にいいよ」

「面白いとは思えないが……」

「さあ……帰ろう」

 イリスは後ろの夕陽を振り返り、美しい、涼しい顔でそう言った。
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