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2章英雄と龍魔王

生意気な紫髪の美女

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「あんた……一流な防具……身につけてるね。なかなか代物だよ、そいつは……確か白雲巨神《シュヴァルツ・アーゲン》最上級のゴッドクラスの防具だったかな」

 アタマカラは戸惑いを示し、頭を掻きながら頷く。

「そうなんですか……」

 老婆は何か勘ついたらしく、探るような黒眼でアタマカラを見る。
 長年生き、多くの人に出逢ってきたのだから、何か思うことがあるのだろう。

「あんた……大丈夫かい?」

 てっきり、魔獣かと聞かれるかと思ったがそうではなかった。
 ここで、アタマカラは自らが魔獣ということに驚く。
 何か記憶を取り戻し掛けているようだが、頭痛がして、これ以上は無理だ。
 何かを察したように老婆はアタマカラの右手を取り、店へと強引に連れていく。

「ほら、少し休んで行きな」

「いや……あの」

 その店の看板にはよろず武器屋とそう名が打ってあった。
 何を買わされるのだろうかという不吉な予感めいたものがするが、促されるままに。

       ※
 からんころんと鐘が鳴り、客が入ったことを店内に知らせる。
 そこは何の変哲も無い武器屋だった。
 暖かな木造で、居心地が良い思ったが、やはり、重々しい殺気を放っていた。
 それは、銀色を光らせる剣や名刀達が棚に怪物のように置かれている。
 その後、老婆の意外な握力の強さにアタマカラが驚きながら、カウンターまで連れて行かれる。

「あの……ちょっと」

「はよ来なさい。あんたに武器を見繕ってやるよ……冒険者には一流の武器が必要なんだよ」

 所持金は無いような気がして、焦り出すアタマカラ。
 息つく暇も無く、カウンターに到着する。
 すると、そこには長い紫髪を後ろでピンで止めた若い美女がいた。
 20代ぐらいの年齢だろうか。美しい白い肌、はちきれんばかり豊かな乳の谷間から汗が滲み出ている。
 どうやら、作業をしていたらしく、その美女には大量の汗が出ていた。
 薄着の白い作業衣の腕部分を捲り、白い腕や艶やかな太ももが露わになる。
 美女はアタマカラの良からぬ視線に気づいたのか、紫眼をきつく細め、手を腰に当て、生意気な声を発する。

「婆さん……誰そいつ」

「どうやら、お金が無いようでな……腹も減ってるようだし連れて来たんのさ」

 美女はカウンターを叩いて、強い顔、口調で言い放つ。

「無一文を店に連れて来るなんて駄目よ!」

「心配ご無用……さぁ、レイナ」

 あまりの剣幕のレイナとは裏腹に、脳天気な老婆。
 鼻歌を歌いながら、カウンター席にあるお茶と饅頭を用意する。
 アタマカラは頭を掻きながら、困惑。
 レイナは今度はアタマカラに最大限の嫌悪を向け、眦をきつく作らせる。
 あんなに怒っている顔なのに、綺麗で、頬が赤くふっくらしてるせいか少し可愛い。
 また、見とれてしまう程、若い人にありがちなきらきらとした純粋な乙女の紫眼をしている。

「お茶飲んだら、すぐ出て行って!」

「ああ、分かっているよ」

 そして、アタマカラは遠慮がちになりながらも、ありがたく用意されたお茶、饅頭に手を付け、一服をする。
 アタマカラは世話になりながら、申し訳ないと思いながらも、情報収集に努める。
 低姿勢で行こう。

「この街について詳しく知りたいのですが?」

 かなり、気を込めて質問したのだが、老婆は茶を飲みながらうたた寝をしている。
 すると、カウンターに肘を付いて、溜め息を漏らし、返答したのが、紫髪の気の強いレアだ。

「はぁ? あんたそんなことも知らないの? 高貴な防具付けてる癖にね」

「無知で……すいません」

 少々鼻につく美女ではあるな……。
 でも、お世話になっといて、文句を言うのは抑えよう。
 アタマカラが苛立ちを抑えようと、必死になってるのを見て、少し笑うレイナ。
 
「まあ……いいわ教えてあげるわ。ただで食事して、大切な情報あげるんだから。感謝しなさいよ……言っておくけど……感謝はお金だからね」

「ああ……分かってるよ」
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