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1章魔獣になりましょう

110話閃光馬と対決

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 黒髪の白い顔の女は痩せこけ、血色が悪いのか、唇が青紫、その疲れた表情で崖にある小さな出張った岩に這いつくばって、渡りながら、アタマカラを探していた。
 他の小さな虫達も、空中を旋回しながら、捜索を寝ずに行っていた。
 相当な魔力を消耗し、目眩をさせる虫女。
 ようやく、難所の狭い幅の岩から脱出し、坂道を下り、ようやく谷底へ到着した。
 朝方の凍りつかせるような霧が虫女の精神を追い詰める。
 いや、違う。
 覚えのある殺気だ。
 もう既に彼女には妖艶さや余裕は無い。
 苦しそうな息切れ、だが、なんとか目力だけは保ち、黒い眼差しで、周囲を見渡した。
 
「誰?」

 小さな流れる川を隔てて、向こう岸の山林から二体の凸凹の影が現れた。
 三メートルはあろうか、巨漢の三眼の鬼。
 黒い図体がのっそり近づき、水面に波を立たせる。
 酒呑鬼は首を傾げ、右手の大きな酒樽を器用に回転させる。

「久し振りだな……元鬼団四鬼……クカカカッ」

 一方、閃光馬は両手に光の玉を構築、冷徹な目で、波面を一歩一歩を渡る。
 死を宣告され、もう怖いものはないと云った表情で、虫女を凝視する。
 
「ここまで馬鹿な女だとはな……我が部下を殺すのは心が痛む」

「あら……久し振りね」

「分かってるな……お主がしたこと……」

「どうするの?」

 虫女は余裕の無い笑みを振り撒き、目を異常に泳がせ、艶めかしく首を傾げる。
 閃光馬は虫女の質問を無視し、冷徹に問い質す。

「なぜ、あの雲魔獣を逃がした?」

「フフフ……惚れた男には生きてて欲しいの」

「そんな戯れ言で、我を欺けると思ったか糞虫……」

 閃光馬は少し苛立っているのか、侮蔑の両眼をし、語気を微妙に強める。
 圧倒され虫女の呼吸は乱れるが、何とか挑発的な態度を繕うとしている。

「あら、そう。私は墓場まで持っていく秘密主義よ」

「そうか。フフッ……お主は墓場にはいけない……何人の冒険者を手に掛けた? お主の最期は地獄だ」
 
 閃光馬は戦闘開始の合図とでも言うかのように、光の玉を虫女の顔すれすれに投じ、岩肌に爆発と爆煙を発生させる
 虫女は一瞬目を見張り、少し不気味に笑って、途切れ途切れの声で、
 
「私は……間違ったことはしてないわ。いつだって魔獣の味方よ」

「それがお前の答えか。素晴らしい、これまでの鬼団の忠誠、功績……感謝を申し上げる。そして、この死は鬼団の歴史に名を残すだろう」

 閃光馬の両足から光芒が発生、まさに光の速さで、狼狽する虫女の上を奪い、両手から尖った光の剣が創造され、クロスを描き、襲いかかる。
 虫女は光を浴びた瞬間、恍惚の表情で顔を上げ、死を受け入れた。
 あの人は逃げたのかしらと思いがよぎる。

「光のクロス!!」

 一段と濃い光の球体が帯び、辺りに円状に発生し、クロスで虫女の首を貫く。
 そして、闇の谷底は一瞬で、光の一帯へと化した。巨大な爆風が岩や木々に襲いかかり、やがて、光は止んだ。
 すると、その一部始終を目撃した酒呑鬼は口を開けたまま、唖然とする。
 三眼を細め、やっと涎を垂れ流し、口を開いた。
 
「何が起きた?」

 前方で、光の魔力を消費し、その影響か煙を発し、俯き加減で、立ち尽くす閃光馬。
 次第に、右拳を作り上げ、奥歯を噛み締め、苛立ち混じりに鼻息を鳴らし、声を漏らす。

「お主……何者だ?」
 
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