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1章魔獣になりましょう

99話絶望が叫び

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 やがて、まる一日かかり、アタマカラと螢達は風谷村近くの橋まで逃げ出していた。
 深夜、暗闇の空、激しさを増す強風と雨。
 体は回復したアタマカラは茫然自失で、橋をとぼとぼと渡る。 
 行き先を示すのは煌めく螢達。螢達は心配そうな表情でアタマカラの様子を幾度も観察する。
 アタマカラはそんな優しさがより一層自身の罪悪に苛まれる。
 聖人君子ではない、悪魔である自身にそんな優しさを与えるな。
 本当に自身が嫌いだ。
 何もかも全てが。
 すると、降りしきる雨の中、橋の途中に、クリーム色の髪をした、綺麗な少女がうなだれた様子でそこにいた。
 一歩一歩、恐る恐るアタマカラは無言で近づく。
 再会を待ち詫び、満面の笑みを向ける少女がそこにいないことをなんとなく分かっていた。
 だが、不幸な報せであることを頑なに否定した。
 どうして、彼女をこんなにも苦しめるのだ。
 彼女は神に何の災いをもたらしたというのだ。
 現実から目を醒ましたくなくて、わざとゆっくりと歩いた。
 何と最低な人間なのだろうか。
 現実を知らせる雷が轟き、屈折をする黄色の軌跡を描き、谷底へと消えていく。
 同時に髪は雨で乱れ、虚ろな翡翠色、血を吐いた唇のシエラが顔を見上げた。
 シエラはアタマカラを見た瞬間、憎しみのような顔をした後、震える声、泣き叫ぶようにして訴えた。

「返してよ……返してよ……返してよ……」

「……」

 アタマカラは顔を逸らし、感情の無い目で谷底を見た。
 シエラの言葉は断末魔のように続いた。

「母さん、ミエを返してよ! ねぇ? 返して、返して、返して」

 アタマカラは激しい雨を見上げ、涙を流し、絶望した。
 この世を呪い、苦しみの叫び声を上げた。
 苦しくて、苦しくて、苦しくて、アタマカラは谷底を見下ろした。
 深い、深い、闇の中。真っ黒い闇が視界を埋め尽くし、闇の手が吸い込まれるように手招いてくる。
 螢達は危機を察知したのか、ざわめき出すも、アタマカラが狂うようにして追い払う。
 そして、アタマカラはその谷底へ自ら投身した。
 どうしようもない最期だった。
 いち早く苦しみから逃げたいがために、この選択肢かなかった。
 何て哀れだ。

 
 
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