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1章魔獣になりましょう
85話逃れられない羊の運命
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ダンジョンでは数キロ歩けば、全く天候が違う。
標高の高い山となれば、如実にそれがわかるだろう。
羊のシエラが新しく移住した風谷村は先程まで太陽が燦々と照っていたのに、ものの数時間で空一面にどんよりした雲がかかり、雷がゴロゴロと唸りを上げる。
シエラとミエは家の前で母に頼まれて、井戸から水を汲んでいた。
まだ、太陽は顔を出し、村全体を照らしていた。
そんな中、小さな少女ミエは石の上に乗りながら日向ぼっこをしていた。
「ねぇお姉ちゃん。ママ早く元気になるかなぁ?」
「当たり前でしょ。お母さんは強いんだからね」
「へっへっへっ……そうだね」
やがて、どんより雲となり、雷が鳴り、雨が降り注ぎ、次第に強くなって、水溜まりで遊ぶミエ。
すると、その少女の楽しそうな鼻歌を雷が掻き消す。ミエは頭を抑え、しゃがみこんだ。
すると、ミエはあまりに怖かったのか大粒の涙を流していた。
ミエはこちらに顔を向けながら、否定する。
顔を歪めてないところを見ると、その涙は雨の雫。
だが、ミエが突然、立ち上がり、空を見上げ、無邪気な笑顔はなく、怖い無表情で告げた。
「ママが死んじゃった」
その姿、言葉を目撃したシエラは何とも言えない不吉の予感がした。
まさか、そんなはずはないと彼女は否定する。
今まで辛い思いをしてきた。
だからこれからは幸せがずっと続くんだと。
神様はもうこれ以上私達に残酷な試練を与えるはずがない。
シエラは涙を抑え、溜まった水のバケツを投げ捨て、一目散に自らの家へと戻っていく。
そして、家の中の藁のベットに美しく、眠る、白い羊がいた。
何度も呼び掛けるが、起き上がる母はいない。
どうして、母が死ななければならないのと娘は顔を歪めながら訴える。
しかし、母はいつまでも、笑顔だった。
何度も起きてよと叫び、体を揺らすが、眠ったままだ。
そして、娘は嗚咽漏らし、冷たくなった母の手を握り、泣き叫びながら、神を呪った。
神を、自らの運命、ここに生まれてきたことすらも呪った。
大切なものを失う気持ちがこれほど辛いとは思わなかった。
母の死が彼女を苦しめ、更なる悲劇がもたらされる。
外へ出ると、そこには夥しい数の魔獣が涎を垂らし、逃げ惑う羊を捉えると発狂しながら、強烈な爪で捕まえ、喉を掻きっきり、殺した。
その魔獣は龍、豚、狸族と名だたる一族が会していた。その獰猛さと、これだけの大物の軍隊、羊を狙っていることから察するに、共食いの集団、鬼団であることが分かる。
その魔獣達は逃げ惑い、泣き叫ぶ羊の群れを嘲笑い、蔑み、思うがままに殺戮を楽しんだ。
それは、同じ魔獣とは思えなかった。
どうして、こんな無情な、卑劣なことができるのかと。
しかし、本来の魔獣そのものであり、魔獣こそは悪なのだ。
彼女は自らの魔獣という境遇が虚構なのではないか。
魔獣として此奴を殺したいと切に願った。しかし、圧倒的な暴力によって、一瞬で打ち砕かれた。
そして、龍の魔獣がぼっと立ち尽くすミエを捉えた。
ニタリと醜悪な笑いをし、驚異の躍動で巨大な張り手で、小さな少女の首を真っ二つに斬った。
首はバタッと落ち、ごろごろと転がった。
無慈悲な最期だった。
シエラは絶望の絶叫した。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
この辛さから逃れたいと、夢から今すぐ醒めたいと彼女が願い、現実を知るとこの世を呪い、神を呪い、全てを呪った。
標高の高い山となれば、如実にそれがわかるだろう。
羊のシエラが新しく移住した風谷村は先程まで太陽が燦々と照っていたのに、ものの数時間で空一面にどんよりした雲がかかり、雷がゴロゴロと唸りを上げる。
シエラとミエは家の前で母に頼まれて、井戸から水を汲んでいた。
まだ、太陽は顔を出し、村全体を照らしていた。
そんな中、小さな少女ミエは石の上に乗りながら日向ぼっこをしていた。
「ねぇお姉ちゃん。ママ早く元気になるかなぁ?」
「当たり前でしょ。お母さんは強いんだからね」
「へっへっへっ……そうだね」
やがて、どんより雲となり、雷が鳴り、雨が降り注ぎ、次第に強くなって、水溜まりで遊ぶミエ。
すると、その少女の楽しそうな鼻歌を雷が掻き消す。ミエは頭を抑え、しゃがみこんだ。
すると、ミエはあまりに怖かったのか大粒の涙を流していた。
ミエはこちらに顔を向けながら、否定する。
顔を歪めてないところを見ると、その涙は雨の雫。
だが、ミエが突然、立ち上がり、空を見上げ、無邪気な笑顔はなく、怖い無表情で告げた。
「ママが死んじゃった」
その姿、言葉を目撃したシエラは何とも言えない不吉の予感がした。
まさか、そんなはずはないと彼女は否定する。
今まで辛い思いをしてきた。
だからこれからは幸せがずっと続くんだと。
神様はもうこれ以上私達に残酷な試練を与えるはずがない。
シエラは涙を抑え、溜まった水のバケツを投げ捨て、一目散に自らの家へと戻っていく。
そして、家の中の藁のベットに美しく、眠る、白い羊がいた。
何度も呼び掛けるが、起き上がる母はいない。
どうして、母が死ななければならないのと娘は顔を歪めながら訴える。
しかし、母はいつまでも、笑顔だった。
何度も起きてよと叫び、体を揺らすが、眠ったままだ。
そして、娘は嗚咽漏らし、冷たくなった母の手を握り、泣き叫びながら、神を呪った。
神を、自らの運命、ここに生まれてきたことすらも呪った。
大切なものを失う気持ちがこれほど辛いとは思わなかった。
母の死が彼女を苦しめ、更なる悲劇がもたらされる。
外へ出ると、そこには夥しい数の魔獣が涎を垂らし、逃げ惑う羊を捉えると発狂しながら、強烈な爪で捕まえ、喉を掻きっきり、殺した。
その魔獣は龍、豚、狸族と名だたる一族が会していた。その獰猛さと、これだけの大物の軍隊、羊を狙っていることから察するに、共食いの集団、鬼団であることが分かる。
その魔獣達は逃げ惑い、泣き叫ぶ羊の群れを嘲笑い、蔑み、思うがままに殺戮を楽しんだ。
それは、同じ魔獣とは思えなかった。
どうして、こんな無情な、卑劣なことができるのかと。
しかし、本来の魔獣そのものであり、魔獣こそは悪なのだ。
彼女は自らの魔獣という境遇が虚構なのではないか。
魔獣として此奴を殺したいと切に願った。しかし、圧倒的な暴力によって、一瞬で打ち砕かれた。
そして、龍の魔獣がぼっと立ち尽くすミエを捉えた。
ニタリと醜悪な笑いをし、驚異の躍動で巨大な張り手で、小さな少女の首を真っ二つに斬った。
首はバタッと落ち、ごろごろと転がった。
無慈悲な最期だった。
シエラは絶望の絶叫した。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
この辛さから逃れたいと、夢から今すぐ醒めたいと彼女が願い、現実を知るとこの世を呪い、神を呪い、全てを呪った。
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