転生したらダンジョン雲になった訳

1章魔獣になりましょう

76話衝突

「お待ちください虎帝様……その者は僕の部下でこざいます」

　銃羊が脚を震わせながら、立ち上がり、虎の怒りを静めることに努める。
　しかし、虎帝は口角に泡を吹かせ、首を捻りながら、野蛮な睨みを続ける。

「ここには隊長しか招待していないはずだ！　なぜこのような正体不明な白仮面がいるんだ？」

「恐熊の一件もありまして、ここは用心棒としてこの者を連れてきた次第であります。どうか寛大な処置をお願い致します」

「いや……駄目だ」

　興奮した虎帝は銃羊の制止を振り切り、右手に漲る力を解放させ、突っ込もうとする。
　その刹那の瞬間、黒い靄が掛かり、虎帝の動きが停止した。
　虎帝はその魔法を施した主をギロリと見た。

「何の真似だ？」

　その主は無表情の虫女だった。
　手を伸ばし、露わになった谷間を隠すように白衣を整え、柔らかな笑みを浮かべる。

「すいません……手が滑りました」

「そんな戯れ言を信じると思うか？」

「……ふふふ……それなら取引は破談にしてもよろしいですか？」

　顔を表情は変わらず、視線を空を見ていて、とても異様だ。
　それは、艶のある黒髪が急な風に吹かれ、その黒針が暴れ出し、大きく見せようと威嚇したようにも感じられた。
　戦闘力では上である自負している虎帝でさえも、一瞬だじろぎ、一考した後、腕を下ろした。