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1章魔獣になりましょう
64話何度も
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シエラは母と同じように強い顔で全速力でミエの元へと走った。
彼女は羊族の呪縛、定められた運命を憎悪し、母親の優しさを否定しようとした。
この世は弱い者が一生虐げられる世界、そこに救いはない。
情や優しさは存在しないと頑なに思い続けた。
あたかも、自身を否定するかのように。
それは、結局、彼女自身が母親から優しさを受け継いでいた。
その強力な武器である優しさを、思いを胸に強い者と戦うことを決めた。
その瞬間、裏切り者は許さないという己の掟を守るべく、恐熊が尋常ではない速度で、シエラに迫る。
ところが、同時に動くアタマカラの渾身の一撃で、後退させる。
即時に雷を纏い反撃をする恐熊。
「一体何なんだ何度も何度も……邪魔しやがって」
「俺はどうも面倒くさい性格なんだ!」
「だまれぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
更に雷を増強し、怒り狂った雷の球を一心不乱に投げつける。
またしても、アタマカラの尋常ではない速度で回避し続ける。
何度も何度も雷球を投げつけるが、雲の手が伸び、球を受け止め、彼方へと飛ばされる。
地面に落とし爆発を狙うも、膜のような形状に変化され、爆発は覆い隠され、傷すらつかない。
しかも、今までにない最高威力と最高速度をもってしても、命中させることができない。
自ずと勝敗は見えていた。
だが、負けてはいけないという思いが、更なる攻撃を展開していていく。
けれども、隙を衝かれた瞬間、恐熊の腹に伸びる雲の拳が迫り、強烈な衝撃を食らい、木へ激突し、巨大な爆煙が漂う。
恐熊はあまりの衝撃で、口を閉めることもできず、巨大な金色の目を瞬きすることすら出来ない。
雷は魔力切れで既に発揮できず、微細な電気が生き残ろうと、どこかしこも暴れ出している。
湯気が漂う腹には焼けただれた円形を沿った皮膚、その真ん中に貫かれた大きな穴、次第に血が湯水が如く流れる。
今だかつて恐熊がここまで、やられたことはないだろう。
恐熊をここまで傷めしめるとしたら、鬼団の四鬼ぐらいしか聞いたことがない。
それでも、恐熊は気合いを入れ、何とか呼吸を保ち、細い目をする。
一方、アタマカラも回避が大幅な体力を消耗するために、呼吸が激しく乱れる。
そして、恐熊がその隙を狙い、襲おうと動くも、そこで倒れた。
しかしながら、まだ息はあるようだった。
苦しむ腹を堪えながら、語り出す。
「ここまで手前を苦しめるとは恐れいった……でやんす」
「はぁはぁ」
「お礼に手前さんに忠告してやる……色々と資源や金が必要なので、敵対関係にある鬼団とも取引をしているでやんす。表立っては同盟。しかし、交渉が失敗、不手際があれば、もちろん戦争へと発展する。けれども、互いに戦争をしている場合ではない。このダンジョン、魔獣界隈にはあらゆる敵対勢力がいて、生き残りに必死だ。新たな強者がどんどん現れ争い、同時に死んでいくものもいる。てめぇはそれを分かっていないようでやんす」
「何が言いたい?」
「百熊一族であるこの手前を倒せば、てめぇさんは鬼団に死ぬまで追いかけられるぞ。鬼団も栄養、個体数のある羊族を欲している。その供給源が無くなれば黙ってはいない。鬼団にとって死活問題」
「とうに戦う覚悟できてるさ……友の野望を果たせるなら鬼団でも、何でも相手してやる」
「てめぇさんは甘え…でやんす。このダンジョンで生きてはいけないだろう。その未熟な考え方ではな。もっとも鬼団は仲間ですら、身内ですら、殺す集団。情けは無いと思えでやんす」
「……なぁ……鬼団の本当の目的ってなんだ? 共食いを生業としてるって聞いたが」
「ハハハハ……知らねでやんす。ただ、生き肝が欲しいんじゃないか……うぅ……ァァァァァァァァァァ」
そこで、恐熊は永遠に力尽きた。黒い巨体から微細な雷が奇麗にパチパチとはじけていた。
彼女は羊族の呪縛、定められた運命を憎悪し、母親の優しさを否定しようとした。
この世は弱い者が一生虐げられる世界、そこに救いはない。
情や優しさは存在しないと頑なに思い続けた。
あたかも、自身を否定するかのように。
それは、結局、彼女自身が母親から優しさを受け継いでいた。
その強力な武器である優しさを、思いを胸に強い者と戦うことを決めた。
その瞬間、裏切り者は許さないという己の掟を守るべく、恐熊が尋常ではない速度で、シエラに迫る。
ところが、同時に動くアタマカラの渾身の一撃で、後退させる。
即時に雷を纏い反撃をする恐熊。
「一体何なんだ何度も何度も……邪魔しやがって」
「俺はどうも面倒くさい性格なんだ!」
「だまれぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
更に雷を増強し、怒り狂った雷の球を一心不乱に投げつける。
またしても、アタマカラの尋常ではない速度で回避し続ける。
何度も何度も雷球を投げつけるが、雲の手が伸び、球を受け止め、彼方へと飛ばされる。
地面に落とし爆発を狙うも、膜のような形状に変化され、爆発は覆い隠され、傷すらつかない。
しかも、今までにない最高威力と最高速度をもってしても、命中させることができない。
自ずと勝敗は見えていた。
だが、負けてはいけないという思いが、更なる攻撃を展開していていく。
けれども、隙を衝かれた瞬間、恐熊の腹に伸びる雲の拳が迫り、強烈な衝撃を食らい、木へ激突し、巨大な爆煙が漂う。
恐熊はあまりの衝撃で、口を閉めることもできず、巨大な金色の目を瞬きすることすら出来ない。
雷は魔力切れで既に発揮できず、微細な電気が生き残ろうと、どこかしこも暴れ出している。
湯気が漂う腹には焼けただれた円形を沿った皮膚、その真ん中に貫かれた大きな穴、次第に血が湯水が如く流れる。
今だかつて恐熊がここまで、やられたことはないだろう。
恐熊をここまで傷めしめるとしたら、鬼団の四鬼ぐらいしか聞いたことがない。
それでも、恐熊は気合いを入れ、何とか呼吸を保ち、細い目をする。
一方、アタマカラも回避が大幅な体力を消耗するために、呼吸が激しく乱れる。
そして、恐熊がその隙を狙い、襲おうと動くも、そこで倒れた。
しかしながら、まだ息はあるようだった。
苦しむ腹を堪えながら、語り出す。
「ここまで手前を苦しめるとは恐れいった……でやんす」
「はぁはぁ」
「お礼に手前さんに忠告してやる……色々と資源や金が必要なので、敵対関係にある鬼団とも取引をしているでやんす。表立っては同盟。しかし、交渉が失敗、不手際があれば、もちろん戦争へと発展する。けれども、互いに戦争をしている場合ではない。このダンジョン、魔獣界隈にはあらゆる敵対勢力がいて、生き残りに必死だ。新たな強者がどんどん現れ争い、同時に死んでいくものもいる。てめぇはそれを分かっていないようでやんす」
「何が言いたい?」
「百熊一族であるこの手前を倒せば、てめぇさんは鬼団に死ぬまで追いかけられるぞ。鬼団も栄養、個体数のある羊族を欲している。その供給源が無くなれば黙ってはいない。鬼団にとって死活問題」
「とうに戦う覚悟できてるさ……友の野望を果たせるなら鬼団でも、何でも相手してやる」
「てめぇさんは甘え…でやんす。このダンジョンで生きてはいけないだろう。その未熟な考え方ではな。もっとも鬼団は仲間ですら、身内ですら、殺す集団。情けは無いと思えでやんす」
「……なぁ……鬼団の本当の目的ってなんだ? 共食いを生業としてるって聞いたが」
「ハハハハ……知らねでやんす。ただ、生き肝が欲しいんじゃないか……うぅ……ァァァァァァァァァァ」
そこで、恐熊は永遠に力尽きた。黒い巨体から微細な雷が奇麗にパチパチとはじけていた。
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