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1章魔獣になりましょう

61話しつこい雲人間

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 同時に優しい心を持った母親からも逃げるようにして。
 いや、彼女は元々から優しさはあるのだ。彼女は常に家族を大切に思い、今も救おうとしていたのだ。
 ただ、少し心が折れてしまった。それは、一人で全てを抱えようとしているからだ。
 
「後は任せろ」


 森林の奥地で、小さな仔羊達が怯え、震えていた。
 耳もまだしっかりと生えていない、赤らめた幼い男女が背を寄せ合っている。
 その中に、銀髪のミエもいた。
 そこへ、涎を撒き散らし、嶮しい表情をする恐熊。
 明らかに暴力を終え、興奮している状態。
 腕には羊を殺したであろう血がぴちゃぴちゃ垂れ流している。
 恐熊の後ろには見知らぬ羊男が腸を抉られ、放心した顔で倒れている。
 案の定、息はない。
 やがて、恐熊は醜悪な笑みを零し、舌をぺろっと出し、汚い涎を拭き取る。

「グヘヘヘヘヘヘ……待ちに待ったメインデシュ。ようやく食べられるでやんす」

 幼い羊は美味く、貴重で、大人の羊よりも栄養分が高い。
 なにより、筋肉の増強に繋がる。
 だから、筋肉を多様する攻撃系統の魔獣は羊を欲しがる。
 今にも飛びかかろうとする時、恐熊の顎は奇麗に上空へと舞い上がる。
 醜悪な顔が歪になり、砂煙と風圧が発生と共に落下を余儀なくされた。
 これで、仔羊達をこの凶悪な魔獣から遠ざけることが出来た。
 アタマカラにミエの心配する声が届き、より一層身体に気迫が籠もる。
 対して砂煙を怒りの咆哮で掻き消し、嶮しい表情で少しずつ立ち上がる恐熊。
 視線の焦点は前方に漂う、悠然と佇む雲人間に他ならない。
 その救世主に対してこれまで以上の怒りが何倍も湧いてくる。
 こいつは殺したはず……。
 ところが、なぜこの場で再会するのか。
 一度目は殺し損ね、二度目は完封無きまで相手を殺した筈だった。
 しかし、そうではなかった。
 三度目は必ず息の根を止めなければならない。
 そうしなければ、このままではこの怒りの矛先をどこへ持っていけばいいか分からない。
 けれども、何故だろうか。
 この雲人間から発する不死身のような冷気は何だろうか。
 永遠に立ち塞がって再度現れて来る気がしてしまう。
 倒しても倒しても再び現れる。
 そんな恐怖が全身が逆立って仕方がない。
 手が、脚が、体が、震える。
 いや、恐れるはずがない。攻撃力、魔力、敏捷力、どれを比較してもこちらが上だということは明らか。
 まして、相手0レベル、負ける余地が無い。
 では、なぜ身体が震えているのだ?
 答えを知りたい。

「てめぇは一体何なんだ……!?」
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