61 / 177
1章魔獣になりましょう
61話しつこい雲人間
しおりを挟む
同時に優しい心を持った母親からも逃げるようにして。
いや、彼女は元々から優しさはあるのだ。彼女は常に家族を大切に思い、今も救おうとしていたのだ。
ただ、少し心が折れてしまった。それは、一人で全てを抱えようとしているからだ。
「後は任せろ」
森林の奥地で、小さな仔羊達が怯え、震えていた。
耳もまだしっかりと生えていない、赤らめた幼い男女が背を寄せ合っている。
その中に、銀髪のミエもいた。
そこへ、涎を撒き散らし、嶮しい表情をする恐熊。
明らかに暴力を終え、興奮している状態。
腕には羊を殺したであろう血がぴちゃぴちゃ垂れ流している。
恐熊の後ろには見知らぬ羊男が腸を抉られ、放心した顔で倒れている。
案の定、息はない。
やがて、恐熊は醜悪な笑みを零し、舌をぺろっと出し、汚い涎を拭き取る。
「グヘヘヘヘヘヘ……待ちに待ったメインデシュ。ようやく食べられるでやんす」
幼い羊は美味く、貴重で、大人の羊よりも栄養分が高い。
なにより、筋肉の増強に繋がる。
だから、筋肉を多様する攻撃系統の魔獣は羊を欲しがる。
今にも飛びかかろうとする時、恐熊の顎は奇麗に上空へと舞い上がる。
醜悪な顔が歪になり、砂煙と風圧が発生と共に落下を余儀なくされた。
これで、仔羊達をこの凶悪な魔獣から遠ざけることが出来た。
アタマカラにミエの心配する声が届き、より一層身体に気迫が籠もる。
対して砂煙を怒りの咆哮で掻き消し、嶮しい表情で少しずつ立ち上がる恐熊。
視線の焦点は前方に漂う、悠然と佇む雲人間に他ならない。
その救世主に対してこれまで以上の怒りが何倍も湧いてくる。
こいつは殺したはず……。
ところが、なぜこの場で再会するのか。
一度目は殺し損ね、二度目は完封無きまで相手を殺した筈だった。
しかし、そうではなかった。
三度目は必ず息の根を止めなければならない。
そうしなければ、このままではこの怒りの矛先をどこへ持っていけばいいか分からない。
けれども、何故だろうか。
この雲人間から発する不死身のような冷気は何だろうか。
永遠に立ち塞がって再度現れて来る気がしてしまう。
倒しても倒しても再び現れる。
そんな恐怖が全身が逆立って仕方がない。
手が、脚が、体が、震える。
いや、恐れるはずがない。攻撃力、魔力、敏捷力、どれを比較してもこちらが上だということは明らか。
まして、相手0レベル、負ける余地が無い。
では、なぜ身体が震えているのだ?
答えを知りたい。
「てめぇは一体何なんだ……!?」
いや、彼女は元々から優しさはあるのだ。彼女は常に家族を大切に思い、今も救おうとしていたのだ。
ただ、少し心が折れてしまった。それは、一人で全てを抱えようとしているからだ。
「後は任せろ」
森林の奥地で、小さな仔羊達が怯え、震えていた。
耳もまだしっかりと生えていない、赤らめた幼い男女が背を寄せ合っている。
その中に、銀髪のミエもいた。
そこへ、涎を撒き散らし、嶮しい表情をする恐熊。
明らかに暴力を終え、興奮している状態。
腕には羊を殺したであろう血がぴちゃぴちゃ垂れ流している。
恐熊の後ろには見知らぬ羊男が腸を抉られ、放心した顔で倒れている。
案の定、息はない。
やがて、恐熊は醜悪な笑みを零し、舌をぺろっと出し、汚い涎を拭き取る。
「グヘヘヘヘヘヘ……待ちに待ったメインデシュ。ようやく食べられるでやんす」
幼い羊は美味く、貴重で、大人の羊よりも栄養分が高い。
なにより、筋肉の増強に繋がる。
だから、筋肉を多様する攻撃系統の魔獣は羊を欲しがる。
今にも飛びかかろうとする時、恐熊の顎は奇麗に上空へと舞い上がる。
醜悪な顔が歪になり、砂煙と風圧が発生と共に落下を余儀なくされた。
これで、仔羊達をこの凶悪な魔獣から遠ざけることが出来た。
アタマカラにミエの心配する声が届き、より一層身体に気迫が籠もる。
対して砂煙を怒りの咆哮で掻き消し、嶮しい表情で少しずつ立ち上がる恐熊。
視線の焦点は前方に漂う、悠然と佇む雲人間に他ならない。
その救世主に対してこれまで以上の怒りが何倍も湧いてくる。
こいつは殺したはず……。
ところが、なぜこの場で再会するのか。
一度目は殺し損ね、二度目は完封無きまで相手を殺した筈だった。
しかし、そうではなかった。
三度目は必ず息の根を止めなければならない。
そうしなければ、このままではこの怒りの矛先をどこへ持っていけばいいか分からない。
けれども、何故だろうか。
この雲人間から発する不死身のような冷気は何だろうか。
永遠に立ち塞がって再度現れて来る気がしてしまう。
倒しても倒しても再び現れる。
そんな恐怖が全身が逆立って仕方がない。
手が、脚が、体が、震える。
いや、恐れるはずがない。攻撃力、魔力、敏捷力、どれを比較してもこちらが上だということは明らか。
まして、相手0レベル、負ける余地が無い。
では、なぜ身体が震えているのだ?
答えを知りたい。
「てめぇは一体何なんだ……!?」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません
野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、
婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、
話の流れから婚約を解消という話にまでなった。
ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、
絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。
都合のいい女は卒業です。
火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。
しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。
治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。
どちらが王家に必要とされているかは明白だった。
「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」
だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。
しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。
この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。
それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。
だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。
「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」
2025年何かが起こる!?~予言/伝承/自動書記/社会問題等を取り上げ紹介~
ゆっち
エッセイ・ノンフィクション
2025年に纏わるさまざまな都市伝説、予言、社会問題などを考察を加えて紹介します。
【予言系】
・私が見た未来
・ホピ族の予言
・日月神示の預言
・インド占星術の予言
など
【経済・社会的課題】
・2025年問題
・2025年の崖
・海外展開行動計画2025
など
【災害予測】
・大規模太陽フレア
・南海トラフ巨大地震
など
※運営様にカテゴリーや内容について確認して頂きました所、内容に関して特に問題はないが、カテゴリーが違うとの事のでホラー・ミステリーから「エッセイ・ノンフィクション」へカテゴリー変更しました。
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。
【完結】私、妖精王の娘ですけど、捨てちゃって大丈夫ですか?
るあか
ファンタジー
「わたくし、王族になりますの。邪魔なあなたはここへ捨てていきます」
7つになったばかりの私へ告げられたのは、叔母エメリーヌのそんな言葉だった。
私は丁寧に叔母に別れを告げると、森の奥へと進んでいく。そして叔母の乗ってきた馬の蹄の音が聞こえなくなった瞬間、万歳をして喜んだ。
「やったー、やったー! ようやくあのヤバいクソババアからも退屈な毎日からも解放されたー!」
私が捨てられた森は偶然私のお父様が住んでいる森。
道中で気の良い魔物のピクシーを仲間に加え、私の本当のお家へと帰ることにした。
※全19話の予定。毎日更新。
※いいね、エール、ありがとうございます!
婚約者を交換ですか?いいですよ。ただし返品はできませんので悪しからず…
ゆずこしょう
恋愛
「メーティア!私にあなたの婚約者を譲ってちょうだい!!」
国王主催のパーティーの最中、すごい足音で近寄ってきたのはアーテリア・ジュアン侯爵令嬢(20)だ。
皆突然の声に唖然としている。勿論、私もだ。
「アーテリア様には婚約者いらっしゃるじゃないですか…」
20歳を超えて婚約者が居ない方がおかしいものだ…
「ではこうしましょう?私と婚約者を交換してちょうだい!」
「交換ですか…?」
果たしてメーティアはどうするのか…。
妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
フリード伯爵は溺愛する自身の妹スフィアと共謀する形で、婚約者であるセレスの事を追放することを決めた。ただその理由は、セレスが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしセレスは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、セレスを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。
夫の子ではないけれど、夫の子として育てます。
しゃーりん
恋愛
伯爵家から侯爵家に嫁いだ日、夫ディカルドから初夜を拒否されたフォルティア。
白い結婚のまま2年後に離婚されれば伯爵家からの援助も返さなければならないことを恐れた侯爵夫妻の企みによってフォルティアは襲われて純潔を失ってしまい、しかも、妊娠してしまう。
妊娠までは想定外だった侯爵夫妻は、不貞による妊娠を理由に慰謝料を貰って離婚させるつもりが、ディカルドが何故か自分が子供の父親だと思い込んでいるため、フォルティアのお腹の子供が誰の子供かわからなくなってしまった。
そんな中、ディカルドが事故で亡くなる。
フォルティアはお腹の子供が跡継ぎだからと侯爵家に居座り、自分の思うようにするというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる