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1章魔獣になりましょう
56話失敗
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「どうして」
「精神的におかしくなっているのです」
その時、「火事だ!」と緊迫した声が外から繰り返し聞こえてきた。
微かに煙の匂いがして、稲の隙間から灰色の煙がたなびいている。
「何だ!」
「とにかく早く外へ、ミエ来なさい」
そして、外へ出ると、既に炎は村の一部まで燃え広がっていた。
稲の家々が妖怪のように炎が蠢いて、さらに広がり、周囲の山々にまで侵入している。
羊族の者達が川から水を汲み、必死で消火にあたろうとするが、どんどん炎の勢いは酷くなっていく。
なぜなら、強い風に吹かれて、緑を所狭しと呑み込んていくのだ。
やがて、炎は轟々と唸りを帯びて、村全体を焼き尽くしていった。
羊達は逃げ惑い、悲鳴や絶叫が鳴り響き、まるで、地獄の海と化した。
アタマカラ達は高台の草原へと避難し、焼かれる村を悲しげに見つめていた。
ミエはアタマカラの脚にしがみついて、わんわんと泣いていた。
カエラは泣きながら、我が娘であるシエラの名を叫び、焼き尽くされる村へと行こうとするが、周囲の羊の女に制止させられる。
しかし、その制止対して、激しく抵抗する。
私の娘はどこと何度も叫ぶ。
すると、炎の村から二、三体の羊男達が必死の形相で、命懸けで上がってきた。
顔はすすだらけで、腕には傷、着衣は破れ裂かれている。
だが、それだけではなく、誰かを抱えているようだ。その者を草原にそっと置いた。
意識はなく、既に息はないようだ。
死んでいることは確かだった。
カエラがその死んだ亡骸の顔を見た瞬間、激しく嗚咽を漏らす。
「うぅぅぅ」
その亡骸は何かとカエラに親身になってくれた先程の老婆だった。
カエラ一家にとってはとても世話になっている方だったらしく、食料や彼女が村で孤立してる時に助けてくれた優しい方だったそうだ。
家族に近いといえる人を失った悲しさは計り知れないだろう。
その上、その悲しさは更なる不安を増大させる。我が家族であり、我が娘のシエラの姿が見えないということだ。
あのまま喧嘩別れのような形になってしまったことに後悔をする。
だが、その後悔はよからぬ事を連想させてしまう。
しかし、必死に否定し、彼女を呼び続ける。縋るような母親の声。
そして、炎の村からまた一体羊男が胸から血を流し、脚を引きずりながら、やってきた。
その男はアタマカラにこの村から出てけと言ったこの村のリーダーだった。
他の羊達が駆け寄り、リーダーは意識朦朧としながら、何かを伝える。
「ここ……こうしょうが失敗した」
「百熊一族か?」
「あぁ……この炎は百熊一族の仕業だ。どうやら他の羊族を見つけたらしく、我々はもう用済みらしい。だから、この村に来ることは無くなるから今日全て食い尽くすことに決めたらしい」
「なんて勝手な……」
「今、百熊一族が丸焦げになった女や子を食ってる……はぁはぁ…………うぅ」
「早く治療を!」
「もういい。もう直に俺は死ぬだろう。それと、言っておきたいことがある。カエラを呼べ」
「カエラ? ああ、分かった」
その後、激しく動揺するカエラが意識朦朧とするリーダーの元に駆ける。
リーダーは伝えなければならないという確固をたる意志で、どうにか意識を保っているようだった。
「シエラが危ない」
「え、ど、どういうこと!?」
「あいつは恐熊を殺すつもりだ。しかし、絶対に勝てる訳がない」
「やめてぇぇぇ」
「口止めをされていたが言っておく、カエラ。お前はシエラが精神的におかしくなり、百熊一族と奴隷契約を結んだ訳ではない。脅されたんだ。熊族にとって小さな雌の羊は貴重で美味い、そうミエを渡せと言われ、シエラはそれだけは頑なに拒否し、自ら身代わりとなった」
「そんな……私は勝手に……誤解して……ごめんシエラごめんごめん」
「だが、今回の炎で、シエラは恐熊と戦うことを決めた。なぜなら、村全員を殺すことは、自らの家族を殺すことと同じだからっ言ってな……あああああああ!!!!」
その時、リーダーの男の体は巨大な筋骨隆々の腕と、鋭い爪に吹き飛ばされた、血飛沫と一緒に、断末魔の後、バタッと草原に落下した。
「精神的におかしくなっているのです」
その時、「火事だ!」と緊迫した声が外から繰り返し聞こえてきた。
微かに煙の匂いがして、稲の隙間から灰色の煙がたなびいている。
「何だ!」
「とにかく早く外へ、ミエ来なさい」
そして、外へ出ると、既に炎は村の一部まで燃え広がっていた。
稲の家々が妖怪のように炎が蠢いて、さらに広がり、周囲の山々にまで侵入している。
羊族の者達が川から水を汲み、必死で消火にあたろうとするが、どんどん炎の勢いは酷くなっていく。
なぜなら、強い風に吹かれて、緑を所狭しと呑み込んていくのだ。
やがて、炎は轟々と唸りを帯びて、村全体を焼き尽くしていった。
羊達は逃げ惑い、悲鳴や絶叫が鳴り響き、まるで、地獄の海と化した。
アタマカラ達は高台の草原へと避難し、焼かれる村を悲しげに見つめていた。
ミエはアタマカラの脚にしがみついて、わんわんと泣いていた。
カエラは泣きながら、我が娘であるシエラの名を叫び、焼き尽くされる村へと行こうとするが、周囲の羊の女に制止させられる。
しかし、その制止対して、激しく抵抗する。
私の娘はどこと何度も叫ぶ。
すると、炎の村から二、三体の羊男達が必死の形相で、命懸けで上がってきた。
顔はすすだらけで、腕には傷、着衣は破れ裂かれている。
だが、それだけではなく、誰かを抱えているようだ。その者を草原にそっと置いた。
意識はなく、既に息はないようだ。
死んでいることは確かだった。
カエラがその死んだ亡骸の顔を見た瞬間、激しく嗚咽を漏らす。
「うぅぅぅ」
その亡骸は何かとカエラに親身になってくれた先程の老婆だった。
カエラ一家にとってはとても世話になっている方だったらしく、食料や彼女が村で孤立してる時に助けてくれた優しい方だったそうだ。
家族に近いといえる人を失った悲しさは計り知れないだろう。
その上、その悲しさは更なる不安を増大させる。我が家族であり、我が娘のシエラの姿が見えないということだ。
あのまま喧嘩別れのような形になってしまったことに後悔をする。
だが、その後悔はよからぬ事を連想させてしまう。
しかし、必死に否定し、彼女を呼び続ける。縋るような母親の声。
そして、炎の村からまた一体羊男が胸から血を流し、脚を引きずりながら、やってきた。
その男はアタマカラにこの村から出てけと言ったこの村のリーダーだった。
他の羊達が駆け寄り、リーダーは意識朦朧としながら、何かを伝える。
「ここ……こうしょうが失敗した」
「百熊一族か?」
「あぁ……この炎は百熊一族の仕業だ。どうやら他の羊族を見つけたらしく、我々はもう用済みらしい。だから、この村に来ることは無くなるから今日全て食い尽くすことに決めたらしい」
「なんて勝手な……」
「今、百熊一族が丸焦げになった女や子を食ってる……はぁはぁ…………うぅ」
「早く治療を!」
「もういい。もう直に俺は死ぬだろう。それと、言っておきたいことがある。カエラを呼べ」
「カエラ? ああ、分かった」
その後、激しく動揺するカエラが意識朦朧とするリーダーの元に駆ける。
リーダーは伝えなければならないという確固をたる意志で、どうにか意識を保っているようだった。
「シエラが危ない」
「え、ど、どういうこと!?」
「あいつは恐熊を殺すつもりだ。しかし、絶対に勝てる訳がない」
「やめてぇぇぇ」
「口止めをされていたが言っておく、カエラ。お前はシエラが精神的におかしくなり、百熊一族と奴隷契約を結んだ訳ではない。脅されたんだ。熊族にとって小さな雌の羊は貴重で美味い、そうミエを渡せと言われ、シエラはそれだけは頑なに拒否し、自ら身代わりとなった」
「そんな……私は勝手に……誤解して……ごめんシエラごめんごめん」
「だが、今回の炎で、シエラは恐熊と戦うことを決めた。なぜなら、村全員を殺すことは、自らの家族を殺すことと同じだからっ言ってな……あああああああ!!!!」
その時、リーダーの男の体は巨大な筋骨隆々の腕と、鋭い爪に吹き飛ばされた、血飛沫と一緒に、断末魔の後、バタッと草原に落下した。
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