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1章魔獣になりましょう

51話虐げられる羊

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 緑の草とズワガニのスープに肉団子を混ぜた一品。
 とても温かく、緑の薬味の効いた味がズワガ二のエキスと相まって、しっかりとした味に変貌している。
 それから、カエラが作ってくれた特製肉団子は煮汁がジュワーと口に広がり、歯応えが良く、喉から腹までを幸福に満たしてくれる。
 そして、三人で食卓を囲み、その一品が無くなるまで食べる。
 アタマカラは元気になったところで、疑問に思っていたことをカエラに聞いて見た。

「あの……どうしてここの村の人は何かに怯えているんですか?」

「それはこの村が百熊一族の支配下にあるからです……」
 
 百熊一族?

「羊族は暴力で対抗できない、非戦闘魔獣。そんな弱い魔獣は強い魔獣達から暴力で脅迫されれば従わければならない。たとえ、奴隷のようにいたぶられようと、資源を奪い尽くされても、反抗をしてはいけないのです」

 カエラは暗い表情で、下を向き、溜め息を漏らす。
 その時、外から男女の叫び声とがなり声が聞こえた。
 カエラは血相を変えて、立ち上がり、飛び出していく。
 釣られるようにアタマカラも同様に外の方へ向かう。
 見た光景は貧相な体型の羊男の顔面がぶっ飛ばされる瞬間だった。
 目は飛び出したと思うぐらいに強い衝撃のあるパンチ。

「早く肉を横せこのやろう!」

「うぁぁぁぁ」

「おいおい? 喚くな? 聞こえるだろ?」

「もう肉はないん……だだ……頼む」

「あんだろ? お前の子供の肉がよ?」

「それは絶対駄目だ……私の子はお前なんかに死んでも渡さない」

「あ? 羊風情が生意気なんだよ!」

「うぅ!」

 熊男は倒れた羊男の背中を幾度も踏み続ける。
 それは自らの要求が通るまで永遠に続けるであろうことは確かだろう。
 熊男は汚い顎髭に、大きな腹をかき毟る横柄な態度。
 痛み苦しむ羊男を見る度に最高の快楽を味わう。 
 他人の苦痛は最高のご褒美と大声で嘲笑う。
 その辱めはまだ終わらなかった。
 最高のショーはこれからだと叫ぶ。
 すると、熊男の仲間らしき魔獣が二人組が何かを抱えてきてやってきた。
 羊男はその光景を見た瞬間、更なる絶望の表情へと変わる。
 それは我が妻とまだ幼い子供が泣き喚めきながら、捕縛されてやってきた。
 妻は顔を殴られ、大きく腫れ、服は乱れている。
 さすがに幼い子供には傷はなかったが、これからどうなるかは分からない。
 二人組の魔獣はニタニタと笑いながら、これからのフィナーレが楽しみだと云った表情をする。

「連れてきたぜ」

「やめてください……子供だけは」

「パパ怖いよ」

「おやおやこれはいい肉が手に入ったな? な? 羊男?」

「やめ……ろ……やめ……ろ」

「あ? 聞こえねぇよ」

「グハハハハハハハハハハ」

「誰か助け……」 

 絶望の淵に落とされ、ボロボロな羊男がまだ家族を守ることを諦めていない姿に滑稽だと表し、熊男達は非情な大笑い。
 その光景に住民達は反旗を翻す訳もなく、恐る恐るの稲の隙間や隠れて見守っているだけだった。
 住民の他人事の様に熊男はうんうんと頷き、叫んで、再度蹴り続ける。
 暴力の前に救いは無いと。

「誰も助けなんてきやしねよー馬鹿かぁぁぁぁぁ?」

「グハハハハハハハハ」

 その一連の光景を目にしたカエラは右手に拳を作り、奥歯を噛み締め、助けに行こうとする。
 まるで、闘う女戦士のように一歩を踏み出した。
 しかし、側にいた近所のお婆さんが止めに入る。 
 スカーフを被った白髪で、腰がかなり曲がり、皺がぐっと入り組み、険しい顔で、首を左右に振る。

「およし……殺されるだけよ」

「でも……このままだと本当に」

「昨日もあいつらは何人か殺して、資源を奪っていった。悔しいけど耐えるしかないんだよ。あんたも子供がいるんだから守らなくちゃいかんよ」

「だけど……あの人もそうじゃない。家族を守りながら生きてるのよ。私は行くわ」

「およしと言ってるだろう!」
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