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1章魔獣になりましょう

30話奴隷の羊

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 アタカマラが軽く突き飛ばされると同時に女の子の悲鳴が聞こえた。
 蜥蜴もその悲鳴に興味を持ったのか視線をその先に向ける。
 そこには黒い牛の獣がいた。
 湾曲したニ角、顔中の回りに毛むくじゃらの毛髪、黒い皮膚をした巨躯。
 大きな鼻を荒々しくさせ、どうやら大声で誰かに怒鳴っている。
 周囲にはその光景を目にしようとする野次馬が集まっていた。

「野牛……か……」

「野牛?」

【野牛《バイソン》】
 レベル300。将来の最強牛の四天王に入ることが有力視されている。
 防御は一切しない、鉈《ナタ》で攻撃し相手を死に致しめるまで終わらない。
 超攻撃型。一撃必殺を成功すればどんな強い敵だろうと倒せる。

 そして、その野牛が怒鳴っている相手は白い毛をした女。
 ほとんどが人間と言っていい程で、残りが羊族の血が入っている。
    ショートカットのクリーム色のくるんとした髪の毛が傷み、薄布衣服もぼろぼろで、肉厚の肢体が露わになるもあざだらけ。
 右目は殴られたのか腫れていて開けられない。
 それから、右手を鎖で縛られ、意識朦朧としている。相当な仕打ちを受けたに違いない。
 一方、野牛がその鎖を握り、怒鳴りながら、強く何度も引っ張る。
 引っ張る度に羊女の痛みの絶叫が聞こえる。
    周りの野次馬達はその光景と音に興味が惹かれるのか、嗜むようにして見ている。
 涎を垂らす者いれば、参加しようとする者もいれば、ただ嗤いに興じるものさえいる。
 狂った魔獣達。
 玄奘はやさぐれた目をその先に向けながら、声を漏らす。

「奴隷やな……」

 野牛の怒号が益々激しくなり、羊女は既に萎縮し気絶寸前。
 赤い目玉がぎょろぎょろと動き、唾を喚き散らし、鼻息を荒々しながら、相手を怒鳴る。
 見るもの畏怖させる。
 とうとう、野牛の怒りは頂点に達し、鉈を斜めに振り上げ、羊女へと振り下ろした。
 その瞬間、怒りの頂点に達していたのは一人だけではなかった。
 もう一人いた。
 それは白い雲。

「何の真似だ?」

 突如として、黒い牛の前へ立ちはだかったのは雲人間。
 そんなの驚きの展開に野牛は動じることなく、ただ行動の意味を計る。 
 一方、周囲は反抗する雲人間の登場に、苛立つ者、珍しい出で立ちの魔獣と驚く者、対決だと騒ぎ立てる者とそれぞれ。
 玄奘は騒ぎ立ててどうすると落胆に近い溜め息。炎蜥蜴は何ができるのだと侮蔑の目で見ていた。

「この子が可哀想じゃないですか?」

「奴隷をいたぶって何が悪い?」

「許せない」

「ぁ? ハハハハハハなんだこの羊を助けるとでも言うのか? お前馬鹿だなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

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