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2章魔術師学院(閑話)

12話寮

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 そして、寮について、フレスから色々と聞いた。
 廃れた城だが、百室程部屋があるらしい。
 また、広大な庭や池も所有している。
 住むにいい環境だ。
 窓辺に浮かぶ空は夕暮れの気配が窺え、奇妙な鳴き声をする黒鳥が不気味な雰囲気を醸し出す。
 ふと、視線を戻すと、フレスがソファーに座りながら、寝ている。
 きっと疲れているのだろう。
 今はこのままにしてやろう。
 すると、真正面の大きな扉が開き、金髪の男が現れた。
 よれよれのワイシャツとズボンを着込んだシルバラード=イルガ講師だ。
 にっこり笑う兄さん。
 どうしてここにこの先生がいるんだ。

「イルガ先生……」

「お前! はやくキッチンへ来いよ!」

「え……」

「ワイワイ、ガヤガヤの歓迎パーティーやろうぜ! な? な? 楽しいぞ!」

 なんだこの陽気なノリは。
 突然のイルガ講師登場に、歓迎パーティーやるぞと戸惑うしかない。 
 俺は強引にに促されるまま、廊下一直線を進むと、灯りのあるキッチンらしき部屋に通される。
 そこは広い部屋だった。洋館と呼ぶべき部屋。
 キッチン兼リビング。
 犬族の少年が憎たらしい笑みを浮かべていた。
 イルガは両手を叩き、

「Aクラスのホラホラ寮の諸君って、フレスはまだ寝てるのか……まあ良い。本日の入学式、小試験お疲れ様」

「ありがとうございます」

「この寮の管理人はこのイルガ講師が担当するからな。困ったことがあったら何でも言うんだぞ」 

「はい」

「さあ、それでガロロから自己紹介してもらおうか」

 その犬の少年は茶の短髪で頭頂部分がツンツンした耳とつり目の少年がブラウンの瞳をしている。
     1年Aクラス入学試験25位。

「俺はボルクス騎士伯家の長男ボルクス=ガロロ。まず言っておくがトーマス=ゼルフォード! 優秀な奴だときいたが、所詮はFクラス合格上がりの新入生、一方、俺はAクラスで合格した! つまり、おめぇよりも格上な訳だははぁぁぁぁ! あとな俺は校内ランキング1位になる。ライバルだとかそんな幼稚なことは言うんじゃねぇぞ! おめぇなんて相手じゃねぇんだよ!」

 なんだこいつ……。

「まあ、今日はこの辺りにしてやるよ。新人」

 ちなみに、魔術師のランクについてはルーキー、プラチナ、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイヤモンド、エキスパート、マスターまでランクがある。
 最上級のマスターランクになれば名誉報酬は莫大な物になる。
 将来の末代まで繁栄するだろう称号。
 誰しも欲しくてたまらないだろう。
 だがこの高等学院を卒業し、魔術大学に入り、軍隊に所属したエリートコース街道を歩いた天才でも成れるかは分からない。
 その天才の中でも、ほんの一握りが成れるのだ。
 そして、結局、イルガが眠いということで観迎会は今度やることになった。

         ・
 夜、雑草だらけ庭から見える暗闇の空はとても綺麗なものだった。
 暗闇に浮かぶ満点の星が煌めく。
 その空を悲しそうな、どこか儚げな横顔で、エメラルドの女で、見上げる金髪のショートカットの少女。
 いつも陽気な笑みを見せてくれるのに、どうして、一人になると彼女はそんなに消えてしまいたいような顔をするのだろうか。

「眠れないのか?」

 頬に一筋の涙が流れ、必死で拭い、無理矢理な笑みを見せるフレス。

「あっ……ごめん、ちょっと無くしものしたのを思い出して」

「これのことか?」

 このペンダントを渡さそうとは思っていたが、いつしか忘れていた。
 フレスははっとした表情で、ペンダントを手に取り、涙を流し、胸に抱き締めた。

「良かったっ……」

「大事なものだったんだな。すぐ渡せば、良かったな。やっぱり、お母さんが恋しくて、ホームシックでもかかったのか?」

「うん……」

 言葉少なげな返事で終わるかと思いきや、彼女は拙い口調で話始めた。

「このペンダントに映っている写真は私の母親なの……優しくて、温かくて、美しかった……けれど、死んでしまったの」
 
「そうだったのか……」
 
 これ以上、俺に掛ける言葉はなかった。
 家族を失った悲しみは痛い程、分かる。
 そして、俺が生きている目的は家族を殺された復讐だ。
 
一時限 魔法歴史学
 元世界魔術師団所属ガルーダ教授 
    大教室

「1299年オルゼル一世はアナトリア西部にオルゼル帝国建国……最強の君主だと思う。1326年ブルザを征服し、首都とする……えーとなオルゼル帝国はな……」

 他の生徒は黒板に書かれた文字を空の画面に一生懸命に写していく。
 大変そうだ……。
 基本、魔術の勉強とは魔力数式や言葉を理解しながら、紙や魔力板に書き写していくのだ。
 だが当の俺はそんなことしてなくても、理解出来なくても、勝手に脳や身体が学習し、数秒も経過すれば、理解した脳と身体になっているのだ。
 記憶は一言一句違わずに、映像も鮮明に覚えられる。
 長期記憶にインプットされれば、永遠の記憶が刻まれる。
 短期記憶にインプットされれば、数日経過したら消失する。
 例えば、魔法歴史の教授は色々と自分なりの解釈を述べていたとする。

「ん……なんだゼルフォード……その態度は?」

「いや……」

「今、先生が言ったこと当然頭に入ってるんだろうな? 頭から足まで言ってみろ! 教科書なんて見るなよゼルフォード!」

 
「1299年オルゼル一世はアナトリア西部にオルゼル帝国建国……オルゼル一世は最強の魔術師だった。1326年ブルザを征服し、首都とする……えーとなオルゼル帝国はな……と言ってました」

 俺は一語一句違わない、スーパーコンピューターのような語り終え、大教室内をシーンとさせた。
  教授は唖然とした。
 このように3時間ぐらいまでの長い教授の講義の話なら一言違わずに覚えられる。
 けれど、俺にはこの教授の最初から最後まで何言ってるのか全く分からなかった。
 【ゲーム学習能力MAXスキル】のおかげで脳や身体は理解してるだろうが、俺の心では理解はしていないだろう。
 だから、高度な勉強をしても、覚えてるのか覚えてないのか分からず、いつももやもやとした感情に襲われる。
 そして、タイミング良く授業終了の鐘の音が鳴る。

「教授……どこか間違っていたら言ってください」

「……」
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