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1章辺鄙な領にて

19話おかしな

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女二人の圧力に負け、結局、ストラノにケーキを譲った。
 さっきまで、泣いていたストラノは一転して、奪い取ったケーキをもぐもぐと勝ち誇った顔で食べている。

「お姉ちゃまおいしいね?」

「ね!」

 俺のケーキが…………。
 これはおかしい。1番小さい俺をみんなでいじめてる。
 サクッサクッと食感の音が耳を癒やし、フォークと共に一口サイズのケーキが少女達の口に入り、目を輝かせ、頬を押さえ悶絶して、足をじたばたさせる。
 食べたい……。

「お……おいしぃ」

「んっっ!」

 サリバンが仕方なしと云った顔で、赤い両眼を逸らしたまま、二等分したもう一個のケーキが乗った皿を手渡してきた。

「はぁ……母様のケーキをたべないなんて、もったいないからね……はい」

「……」

 なんだか言っても、サリバンはやっぱり優しいお姉ちゃんだな。
 なんか意地悪な姉ちゃんかと思っていたが、誤解したぜ、ごめんよ。
 そして、俺は母さんが作ったケーキを少しだけど、食べた。
 うまっ!
 今まで食べた中で、一番美味しいスイーツで、何よりも母さんの愛情が詰まっている。
 ミルクとチョコのミルフィーユの生地の濃厚な甘みが押し寄せてきて、けど、ドラゴンフルーツの果実の酸味によって調和され、そこへ、隠れた固形のチョコが歯応えのある感触となり、濃厚なクリームも絡まって、喉にごくりと入り込んだ。
 美味い……。
 
「婆様? このケーキって、母様がつくったのでしょ?」

「そうね。シウスが寝ている間に、ユスアが片手間に作ったようね」

「さすが母様ね……こんな美味しいお菓子作れるのは……母様しかいないものね」

「ふふ……そうね。あなたのお母さんは素晴らしいお母さんよ」

 スミスとサリバンは互いに優しい笑みを浮かべていたが、スミスの皺がれた右手は強く拳を作り、小刻みに唇を震わし、立ち上がり、その気を紛らわすためなのか、木製のお子様椅子を持ってきて、俺を座らせた。

「この椅子……さっき届いたのよ。お爺ちゃんからプレゼントよ」

 静を体現するスミスはいつも異常に苛立っている。
 そんなことより、今度はミルクフォードのバタークッキーが食べたい。
 サリバンが溜め息を付き、ムッと見つめながら、大皿から小皿にクッキーを何枚か取り分け、その小皿を渡してきた。 

「んっ」

「あひゃ」

 椅子に座り直し、一段落着いたので、さあ、おやつの続きだ。もぐっもぐっもぐっ……。
 歯が生え揃えてない赤ん坊の俺でも、口の中ですっーととろけていくので、何枚でも食べられる。

「シウス! そんなに急ぐと詰まるわよ」

「もぐもぐぐぐぐぐ……ん……ごほっ、ごほっ、ごほっ!」

「だから、言ったのに!」

 サリバンがトコトコとこっちに寄ってきて、背中をさすりながら、俺の口にミルクをちょっとずつ飲ませてくれて、喉に詰まったクッキーの欠片をごくりと流し込むことができた。
 ふぅ……死ぬかと思った……。

「全くシウスはせわがやけるわね……わたしがいないとなにもできないの」

 
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