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7章魔王軍団VS世界革命軍団
7章5話シラユキの願望
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孤高という言葉が似合う赤いマントの後ろ姿。
骸骨の顔から浮かぶ二つの妖しげな両眼は結界の前でじっーと睨み、敵を待つ。
すると、隣にゴブリンの英雄が神出鬼没に懐に入ってきて、物腰の柔らかい笑みを浮かべる。
「しかし、遅いですね。マツタケさんとネズさん。約束の時間から十時間以上は経過してますよ」
「きっと、予想以上に苦戦をしているのかもな」
「果たして、そうですかね?」
「どういう意味だ?」
「マツタケさん裏切ったりして」
デュランダルの全身が闇の殺気が蠢き、一瞬でぴりつく。
しかし、ゴブリンの英雄は動じる様子も無く、柔らかい笑みを浮かべ、腕を組んで、足を浮かせている。
「我が友を侮辱する気か? 事と次第じゃ貴様をここから追放するぞ」
「確か、マツタケさんと古くからのデュランダルの後輩であり、友人だと」
「ああ」
「けど、プライベートまでは知らないと」
デュランダルは否定も、肯定もせずに、ただ言葉を詰まらせる。
「……それは」
「マツタケさんは謎の多き人ですよ。噂なんですが、先代の魔王ピロロ様を暗殺したのは……確か信頼の置ける部下だったと。あなたもお仕えしていたのら、犯人知っているのでしょ?」
聞かれたくなかったように、核心を突かれた様子のデュランダル。
「いや、ワシは誰が魔王様を暗殺したのか分からない。ワシが助けに行った頃には犯人は逃走していた。犯人に心当たりはない」
「どうやら、魔王暗殺に関わっているようですよ」
「ふざけたことを抜かせ! その時、マツタケは入団していなかった」
「デュランダルさんが知らないのも、当然ですよ。なぜなら、魔王ピロロ様は極秘裏に暗殺部隊を創ったのですよ。魔王軍団に癖の強い者、王の首を狙う者がたくさんいますからね。裏切り者をあぶり出すために創った。そのため、周囲にはその部隊の存在、人物を明かすことが出来なかった」
「たとえ、それが真実だとしても、マツタケが魔王様を殺したことには繋がらない」
「まあ、心に留めて置いてください」
*
ゴブリン騎士の襲撃の一件以降、1日を経過したが、再襲撃の気配は無く、マツタケとネズに関しては連絡すら寄越さず、戻ってくる様子は無い。
結界の修復も兼ねて、白豚とヒヨリにも外で待機してもらっていたが、徹夜でぶっ通しのために地べたで寝息を立てて眠っている。
デュランダルも黒刀を抱いて、座禅を組み、紅の両眼を消し、少しばかりの仮眠を取っていた。
一方、たった一人シラユキは眠気を押し殺して、結界の修復に当たる。
結界の破損箇所は膨大に上る。
1から創ればいいというが、結界を創造できる膨大な魔力を持ち合わせておらず、今後の戦いに備えても、何とか最小限の魔力で修復に当たるしかない。
けど、やはり、自らの甘い結界では、きっとまた結界を破壊されるだろうという不安がよぎり、また涙を滲ませ、泣きながら、作業を繰り返す。
「魔王様ならば……きっと、こんな窮地でも」
すると、暗闇の中、一時奇妙な沈黙があった。
森林に棲む魔獣や鳥、虫、葉と葉の擦過音ですら聞こえない、無音の状態。
そして、気になる、遠くに見える、もさもさとした緑を生やした樹木。
その樹木の表面には化け物のような窪みがあって、とても気になって見入ってしまう。
次の瞬間、樹木の後ろで、坊主の黒い顔が見え、青い二つの軌跡が残像を残し、隠れ、黒装束の一部が揺らめくのを目撃する。
「魔王様!」
シラユキは絶対に魔王様だと確信し、戻ってきてくれたんだという嬉しさと共にその木に向かって全力で走り出す。
そして、樹木の後ろを見ると、雑草が生い茂るだけで魔王はいない。
「ヒャヒャヒャヒャヒャ」
甲高い、奇怪な声がどこからともなくする。
周囲の全方位を見渡すが、いたはずの魔王様はいない。
もしかして、魔王様が恋してくて、会いたくて、願い続けて、頭がおかしくなって、魔王様の幻覚を見てしまったのか。
だが、向こうの大きな幅のある一本道を黒装束の姿の謎の人がいた。
シラユキは魔王の名前を呼びながら、追い掛ける、道を塞ぐ倒れた樹木の回避し、急な山の斜面を登り、残った水溜まりがある雑草や落ち葉の平坦な道を走り、ようやく着いたのが、大きな河川だ。
その時、河川の真ん中で魔王の黒影が激しく揺らめく。
「魔王様!」
シラユキは見た瞬間、涙を流し、水を脚で掻き分け、顔や服がびしょ濡れになろうが、何度も魔王を呼びながら、全力で走る。
その途中で、魔王がゆっくり振り返り、笑みの青眼を浮かべる。
そして、彼女は魔王を強く抱き締めた、愛する恋人のように、しかし、一瞬で、黒い砂のようになって、風に流される。
河の真ん中で、全身に水を浴びシラユキは悲しみにうちしがれ、嗚咽混じりに泣いていると、左手に一匹の蟻がいた。
「お前は?」
「……」
無言で、魔王に似た青い両眼を光らせる。
シラユキはまた、魔王を思い出して、泣き叫び崩れ落ちた。
骸骨の顔から浮かぶ二つの妖しげな両眼は結界の前でじっーと睨み、敵を待つ。
すると、隣にゴブリンの英雄が神出鬼没に懐に入ってきて、物腰の柔らかい笑みを浮かべる。
「しかし、遅いですね。マツタケさんとネズさん。約束の時間から十時間以上は経過してますよ」
「きっと、予想以上に苦戦をしているのかもな」
「果たして、そうですかね?」
「どういう意味だ?」
「マツタケさん裏切ったりして」
デュランダルの全身が闇の殺気が蠢き、一瞬でぴりつく。
しかし、ゴブリンの英雄は動じる様子も無く、柔らかい笑みを浮かべ、腕を組んで、足を浮かせている。
「我が友を侮辱する気か? 事と次第じゃ貴様をここから追放するぞ」
「確か、マツタケさんと古くからのデュランダルの後輩であり、友人だと」
「ああ」
「けど、プライベートまでは知らないと」
デュランダルは否定も、肯定もせずに、ただ言葉を詰まらせる。
「……それは」
「マツタケさんは謎の多き人ですよ。噂なんですが、先代の魔王ピロロ様を暗殺したのは……確か信頼の置ける部下だったと。あなたもお仕えしていたのら、犯人知っているのでしょ?」
聞かれたくなかったように、核心を突かれた様子のデュランダル。
「いや、ワシは誰が魔王様を暗殺したのか分からない。ワシが助けに行った頃には犯人は逃走していた。犯人に心当たりはない」
「どうやら、魔王暗殺に関わっているようですよ」
「ふざけたことを抜かせ! その時、マツタケは入団していなかった」
「デュランダルさんが知らないのも、当然ですよ。なぜなら、魔王ピロロ様は極秘裏に暗殺部隊を創ったのですよ。魔王軍団に癖の強い者、王の首を狙う者がたくさんいますからね。裏切り者をあぶり出すために創った。そのため、周囲にはその部隊の存在、人物を明かすことが出来なかった」
「たとえ、それが真実だとしても、マツタケが魔王様を殺したことには繋がらない」
「まあ、心に留めて置いてください」
*
ゴブリン騎士の襲撃の一件以降、1日を経過したが、再襲撃の気配は無く、マツタケとネズに関しては連絡すら寄越さず、戻ってくる様子は無い。
結界の修復も兼ねて、白豚とヒヨリにも外で待機してもらっていたが、徹夜でぶっ通しのために地べたで寝息を立てて眠っている。
デュランダルも黒刀を抱いて、座禅を組み、紅の両眼を消し、少しばかりの仮眠を取っていた。
一方、たった一人シラユキは眠気を押し殺して、結界の修復に当たる。
結界の破損箇所は膨大に上る。
1から創ればいいというが、結界を創造できる膨大な魔力を持ち合わせておらず、今後の戦いに備えても、何とか最小限の魔力で修復に当たるしかない。
けど、やはり、自らの甘い結界では、きっとまた結界を破壊されるだろうという不安がよぎり、また涙を滲ませ、泣きながら、作業を繰り返す。
「魔王様ならば……きっと、こんな窮地でも」
すると、暗闇の中、一時奇妙な沈黙があった。
森林に棲む魔獣や鳥、虫、葉と葉の擦過音ですら聞こえない、無音の状態。
そして、気になる、遠くに見える、もさもさとした緑を生やした樹木。
その樹木の表面には化け物のような窪みがあって、とても気になって見入ってしまう。
次の瞬間、樹木の後ろで、坊主の黒い顔が見え、青い二つの軌跡が残像を残し、隠れ、黒装束の一部が揺らめくのを目撃する。
「魔王様!」
シラユキは絶対に魔王様だと確信し、戻ってきてくれたんだという嬉しさと共にその木に向かって全力で走り出す。
そして、樹木の後ろを見ると、雑草が生い茂るだけで魔王はいない。
「ヒャヒャヒャヒャヒャ」
甲高い、奇怪な声がどこからともなくする。
周囲の全方位を見渡すが、いたはずの魔王様はいない。
もしかして、魔王様が恋してくて、会いたくて、願い続けて、頭がおかしくなって、魔王様の幻覚を見てしまったのか。
だが、向こうの大きな幅のある一本道を黒装束の姿の謎の人がいた。
シラユキは魔王の名前を呼びながら、追い掛ける、道を塞ぐ倒れた樹木の回避し、急な山の斜面を登り、残った水溜まりがある雑草や落ち葉の平坦な道を走り、ようやく着いたのが、大きな河川だ。
その時、河川の真ん中で魔王の黒影が激しく揺らめく。
「魔王様!」
シラユキは見た瞬間、涙を流し、水を脚で掻き分け、顔や服がびしょ濡れになろうが、何度も魔王を呼びながら、全力で走る。
その途中で、魔王がゆっくり振り返り、笑みの青眼を浮かべる。
そして、彼女は魔王を強く抱き締めた、愛する恋人のように、しかし、一瞬で、黒い砂のようになって、風に流される。
河の真ん中で、全身に水を浴びシラユキは悲しみにうちしがれ、嗚咽混じりに泣いていると、左手に一匹の蟻がいた。
「お前は?」
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