上 下
132 / 140
7章魔王軍団VS世界革命軍団

7章2話ゴブリンになったアカリ

しおりを挟む
 満月の光が窓の中に入り込み、広い部屋の中にあったキングサイズのベットを照らす。
 そのベッドでは金髪の少女がシーツを握り締め、ぐちゃぐちゃにしながら、嗚咽を漏らし泣いていた。
 両端の脇には炎が揺らめくランプと壁に貼り付けた異界に吸い込まれそうな楕円の鏡がある。
 やがて、彼女は泣き疲れ、上半身を起こし、鏡の方を振り向き、自らの顔に絶句する。
 暗闇だが、満月の光が差し込んで、映る怪物。
 緑色の皮膚、ゴブリンの顔、ピンク色のトンボのような両眼。
 金髪をした醜い緑色の怪物がギョロギョロとこっちを見る。
 顔は歪み、その醜い顔を尖った両爪でガリガリと掻いたり、抓ったりして、自分の顔ではないことをひたすら願う。
 そして、このゴブリンの顔は私だと改めて認識すると、女の美への渇望が心の中から膨れ上がり、狂ったように叫ぶ。

「ああああああああああ!!!!」

 せめてもの救いは唯一自慢だったクリーム色の金髪。
 しかし、鏡に映る化け物を見る度に私は発狂する。
 耐えられない、何十回、何百回、この顔を見たが耐えられない。
 同時に、顔も醜くく、心も醜くくなっているのを感じた。
 私はゴブリンを卑下し、差別するような人間だったのかと。
 今までどんなに顔は醜くくても、心が綺麗ならば、その人は美しいと思っていた。
 でも、私が醜い顔のゴブリンになって初めて知った、そんな考えは綺麗事だ。間違っている。
 結局は人は見た目で判断、評価する。
 目には見えない心の美しさをどう評価するというのか。
 出来る訳がない。
 馬小屋に捨てられ、泣いていた少女が私の脳裏に浮かぶ。
 彼女は自分の顔が醜いと泣いているのだ。
 いつ何時も私は彼女の傍に寄り添い、首を振って、優しい笑顔であなたは綺麗だと口にするのだ。
 嘘なのに……。
 醜いのに、不細工なのに、綺麗だと私は高らかに言い張るのだ。
 すると、彼女は純粋な心で醜い笑顔を見せてくれる。
 そして、私は醜い顔の彼女を抱いて、優越感に浸るのだ。
 私は彼女より綺麗だと、上だと、そんな醜い心を持ちながら綺麗な顔で嘲笑うのだ。
 ゴブリンはゴブリン、醜いものは醜い。
 美しい心を持っていて、顔が醜くければ、醜い。
 醜い心を持っていても、美しい顔をしていれば、美しい。
 美しいもの美しい、たとえ、醜くくなることがあろうかもしれないが、元々が醜いものよりはマシだ。
 醜いものは醜いまま、一生美しくなることはできない。

「なんで私なの……死ね! 糞! 糞! 死ねぁぁああああ!!!!」

 その一室に銀色の龍騎士ドラグロワがトレイにお茶碗を乗せてやってきた。
 アカリは憎悪が沸き、脇にあったランプをドラグロワに投げつける。

「来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 が、予測した軌道がはずれ、お茶碗に直撃し、壁に飛ばし、バリンと硝子の割れる音が響く。
 ドラグロワは動じる様子も無く、むしろ嘲笑った。

「どうやら、心まではゴブリアには取られてはいないようじゃ。運の良い奴め。たが、直に完全体となるじゃろう」

「黙れお前はぁあああああああああああ!!!!」

「どうじゃ思い知ったか糞女神! リアが、ゴブミがどんな思いで、醜いという屈辱を味わったか。 皆から、嫌われ、疎まれ、蔑まれ、ドブのような扱いを受けて来た苦しみを!!!! 生まれた時から美しい顔で、誰からもチヤホヤされ、金にも困らず何の不自由もなく、両親のたくさんの愛情を受けた貴様には分かるはすがなかっただろう。しかし、自身が醜い汚物のゴブリンになって初めてどう感じた? 死にたくなるだろう!?」

 ドラグロワの黄金の両眼は飛び出し、狂っていた。
 恐ろしいゴブリン顔のアカリは何とも言えない感情が込み上げ、ベットを何度となく叩き、泣き叫ぶ、醜い顔が更に歪んで醜くくなる。

「まだ、私にはやりたいことがたくさんあるのに…なんで……なんで……なんでその自由を奪うの!」

 ドラグロワは腹を抱えて、両眼を飛び散らし、子供のように罵倒する。

「アハハハハハハハ。ざまぁみやがれ!」

「こんなじゃ恋も出来ない、外に出歩くことも出来ない、あいつに面と向かって話が出来ない。私が醜いから……」

「もうお前は誰からも愛されない!!!! 両親がお前の変わり果てたゴブリンの姿を見た時、恐怖に怯えた表情でこう言うだろう。こんな化け物は私の子ではないと。それは、お前が好意を寄せる魔王であっても例外ではない。いや、あいつこそ、非情で、非道な男じゃ。化け物のお前を必ずや殺す」

「ぁあああああああああああ。やめてぇぇぇぇぇぇ。私の顔を返してよ! 美しい顔を返してよ!」

「一生地獄の底で泣け、嘆け! フハハハハハハハハハ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ものぐさ令嬢は帰りたい

中綿げにを
ファンタジー
「はたらけ」 唐突に現れた麗人はそう宣った。 前世の記憶を持ち、今世での役目が「悪役令嬢」だと知りながらも「めんどくさい」と 領地に引きこもり続けた辺境伯令嬢カルファ。 「なんでわざわざ嫌な思いをしに王都に行かなきゃならないの」 前世の記憶を駆使して全てのフラグはへし折った。 なのに!乙女ゲームを間近で見たい神君臨。 いざ!乙女ゲームの舞台へ強制送還! 迫り来るバッドエンドを回避することはできるのか。 無事領地に帰ることはできるのか。 一気に人生ハードモードと化したカルファの戦いが今、始まる。

処理中です...