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6章愛憎渦巻くゴブリン文明
6章6話結婚式で花嫁を奪うストーカー
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そして、授乳が終わり、シラユキは疲れたのか、耳に髪の毛を掛け、うなじや胸の汗を拭った後、企みの笑みを向けて魔王に囁く。
「これで赤ん坊は手懐けましたよ」
「……」
魔王はシラユキに放置されて、終始ムッとしていた。
今なら妻が育児ばかりになって、放置される夫の気持ちがよく分かる。
シラユキはキツネの両眼で、魔王に顔を見せ、少し含んだ笑いをする。
「あれ、嫉妬しちゃいました?」
「ばばかを言うな……まさか……馬鹿野郎!」
つまり俺はシラユキに騙されていたということか。
子供嫌いのシラユキがあんなに子供に熱心だったのは、そういう訳か。
まあ、予想はしていたが……。
俺はあまりに餓鬼がムカつくから感情的になってしまった。
拗ねるなんて、何という恥だ。
顔を振り向けると、シラユキの人差し指が頬に当たった。
「嫉妬していいんですよ」
シラユキは頬を赤らませ、濃い群青の両眼を潤ませる。
魔王は慌てて、そっぽを向いて、照れを隠すように立ち上がる。
「行くぞ」
「はい」
笑いを隠すように口を抑え、頷くシラユキ。
*
ドラグロワは三人を教会の裏口から逃がした後、リアの壇上の近くに警護役としてその場に留まる。
ここならば、すぐにリアを連れて逃げれる。
一方で、グリムがゴブリンキングの背後を取ることで、一時の隙は作れるだろう。
そして、遂にゴブリンキングとリアの愛の誓いの儀式が始まる。
満面の笑みを浮かべるゴブリンキングだが、一本角が怪しく光り、逆に怖かった。
一方、ウェディングドレスを纏った美女リア。
緑色の髪は流れるように美しく、ロリ顔は一瞬で潰れしまいそうなくらい小さい。
しかし、セクシーな赤い唇はやや震え、赤い両眼は虚ろで、もうすぐゴブリンにされてしまう恐怖がそこにあった。
その怯えた様子を内心で嘲笑うゴブリンキングは豪快な懐で受け入れを示す。
「さあ、来い。ゴブリア」
「……ゴブリア?」
「お前の名前だ? この愛の誓いの儀式が終われば、晴れてゴブリンの妻となる。ガハハハハハ」
「嫌、嫌、嫌、嫌、あんな醜い顔になるなんて……」
震え、顔を左右に振り、拒否するリア。
ゴブリンキングは一段と凄んだ声と紅の両眼で脅迫する。
「一生逃げられない。分かってるな? な? な? な?」
ドラグロワは我慢の限界だった。
目の前で、愛する者が恐怖で怯え、ゴブリンにさせられようとしている。
黙ってる訳にはいかない。
そして、殺害実行の合図をしようとしたが、そこにいたはずのグリムは、いつの間にかいなくなっていた。
グリム!
グリムはどこに行った!
周囲を見渡しても、本当にどこにもいない。
もう、時間がない。
座席に座っていた決起集会に来た仲間達にも合図を送る。
俺は行く!
そして、意を決し、リアを後ろへ下げ、剣を向けて前へ出た。
「あぁあああああああああああ!!!!」
場内は騒然となり、場は止まった。
ただ、ドラグロワの手から王剣がごろんごろんと落下する音だけが響いた。
絶望の黄金の両眼のドラグロワと嘲笑う紅の両眼のゴブリンキングと対峙する。
「なぜだ……」
そう弱音を漏らしたのは若い青年ドラグロワ。
周囲にはいつの間にか背後を取っていたゴブリン騎士達が四方八方に囲み、槍を青年に差し向けていた。
そして、ゴブリンキングはわざとらしい悲しい表情で、
「おいおい……ワシはショックだぜ。一番信頼していた部下であるドラグロワが裏切るとはな。あー心が痛い!」
自らの胸を強く叩き、如何に傷が深いかを強調する。
ドラグロワは歯軋りをし、失敗したことを悔いた。
「どうして、失敗したんだ」
「知りたいか?」
ゴブリンキングは一転して、醜悪な笑みを向け、背後にあった膨大な花束の花壇を強靭な右手で切り裂いた。
やめてくれ。
その何もかも知っているような悪魔の顔は。
やめろ。
やめろ。
やめろ。
こんな悪夢はもう嫌だ。
「これで赤ん坊は手懐けましたよ」
「……」
魔王はシラユキに放置されて、終始ムッとしていた。
今なら妻が育児ばかりになって、放置される夫の気持ちがよく分かる。
シラユキはキツネの両眼で、魔王に顔を見せ、少し含んだ笑いをする。
「あれ、嫉妬しちゃいました?」
「ばばかを言うな……まさか……馬鹿野郎!」
つまり俺はシラユキに騙されていたということか。
子供嫌いのシラユキがあんなに子供に熱心だったのは、そういう訳か。
まあ、予想はしていたが……。
俺はあまりに餓鬼がムカつくから感情的になってしまった。
拗ねるなんて、何という恥だ。
顔を振り向けると、シラユキの人差し指が頬に当たった。
「嫉妬していいんですよ」
シラユキは頬を赤らませ、濃い群青の両眼を潤ませる。
魔王は慌てて、そっぽを向いて、照れを隠すように立ち上がる。
「行くぞ」
「はい」
笑いを隠すように口を抑え、頷くシラユキ。
*
ドラグロワは三人を教会の裏口から逃がした後、リアの壇上の近くに警護役としてその場に留まる。
ここならば、すぐにリアを連れて逃げれる。
一方で、グリムがゴブリンキングの背後を取ることで、一時の隙は作れるだろう。
そして、遂にゴブリンキングとリアの愛の誓いの儀式が始まる。
満面の笑みを浮かべるゴブリンキングだが、一本角が怪しく光り、逆に怖かった。
一方、ウェディングドレスを纏った美女リア。
緑色の髪は流れるように美しく、ロリ顔は一瞬で潰れしまいそうなくらい小さい。
しかし、セクシーな赤い唇はやや震え、赤い両眼は虚ろで、もうすぐゴブリンにされてしまう恐怖がそこにあった。
その怯えた様子を内心で嘲笑うゴブリンキングは豪快な懐で受け入れを示す。
「さあ、来い。ゴブリア」
「……ゴブリア?」
「お前の名前だ? この愛の誓いの儀式が終われば、晴れてゴブリンの妻となる。ガハハハハハ」
「嫌、嫌、嫌、嫌、あんな醜い顔になるなんて……」
震え、顔を左右に振り、拒否するリア。
ゴブリンキングは一段と凄んだ声と紅の両眼で脅迫する。
「一生逃げられない。分かってるな? な? な? な?」
ドラグロワは我慢の限界だった。
目の前で、愛する者が恐怖で怯え、ゴブリンにさせられようとしている。
黙ってる訳にはいかない。
そして、殺害実行の合図をしようとしたが、そこにいたはずのグリムは、いつの間にかいなくなっていた。
グリム!
グリムはどこに行った!
周囲を見渡しても、本当にどこにもいない。
もう、時間がない。
座席に座っていた決起集会に来た仲間達にも合図を送る。
俺は行く!
そして、意を決し、リアを後ろへ下げ、剣を向けて前へ出た。
「あぁあああああああああああ!!!!」
場内は騒然となり、場は止まった。
ただ、ドラグロワの手から王剣がごろんごろんと落下する音だけが響いた。
絶望の黄金の両眼のドラグロワと嘲笑う紅の両眼のゴブリンキングと対峙する。
「なぜだ……」
そう弱音を漏らしたのは若い青年ドラグロワ。
周囲にはいつの間にか背後を取っていたゴブリン騎士達が四方八方に囲み、槍を青年に差し向けていた。
そして、ゴブリンキングはわざとらしい悲しい表情で、
「おいおい……ワシはショックだぜ。一番信頼していた部下であるドラグロワが裏切るとはな。あー心が痛い!」
自らの胸を強く叩き、如何に傷が深いかを強調する。
ドラグロワは歯軋りをし、失敗したことを悔いた。
「どうして、失敗したんだ」
「知りたいか?」
ゴブリンキングは一転して、醜悪な笑みを向け、背後にあった膨大な花束の花壇を強靭な右手で切り裂いた。
やめてくれ。
その何もかも知っているような悪魔の顔は。
やめろ。
やめろ。
やめろ。
こんな悪夢はもう嫌だ。
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