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5章呪われた魔王

5章8話ゴブミは僕の母だ

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 シラユキと魔王が地下へ入ると、そこは血の臭いが充満し、地面には血が暴れるように飛び散っていた。
 魔王は一種の錯乱状態に陥り、否定的な言葉ばかり、口にする。
 シラユキは涙を浮かばせながら、魔王を抱き締め、前へ進むことを促していく。

「やめろ、やめろ、やめろ、もう、やめろ、やめろ」

「魔王様大丈夫ですよ」

「怖い、怖い、怖い、怖い」

「大丈夫、大丈夫、大丈夫」

 少し歩くと、ゴブリンの死骸が埋め尽くした。
 一直線の通路にゴブリンの死骸が奥までずらっと並ぶ。
 それぞれ、頭や身体を切り刻まれ、見るに耐えない。
 群青の両眼は虚ろになり、嗚咽を漏らすシラユキ。
 疲れ果て、いつ消えてもおかしくは無い、そんな絶望の表情をする。
 その時、シラユキが眩暈をさせた瞬間、誰かに肩を掴まれ、後ろへ倒れようとする。
 その誰かは魔王の背中に剣を突き刺した。
 魔王は口や背中から血を吹き出す。

「グハァ」

「魔王様!」

 突然のことに、驚愕し、立ち尽くすシラユキ。
 魔王の背中に剣を突き刺した者は更にぐりっと押し込み、企んだ笑みをする。

「魔王、痛いか?」

 魔王が震える両眼で後ろを振り返ると、そこに人型のゴブリンがいた。
 黄色のヘルメット、エルフのような両耳、頭上には飛び出た一角、緑色の皮膚、魔王そっくりな青の離れた両眼。
 ゴブリンにしては長身で、騎士の武装をしている。
 名はゴブリン騎士。
 ゴブリン騎士は挑発するように話す。

「おや、お忘れですか、僕のことを?」

「……はぁ」

「僕はあなたに意見を申し、ゴブリン文明の発掘、ゴブリンの管理を任されたあのゴブリン隊長です。成長して、ゴブリン騎士となりましたが」

「あ……あ……あ」

 魔王はゴブリン隊長を思い出したが、何を言えば分からず、ただ震える。
 ゴブリン騎士は魔王の絶望の表情に笑みを浮かべた。

「どうですか? ゴブリンに殺される屈辱は?」

「ど……どうして、俺を殺す?」  

「そうですね……これを見たら、はっきりしますよ」

 ゴブリン騎士は一度瞼を閉じ、再度瞼を開けると、そこに醜いゴブミのピンク色の両眼があった。
 魔王はその顔を見た瞬間、絶叫する。

「あああああああああ!」 

「僕はね、貴様に殺されたゴブリン女王……ゴブミの子供なんだよぉぉぉぉ!!!!」

「俺は何もしてない、知らない、違う、あいつは殺した」

 憎しみを込めるコブリン騎士。
 一方、痛みと呪われた過去に苦しめられる魔王。

「もっと言えばな? 僕は貴様と我が母の子供なんだよ……ふふふ。な? 責任を取ってくれよ、父さん」

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