最強の魔王による転生令嬢を巻き込んだ異世界チート無双計画

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2章英雄闘拳地区予選

2章29話神英雄の一人

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 そして、彼女は雑踏の中へ消えて行った。
 なぜ俺が人助けしなけいといけない。
 魔王はそんな怒りを地にぶつけていると、唐突にルルが話し掛けてきた。

「アカリさんが殺されてしまいますよ。あの女の子の叫びが聞こえた辺りからはとても強い英雄の殺気を感じます」

「なぜ俺にそれを言う?」

「魔王様……本当に意地悪です」

「だから、何だ?」

「……」

「……」


         *
 周囲は騒然とした空気となっていた。
 ゲーム上のキャラクターである数十人の町人達が店の棚や路上で、心臓を抉られ、大量の血を流しながら、無惨な状態となっていた。
 そんな中、また新たな命が奪われようとしている。

「や……やめて……下さい」

「脱げ」

「それだけは……」

「何?」
 
 長い銀髪をした男が茶屋の娘を四つん這いにさせ、後頭部を踏ん続けていた。
 脇には茶屋の主人である割烹着姿の狸男が泡を吹いて死んでいた。
 というのも、茶屋の主人が団子を切らして、この男に提供しなかったことが発端らしい。
 その怒りの余り、茶屋の主人を殺し、茶屋の娘に辱めをさせるために、裸体になることを強制したのだ。
 男の顔は酷い隈をし、左右に非対称な両眼、汚い言葉遣いで、大きな声で喚き散らす。

「てめぇぇよ。オレ様は団子ないと生きていけねぇんだよ? 分かってんのかぁ? あぁ?」

「すいません。うちに団子はもう……」

「じゃぁ……お詫びとして、服脱げよ。なぁ? そんくらい当然だろ? くっくっくっ」

「勘弁し……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 銀髪の男は娘が拒否したので、思いっきり、娘の頭を踏み出し、地面にすり潰すように押し付けた。

「じゃ死ぬしかねぇーな。どうせ、てめぇ。ゲームのキャラクターなんだろ? なぁ? んっっ!」

「ゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「やめなさい!」

「ぁあ?」

「その女の人から今すぐ離れなさい」

「おいおい……オレ様が誰だか分かってるのか?」

         *

 銀髪の男が紅の瞳を向けた先はクリーム色の髪をした女神。
 銀髪の男は前髪を浮かせ、白金の豪奢な衣服の襟を整え、肩に刻印された神英雄の七の文字を見せつける。
 この八は神英雄の中での強さを示す。
 神英雄団のミハイル。
【卑怯な英雄】。

 歯を剥き出し、長く赤い舌をペロリと出し、赤いイヤリングを揺らし、挑発する。
 その瞬間、アカリは驚愕し、眩暈がして、剣をガランと音を立て、落とす。

「え、え、」

「おいおい……怖じ気づいたのか? 女神……ん? 女神だと?」

 ミハイルも女神という言葉を口にした瞬間、過去が蘇る。
 二、三年前に女神界の女神は我々神英雄団が全て始末したはずだ。
 いや、一人の女神を取り逃した。しかも、そいつは王神世界の生き方を知っていた。
 だから、結局我々は王神世界に行けなかった。
 でも、ようやく我々は神英雄団が血眼になって探して求めたその女神がここにいる。
 ミハイルは戦闘態勢の構えで、大声で笑う。

「会いたかったぜ……女神さんよ」

 ミハイルは茶屋の娘には興味は失ったのか、蹴って退かし、アカリに降伏するように告げる。

「さぁ、来てもらうぜ」

 しかし、突如の憎しみの強敵にアカリは驚き、混乱に苛まれ、応答することは出来ない。

 アカリは突発的な心労により、気絶して、倒れようとする。
 その瞬間、後ろから白銀青色に煌めき、うじゃうじゃ蠢くスライム状の液体が人型と変化し、鋭利な液状の右手が彼女の美しい背中を一直線に貫いた。
 血飛沫が空を染めとポタポタと垂れる血液。
 ミハイルは一瞬驚いたが、すぐさま鋭い犬歯を出し、笑みを浮かべる。

「遅かったじゃねーか。スレイマン」

 スイレマンは女神の血が混ざった右手をすぐさま抜き、冷静な声で、返答する。
 気味悪く蠢く液体は常に揺れ、変化させる。
 神英雄団のスイレマン。強さは六。
【消えない液体】

「ああ。すまない。寝てた」

「あぁ? 大会もう始まってんだぞ! 分かってんのかぁ?」

「ところで、女は誰だ?」

「ああ、そいつか。あの女神だ」

「女神?」

「ったく……めんどくせぇな? 分かるだろ?」

「いや……知らない」

 ミハイルは女神を殺してしまったのではないかということに、今さながらに気づき、大声を上げる。
 
「スレイマン!! まさか、殺したんじゃねーだろうな!」

「大丈夫だ……致命傷は避けた」

「あぶねぇーぜ。まだそいつから王神世界の生き方吐かせてねぇからよ。それに後でたっぷりと楽しまないとな」

 目つきの悪い切れ長の目が笑い、風で極端に長い銀髪が浮かび上がり、揺れる。
 だが、その瞬間、その風は凄まじいものとなり、次第に地響きのような殺気が近づいてくる。
 ミハイルは驚愕の紅の両眼を泳がせる。

「な、なんだこの揺れは……」

 それは、日頃警戒心の無い、無頓着な性格のスレイマンですら、驚愕したように身体を動かす。
 
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