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2章英雄闘拳地区予選
2章28話承諾
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「ゴブリンよ、まだ何かあるか?」
「あの……いえ。これ以上出過ぎた言葉は」
「もう良い。腹を割って話せ。咎める気はない。お前はそれ相応の貢献をしたのだからな」
「はっ。ありがたきお言葉。生殖機能の件なのですが……」
「それで」
「改めて、魔王様に対して無礼な発言をお許し頂きたい。全てのゴブリンに生殖機能を与えるのは、やややり過ぎのような気がします。やはり、どうしても、全てのゴブリンは遺伝子レベルで、出来不出来が出てしまうのです。これは神の仕業としか言いようがない」
このゴブリンの含んだような言い方は俺の創造力の低さを指摘している。
現に俺は魔王としての創造力は端から見れば、高いに違いないが、体と心がリンクしてないため、明らかに創造の力は低い。
それは、近くにいて、共にしてきたルルが指摘した。
このゴブリンなかなかの切れ者だ。
「あの……これは魔王様がどうとかでは……」
「良い。続けろ」
「そして、これは不労働(ストライキ)、協調低下、対立の火種になります。そして、私が提案するのは、ゴブリンの厳選です。ですので、あらかじめ、優秀な遺伝子のゴブリンを選定し、その者達を生殖特化のゴブリンにした方が宜しいかと」
「その方が良いな。優秀なゴブリンが生まれる可能性が高まる訳か」
「はい」
その新生ゴブリンはヘルメットを外し、見上げる濃い青眼は真面目で、寡黙な表情をしている。
どこか、俺に似ている両眼。
気に入った。
「お前に新生ゴブリン隊長の称号を与える」
その異例の抜擢に驚愕し、作業が止まる新生ゴブリン達。
当の新生ゴブリンも目を見開いたまま、固まり、不安げな声で、
「いいのでしょうか」
「嫌か?」
「いえ! 謹んでお受けします」
「そして、隊長の称号他に、権限を与える。俺が不在の場合は発掘作業、ゴブリンの統率、育成、その他諸々を任せる」
「いいのでしょうか?」
「ああ……後は……そうだな。ゴブリンに報酬、休暇も与えてやれ。金の管理はルルが何とかしてくれるから、心配はない」
「ルル?」
「ああ、お前らは知らなかったな。まあ、知らなくていい。頼んだぞ」
「あっ……はい」
*
「よし、さて、地上へと戻るか。大会のことはすっかり忘れていたな。えーと。順位は500位か……あれだけゴブリンを倒したというのにな……頑張るしかないか」
魔王が自らの順位に落胆をしてると、アカリも同じように、落胆していた。
「私も500位だ……あれ、そういえば……私ゴブリン倒したっけ?」
俺と行動したことで、ポイントが入ったようだな。
運の良い奴め。
すると、その魔王の青眼の眼差しに気づいたアカリが、クリーム色の髪を掻き分け、紫眼で睨む。
「何ですか?」
また、ここで、小言を言えば、喧嘩になってしまう。
「いや、その……お前も地上に出るのか?」
「当たり前よ。悪いですか?」
また、怒りが湧いたのか一人でに頬を膨らませるアカリ。
やはり、女の心は俺に分からない。
すると、老龍騎士が、
「ワシはここに残る」
それは、厳然たる態度で睨む老龍騎士。
「貴様……まさか、俺の邪魔をする気か?」
「違う。ワシはゴブリンの歴史を見届けなければならない。それは恩人との約束じゃ」
「ねぇ魔王……聞いて。おじいさんは恩人を救いたかった、けれどその人は死んでしまった。だから、せめて、恩人の残した遺産を守りたいと思ってるだけよ」
アカリは老龍騎士の言葉を代弁し、魔王に訴える。
用心棒は必要か。
もしも、反抗を示せば、こいつを殺すだけだ。
「良いだろう。ただ、貴様にはゴブリンの監視を付ける」
「……」
老龍騎士は感極まったのか、無言で頷いた。
ただ、恩人のために、こんなジメジメとした、薄暗い地下に自ら願い出るとは、正気の沙汰ではない。
*
そして、魔王とアカリは地上へと抜けることが出来た。
魔王はゴブリン地下に他者からの侵入を防ぐために、ルルに頼み、強力な結界アイテムを転出してもらい、穴に覆った。
「用心に越したことはない」
「本当……あなたって嫌な性格してるわね」
「褒めてるのか?」
「褒めてる訳無いでしょ。さあ、行きましょ」
なぜ、こいつは当然の如く、俺と同行する気でいるのだ。
先程はあれ程憎しみをぶつけていたというのに。
アカリは長いクリーム色の髪を翻し、両手を尻に乗せながら、魅惑的な笑みで、
「遅いわ」
ヒマワリ畑を抜け、先に進むと、巨大な街が現れた。
それは、情緒ある、古びた木造の平屋の住居が密集した街。
どこかで、見たことがある光景。
あの江戸時代。
けれど、城の数がかなり多い気がする。
一目見ただけで、六つぐらいはある。
これがゲームの自由性であり、異世界の性質なのだろう。
巨大な門をくぐり抜け、巨大なアーチ橋を渡り、流れる大きな河川に、癒やしを貰い、進む。
江戸風の質素な装束を身に纏うたくさん町人が仕事や買い物に行くのか、橋を渡る。
けれど、表情はいっさい崩さず、まるでロボットのようだ。
異常な速度の割りに少ない歩幅で、動きもおかしい。
明らかに本物の人間ではない、ゲーム上のNPC。
その時、女の叫び声が、街中から聞こえてきた。
「行くわよ!」
俺がなぜ行かなけれ……。
しかし、アカリは強引に魔王の手を引っ張り出し、走り出す。
「や、やめろ」
「あの叫び声を黙って見過ごす訳にはいかない」
「行くなら……お前だけで行け!」
魔王はアカリの手を追い払い、睨んだ目つきそう告げる。
アカリの挑戦的な紫眼は変わらない。
「あなたは強いのに、どうして人のために、世界を平和にするために使えないの」
「また、説教か? いい加減その夢語りの理想を他人に押し付けるのはやめろ」
「そうね」
「俺ばかりに批判の矛先を向けるが、貴様はどうなんだ? 一体お前は世界の平和に何をした? 自らが出来もしないことを他人に押し付けて、あれこれ、文句を言うな……お前こそが最低な人間だ」
アカリは悲しそうな両眼で、下を向き、ただ頷き、顔を上げ、笑顔を向けた。
「そうね」
「あの……いえ。これ以上出過ぎた言葉は」
「もう良い。腹を割って話せ。咎める気はない。お前はそれ相応の貢献をしたのだからな」
「はっ。ありがたきお言葉。生殖機能の件なのですが……」
「それで」
「改めて、魔王様に対して無礼な発言をお許し頂きたい。全てのゴブリンに生殖機能を与えるのは、やややり過ぎのような気がします。やはり、どうしても、全てのゴブリンは遺伝子レベルで、出来不出来が出てしまうのです。これは神の仕業としか言いようがない」
このゴブリンの含んだような言い方は俺の創造力の低さを指摘している。
現に俺は魔王としての創造力は端から見れば、高いに違いないが、体と心がリンクしてないため、明らかに創造の力は低い。
それは、近くにいて、共にしてきたルルが指摘した。
このゴブリンなかなかの切れ者だ。
「あの……これは魔王様がどうとかでは……」
「良い。続けろ」
「そして、これは不労働(ストライキ)、協調低下、対立の火種になります。そして、私が提案するのは、ゴブリンの厳選です。ですので、あらかじめ、優秀な遺伝子のゴブリンを選定し、その者達を生殖特化のゴブリンにした方が宜しいかと」
「その方が良いな。優秀なゴブリンが生まれる可能性が高まる訳か」
「はい」
その新生ゴブリンはヘルメットを外し、見上げる濃い青眼は真面目で、寡黙な表情をしている。
どこか、俺に似ている両眼。
気に入った。
「お前に新生ゴブリン隊長の称号を与える」
その異例の抜擢に驚愕し、作業が止まる新生ゴブリン達。
当の新生ゴブリンも目を見開いたまま、固まり、不安げな声で、
「いいのでしょうか」
「嫌か?」
「いえ! 謹んでお受けします」
「そして、隊長の称号他に、権限を与える。俺が不在の場合は発掘作業、ゴブリンの統率、育成、その他諸々を任せる」
「いいのでしょうか?」
「ああ……後は……そうだな。ゴブリンに報酬、休暇も与えてやれ。金の管理はルルが何とかしてくれるから、心配はない」
「ルル?」
「ああ、お前らは知らなかったな。まあ、知らなくていい。頼んだぞ」
「あっ……はい」
*
「よし、さて、地上へと戻るか。大会のことはすっかり忘れていたな。えーと。順位は500位か……あれだけゴブリンを倒したというのにな……頑張るしかないか」
魔王が自らの順位に落胆をしてると、アカリも同じように、落胆していた。
「私も500位だ……あれ、そういえば……私ゴブリン倒したっけ?」
俺と行動したことで、ポイントが入ったようだな。
運の良い奴め。
すると、その魔王の青眼の眼差しに気づいたアカリが、クリーム色の髪を掻き分け、紫眼で睨む。
「何ですか?」
また、ここで、小言を言えば、喧嘩になってしまう。
「いや、その……お前も地上に出るのか?」
「当たり前よ。悪いですか?」
また、怒りが湧いたのか一人でに頬を膨らませるアカリ。
やはり、女の心は俺に分からない。
すると、老龍騎士が、
「ワシはここに残る」
それは、厳然たる態度で睨む老龍騎士。
「貴様……まさか、俺の邪魔をする気か?」
「違う。ワシはゴブリンの歴史を見届けなければならない。それは恩人との約束じゃ」
「ねぇ魔王……聞いて。おじいさんは恩人を救いたかった、けれどその人は死んでしまった。だから、せめて、恩人の残した遺産を守りたいと思ってるだけよ」
アカリは老龍騎士の言葉を代弁し、魔王に訴える。
用心棒は必要か。
もしも、反抗を示せば、こいつを殺すだけだ。
「良いだろう。ただ、貴様にはゴブリンの監視を付ける」
「……」
老龍騎士は感極まったのか、無言で頷いた。
ただ、恩人のために、こんなジメジメとした、薄暗い地下に自ら願い出るとは、正気の沙汰ではない。
*
そして、魔王とアカリは地上へと抜けることが出来た。
魔王はゴブリン地下に他者からの侵入を防ぐために、ルルに頼み、強力な結界アイテムを転出してもらい、穴に覆った。
「用心に越したことはない」
「本当……あなたって嫌な性格してるわね」
「褒めてるのか?」
「褒めてる訳無いでしょ。さあ、行きましょ」
なぜ、こいつは当然の如く、俺と同行する気でいるのだ。
先程はあれ程憎しみをぶつけていたというのに。
アカリは長いクリーム色の髪を翻し、両手を尻に乗せながら、魅惑的な笑みで、
「遅いわ」
ヒマワリ畑を抜け、先に進むと、巨大な街が現れた。
それは、情緒ある、古びた木造の平屋の住居が密集した街。
どこかで、見たことがある光景。
あの江戸時代。
けれど、城の数がかなり多い気がする。
一目見ただけで、六つぐらいはある。
これがゲームの自由性であり、異世界の性質なのだろう。
巨大な門をくぐり抜け、巨大なアーチ橋を渡り、流れる大きな河川に、癒やしを貰い、進む。
江戸風の質素な装束を身に纏うたくさん町人が仕事や買い物に行くのか、橋を渡る。
けれど、表情はいっさい崩さず、まるでロボットのようだ。
異常な速度の割りに少ない歩幅で、動きもおかしい。
明らかに本物の人間ではない、ゲーム上のNPC。
その時、女の叫び声が、街中から聞こえてきた。
「行くわよ!」
俺がなぜ行かなけれ……。
しかし、アカリは強引に魔王の手を引っ張り出し、走り出す。
「や、やめろ」
「あの叫び声を黙って見過ごす訳にはいかない」
「行くなら……お前だけで行け!」
魔王はアカリの手を追い払い、睨んだ目つきそう告げる。
アカリの挑戦的な紫眼は変わらない。
「あなたは強いのに、どうして人のために、世界を平和にするために使えないの」
「また、説教か? いい加減その夢語りの理想を他人に押し付けるのはやめろ」
「そうね」
「俺ばかりに批判の矛先を向けるが、貴様はどうなんだ? 一体お前は世界の平和に何をした? 自らが出来もしないことを他人に押し付けて、あれこれ、文句を言うな……お前こそが最低な人間だ」
アカリは悲しそうな両眼で、下を向き、ただ頷き、顔を上げ、笑顔を向けた。
「そうね」
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