最強の魔王による転生令嬢を巻き込んだ異世界チート無双計画

1章女神の願い

1章32話歪んだ感情

 「……俺の邪魔をする者に制裁だ」
　
　魔王は握り締めた右手を例のコーヒーカップの上で、パッと開き、そして、そそくさと雑誌コーナーに行く。
　クックックックックッ……。
　その数分後、白髪に眼鏡を掛けた中年男が、鼻歌混じりに例のコーヒーカップを取りに来る。
　そして、熱々のコーヒーを口に入れながら、店内を後にしようとする。
　
「ふっふっふっ……ゴクリ……ん？　何だこれ？　じゃりじゃりしてるぞ」
　
　ペッと掌に吐き出すと、そこには黒い二、三匹の蟻の死骸があった。

「うわ……なんだこれ」

　中年男は怖いものを見たように驚愕し、周囲を見渡した後、足早に店を去った。
　魔王はその様子を見て、込み上げる笑い声を抑える。
　あの男の恐怖に満ちた顔……非常に愉快だ。
　おそらく、今後あの男はこの店で、コーヒーを淹れることはないだろう。


　　　　　　　＊
　同時に、棚に隠れ、その一部始終を目撃したアカリは怒りに燃え上がる。

「あいつ……なんて非道なことをするの……コーヒーを取りに来るのが少し遅かっただけじゃない」

　すると、魔王は何かの視線や怒りに気づいたのか、アカリが隠れる棚に視線を向け、その方に行こうとするが、やんちゃな青年の男の登場に阻まれる。
　爆発したような赤と緑の髪を、鼻にピアスをし、口にガムを含んだ、若い不良が肩で魔王とぶつかった。

「ったく……邪魔だよ」

「……」
　
　魔王の不気味な青眼と不良男と目が合う。

「なんだよ」

　不良男は睨み、その場から立ち去る。
　魔王はその不良男の後ろ姿をずっと、不気味な青眼で見ていた。
　それを不良男は知る由は無い。