転生女子~二人のNOAH~

KAI

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3. ノア・デ・ヴァリスヴェール

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(おーーい)

 ……ん……。

(そろそろ起きろー)

 誰かの声が聞こえた気がして、目が覚めた。でも周りを見渡したけれど誰もいない。
「気のせいかな」

(気のせいじゃないぞ、ここにいる。見えないと思うけど)
 謎の声の主が訳の分からない事を言ってくる。
 
「え!?なに?心霊現象!?」
 お化けは無理!
(違う違う。とも言い切れないんだけど、アンタの中にいるんだよ。アンタがあたしの中に入ったのかもしれないんだけどさ)
「え……、それって私があなたの体を奪っちゃったって事?」
(ううん、あたしどうやら死んじゃったみたいなんだ、その瞬間誰かが入ってきた感覚がしたんだ)

 落ち着け私、到底理解できない話だ………だけど昨日の状況といい理解できた事が何一つないので、取り合えず話を聞いてみよう。

(昨日はあたしも色々考えてたし、アンタも混乱してるみたいだったから大人しくしてたんだ。ピーピー泣いてたみたいだったし)
「っ……!!」
 顔が燃えるように熱くなった。逃げ出したなったが、この人が私の中にいるならどこにも逃げようがない。
(ごめんごめん、アタシの名前はノア・デ・ヴァリスヴェール、十六歳だよ)
 え、同じ名前………歳も……。
「私も乃亜っていうんです。橘 乃亜です。私も十六歳」
(へー!奇遇だねー!不思議!)
 不思議ですんじゃうこの子のメンタルはどうなってるんだろう……。でもなぜかこの子ーーノアと話すのは嫌じゃなかった。

 それからノアとは色んな話をした。

 まずここは、ルンフェルト共和国という国のメーリムという人口四千人程の街らしい。
 そんな気はしたけど、やっぱりここは違う世界なんだ。
 そしてノアのお父さんは、この街の領主様なんだとか。【ディハルト・デ・ヴァリスヴェール男爵】。兄弟はお兄さんとお姉さんがいるんだって。私は一人っ子だから、少し羨ましいな。
 という事は、ノアは男爵家の次女!この子が!?
 と思ったけど、怒られそうだからそっと心に閉まっておいた。

 私の話も沢山した。
 住んでいた所の事、家族の事、学校生活の事、友達と思っていた人の事、楽しかった事、悲しかった事。ノアは私の話を聞きながら、一緒に笑ってくれたり、怒ってくれたり、悲しんでくれたりした。
 さっき出会ったばっかりなのに、こんなに親身になって、感情を何も隠そうとせずに話してくれるノアの事を、私は自然と好きになっていった。

(それからアタシ、冒険者やってるんだ)
「え?冒険者?」
 私はファンタジー小説も好きだから、冒険者のイメージはある。私の知ってるソレと同じだったりするのかな…
……。
「ーーちなみに冒険者ってどんな事するの?」
 恐る恐る聞いてみた。
(んーー、色々あるけど、薬草とか必要な素材を探してきたり、依頼者の護衛とかー、後モンスター討伐とかね)
 同じでした……。
 モンスターって……ここどこなのよ……。

「それってもしかして私もこれから……」
(やろ!ね!)
 多分すごい素敵な笑顔だったんだろうな………。
「嫌だあああああーーーーーーー!」

 コンコン。

 部屋の扉をたたく音がした。
「ノア様、どうかなされましたか?」
「あ、いえ、大丈夫です!」
「そうですか、体調の方は如何でしょうか?」
「全然元気です!」
「では、旦那様がお呼びですので、お着換えがすみましたら食堂の方までお越しください」

 ノアが教えてくれたクローゼットを開けて着替える事に。ーー好きなの着なよーーと言われたので、薄いピンクのワンピースにしてみた。裾の部分に白い刺繍がしてあって、とっても可愛らしい。
 ではいざ食堂へ!

 少し緊張しながら入ってみると、広いテーブルにディハルト男爵と奥様、対面にお兄さんとお姉さんらしき人が座っていた。テーブルの上には豪華な食事が並べられている。美味しそう……。
 全員が入ってきた私を見るなり、ちょっと不思議そうな表情を浮かべた。
 ーーあれ?この格好、なんかおかしかったかな?--

「あ、いや、まあ掛けなさい」
 男爵に言われるままお兄さんの隣の席に座ると、その様子を見ていたお兄さんと目が合い、ドキっとしてしまった。
 ーーイケメンすぎる!お兄様!ーー
「体の方は大丈夫かい?ノア」
 にっこりお兄様。
「はい!問題ありません!」
(何赤くなってんのよ)
 ノアの事はスルーする。
「ノアよ、一晩経ってどうだ?何か思い出したりしたか?」
 男爵が心配そうに聞いてくる。

 ーーどうしよう、………でもこの人達には嘘をつきたくない。ノアは『家族が大好き』だって言ってた。信じてもらえないとは思うけどーー

「あの男爵様!聞いてもらいたい事があります!」
 私は思い切って、自分とノアに起きた現状と、自分がいた世界の事も全て話した。三人は黙って話を聞いてくれた。
 全部話し終わった後、しばらく沈黙が続いた。三人共困惑しているんだろう。
 ーーですよねー、私だって信じられないーー

 そして最初に口を開いたのはディハルト男爵だった。
「誠に信じ難い話だが……。ちなみに今ノアと話す事はできるかな?」
「えーとですね………『父上ごめん!あたし死んじゃった!でも元気だよ!あはははーー』だそうです…」
「軽っ!軽いぞ我が娘よ!だがあの馬鹿娘なら言いそうな事よ」
「フフフ、流石ノアね」
 笑いながら奥様が言う。お兄さんも、お姉さんも笑っている。
「ノアにしては随分可愛らしい服を着てるから不思議だったのよね」
 と、お姉さん。
 ーーなるほど、それでさっき変な顔されたんだーー

「では君も乃亜というんだな。まだ完全に受け入れられた訳ではないが、合点がいった所も多い。君も本当に大変だったと思う、話してくれてありがとう」
 微笑みながらそう言う男爵の目はとても優しかった。

「ディハルト男爵様、こちらこそこんな信じられないような話を聞いて頂き、ありがとうございました」
「それからお願いがあるのだが……。その姿で男爵様などと言われると背筋が震えるのだ………。すぐでなくてもいい、もし乃亜が嫌でなければ、父、母と呼んでもらえると助かる」
「それはいいですね、私もそうしてもらいたいわ」
 口に手を当てて微笑みながら奥様もそう言った。

 ーーああ、なんて温かい人達なんだろう、ノアは本当に愛されて育ったんだろうなーー

「はい……お父様、お母さま」

 みんなにっこりと笑顔になってくれた。
「では皆で食事を頂こうか」

 この世界で初めての、家族で一緒に食べるご飯は、少ししょっぱくて、でも今まで食べた根によりも美味しかった。

 ーー嬉しくても、涙って出るんだーー
 




 

 
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