ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第48話 魔法少女たちの選択 その一

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「ちょっと休ませてね…………」

 白音が、佳奈と莉美の腕をずるずるとすり抜けてへたり込んでいく。
 そんな彼女の体を、莉美が作ったもちふわクッションが受け止めた。
 それとほぼ同時に、三重増幅強化トリプルハウリングリーパーという恐ろしいほどの負担を白音に強いていた魔法が解けて消える。
 しかしもうすぐ自衛隊がやって来るらしい。
 白音を休ませてやれる時間はそんなに無いだろうと佳奈は思う。


「ああ、ほんとに気持ちいい、これ……、ちょっとだけ、ちょっとだけ……ね」

 くたっとした白音を見て、莉美が大きなお世話、いや小さな親切を思いつく。
 クッションを通じて白音の全身に魔力を流し込む。入念にマッサージをするように。
 点ではなく面で、クッションに包まれている体全体に、白音と莉美の魔力が混じり合ったものが駆け巡る。

「んにゃはっ、いひぃぃぃぃ!!」

 あまりの気持ちよさに白音が面白い声を出して、びくんびくんと跳ね上がった。
 本当に駄目になったように見える。


「んお、おい! 莉美。大丈夫なんだろうな?!」

 佳奈が詰め寄ると莉美が目を逸らす。

「白音ちゃんならきっと平気」
「いや、そんな信頼だめだろ…………」

 人に見せてはいけないものなような気がしたので、一恵が遮断結界を作って隠してくれる。
 しかし、しれっと一恵だけ一緒に中に入ろうとしていたので、佳奈が耳を引っ張って外に連れ出す。

「いたたたた……」
「ほんともう。お前らってしょうがないよな…………」


 白音は頭の中がぐるぐると、めくるめく回っていたが、それでも体はちゃんと回復しているようだった。
 やられる度にやり方がパワーアップしているのは、さすが莉美としか言いようがない。


「白音ちゃん、白音ちゃん!!」

 意識が飛んでいたのは五分も無かったと思うのだが、莉美に揺り動かされて目が覚めた。

「ん…………、莉美。ありがとう、一応お礼を言っておくわ。一応ね」
「それどころじゃないの、白音ちゃん、落ち着いて聞いてね、いい? 落ち着いてね? 落ち着いてよ?」

 白音としては莉美こそが落ち着いて、早くその『それどころじゃない』内容を言って欲しい。


「千尋ちゃんが、生きてたの!」
「!!」

 白音は慌てて身を起こそうとしたのだが、もちふわクッションに完全に衝撃を吸収されて、ぽよんと僅かに身じろぎできただけだった。
 包まれていると無重力になったような気さえする。


「いやっ……。ちょっと……、出して」

 莉美がクッションの一部を消すと、もがいていた白音が滑り台のようにするすると排出されてきた。
 それを佳奈が抱き留める。
 相変わらずどうやってそんな風に魔力障壁バリアの一部分だけ出したり消したり操作できるのか、誰にも理解できない。


 魔法少女たちは皆、程度の差こそあれ怪我を負っていた。
 重傷の者もいたが、魔法少女の回復力をもってすれば問題はなさそうだった。
 白音がその回復を後押しするために、再び能力強化リーパーを発動させる。

 今の白音の体調ではそれが限界だった。
 自衛隊が近づいているらしいから銀翼は隠しておいて、魔族としての力は使わない方がいいだろう。
 リーパーに呼応して、島中から白音に対するラブコールが上がる。
 白音が無事だったことを確認できて、喜んでくれているのだ。
 それだけでも白音は随分と元気をもらえた。

 魔法少女に死者はいないとのことだった。
 橘香とそらの的確な采配あったればこそだろう。
 そして一恵の転移も、その采配に大いに寄与していたはずだ。
 みんなに無茶をさせた白音は感謝の念に堪えない。

 そらとちびそらが、手分けをして魔法少女たちの様子を見て回っている。
 ちびそらは戦闘の間は危険なので、ずっといつきのポシェットの中に隠れていたらしい。
 そらによれば、ちびそらもマインドリンクを使って戦闘指揮を手伝ってくれていたらしい。
 だがどれがそうだったのか、ふたりの違いに誰も気づいてはいなかった。
 リンクさえしていれば、そらの代行もきっちりこなすらしい。

 多分、一番元気そうなのはふたりのコスプレ少女だろう。
 きらきらと光るモザイクが自動的に入る写真を、夢中で撮り続けている。

 白音が起きてきたのを確認すると、そらが手招きして呼んだ。
 そらの傍で寝かされていたのは、巫女服を着た桃澤千尋ももさわちひろだった。
 千尋が目を開けて、呼吸をして、そらと言葉を交わしている。

「!?」

 声にならない、嗚咽に近い喜びを表現しながら、白音は千尋に駆け寄った。

「お久しぶりね、名字川さん」

 見慣れた勝ち気そうな瞳から、しかし涙が零れる。

 千尋の他にも、巫女にされた魔法少女のうち数名が助かっていた。
 拉致された時に千尋が逆巻姉妹から聞いた話によると、姉妹は魔法少女を生け捕りにするように依頼されていたらしい。

 凍結魔法を使う白鳥結羽しらとりゆうを失ってから、新たな魔法少女の調達は逆巻姉妹に依頼されるようになっていた。
 しかし普通に依頼をすると、死体の損壊具合が酷くて使い物にはならなかったらしい。
 原因は主に、姉妹のやり方が粗すぎるせいだった。

 そこで姉妹には、魔法少女を生け捕りにするよう依頼がされていた。
 もちろん難易度は跳ね上がるが、姉妹にとってはさしたる問題ではなかった。


「あたし、逆巻彩子に襲われたのよ。あの凶悪無慈悲って言われてる魔法少女よ。ホントに怖かったわ。生き延びるのは即諦めるレベル。あいつずっと笑ってたわ…………。でも、倒されたそうよね」
「あー…………うん……」
「それも世界最強って言われてる妹の京香共々でしょ? あんなの倒せるなんて、どんな英雄ヒロインかな?」
「えーっと、そうね…………」

 白音は返答に困ったが、千尋が元気なようで安心した。

 千尋はミコによって死体として配下にされようとした時、星石に呼びかけられたのだそうだ。

「あなたを守りたい、って言ってたと思う。言葉ではなかったけど、気持ちが伝わってきた。あなたの魂を一時的な死の状態にして体の中に隠しておく。そうしなければ殺されて完全に消し去られてしまう。怖いかもしれないけど耐えて。あなたを必ず救い出してくれる魔法少女がいるから、彼女が来るのを待っててって」

 千尋が顔を上げて、その表情を柔らかく崩して笑った。

「ちょっと怖かったけど、信じて待っててよかった。きっと、凄腕の魔法少女が助けてくれたのね」
「う、うん…………」

 言葉に窮した白音を、佳奈、莉美、そら、一恵が見つめていた。人のみならず、星石からも信頼を寄せられているらしい自分たちのリーダーを、四人は改めて誇らしく思う。

 白鳥結羽をその残酷な仕事から解放できたことで、皆が生き延びるチャンスを得られたんだろうと白音は思った。

「玄野さんと、玄野さんの星石が守ってくれたんだね」

 白音は彼女の最期の姿を思い浮かべながら、しみじみとそう言った。
 千尋もその特徴的な目を細める。

「玄野さんていうのが、凄い魔法少女なのね、きっと」
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