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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第47話 星の願いを その一
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親通も自身に星石を強制移植していたから、資料で見ていた『リーパー』というものが効果を及ぼしてくるのをその身で感じていた。
ブルームがどういうつもりでそんなことをしているのかは読めなかったが、自分も含めて巫女たちの力が膨れあがっていくのを感じる。
これならば少なくとも、魔法少女たちに力負けすることはなさそうだった。
(よろしい、それでは総力戦といこうじゃないか)
戦局が不利になれば自分だけ異世界へ転移すればいいだけのことなのだ。
しかし、その一瞬の高揚感に隙を突かれた。
何か異変があればすぐにゲートに飛び込むつもりでいたのだが、勝てる気になった刹那、異世界転移ゲートを魔力障壁で覆われてしまった。
「!? あの黄色い奴か!!」
莉美のことは親通も警戒していた。
強い魔法少女、ということでは他の者たちも十分に警戒に値する。
しかしそれらは多分、策略や搦め手で何とかできる。
だがこの莉美という少女の力は、問答無用でこの無人島ごと消滅させられかねない。
戦略的な抑止力として作用するような魔法少女だと感じていた。
強固に閉ざされてしまったこの障壁は、もはや核兵器ででもなければこじ開けられまい。
しかしこの一瞬は、親通にとってもチャンスであろうと思えた。
もしこれが障壁を張るほんの僅かの隙を作るための作戦だったとしたら、次の一手は親通たちだけリーパーの効果を解除することだろう。
だが今はまだ相手に匹敵するだけの力がこちらにもある。
この瞬間に敵の主要な魔法少女を殺せれば、まだ逆転のチャンスはあるのだ。
特に名字川白音という名の桜色の魔法少女、彼女さえ殺せればパワーバランスが崩れるだろう。
そしてその後、黄色い奴を殺せばゲートは使えるはずだ。
ふたりも含め、この場のすべての魔法少女を配下に加えて異世界に乗り込める。
(いや、そうなればいっそ、こちらの世界を力でねじ伏せてから異世界へ渡り、ふたつの世界の魔王となるのもいいかもしれないな)
◇
エレスケたちが心理的失認、光学的迷彩、両方を打ち破ってくれたおかげで、小屋の存在が誰の目にもはっきりと認識できるようになっている。
佳奈が先ほど巫女を投げ飛ばして作った穴も、ちゃんと壁に空いている。
その穴から転移ゲートらしきものが窺えるのだが、こちらは展望台にあったものとは違って小さなゲートだった。
おそらくは人が並んでふたり、なんとか通れるくらいの幅しかない。
それを見た白音たちは少しほっとしていた。
「んー、なんでみんなほっとしてるの? 白音ちゃん」
莉美が白音の手を取り、胸の傷を覗き込むようにしながら聞いている。
金属の槍使いとマジックキャンセラーとの合わせ技で貫かれた時の傷だ。
確かに出血はもうしていないようだ。痛くないのかが気になる。
[大きさがね、あんまり大きいといろんなものが通れるでしょ? 特に自衛隊だと特殊車両とか、最悪の場合航空機まで通れちゃうと何されるか分かんない。時間をかけたら向こうで組み立ててとか考えられるけど、ひとまずは悪用されてもあんまり大胆なものは通れなさそうかなって]
白音は、強力なリーパーの維持に集中していて言葉を発する余裕は無かったが、思考するだけで伝わるマインドリンクでなら返事をしてくれるようだった。
「ふーん……」
[聞いてる、莉美? って、どこ見てるの…………]
白音が動けないのをいいことに、スケベ親父が胸の谷間を覗こうとするような格好になっている。
「白音ちゃんのおっぱい!!」
[ああ、そう…………]
悪びれることも無くそう宣言されると、返す言葉が無くなる。
白音はマインドリンクで会話していて終始無言だったから、端から見ていると莉美がひとりで「おっぱい!!」と叫んでいることになる。
気をつけないと白音も、そのうち使い分けを間違えそうだなと思った。
莉美を他山の石とする。
小屋から、明らかに白音を目標としてふたりの巫女が走り出てきた。
白音がリーパーによって巫女たちも大幅に強化している、この一瞬を逃すまいとおそらくは最大の戦力を差し向けて来たのだろう。
「おお、本命かな?」
佳奈が当然のごとく巫女と白音たちの間に割って入る。
ひとりの巫女は佳奈と少し距離を取って立ち止まり、もうひとりは、走りながら両手に剣を出現させた。
実体のある剣では無く、おそらくは白音が使っているものと似た性質の魔法の剣であると思えた。
「二刀流ね。でもアタシはいつも三刀流と手合わせしてるんだよねっ!」
巫女は一直線に佳奈へと斬りかかった。
しかし佳奈は魔力で四肢を強化して、簡単にその二本の刀を受け流す。
すると対峙した巫女の両肩からそれぞれ一本ずつ、新たな腕が生えた。
魔法で作られたのであろうその腕にもやはり、それぞれ魔法の剣を持っている。
「おお、四刀流……。って多けりゃいいってもんじゃないでしょ」
それでも佳奈はすべての光剣を華麗に捌いていく。
「ん?」
佳奈の目がぼやけたのか、四本腕の巫女がピンぼけした写真のようにブレて見えた。
佳奈が巫女に目の焦点を合わせようとして凝視すると、やがてその巫女が分裂するようにしてふたりに増えた。
「はあ?」
佳奈が諦観めいた嘆息を口にする間にも巫女は分裂を続け、合わせて五人となった。
それぞれが四本の剣を構えて佳奈に一斉に襲いかかる。
「いや、ちょ、何刀流?」
[親通のコピー能力も強化されてるの。人数が増えて、それぞれの能力も上がってる。オリジナルと区別がつかなくなってる]
そらがマインドリンクで教えてくれる。
「なるほどね。ちよっと面白くなってきた」
それとタイミングを合わせるようにして、後方に待機していた巫女が空中に魔法で剣を作り出した。
自在に操ることができるようで、計五本、前衛の巫女と似た光の剣を浮かべている。
「後ろで止まったんだし、飛び道具だよな!!」
佳奈がちょっと嫌そうな顔をした。
そしてさらに、後ろの巫女も五人に分裂する。
「うあ…………」
もはや剣の数を数える行為は放棄した。
さすがにこの数では白音の方へと抜かれるかもしれない。
「飛び道具の方は私に任せて!!」
橘香が魔法で大量のショットガンを作り出し、飛び回る剣を撃ち落とす。
二十丁を超える銃を並べて、クレー射撃のようにして剣を破壊していく。
弾が切れても、再び新しいショットガンを作り直して射撃を続ける。
次々と新たに剣を作り出して発射してくる巫女と速度的には拮抗している。
佳奈は二十刀流に取り囲まれても善戦していたのだが、その鉄壁をすり抜けて、白音たちの方へとひとり、巫女が向かった。
「しまった!」
白音はリーパーに集中していたように見えたが、巫女に斬りかかられると、右手と尻尾に光の剣を握ってそれを受け止めた。
左手は莉美と繋いだままだ。
「白音、悪いっ!!」
[こっちは莉美ちゃんもいるから平気よ。ね?]
「うんっ!!」
莉美が空いた方の手で巫女を殴った。
訓練を受けていたとは言え、莉美の戦闘技術はそんなに高くはなかったし、剣を持った相手に素手で殴りかかるのはまずいだろうと佳奈は思った。
しかし莉美の拳を剣で受け止めようとした巫女は、『ばふっ』という珍妙な鈍い音と共に、あり得ない角度で上空へ吹っ飛ばされた。
莉美のパンチの速度に対して、不自然に勢いがついて弾き飛ばされたように見える。
おそらくはもちふわクッションのような、弾力性のある魔力障壁を使って吹っ飛ばしたのだろう。
どうやったのかは本人を含めて誰にも分からない。
莉美曰く『その場のノリ』である。
打ち上がった角度と速度からして巫女はこの小さな無人島の外、海まで飛んでいったものと思われる。
それを見て面白がった佳奈が、もうひとり巫女の分身を送って寄越した。
元々佳奈をすり抜けて、白音の元へ向かいたがっている巫女たちである。
白音たちが攻撃されないように、ちょっと体勢を崩してやって押すだけでよかった。
「莉美、もう一発!」
「ほい」
「もいっちょ」
「あい」
こんな調子で分身、と多分本体を含めて五人とも海へかっ飛ばしてしまった。
戦局はこの一瞬で決するはずだ。
飛んでいった巫女たちが戻って来られたとしても、それはすべてが決した後だろう。
文字どおりの退場と言えた。
ブルームがどういうつもりでそんなことをしているのかは読めなかったが、自分も含めて巫女たちの力が膨れあがっていくのを感じる。
これならば少なくとも、魔法少女たちに力負けすることはなさそうだった。
(よろしい、それでは総力戦といこうじゃないか)
戦局が不利になれば自分だけ異世界へ転移すればいいだけのことなのだ。
しかし、その一瞬の高揚感に隙を突かれた。
何か異変があればすぐにゲートに飛び込むつもりでいたのだが、勝てる気になった刹那、異世界転移ゲートを魔力障壁で覆われてしまった。
「!? あの黄色い奴か!!」
莉美のことは親通も警戒していた。
強い魔法少女、ということでは他の者たちも十分に警戒に値する。
しかしそれらは多分、策略や搦め手で何とかできる。
だがこの莉美という少女の力は、問答無用でこの無人島ごと消滅させられかねない。
戦略的な抑止力として作用するような魔法少女だと感じていた。
強固に閉ざされてしまったこの障壁は、もはや核兵器ででもなければこじ開けられまい。
しかしこの一瞬は、親通にとってもチャンスであろうと思えた。
もしこれが障壁を張るほんの僅かの隙を作るための作戦だったとしたら、次の一手は親通たちだけリーパーの効果を解除することだろう。
だが今はまだ相手に匹敵するだけの力がこちらにもある。
この瞬間に敵の主要な魔法少女を殺せれば、まだ逆転のチャンスはあるのだ。
特に名字川白音という名の桜色の魔法少女、彼女さえ殺せればパワーバランスが崩れるだろう。
そしてその後、黄色い奴を殺せばゲートは使えるはずだ。
ふたりも含め、この場のすべての魔法少女を配下に加えて異世界に乗り込める。
(いや、そうなればいっそ、こちらの世界を力でねじ伏せてから異世界へ渡り、ふたつの世界の魔王となるのもいいかもしれないな)
◇
エレスケたちが心理的失認、光学的迷彩、両方を打ち破ってくれたおかげで、小屋の存在が誰の目にもはっきりと認識できるようになっている。
佳奈が先ほど巫女を投げ飛ばして作った穴も、ちゃんと壁に空いている。
その穴から転移ゲートらしきものが窺えるのだが、こちらは展望台にあったものとは違って小さなゲートだった。
おそらくは人が並んでふたり、なんとか通れるくらいの幅しかない。
それを見た白音たちは少しほっとしていた。
「んー、なんでみんなほっとしてるの? 白音ちゃん」
莉美が白音の手を取り、胸の傷を覗き込むようにしながら聞いている。
金属の槍使いとマジックキャンセラーとの合わせ技で貫かれた時の傷だ。
確かに出血はもうしていないようだ。痛くないのかが気になる。
[大きさがね、あんまり大きいといろんなものが通れるでしょ? 特に自衛隊だと特殊車両とか、最悪の場合航空機まで通れちゃうと何されるか分かんない。時間をかけたら向こうで組み立ててとか考えられるけど、ひとまずは悪用されてもあんまり大胆なものは通れなさそうかなって]
白音は、強力なリーパーの維持に集中していて言葉を発する余裕は無かったが、思考するだけで伝わるマインドリンクでなら返事をしてくれるようだった。
「ふーん……」
[聞いてる、莉美? って、どこ見てるの…………]
白音が動けないのをいいことに、スケベ親父が胸の谷間を覗こうとするような格好になっている。
「白音ちゃんのおっぱい!!」
[ああ、そう…………]
悪びれることも無くそう宣言されると、返す言葉が無くなる。
白音はマインドリンクで会話していて終始無言だったから、端から見ていると莉美がひとりで「おっぱい!!」と叫んでいることになる。
気をつけないと白音も、そのうち使い分けを間違えそうだなと思った。
莉美を他山の石とする。
小屋から、明らかに白音を目標としてふたりの巫女が走り出てきた。
白音がリーパーによって巫女たちも大幅に強化している、この一瞬を逃すまいとおそらくは最大の戦力を差し向けて来たのだろう。
「おお、本命かな?」
佳奈が当然のごとく巫女と白音たちの間に割って入る。
ひとりの巫女は佳奈と少し距離を取って立ち止まり、もうひとりは、走りながら両手に剣を出現させた。
実体のある剣では無く、おそらくは白音が使っているものと似た性質の魔法の剣であると思えた。
「二刀流ね。でもアタシはいつも三刀流と手合わせしてるんだよねっ!」
巫女は一直線に佳奈へと斬りかかった。
しかし佳奈は魔力で四肢を強化して、簡単にその二本の刀を受け流す。
すると対峙した巫女の両肩からそれぞれ一本ずつ、新たな腕が生えた。
魔法で作られたのであろうその腕にもやはり、それぞれ魔法の剣を持っている。
「おお、四刀流……。って多けりゃいいってもんじゃないでしょ」
それでも佳奈はすべての光剣を華麗に捌いていく。
「ん?」
佳奈の目がぼやけたのか、四本腕の巫女がピンぼけした写真のようにブレて見えた。
佳奈が巫女に目の焦点を合わせようとして凝視すると、やがてその巫女が分裂するようにしてふたりに増えた。
「はあ?」
佳奈が諦観めいた嘆息を口にする間にも巫女は分裂を続け、合わせて五人となった。
それぞれが四本の剣を構えて佳奈に一斉に襲いかかる。
「いや、ちょ、何刀流?」
[親通のコピー能力も強化されてるの。人数が増えて、それぞれの能力も上がってる。オリジナルと区別がつかなくなってる]
そらがマインドリンクで教えてくれる。
「なるほどね。ちよっと面白くなってきた」
それとタイミングを合わせるようにして、後方に待機していた巫女が空中に魔法で剣を作り出した。
自在に操ることができるようで、計五本、前衛の巫女と似た光の剣を浮かべている。
「後ろで止まったんだし、飛び道具だよな!!」
佳奈がちょっと嫌そうな顔をした。
そしてさらに、後ろの巫女も五人に分裂する。
「うあ…………」
もはや剣の数を数える行為は放棄した。
さすがにこの数では白音の方へと抜かれるかもしれない。
「飛び道具の方は私に任せて!!」
橘香が魔法で大量のショットガンを作り出し、飛び回る剣を撃ち落とす。
二十丁を超える銃を並べて、クレー射撃のようにして剣を破壊していく。
弾が切れても、再び新しいショットガンを作り直して射撃を続ける。
次々と新たに剣を作り出して発射してくる巫女と速度的には拮抗している。
佳奈は二十刀流に取り囲まれても善戦していたのだが、その鉄壁をすり抜けて、白音たちの方へとひとり、巫女が向かった。
「しまった!」
白音はリーパーに集中していたように見えたが、巫女に斬りかかられると、右手と尻尾に光の剣を握ってそれを受け止めた。
左手は莉美と繋いだままだ。
「白音、悪いっ!!」
[こっちは莉美ちゃんもいるから平気よ。ね?]
「うんっ!!」
莉美が空いた方の手で巫女を殴った。
訓練を受けていたとは言え、莉美の戦闘技術はそんなに高くはなかったし、剣を持った相手に素手で殴りかかるのはまずいだろうと佳奈は思った。
しかし莉美の拳を剣で受け止めようとした巫女は、『ばふっ』という珍妙な鈍い音と共に、あり得ない角度で上空へ吹っ飛ばされた。
莉美のパンチの速度に対して、不自然に勢いがついて弾き飛ばされたように見える。
おそらくはもちふわクッションのような、弾力性のある魔力障壁を使って吹っ飛ばしたのだろう。
どうやったのかは本人を含めて誰にも分からない。
莉美曰く『その場のノリ』である。
打ち上がった角度と速度からして巫女はこの小さな無人島の外、海まで飛んでいったものと思われる。
それを見て面白がった佳奈が、もうひとり巫女の分身を送って寄越した。
元々佳奈をすり抜けて、白音の元へ向かいたがっている巫女たちである。
白音たちが攻撃されないように、ちょっと体勢を崩してやって押すだけでよかった。
「莉美、もう一発!」
「ほい」
「もいっちょ」
「あい」
こんな調子で分身、と多分本体を含めて五人とも海へかっ飛ばしてしまった。
戦局はこの一瞬で決するはずだ。
飛んでいった巫女たちが戻って来られたとしても、それはすべてが決した後だろう。
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