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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第46話 異世界通廊 その四
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白音は共に戦ってくれている魔法少女たちに、お願いをした。
これから随分厳しいことになるから耐えて欲しいと言う。
その上で巫女のたちの星石も、できるだけ傷つけないでおいてと頼む。
随分身勝手なお願いだったが、誰ひとり嫌な顔をしなかった。
[おっけー]
[乗りかかった女帝様]
[言うこと聞くから、白音ちゃんて、呼んでいい?]
何が起こるかも聞かずに、魔法少女たちは白音を支持してくれた。
白音にとって信頼は、もう重荷などではなかった。全力で応えるのみ。
「佳奈、わたし多分戦えなくなるから守って。でも巫女たちは……」
「傷つけるなってことね?」
「うん。佳奈なら、できるよね?」
「とーぜんっ!!」
佳奈には何でもできる。
[じゃあみんな、行くよっ!]
「ほい」
白音が合図をすると、何も言わなくとも莉美が手を取って魔力を流し込んでくれる。
見つめ合ってにこりと笑う。
「二重増幅強化!!」
この作戦に参加しているすべての魔法少女たちが、先ほどとは段違いに強力なブーストを受けて息をのむ。
[何を我慢するんですって?]
[ちょーやばいんですけど]
[女帝様、カイカンですぅ]
まだ誰も、これから先に起こることに気づいていなかったが、白音が『耐えて』と言ったからには高揚感に酔いしれている場合ではない。
橘香が全員に最大級の警戒態勢を取るよう命令する。
「これがお前たち五人がいつも見ていた世界なのだな」
橘香とて、今なら戦艦の主砲でも再現できそうな感覚を持っている。
「白音、莉美、平気か?」
佳奈がふたりの様子を気遣う。
人数が多く、広範囲に渡るのでかなりきついかも知れないと白音は予想していたのだが、どうにか耐えていた。魔族の力を得て、魔法少女としても成長を続けている白音の力と、魔力を肩代わりしてくれている莉美が、多分苦痛も分かち合ってくれているのだ。
さっきから腕に押しつけられている、莉美の柔らかな胸の感触に癒やされている。
だがやはり口をきくほどの余裕はなく、白音は指で丸を作って見せる。
すると何故か佳奈と莉美に同時に「ふふっ」と笑われた。
そして巫女たちと対峙してすぐに、島中に散らばっている魔法少女たちは気づいた。
二重増幅強化の恩恵を受けているのは自分たちだけではない。
『巫女たちも強化されている』という事実に。
[うわわわっ、敵っ! 敵にかかってますよっ!! 白音様っ!!]
[ほんま死ぬ、死ぬから!!]
[さすが女帝。ドSよのう……]
魔法少女も巫女も、どちらも大幅に火力が増大しており、そこら中から爆音が轟き始める。
「ああ、もう。すごいことになってる。でも白音っ、好きなようにやんなっ!! アタシが守るから、思いっきり、ぶちかませ!」
佳奈に加えて橘香が白音の守りにつく。
リンクス、佐々木咲沙、羽多瑠奏、高谷燎が、退避している魔法少女たちを守ってくれている。
「莉美、お願い! もっと!」
「あいさ!!」
白音に流し込む魔力を増加させていく。
いつもなら「はじける!」などと叫ばれる量に達している。
莉美はついでに、もっと白音に胸を押しつけておく。
もはや戦場という言葉すら生ぬるいかも知れない。
特に魔力を感じることのできる者からすれば、世界の終わりがこの島から始まるのではないかという、高密度な破壊エネルギーが渦を巻いているのが分かる。
そらが各所の戦況を見て、完全なマルチタスクで指示を出している。どこから破綻してもおかしくないような、めいっぱいに張り詰めた均衡状態を維持し続けている。
[巫女は捨て身で攻めに徹する分火力が高いの。でも守る発想がないから、その分こちらは戦略で対抗して]
一恵もこの場の守りは十分と見て、そらの指示を受けてあちこち転移で飛び回り、分断されていた戦線を立て直していく。
白音のリーパーを受けている現在、一恵はゲートなしで転移することが可能となっている。
だからマインドリンクが確立されていれば事実上、彼女はこの島のどこにでも瞬時に現れて消えることができる。
もちろんエレメントスケイプたちの囚われている船上とて同様である。
一恵はほんの数秒、誰にも気づかれること無くエレスケの元へ飛び、彼女たちを救い出して帰ってきた。
ちびそらも、そしてついでに宮内も一緒に連れている。
船室の幻覚では、宮内だけがいなくなっていることになる。
もっともこの緊迫した戦況にあっては、当面の間気づかれることすらないだろう。
魔法による船の擬装は、エレスケに頼んで残しておいてもらった。
衛星からの監視の目などに引っかかれば、この島に何かあると知られてしまう。
国家の思惑など一恵にとってはどうでもいいことだったが、異世界ゲートの存在は誰にも知られない方がいいだろう。
シェルターの元へと保護されたエレスケたちは、ひと目見ただけで小屋に施されている迷彩の効果を看破してしまった。
精神に作用することでそこに何も無かったかのように思わせている『認識阻害』は土屋千咲と水尾紗那が、『そこに確かに小屋がある』という感覚で上書きして無効化してしまう。
五感を狂わせて感知できなくさせている『幻覚効果』は火浦いつきと風見詩緒が、逆位相波をぶつけて打ち消してしまった。
今までは莉美にだけぼんやりと見えていた小屋が、魔法少女たちの目にはっきりと捉えられるようになる。
「さすがね」
一恵が素直に感心すると、エレスケたちは誰の目にも分かるくらい照れた。
「ひ、一恵様と女帝の頼みとあれば楽勝でござる、ます、の、よ?」
詩緒がアイドル忍者になりかけている。
肝が据わっているのか現実味が無いのか、魔法少女たちと一緒に退避しているコスプレイヤーの少女ふたりは、その様子を興奮してスマホで撮り続けていた。
活動休止中の有名タレントHitoeと、もはや伝説となっている憧れの鬼軍曹、元コスプレイヤーの紗那、紗那が所属しているアイドルグループのエレメントスケイプ。
それにエレスケに一瞬だけ参加して消えた謎の黄色い人。SNS界隈を賑わせている人が勢揃いだ。
それに他にもあり得ないくらい完成度の高いコスチュームと、それを着こなす魔法少女たち。
きっとみんな、これから有名なレイヤーになるに違いないとコスプレ少女たちは思う。
頭の理解が追いつくより先にシャッターを切っている感じだ。
「ここは天国ですか? 天国なのよねっ?」
「天使様ぁ」
どちらかというと地獄だと白音は思うのだが。
「ん、撮られてるっすね。画像加工しとくっすよ」
カメラ慣れしているいつきが幻覚魔法で録画中の画像をいじった。
リアルタイムでできるらしい。
これがエレスケが動画をハイペースで編集してアップできる秘訣なのだろう。
[全員目のところに黒線入れといたっす]
[ちょっと待てっ! それアタシたちの悪者感がハンパないっ!]
いつきが報告を入れると、佳奈がわざわざマインドリンクで待ったをかけた。
彼女には魔法少女として戦うことに誇りがある。
怪しい人が戦っているように見えては困るのだ。
[すみません、佳奈の姐御。光のきらきらにしときました]
多分テレビでよく見るモザイク加工のことだろう。
見てないのでよく分からないが、とりあえずそれで佳奈も納得する。
[あ、ああ。助かる。けど、なんというか…………いつきって、器用だよね……]
[あざっす! 佳奈姐さん]
いつきは、白音と莉美に寄り添うようにしてふたりを守っている佳奈に手を振った。
佳奈のその様は、まるで桜とミモザの姫君を守る、紅玉のナイトのようだ。
これから随分厳しいことになるから耐えて欲しいと言う。
その上で巫女のたちの星石も、できるだけ傷つけないでおいてと頼む。
随分身勝手なお願いだったが、誰ひとり嫌な顔をしなかった。
[おっけー]
[乗りかかった女帝様]
[言うこと聞くから、白音ちゃんて、呼んでいい?]
何が起こるかも聞かずに、魔法少女たちは白音を支持してくれた。
白音にとって信頼は、もう重荷などではなかった。全力で応えるのみ。
「佳奈、わたし多分戦えなくなるから守って。でも巫女たちは……」
「傷つけるなってことね?」
「うん。佳奈なら、できるよね?」
「とーぜんっ!!」
佳奈には何でもできる。
[じゃあみんな、行くよっ!]
「ほい」
白音が合図をすると、何も言わなくとも莉美が手を取って魔力を流し込んでくれる。
見つめ合ってにこりと笑う。
「二重増幅強化!!」
この作戦に参加しているすべての魔法少女たちが、先ほどとは段違いに強力なブーストを受けて息をのむ。
[何を我慢するんですって?]
[ちょーやばいんですけど]
[女帝様、カイカンですぅ]
まだ誰も、これから先に起こることに気づいていなかったが、白音が『耐えて』と言ったからには高揚感に酔いしれている場合ではない。
橘香が全員に最大級の警戒態勢を取るよう命令する。
「これがお前たち五人がいつも見ていた世界なのだな」
橘香とて、今なら戦艦の主砲でも再現できそうな感覚を持っている。
「白音、莉美、平気か?」
佳奈がふたりの様子を気遣う。
人数が多く、広範囲に渡るのでかなりきついかも知れないと白音は予想していたのだが、どうにか耐えていた。魔族の力を得て、魔法少女としても成長を続けている白音の力と、魔力を肩代わりしてくれている莉美が、多分苦痛も分かち合ってくれているのだ。
さっきから腕に押しつけられている、莉美の柔らかな胸の感触に癒やされている。
だがやはり口をきくほどの余裕はなく、白音は指で丸を作って見せる。
すると何故か佳奈と莉美に同時に「ふふっ」と笑われた。
そして巫女たちと対峙してすぐに、島中に散らばっている魔法少女たちは気づいた。
二重増幅強化の恩恵を受けているのは自分たちだけではない。
『巫女たちも強化されている』という事実に。
[うわわわっ、敵っ! 敵にかかってますよっ!! 白音様っ!!]
[ほんま死ぬ、死ぬから!!]
[さすが女帝。ドSよのう……]
魔法少女も巫女も、どちらも大幅に火力が増大しており、そこら中から爆音が轟き始める。
「ああ、もう。すごいことになってる。でも白音っ、好きなようにやんなっ!! アタシが守るから、思いっきり、ぶちかませ!」
佳奈に加えて橘香が白音の守りにつく。
リンクス、佐々木咲沙、羽多瑠奏、高谷燎が、退避している魔法少女たちを守ってくれている。
「莉美、お願い! もっと!」
「あいさ!!」
白音に流し込む魔力を増加させていく。
いつもなら「はじける!」などと叫ばれる量に達している。
莉美はついでに、もっと白音に胸を押しつけておく。
もはや戦場という言葉すら生ぬるいかも知れない。
特に魔力を感じることのできる者からすれば、世界の終わりがこの島から始まるのではないかという、高密度な破壊エネルギーが渦を巻いているのが分かる。
そらが各所の戦況を見て、完全なマルチタスクで指示を出している。どこから破綻してもおかしくないような、めいっぱいに張り詰めた均衡状態を維持し続けている。
[巫女は捨て身で攻めに徹する分火力が高いの。でも守る発想がないから、その分こちらは戦略で対抗して]
一恵もこの場の守りは十分と見て、そらの指示を受けてあちこち転移で飛び回り、分断されていた戦線を立て直していく。
白音のリーパーを受けている現在、一恵はゲートなしで転移することが可能となっている。
だからマインドリンクが確立されていれば事実上、彼女はこの島のどこにでも瞬時に現れて消えることができる。
もちろんエレメントスケイプたちの囚われている船上とて同様である。
一恵はほんの数秒、誰にも気づかれること無くエレスケの元へ飛び、彼女たちを救い出して帰ってきた。
ちびそらも、そしてついでに宮内も一緒に連れている。
船室の幻覚では、宮内だけがいなくなっていることになる。
もっともこの緊迫した戦況にあっては、当面の間気づかれることすらないだろう。
魔法による船の擬装は、エレスケに頼んで残しておいてもらった。
衛星からの監視の目などに引っかかれば、この島に何かあると知られてしまう。
国家の思惑など一恵にとってはどうでもいいことだったが、異世界ゲートの存在は誰にも知られない方がいいだろう。
シェルターの元へと保護されたエレスケたちは、ひと目見ただけで小屋に施されている迷彩の効果を看破してしまった。
精神に作用することでそこに何も無かったかのように思わせている『認識阻害』は土屋千咲と水尾紗那が、『そこに確かに小屋がある』という感覚で上書きして無効化してしまう。
五感を狂わせて感知できなくさせている『幻覚効果』は火浦いつきと風見詩緒が、逆位相波をぶつけて打ち消してしまった。
今までは莉美にだけぼんやりと見えていた小屋が、魔法少女たちの目にはっきりと捉えられるようになる。
「さすがね」
一恵が素直に感心すると、エレスケたちは誰の目にも分かるくらい照れた。
「ひ、一恵様と女帝の頼みとあれば楽勝でござる、ます、の、よ?」
詩緒がアイドル忍者になりかけている。
肝が据わっているのか現実味が無いのか、魔法少女たちと一緒に退避しているコスプレイヤーの少女ふたりは、その様子を興奮してスマホで撮り続けていた。
活動休止中の有名タレントHitoeと、もはや伝説となっている憧れの鬼軍曹、元コスプレイヤーの紗那、紗那が所属しているアイドルグループのエレメントスケイプ。
それにエレスケに一瞬だけ参加して消えた謎の黄色い人。SNS界隈を賑わせている人が勢揃いだ。
それに他にもあり得ないくらい完成度の高いコスチュームと、それを着こなす魔法少女たち。
きっとみんな、これから有名なレイヤーになるに違いないとコスプレ少女たちは思う。
頭の理解が追いつくより先にシャッターを切っている感じだ。
「ここは天国ですか? 天国なのよねっ?」
「天使様ぁ」
どちらかというと地獄だと白音は思うのだが。
「ん、撮られてるっすね。画像加工しとくっすよ」
カメラ慣れしているいつきが幻覚魔法で録画中の画像をいじった。
リアルタイムでできるらしい。
これがエレスケが動画をハイペースで編集してアップできる秘訣なのだろう。
[全員目のところに黒線入れといたっす]
[ちょっと待てっ! それアタシたちの悪者感がハンパないっ!]
いつきが報告を入れると、佳奈がわざわざマインドリンクで待ったをかけた。
彼女には魔法少女として戦うことに誇りがある。
怪しい人が戦っているように見えては困るのだ。
[すみません、佳奈の姐御。光のきらきらにしときました]
多分テレビでよく見るモザイク加工のことだろう。
見てないのでよく分からないが、とりあえずそれで佳奈も納得する。
[あ、ああ。助かる。けど、なんというか…………いつきって、器用だよね……]
[あざっす! 佳奈姐さん]
いつきは、白音と莉美に寄り添うようにしてふたりを守っている佳奈に手を振った。
佳奈のその様は、まるで桜とミモザの姫君を守る、紅玉のナイトのようだ。
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