ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】(タイトル改訂)

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第46話 異世界通廊 その二

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 ちびそらから、自衛隊の船艇が予定外の行動を始めたと連絡が入った。
 マインドリンクで、火浦いつきの見ている映像が白音たちに送られてきた。
 ちびそらと共に、随行していたエレメントスケイプ、外事特課の宮内が小さな船室に軟禁されているのが見える。


[いや……、これがいつきちゃんの見てる映像なら、目の前の閉じ込められてる人は誰…………]

 白音がそらの方を見るが、そらが小首をかしげた。

[ああっ!! 混乱させて申し訳ないっす。監禁されそうになったので幻覚でごまかして隠れてるっす。今見えてるのは閉じ込められたふりしてる幻覚っす]

 いつきのその視点が下方に動くと、視点の持ち主が肩から提げたポシェットが見えた。
 その中にちびそらがこそっと収まっている。
 さらに周囲にはエレスケメンバーもいるようだ。全員囚われてなどおらず、船室の外にいる。
 さすがは隠蔽工作のプロであろう。


[指揮所と連絡を取る方法を聞き出したがってたわね。通信できないようにしたかったんでしょう。スマホとか取り上げられてから閉じ込められたわ。取り上げた、と思い込ませただけだけど]

 風見詩緒の声だ。
 何か陰謀を企てるのならば通信手段を絶つのは常套手段だろう。
 しかし魔法少女を出し抜こうとしているとなると、その想定はまったく甘いと言わざるを得ない。
 なにしろ、魔法少女の口に戸など立てられるわけないのだ。

[ガクブル]

 ちびそらは自分がスマホ機能を持っているとばれたら何をされるか分からないと思ったのだろう。
 その恐怖は人には無い感覚だ。
 しかし、その妙な言葉遣いを教えたのは誰なのだろうかと白音は思う。


[あ、宮内さんは閉じ込められてるのが本物っす]

 いつきがさらっと言う。

[ひでぇ]

 佳奈の声が割って入ってきた。
 彼女はそう言いながらしかし、笑っているのがマインドリンク越しにも分かる。
 佳奈は今、敵の激しい妨害に耐えながら戦闘の真っ最中のはずだ。
 かなりイライラしていたようだが、エレスケやちびそらのどこか間延びした会話を聞いて、少しは落ち着きを取り戻したようだった。
 正直なところ、佳奈には自衛隊など眼中に無い。


[自衛隊は初めから、異世界への転移ゲートが確認され次第確保に向かう命令を受けてたみたいね]

 土屋千咲の声だ。

[自衛隊くらいなら手の平返されても、私たちで何とかなるでしょって甘く見てたのよ。でもね……、あいつらの中に魔法少女がいたのよ]
[!!]


 さすがに白音も驚いた。
 確かに必死でリクルートをしていたのは知っている。
 防衛大臣直轄の高等工科学校に無理矢理編入者専用の特別クラスを儲けたり、いろいろやってはいたようだ。
 だからそういうのがいてもおかしくはない。
 しかし…………、

[あなたたちが逃げ出すほどの実力者がいたっていうの?]
[わたしたちが正面切って戦うわけないじゃないの。☆ア☆イ☆ド☆ル☆なのよ? 相手は戦闘向きの魔法持ってなくても、どうせ戦闘訓練受けてるんだから!!]

 風見詩緒が、何故かちょっと得意げに主張している。

[まあ、あんまり酷いことする気は無いと思うんだけどね。宮内さんが必死で説得してくれてたんだけど、やっぱり外特と自衛隊は考えもやり方もまったく違うみたい。だから宮内さんを囮にして逃げてきたの]

 水尾紗那が悪びれる様子も無くそう言った。

[なおさらひでぇ]
[うん……]

 佳奈の言葉にさすがに白音も同意する。


[あの人たちそゆとこあるよね]

 莉美は今でも結構、エレスケの面々とは交流があると聞いている。
 過去に何があろうと、興味があれば気にせずずんずん突っ込んでいく。
 白音はむしろ莉美に「あんたそゆとこあるよね」と言いたい。

 しかし拘束は免れているとは言え、海の上で転移も使えないのではどうしようもない。

[このまま行けば約十分じゅっぷんで小島付近に到着、上陸はそこからボートで五分ほどかかると予測]

 ちびそらだ。

[んー、沈める?]

 莉美なら多分、やろうと思えば簡単にできるだろう。

[おいこらー!!]

 間髪を入れず詩緒の突っ込みの声が上がった。
 まあそりゃあ、もろともに蒸発したくはないだろう、普通。


[冗談だよ。ちびそらちゃんがいるのにそんなことするわけないじゃない]
[ちびそらかよ!!]

 莉美とエレスケたちの仲が良さそうで、何よりだと思う白音であった。


「白音ちゃん、白音ちゃん」

 今度はマインドリンクは使わずに、白音と共に小屋への侵入方法を検討していた一恵が声をかけてきた。
 こちらはこれで内緒話オフレコということなのだろう。
 白音は確実に戦局が動き始めているのを感じる。

「わたしの転移ゲートが使えるようになった」



 ということは、異世界転移ゲートが完成したと言うことだろう。
 もう一刻の猶予もならない。
 親通がいつでも逃げられるよう準備が整ったということだ。


「親通はまだ、数的有利を信じてるはず。まずはこの場にいる魔法少女たちを排除して、残存兵力すべてで転移しようとすると思う。それが困難だと感じたら作戦を切り替えて、さっきそらちゃんが言ってた優先順で一緒に転移しようとすると思う。035ミコ、千尋ちゃん、妨害系の順かな。さすがにミコは転移必須だろうとは思うけど、逆に言えばミコさえいればあちらで立て直しができるわ。親通が追い詰められたと感じる前に封じてしまわないと」

「さて、そろそろおいとまさせていただこうか」

 異世界ゲートの完成に合わせるようなタイミングで、声が聞こえてきた。
 音源の方向などの特定は困難だった。
 幻覚、幻聴系の魔法で伝えているのだと思われる。
 声質は先ほど倒した親通のコピーと同じだろう。

 これは勝利を確信しての余裕の演説だと感じた。
 ならば少しそのお話に付き合ってやろうと、白音は考えた。
 その間に効果的な対抗策を、そらや一恵が必ず考えてくれる。


「できれば手駒はすべて連れて行きたかったが問題は無い」
[ワンマン社長に多いタイプなの。部下を物扱い。気がついたらみんな辞めていく]
[やめてそらちゃん、吹き出しちゃうから……]

 そらがわざわざマインドリンクで、白音にだけ変な副音声解説を付け始めた。
 まじめな顔で聞いてるふりをして時間を稼がなければならないのに、笑ってはいけない。
 こういう手合いは適当に驚いたり納得したりしていると、悦に入って話が延びていくのだ。


「どどっ、どうしてこんな酷いことするの。異世界なんか目指して、何をしようっていうの?」

 そらのせいで声が震えて上ずってしまった。だがかえって、いい感じに焦っているように聞こえただろう。

「あちらは人族、魔族入り乱れての乱世なのだろう? 文明レベルも中世程度らしいな? そして破壊的な魔法がある。おあつらえ向きじゃないか。戦国の世に身を立てた祖先に倣って儂もあちらで新しい根来衆ねくるしゅうを組織する。異世界は儂に吃驚、刮目するだろう。何せこちらは異世界で救国の英雄と呼ばれる魔法少女をいくらでも使えるのだからな」

 確かにコピー能力も勘定に入れると、それが戯れ言とは言い切れなくなりそうだ。


[ブラック企業確定なの]
「そ、そ、それじゃあなた、まるで異世界を侵略するブラ……魔王じゃないの!!」
「魔王、魔王か、それも悪くはないかもな。うはははは!!」

 親通にウケたようで何よりである。

 白音はこの親通という男とまともな話ができるとは、元より思っていない。
 部下を使い捨てのおもちゃのように扱っているのは、巫女たちがネクロマンシーによって操作されている死体だから、ということだけではあるまい。
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