ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第46話 異世界通廊 その一

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 マジックキャンセラーを倒して、かなり状況が把握できるようになってきた。
 しかしその分時間も消費してしまっている。
 白音たちは焦ってはいけないと分かってはいても、どうしても気が急いてしまう。
 こんな時、仲間が傍にいてくれるというのは本当に心強い。


「やっぱり中に転移ゲートあるね。魔法無効化マジックキャンセルが切れたら、時空の悲鳴ディストーションを感じるようになったわ」

 一恵は戦闘を佳奈に任せると目を閉じて集中し、小屋の中に設置されているらしい異世界転移ゲートの様子を探ろうとしている。

「!!」

 思わず息を呑んだ一恵に佳奈が尋ねる。

「どした?」

 成人男性並みの身長がある一恵と、それよりやや低いくらいの佳奈が並んでいると、普通の体格の魔法少女たちは自分が小さくなったような錯覚に陥る。


「もうゲートは繋がってるんだわ。さっき繋がった瞬間に広範囲に歪みが発生して、それでわたしが作っておいた転移ゲートの特異点としての双極性が失われてしまったんだわ」
「よく分からんけど、それで?」
「多分なんだけど、ゲートがあまりにも遠いところと繋がっているから、安定するのにしばらく時間がかかってる。その間歪曲波が出続けてわたしの転移ゲートを妨害してるの」
「つまり?」
「わたしのゲートがまた使えるようになったら、異世界転移ゲートが完成したってことになる」

 詳しくは理解できないが、佳奈にも事態が切迫してきたということは分かる。


「時間はどのくらいありそう?」

 白音が一恵に、そしてそらに向けて尋ねる。
 かなり深刻な状況だ。
 繋がった瞬間がこっちでも分かるというのは有益な情報だが、その時がやってこないことを祈るばかりだ。

「データがなさ過ぎて予測不能。ごめんなの白音ちゃん」

 そらが難しい顔をしている。

「でもそんなに余裕があるわけないよね?」

 それにはそらも一恵も同意する。

 ただ幸いなことにマジックキャンセラーさえいなければ、こちらが後衛を気にする必要がなくなる。
 莉美がほぼ完璧と言える防御をしてくれる。
 今から一気に攻勢に転じられるだろう。
 加えて橘香が来てくれたことで、勝利自体は確定していると言っていい。

 莉美が下がってさらに防御を固めていく。
 後衛と負傷者と、それに例のコスプレ少女たちを守る。
 しかし計ったように小屋の中から、明らかに妨害を目的とした魔法が投射キャストされてくる。

 姿はなお視覚的な妨害と精神的な認識機序の阻害とで確認できないが、確実に白音たちの足を止めようとしている意思は伝わってくる。
 地面は泥沼に変わり、嵐のような突風が巻き起こり、平衡感覚を狂わされて真っ直ぐに歩けなくなり、強烈な重力で身体が何倍にも重くなる。
 ひとつひとつなら何とかできるだろうが、重ねられると本当に厄介だった。
 これでもかというくらいの、いやらしい妨害の数々だった。

 マインドリンクによれば、島の各所には戦闘能力の高い巫女が配されていて、魔法少女たちがそこを離れられないように足止めされているということだった。
 すべては親通の手の平の上だった。

 こういう搦め手が一番嫌いなのは佳奈だ。
 イライラが頂点に達しているのが、端から見ていてもよく分かる。

「ちょっと酷いかも知れないんだけど、あたしが全員撃とっか? 思いっきり行けば魔法を妨害されてても撃ち抜けそうだし、全員に当たるまで撃つよ?」

 言葉はやや丸いのだが、実行すると地獄絵図になりそうである。
 莉美はずっと自分たちを守り続けてくれている佳奈の負担を、どうにかして減らしたいと考えていた。

 小屋への接近が困難を極める反面、後方に下がって守りを固める分にはしっかりと安全が確保できていた。
 親通は魔法少女たちに『様子見』をさせようとしているのだろう。
 膠着してしまえばその思惑に乗ることになる。
 もし攻めるならば一気に、タイミングを見計らう必要があるだろう。

「時間が無いし、最悪莉美ちゃんに頼むしかないわね。中には千尋ちゃんもいるはずなんだけど……」

 一恵は千尋と転移魔法について議論してみたかったなと、彼女のハーフアップの髪とちょっと勝ち気な瞳を思い出していた。
 彼女の転移技術は無類の正確さを誇っていた。


「ゲート通過の優先順位は元々、親通、035ミコ、千尋ちゃん、マジックキャンセラー、幻覚魔法などの認識妨害系の順だったはず。今はもうマジックキャンセラーはいないし、こちらの世界に戻ってくる気が無いのなら、最悪ミコだけを連れて行こうとする。一番大事だから直前にふたり、転移でここに現れるという可能性もあるんだけど、以前一恵ちゃんに転移妨害されてるから、すぐ近くにいるとは思うの」
「そらちゃんは、親通が戦局不利と見て取って、この場はひとまず逃亡して仕切り直す、という可能性はどう考えてる?」

 現状を整理して分析していたそらに対して、作戦指揮を執っている橘香が見解を求めた。

 もし異世界への転移が無理と判断されたならば、この場は諦めて通常の転移でどこかへ逃げてしまうという手も確かにある。
 そうなればあとを追うのは難しくなるだろう。
 ギルドとしては、今後の展開も考えておかなければならないのだ。

 しかし親通は大部分の物を既に失ってしまっている。
 たとえ035ミコと千尋を連れて逃げたとしても、再び異世界への転移ゲートを開くには整えるべき条件が多すぎる。

「逃走を選択すれば、こちらの世界に留まって長い時間を再起のために浪費することになる。それを耐える気があるかどうかだと思うの」

 そらは親通の性格を見極めかねているようだった。
 白音が親通を見た印象では、しかしそれはないなと感じられた。

「わたしは今更、潜伏するという選択はしないように思う」

 あくまで感覚的なものなんだけど、と付け加えて白音は続ける。

「確かに強制的にとは言え星石と融合して、願いを叶える力を手にしてはいるわ。でもこれからもう一回同じことを、っていうのは親通のあの性格からしたらないんじゃないかな」

 性格だけではない。白音たちとの決定的な違いは時間だった。
 一からやり直して長の年月を耐え、野望を成就する。
 それだけの時間がのこっているのかどうか。
 おそらく親通は、このチャンスにすべてを賭けてくると思えた。


 その時、いつきから連絡が入った。

[白音の姐さん、自衛隊が動き出したっす]

 マインドリンクだから誰かに聞かれると言うこともないのだが、声を潜めて囁くような調子になっている。
 ブルームが策定した作戦では、彼らは島を囲んで海上封鎖し続けることになっている。
 それが何故今動き出すのか。


[ボートの用意してる。揚陸しそう]

 今度はちびそらだった。
 その声にも当初の船上体験を楽しむような調子はもう無い。

[僕ら狭い部屋に監禁されそうになったっす]


 チーム白音の脳裏に、小さな船室の中にエレスケたち四人とちびそら、それに外事特課の宮内課長補佐が閉じ込められている映像が送られてきた。
 それを船室の丸い小窓の外から眺めているような視点になっている。
 そらがマインドリンクを使って、いつきの目に映るものをみんなに見せたのだ。



 いつきは監禁という言葉を使っているが、体の自由を奪われたりはしていないようだ。

[いや……、これがいつきちゃんの見てる映像なら、目の前の閉じ込められてる人は誰…………]
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