ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】(タイトル改訂)

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第44話 白音、波に消ゆ その二

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 瑠奏の魔法があれば、核爆発を閉じ込めた檻を宇宙へ廃棄することも可能らしい。
 そう言ってそらと一恵が同時ににやりと笑った。

「でもそれは後回しね。こんな罠を仕掛けて、これで終わりとは思えないんだけど?」

 白音はまだ間違いなく何か企んでいるのであろう、親通のことを警戒していた。
 転移ゲートの出口しかなかったのもおかしい。
 異世界への転移ゲートは一体どこにあるのか?


「そらちゃん、みんなの様子はどう?」

 実は度重なるリーパーの酷使で、白音の体は悲鳴を上げ始めている。
 だから弾頭の処理がひと段落してから、会話にだけ参加してこっそり休んでいた。
 親通の次の一手に備えなければならないと同時に、リーパー無しで頑張ってくれている魔法少女たちのことがそろそろ気になる。

「橘香さんはさすが平気なの。ここをひとりで守りきってくれてる。でもあちらこちらで押され始めてる感じ」


 その時、各所からマインドリンクによる通信が指揮所に入った。
 やや混乱している様子が見て取れる。
 曰く、一度倒したはずの同じ能力を持った巫女たちが再び現れているらしい。

[ちょっと何、どういうこと? 元々死んでるからしぶといとは聞いてたけど、目の前に死体があるのにまた同じ奴が出てきたんだけど?]
035ミコの力?]
[ありえない。星石を壊しているからいくら死体操作ネクロマンシーでも生き返らないはずっ!]


 親通が持っていたのがよりによってコピー能力だったという時点で、こういう展開はある程度予想できていた。
 混乱したその状況を見て、白音がそらに確認する。

「コピー能力ってことよね?」
「うん。さっきの親通は高確率でコピーの方。オリジナルの親通はまた巫女のコピーを作って各所へ転移させていると思う」

 そしてそらは少し集中して、各所の状況を分析する。


「今姿を現したと報告にある巫女は、能力から言ってやはりコピーだと思う。でも小島の巫女だけ能力が高い。そこにいるのが多分本物なの」

 小島、とはこの無人島のすぐ北、今いる展望台からは北東の方向に、全周600メートルほどのさらに小さな島がある。
 それのことだ。
 既に制圧済みとの報告を受けていたが、やはり再び巫女たちが現れているらしい。

 親通とて、単身で異世界へ行きたいわけではなかろう。
 いくらコピー能力を手に入れたとは言え、未知の世界へ旅立つのに手勢を連れて行こうとするはずだ。
 となれはオリジナルの巫女がいる小島に、異世界へのゲートも存在する可能性が高い。


「親通……はまあ元々能力が低いからコピーと区別がつかないけど、多分そこにいると思う」

 異世界へのゲートの準備ができ次第、親通はゲートをくぐるつもりだろう。
 だが小島からゲートやその他不審なものの発見報告はなかった。
 それをごまかせる能力、何らかの偽装や迷彩を施せる巫女がそこには配置されていそうだった。


「こっちが囮であっちが本命ってことね…………」

 白音は歯がみした。

「うん、時間稼ぎされてしまった」

 カウントダウンの時間いっぱいまで、こちらの手を煩わせるつもりだったのだろう。
 核爆弾をその程度の道具としか考えていないのだ。


「ごめんなの。白音ちゃんを消耗させてしまった」

 そらだって全身に傷を負っている。
 そらが謝ることではないと思う。
 多分魔法少女の宿命なのだ。
 適当にどこか遠い地に核爆弾を設置されたとしても、チーム白音が放っておくことなどあり得ないのだから。


「親通の星石は強制移植済み、となれば異世界渡りの準備はできているの。ゲートさえ完成すればそれで逃げられてしまう。この時間稼ぎのやり方、後ほんの少し時間があれば行けるという目算がありそうなの」

 そらの言うとおり、あと数十分が稼ぎたくて仕掛けた囮だったように思える。
 もしこれが本物の核弾頭だったなら、実は親通もチーム白音が何とかすると、確信していたのではないだろうか。

 万が一爆発していたなら、少し離れているとは言え親通もただでは済まなかったはずだ。
 それなりの重傷を負いながらゲートを抜け、星石の力で体の回復を待つことになる。
 ギリギリの賭けだ。
 なおのこと、一時間も二時間もゲートの準備にかかるようでは、たち行かない計画だ。


「白音ちゃん、転移が妨害されてる!!」

 一恵が警告の声を発した。
 しかし白音はもう、むしろ期待どおりだなと思った。
 そしてまんまと親通の思惑になど、乗せられてやるものかと思う。
 転移が駄目なら、白音には翼がある。


[みんな、今から正帰還増幅強化ハウリングリーパー行きます。もう少し、踏ん張って!!]

 マインドリンクで島内の魔法少女たちに伝える。

[おっけー。白音様の思し召すまま]
[女帝っ!、待ってたよっ]
[白音さん、おみ足、綺麗ですよね]
「ぶっ」

 佳奈が吹き出した。
 みんな多分狙っているんだろう。
 追い詰められて余裕をなくすよりはいい。
 しかし変なことを言うから、皆が白音の脚に注目する。

「もうっ!!」

 白音は桜色のミニスカートから伸びたその綺麗なおみ足、を二、三度踏み鳴らす。


「わたしがふたり、連れていくからっ!! 瑠奏るかなさん、ふたりお願いできるかしら?」

 白音が流麗な銀翼を大きく広げながら、チーム白音の方へ両手を差し出す。



「も、もちろん。無理だなんて言わないっ!!」

 瑠奏が今まで閉じいていた翼を見て、目を見開いている。
 多少は戦っている最中から見ていたのだろうが、そういえばこの姿の説明を瑠奏には一切していなかったのを今更思い出す。
 今はそういうものだと、思っておいてもらう外あるまいが。

 一恵とそらが、進んで瑠奏のほうきに跨がった。

「ん、あれ? なんでだ?」

 佳奈も白音と同様、てっきりふたりは白音の方に向かうものと思っていたようだ。

「多分体格的に言ってわたしが一番体重重いでしょ?」

 一恵の言葉にそらも続く。

「そして私が一番軽い。白音ちゃんにぶら下がるのは、体重が近い人ふたりの方がバランスいいの」
「ほんとかそれ?」

 佳奈が莉美の豊かな胸をじっと見ている。

「いやん、佳奈ちゃんったら!!」


 しかし言葉とは裏腹に、莉美は嬉しそうにいそいそと白音の手を取る。白音が佳奈と莉美を両手にぶら下げて、ふわりと浮かび上がった。

「んー」

 重さは似たようなものだろうと思う。バランスがいい。
 佳奈の方が背は高…………、

「白音ちゃん…………」

 何かを察した莉美が涙目で見ている。

「ごめん」
「謝らないでよーーーー!」

 莉美の声を置き去りにして飛び立つ。瑠奏もすぐに後を追う。三人乗りの魔女のほうきだ。


[白音ちゃん、よろしくね。わたしも力の限り、掩護するから!!]

 橘香がエールを送ってくれた。
 全力で飛ぶと、瑠奏どころか掴んだ腕までぶっちぎってしまいそうなので、瑠奏よりやや速いくらいの速度を意識して先行する。
 莉美が白音と瑠奏それぞれの前方に流線型の風防障壁を張ってくれたので、瑠奏は少し速度を上げることができた。

「こんな快適な飛行は初めて」

 瑠奏のほうきは速度を上げると強風で結構辛くなる。
 本当はゴーグルを付けたいのだが、魔女のほうきにそれはナシだと思うので我慢しているのだ。

 先導する白音は、高く飛ぶとどこの国の何のセンサーに捕捉されるか分からないので、一応いろいろ意識して低空飛行を心がけている。
 むき身で海面すれすれを片手で吊られたまま、時速100キロメートル近い速度で飛行している。
 普通なら恐慌パニックを起こしてもおかしくない体験なのだが、佳奈と莉美はまったく動じた様子は無い。
 佳奈は小島で待っているだろう敵に気がはやっている様子だったし、莉美は莉美で白音との飛行を存分に堪能している。
 莉美にすれば、もう少しその初体験を楽しんでいたかったのかもしれない。
 しかし、僅か数分で小島が見えてきた。


[白音ちゃん、こっちを狙ってる巫女がいる!!]

 後方のそらが、悲鳴に近い声を上げて警告してきた。
 しかし白音は完全に油断していた。
 莉美の魔力障壁が、よもや破られることがあるなんて思っていなかった。

 小島の林の中から、白音めがけて金属製の槍が何本も飛んできた。
 風防障壁は風よけのためだけのものではない。
 万一の攻撃に備えてしっかりとした強度のある魔力障壁バリアだったのに、高速で飛来した槍はそれを易々と貫いてくる。

 白音は佳奈と莉美を庇いながら必死で避けたが、そのうちの一本を食らってしまった。
 深々と胸を抉られる。

「くはっ!!」

 白音がのけぞって血を吐く。
 槍は白音の華奢な体を貫いて、穂先が背中から顔を出した。


「白音っ!!」
「白音ちゃんっ!!」

 全員が同時に叫んだ。
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