ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第43話 敵首魁、根来親通 その二

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 根来親通ねくるちかみちが仕掛けたと思われる転移ゲートからは、弾頭に放射性核種を搭載したミサイルが現れた。
 ミサイルの弾頭部分の金属製の覆いシュラウドが外され、わざわざ中身を見せつけるようにされている。

 やがてミサイルが半分弱ゲートのこちら側に顔を出すと、今度は下降を開始した。
 ゆっくりとさらに少しこちら側へ出てきながら、地面へと設置されていく。
 おそらくはこの作業を想定して、転移ゲートも地面の下に潜り込むようにして設置されている。

 そして地面も多分、初めから意図的に軟弱に造られていたものと思われる。
 ミサイルの重量を受けてぐずぐずと沈み込み、ミサイルが少し地面にめり込むような形になると、ようやく全体の動きが停止した。

 ちょうど半分、ゲートのこちら側へ顔を出しながら、下部は地面に突き刺さっているような格好となる。
 これはそういうことを想定して訓練していなければ、そう簡単にできる動きではないだろう。

 核ミサイルにしてもそうだ。
 昨日今日で用意できるはずもない。
 不測の事態のために保険として、親通が以前から用意していたものを使っているのだろう。

 さらにご丁寧に、ミサイルの胴部にデジタルタイマーのような物が取り付けてあり、それが二十分からカウントダウンを始めた。
 これがゼロになれば爆発すると言わんばかりだ。

 間違いなくゲートの向こう側は、親通と何らかの密約関係にある国家規模の核保有団体のはずだ。
 親通の要請に応えてこのような仕掛けを用意したのだ。

 さすがに国防に関わる兵器をおいそれと譲ってはくれないだろうから、不活性貯蔵されていたものを整備して持ち出しているのだろう。
 そのために親通は一体何を見返りに与えたというのか。


「どうなってんだこれ?」

 佳奈が核爆弾だと言われても臆することなく近づき、ミサイルを押したり引いたりしてみている。
 しかしかなりの力を込めてみても、どちらの方向へもびくともしなかった。

「そのゲートは多分、向こうからこっちへの一方通行なんだと思う。向こうへ押してもミサイルがひしゃげるだけで動かないはずよ。わたしの場合は双方向へ移動できるゲートなんだけど、千尋ちゃんの能力は一回移動したらそれきり。往復できるものじゃなかった。この原則が影響してるんだと思う。だからこっちに出た物は絶対に押し返せない」

 逆に一恵の転移ゲートの場合、何らかの仕掛けを作らないとわざわざ一方通行にする方が難しいそうだ。
 これはもう、そういうものだと思ってもらう他ないと一恵は言う。

 しかしでは、こちらへ引っ張り出せないのは何故だろうか? 先ほど移動してきていたはずなのだが。
 それにはそらが答えてくれた。

「多分向こうからミサイルを引っ張ってるんだと思う。佳奈ちゃんが引いても簡単に負けないくらいの力で。巻き付けられたワイヤーに何か引っかけて、重機とかかな。そうすればこれ以上こっちに来ないよう、ちょうど半分で止めて調節できるの」

「あたしのバリアで覆っちゃう?」

 莉美が提案した。
 それは要するに、自分がバリアで防ぐからもう爆破しちゃえと言っているのだ。



「ゲートが開いてるから、普通より大量の魔力が必要になると思う。閉じた空間じゃないしね。その上で核爆発に耐えられる強固さが必要なんだけど、できる?」

 言いながら一恵自身、めちゃくちゃな要求だなと思う。
 相手が莉美でなければ、そもそも可能性を考慮にも入れないような高難度の要求だ。
 そしてできるかと聞かれると、挑発だと受け取る白音や佳奈とは違うので莉美は、

「どうだろう…………やってみないと分かんない」

と素直に答える。
 あまり迷ってはいない莉美のその様子を見て、一恵はできるんじゃないかな…………と感じた。


「じゃあもちふわで塞いじゃう? 月に行った時みたいに」

 もちふわのような柔軟さで、莉美は代替案を提案してくる。

「それならいけるかも」

 どうやら最悪、この島が核の洗礼を受けることは防げそうだった。


「でもそれは最終手段なの。ゲートの向こう側に半分の爆発被害が及ぶ。こっちから向こうへは中性子が飛んでいかないから過早爆発すると思うけど、向こう側が一体どこなのか…………」

 そう言ってそらは一恵と頷き合っている。


「じゃあタイマー壊すか?」

 佳奈は先ほどから、このミサイルの弱点はどこなのだろうかと探している。
 もちろん破壊するために。

「タイマーはただの表示装置だから、壊しても時間が分からなくなるだけだと思う」
「むむむ……」


 そらのもっともな指摘である。
 タイマー部分は起爆システムと連動してはいまい。
 下手したらただのキッチンタイマーかも知れない。

「あの先っちょが爆弾なんだろ? もういっそもぎ取っちまうか?」

 たとえ重機で固定されていても、佳奈ならそこだけ引きちぎることはできそうだと思う。


「この弾頭は見たところあまり洗練された作りじゃない。どこかの実験用のものだと思う。こういうのは爆縮レンズの精度があまり良くないはずなの」
「と、いうと?」

 そらの説明に詳細を求めての問い返しではない。
 理屈はみんなが判断してくれればいいから、佳奈はどうすればいいのか指示を求めているのだ。

「下手にいじるとやっぱり過早爆発すると思う。一部の燃料だけで反応、爆発して四散、残りの核燃料をまき散らす。それでも十分強力なの」
「ぐぬぬ」

 八方塞がりな感じに佳奈は無力さを感じた。
 さすがに核爆弾相手に殴り合いは無謀かと思う。


「過早、過早っておっさんの癖にね」

 一恵が笑って、佳奈の形の良いお尻を撫でる。
 せっかくその知識の豊富さに、ちょっと尊敬していたのに台無しだ。
 やはり一恵の専門分野は『下ネタ』らしい。

 明らかに、そう明らかにこういう議論でどんどん時間がすりつぶされていく。
 それが親通の狙いなのだ。
 時間いっぱいあがかせて、最終的に吹っ飛んでくれれば親通の思うつぼだろう。

 だがこういう時、そらは焦ることがない。
 焦りは思考を鈍らせてミスを呼ぶから、まったく不要な感情だ。

「何とかなりそうでござるかな?」

 そらは突然後ろから声をかけられて、どきっとして体が跳ね上がった。ちょっと焦ったが、何でも無かったように取り繕う。

 この場で手伝えることがないと判断した咲沙は、隠形のまま付近の戦局を探っていたのだ。
 親通を討ち取りはしたものの、敵方の作戦が進行している以上、何か見落としているものがあるのかもしれない。


「親通はイヤらしい。何もかも見通した上で、あっち側とこっち側の両方の空間を人質に取っているようなもの。わざわざ時間を表示しているのも、時間いっぱい煩わせて消耗させるためなの」

 ことさら冷静にそらは見解を述べる。

「こっちに引っ張り出して封じ込めるのが一番被害を抑えられる、ということね」

 白音がみんなの意見を聞いて結論を出した。

「同意、なの」


 下手に動かせば暴発や、過早爆発とやらを起こすかもしれない。
 そうなればこの場の全員が蒸発して死ぬことになるだろう。
 しかし反対する者は誰もいなかった。

 爆発するならその瞬間、莉美が障壁を展開すれば死ぬのは自分たちだけで済む。
 そしてそんなことはさせない。
 必ず核の炎を誰にも被害が及ばない、狭い檻の中に閉じ込めてやる、と皆が決意していた。

 佳奈が無言でミサイルに近づいて引っ張り始める。
 しかしほとんど動かなかった。
 地面に刺さっているから少し上に持ち上げなければならない。

 おそらくミサイルは弾道弾。
 多段ロケットや燃料がないとは言え10トン近い重量があるだろう。
 しかも一方通行のゲートを通過中だから、少しでもゲートの方向、後戻りする方向へ傾いて持ち上げようとすると一切動かなくなる。
 かといってあまりこちら側へ傾けて持ち上げると、動いてしまった時にミサイルが倒れかねない。

 こんな状態で、おそらくは向こう側で引き留めているであろう戒めを、引きちぎらなければならないのだ。
 親通は本当にイヤらしい男だと思う。
 そういうことが全部分かっていて、この状況をお膳立てしたのだ。

 さしもの佳奈でも困難な仕事だった。
 みんなで手を貸すが、スペースが限られているので全員の力を十分に生かし切れない。

「さっき瑠奏るかなが近くにいたでござるよ。彼女の能力なら助けになるでござろう。ちょっと呼ぶでござる」

 咲沙がマインドリンクで瑠奏に呼びかけてくれた。

 フード付きの黒ローブを纏った魔法少女、羽多瑠奏はたるかながほうきにまたがって飛んできた。
 おおよその説明は咲沙から聞いているらしい。

「無理無理無理無理っ! 怖いけど何もせずに隠れて見過ごすなんて無理っ!!」

 瑠奏だった。

 瑠奏がミサイルに手を触れ、上に向けて全力で飛行の加速力を与える。

「くくくっ……」

 瑠奏の魔法が加わってミサイルが揺れ、少し佳奈の力が伝わっている手応えを感じ始めたが、それでもやはり移動させるには至らなかった。
 白音がマインドリンクで、全魔法少女に向けてアナウンスをする。

[皆さん、今から全力を使うため、一時的にリーパーの解除を行います。少しの間苦しくなりますがお願いします]
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