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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第41話 魔法少女ギルドVS根来衆 その三

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 魔法少女ギルドは、総力を挙げて根来親通ねくるちかみちの確保作戦を決行する。
 親通は私欲のために魔法少女たちの命を脅かす、ギルドにとっての敵である。そして同時に、異世界関連の技術を海外へ持ち出そうとしている、政府にとっても敵だった。

 白音たちは親通の潜伏する無人島へと上陸する。エレメントスケイプたちは無人島の海上封鎖を行う任務に就くようだった。
 そらはちびそらをエレメントスケイプについて行かせた。激戦が予想される島内には連れて行きたくないという親心? だったのかも知れない。


 資料によれば、無人島には標高120メートルほどの山がある。
 この山を中心として狐面の巫女たちによって監視網が張られており、根来の拠点はここにあると考えられている。

 山頂には元々展望台があったのだが、そこに新たに建屋が設置されていた。
 根来親通の姿はまだ確認されていないが、逆巻姉妹から得た座標ポイントの情報と、建屋のある場所が一致している。
 そのためここに潜伏していると推定されていた。


 作戦は『全島の捜索』『海上封鎖』『敵拠点の制圧』『チーム白音』の四部隊に分ける。

『全島捜索部隊』は速やかに全島の安全を確保、報告外の設備、敵戦力、潜伏者がいないことを確認。
 確認後は最低限の戦力をのこして拠点制圧部隊に合流。

『海上封鎖部隊』は島から10海里の距離を置いて紀伊水道と大阪湾ふた方面に既に展開中。
 沿岸警備隊の艦艇および、漁船に擬装した船に自衛隊員が待機している。
 作戦開始と共に擬装迷彩担当の魔法少女が各船艇に合流。
 作戦開始から二十分遅らせて、海上封鎖に向けて持ち場のポイントへと船を進める。
 魔法によって一般船舶や監視衛星の目を欺きつつ島を包囲。
 徐々に包囲を縮めて後は擬装要員は半減させ、のこりは上陸して拠点制圧部隊に合流。

『拠点制圧部隊』は陽動を行いつつ敵を無力化、山頂に向かって山狩りを行う。

『チーム白音』は戦力を温存、可能ならば各部隊を支援。
 建屋への経路がクリアされ次第内部に突入。
 根来親通の無力化を任務とする。


 魔法少女たちの安全を最優先とし、親通や敵巫女の生死は問わない。
 とリンクスが宣言した。
 わざわざ言明するのは、こちらの魔法少女たちが情にほだされて危険な目に遭うことを避けたいからだろう。 それに、その責任はすべてギルドが負うという意思表示でもある。

 また作戦概要によれば、先行して潜入中の魔法少女はチーム白音および全島捜索部隊に合流。
 協力して任務に当たるとあった。
 チーム白音に合流するのは佐々木咲沙ささきささらしい。


「くノ一!!」

 チーム白音がまたハモった。
 さすがに橘香が白音たちを睨んだ。
 蔵間はその隣で笑いを堪えて下を向いている。

 全島捜索部隊に潜入チームが合流するのは、隠密性を高めて捜索の速度を上げるためだろう。
 しかし、チーム白音と行動を共にする者にはかなりのリスクがあるはずだ。
 やはり咲沙は隠密系能力者の中でもかなりの実力を持つのだろう。
 それだけギルドに認められ、信頼されている『忍者』だということだ。


「連絡はチーム白音のミッターマイヤー君が魔法で全員の精神をリンクしてくれるのでそれで取り合う。拒否したい者は繋がらなくても構わないが、できればひとチームにひとりはリンクしておいてくれ。10海里マイル程度の距離なら問題なく交信できるそうだ」

 リンクスの言葉に会場がざわつく。

「ただし、混乱して適当に発信しないように。誰が何を言っているのか分からなくなるぞ。伝えたい時は相手が誰かを明確に意識して発信してくれよ。バックアップとしてインカムも配布しておくが、本作戦の通信はこの『精神連携マインドリンク』がメインだと思っておいてくれ」

 多分この「伝えたい相手を明確に意識」することによって、そらが相手にメッセージを届けてくれるのだ。
 この規模の作戦ではそれだけでも膨大な処理能力が必要になりそうだと思う。
 会場がざわつくのも分かる。
 そらはそれを意識の片隅でやりながら戦うのだ。


「それと、現段階で想定される転移が必要な位置には、既に神君がゲートを設置しておいてくれている。行き先がどこかもタグがついているから間違えないでくれよ」

 更にざわつきが大きくなった。
「神さんって、Hitoeのことだよね」という呟きと、「チーム白音、怖すぎ」という声が半々といったところだろうか。
 白音にも気持ちは分かる。前世でもし、こんな能力を持った異世界英雄たちに攻め込まれていたらと思うとぞっとする。
 きっと為す術もなく一瞬で壊滅させられるだろう。


「本当に撃つぞ」

 ぼそっと橘香が呟くと、空気の張り詰める音が聞こえそうなほどに静かになる。
 指示は指揮官である橘香から各部隊長、そして部隊員へと一本化される。
 橘香のこの統率力はかなりの強みになるだろう。

「ギルマスから聞いてのとおり、本作戦はチーム白音頼みだ。貴様らにはいつも負担をかけるが頼むぞ」
「任せて! 橘香ちゃん!!」


 莉美がピースサインを作って見せている。
 橘香がやれやれといった感じで肩をすくめてウインクをした。
 橘香ちゃん呼ばわりにも驚いたようだったが、あの鬼軍曹がウインクを返したのには全魔法少女が悶えた。
 あまり場を乱されるのは困るのだが、仕方あるまいと橘香は諦めている。
 なにしろ相手は莉美だ。


「き、きき…………」
「きっ…………」
「きっ、きっ」

 会場中が『き』という文字で埋め尽くされたが、『橘香ちゃん』と口に出す猛者は現れなかった。

 実際、すべての作戦を裏で支えているのは莉美である。
 莉美の不渇の魔力が無ければ、こんな大規模な作戦は立てられていないだろう。
 鬼も目をつぶるというものだ。片方だけだけれども。


「しら……名字川君はこの人数にリーパーいけるのかな?」

 リンクスが白音に尋ねた。
 呼び方を改めたのは、特別扱いをしているように思われたくなかったからだろう。

「人数、距離を考えると二乗掛けが限度ですね。尻尾出しますけどね。ギルドマスターさん」
「二乗掛けって、こんな大規模にやって本当に平気なのか?」


 リンクスが本気で心配している。
 以前にも見た、できればやめて欲しいと思っている顔だ。
 呼び方くらいでちょっと拗ねた自分が子供みたいだと、白音は反省する。

「ごめんなさい……、平気です。さすがに10海里マイル向こうの船までは無理ですが、指揮所までは入れて見せます。みんなで無事帰るために、やり切ります!」
「分かった。頼む!」


 会場は大半が年頃の女性だ。
 この会話だけで「ははーん、こいつら……なるほど」とピンときてしまった。
 このイケメンギルマスを狙っていた魔法少女は結構多かったのだが、白音は敵に回すにはあまりにも強大すぎる。
 嫌みを言うのすら命がけになりそうだと思わされる。


「みんなもリーパーで能力を強化されるとグっと来るからな、気をつけてくれ。加えて万能感みたいなものもあるから、調子に乗って無理をしないようにな」

 リンクスも白音にはよくグっと来ているから分かる。
 それでなんでもできる気になってしまうと、ろくな結果にならないのだ。


「あと、沿岸警備隊には船艇なんかの協力をお願いしているんだけど、窓口は外事特課の宮内君にお願いしてるからよろしくね。それと、なんでか海自もついてくるけど、こっちも窓口は宮内君で一本化してもらってる」

 蔵間があくまでついで、といった感じで付け加えた。
 自衛隊はこの会議への将官の派遣も要請していたが、あまり手の内は見せたくない。
 蔵間が多少なりとも信頼の置ける宮内のみを参加させて、彼を窓口とする条件を呑ませている。

 正直なところ官憲にはこの件に関して、『お墨付き』だけをくれればそれでよかった。
 さすがに魔法少女たちを犯罪者にはしたくない。
 それと予算だ。
 経費を計上させて魔法少女たちへの報酬が増やせれば、まあちょっとは感謝と譲歩もする。


「彼らとは利害が一致してるからね。一応味方だよ」

 一応と言われて宮内はばつが悪そうにするが、深々と頭を下げた。

「今回の件は、我々が根来衆に肩入れをし過ぎたが故に招いた事態です。魔法という新たな枠組みに、まったく対応できていない我々の失態を、毎度後始末させることになって本当に申し訳ない。よろしくお願いします」


 宮内さんはいつも頭を下げてばかりだなと白音は思う。
 年端もいかない小娘たちに頭を下げる仕事だなんて、ストレスあるんだろうなと同情する。
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