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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第41話 魔法少女ギルドVS根来衆 その二
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病室の扉を開けると、そこはブルームだった。
肩で風を切ってずんずん先に行く佳奈に気を利かせて、一恵が転移ゲートを繋いでくれたのだ。
「ごめ……」
気がついたらしい佳奈が振り返って恥ずかしそうに言うと、四人で爆笑した。
ちびそらも白音の肩の上で笑っている。
一恵がゲートを繋いだのはいつも使っているブリーフィングルームではなく、大きめの会議室だった。
大学の講義室のように演壇が一番低いところにあって、それを扇形のすり鉢状に机と座席が囲んでいる。
一恵はあらかじめ場所を聞いていたのだろうが、よりによってその演壇のど真ん中にゲートを出している。
演壇にはリンクスと、蔵間と、橘香、それに外事特課の宮内課長補佐もいる。
根来親通は異世界関連技術を海外へ持ち出そうとしていた。
政府にとっても到底容認はできないため、今回の作戦には協力してくれる。
ただ協力とは言っても戦力としては期待できない。
無人島での作戦となるため、艦艇などの手配をしてくれるのだ。
宮内はその窓口役としてここにいる。
聴講席の方には五十人ほどが座っていた。
中には男性もいるが、ほぼ女性ばかりだった。
多分全員魔法少女や魔法使いなのだろう。
会議室全体にただならぬ魔力が渦巻いているのを感じる。
もっとも待っていた側に言わせれば、会議室に漂っていた粒選りのはずの魔力が、チーム白音の出現によってすっかり上書きされてしまった。
会議室が『チーム白音』という雰囲気になってしまったのを感じた。
魔法少女たちは、命をかけた戦いに挑もうという時に、笑いながらやって来たチーム白音の胆力に驚きを禁じ得ない。
敵は百人の魔法少女、それも死人だと聞いている。
チーム白音は本作戦の主戦力だから、当然最も危険なところへ投入されるはずだ。
魔法少女ギルドに多大な被害をもたらしていた凶悪な逆巻姉妹を倒したという噂も、信じざるを得ない威風がある。
今日の橘香は『鬼軍曹』モードのようだった。
女性将校のような衣装を着ている。本作戦の指揮官となる。
白音たちに席に着くように指示すると、スクリーンにこれまでに得た情報を映し出す。
各人のスマホにも魔法少女アプリを通じて既にデータが送られているらしい。
いつもはそういう事務作業は橘香がやっているのだが、今日は量も多く橘香は指揮を執らねばならないため、他の数人の女性がやっていた。
彼女たちも魔法少女なのだろうが、事務方として橘香を手伝っているようだ。
白音は初めて見る顔だったが、そらは顔見知りらしかった。
データの他に、魔法少女各人にひとつずつリュックサックも配られていた。
親通が潜んでいるのが無人島であることを考慮して、数日の行軍に耐えうるように野営用の装備が入っているのだそうだ。
しかしここは軍隊ではないので、それは無骨な実用品ではない。
かなりかわいいデザインのリュックになっている。
中身も『女子がキャンプ』する時に要りそうなものが入っている。
この辺りは橘香たちが頑張ってくれたのだろうなと、白音は感謝する。
そしてここに集う魔法少女たちも皆、思い思いの『必需品』を持参していたので、それらをリュックに詰め替えている。
お菓子が大半だが。
連携を取るために、参加する魔法少女の能力の概要もデータ資料化されている。
しかしそらに聞けば、この場にいる魔法少女全員のことを教えてくれた。
能力の詳細まで既に把握しているらしい。
さらに資料には載っているがここにはいないメンバーも何人かいて、その子たちは多分先行して潜入しているのだろうとそらは推測する。
くノ一こと、佐々木咲沙もそのひとりだ。
「全部記憶してるのね」
と感心していると、
「もちろん一番詳しいのは白音ちゃんのこと」
と返ってきた。うん、かわいいストーカーだ。
白音たちが座る席の前列に、ひょこっと顔が現れた。
エレメントスケイプの火浦いつきだった。
「お久しぶりっす」
少し離れたところにはエレスケの他のメンバー、風見詩緒、水尾紗那、土屋千咲も座っていて、目が合うと会釈をしてくれた。
「あなたたちも参加するのね。でもこれ危険よ?」
エレスケたちはそれほど戦闘能力が高いわけではない。
だからあまり前線に投入されることはない。
「僕らはあの島を見張る任務っす」
沿岸警備隊の船や漁船に擬装した艦艇を配備し、それを各国の当局筋や一般人に悟らせないようにするのが主な任務らしい。
根来親通が潜伏していると思われる無人島は紀淡海峡にある。
ここは大阪湾へといたる海上交通の要衝であり、船舶の往来は激しい。
これら船舶の目を誤魔化しつつ島を海上封鎖し、脱出者がいないことを確認する役目だ。
直接的な武力の行使よりも情報戦の意味合いの方が強いのだろう。
そしてやはり、いつきもちびそらに目を奪われる。
「さっきから気になってたんすけど、この子はなんなんすか?」
いつきは手の平を上に向け、そっと手をちびそらの方に近づけた。
ちびそらはその手を両手で掴んでかぷっと噛んだ。
「あ…………」
白音は慌てたが、いつきは平気なようだった。
「大丈夫っすよ。甘噛みっすよね? お名前は?」
「ちびそら!!」
もちろん白音たちに聞いたのだが、ちびそらが直接答えたのでさすがに驚いたようだった。
「?! 喋ったっす…………よ?」
その時いつきの背中に、何かが当たる衝撃があった。
「いたたっ!」
振り向くと空中に拳銃がずらりと並び、銃口がいつきに向けられていた。
橘香の魔法だ。白音たちの見立てでは先程いつきに当たったのは暴徒鎮圧用のゴム弾だろう。
橘香のことだから低威力のものにしてくれているとは思うが、変身せずに食らうと結構痛いものだ。
「火浦いつきっ!! そのだらしない口を閉じろっ!!」
「うわわわっ!! ごめんっす、ごめんなさいっす!」
会場に笑いが漏れた。
「貴様らも同じだっ! 今死にたいかっ!!」
銃の数が増えて全員を射界に捉える。
会場がぴたっと静止した。
変身していないのにこれだけの数の銃が出せるとは驚きだ。
チーム白音がしごかれていた時よりも、明らかに魔法の出力が上がっている。
ここにいるのはギルドの中でも戦闘力の高さで選ばれた魔法少女たちばかりなのだが、橘香の迫力にひと言も声を出せなくなってしまった。
いつきは慌ててエレスケたちのいる席へと戻った。
「あれ?」
白音は、ちびそらがいつきの背中にしがみついているのに気がついた。
もし勝手気ままに動いていて騒ぎを起こそうものなら、橘香がちびそらハンティングを始めそうで怖い。
「いいの? そらちゃん」
「海上封鎖組と連携取りたいから、いつきちゃんと一緒に行ってもらったの」
そらが橘香に気づかれないように、小声で教えてくれた。
「それに…………あっちの方が安全そうなの」
そらがもっと声を落として白音の耳元で囁いた。
今度はちびそらに聞こえないようにしているようだった。
ちびそらがいつきの背中で、こっちに向かって元気よく手を振っている。
肩で風を切ってずんずん先に行く佳奈に気を利かせて、一恵が転移ゲートを繋いでくれたのだ。
「ごめ……」
気がついたらしい佳奈が振り返って恥ずかしそうに言うと、四人で爆笑した。
ちびそらも白音の肩の上で笑っている。
一恵がゲートを繋いだのはいつも使っているブリーフィングルームではなく、大きめの会議室だった。
大学の講義室のように演壇が一番低いところにあって、それを扇形のすり鉢状に机と座席が囲んでいる。
一恵はあらかじめ場所を聞いていたのだろうが、よりによってその演壇のど真ん中にゲートを出している。
演壇にはリンクスと、蔵間と、橘香、それに外事特課の宮内課長補佐もいる。
根来親通は異世界関連技術を海外へ持ち出そうとしていた。
政府にとっても到底容認はできないため、今回の作戦には協力してくれる。
ただ協力とは言っても戦力としては期待できない。
無人島での作戦となるため、艦艇などの手配をしてくれるのだ。
宮内はその窓口役としてここにいる。
聴講席の方には五十人ほどが座っていた。
中には男性もいるが、ほぼ女性ばかりだった。
多分全員魔法少女や魔法使いなのだろう。
会議室全体にただならぬ魔力が渦巻いているのを感じる。
もっとも待っていた側に言わせれば、会議室に漂っていた粒選りのはずの魔力が、チーム白音の出現によってすっかり上書きされてしまった。
会議室が『チーム白音』という雰囲気になってしまったのを感じた。
魔法少女たちは、命をかけた戦いに挑もうという時に、笑いながらやって来たチーム白音の胆力に驚きを禁じ得ない。
敵は百人の魔法少女、それも死人だと聞いている。
チーム白音は本作戦の主戦力だから、当然最も危険なところへ投入されるはずだ。
魔法少女ギルドに多大な被害をもたらしていた凶悪な逆巻姉妹を倒したという噂も、信じざるを得ない威風がある。
今日の橘香は『鬼軍曹』モードのようだった。
女性将校のような衣装を着ている。本作戦の指揮官となる。
白音たちに席に着くように指示すると、スクリーンにこれまでに得た情報を映し出す。
各人のスマホにも魔法少女アプリを通じて既にデータが送られているらしい。
いつもはそういう事務作業は橘香がやっているのだが、今日は量も多く橘香は指揮を執らねばならないため、他の数人の女性がやっていた。
彼女たちも魔法少女なのだろうが、事務方として橘香を手伝っているようだ。
白音は初めて見る顔だったが、そらは顔見知りらしかった。
データの他に、魔法少女各人にひとつずつリュックサックも配られていた。
親通が潜んでいるのが無人島であることを考慮して、数日の行軍に耐えうるように野営用の装備が入っているのだそうだ。
しかしここは軍隊ではないので、それは無骨な実用品ではない。
かなりかわいいデザインのリュックになっている。
中身も『女子がキャンプ』する時に要りそうなものが入っている。
この辺りは橘香たちが頑張ってくれたのだろうなと、白音は感謝する。
そしてここに集う魔法少女たちも皆、思い思いの『必需品』を持参していたので、それらをリュックに詰め替えている。
お菓子が大半だが。
連携を取るために、参加する魔法少女の能力の概要もデータ資料化されている。
しかしそらに聞けば、この場にいる魔法少女全員のことを教えてくれた。
能力の詳細まで既に把握しているらしい。
さらに資料には載っているがここにはいないメンバーも何人かいて、その子たちは多分先行して潜入しているのだろうとそらは推測する。
くノ一こと、佐々木咲沙もそのひとりだ。
「全部記憶してるのね」
と感心していると、
「もちろん一番詳しいのは白音ちゃんのこと」
と返ってきた。うん、かわいいストーカーだ。
白音たちが座る席の前列に、ひょこっと顔が現れた。
エレメントスケイプの火浦いつきだった。
「お久しぶりっす」
少し離れたところにはエレスケの他のメンバー、風見詩緒、水尾紗那、土屋千咲も座っていて、目が合うと会釈をしてくれた。
「あなたたちも参加するのね。でもこれ危険よ?」
エレスケたちはそれほど戦闘能力が高いわけではない。
だからあまり前線に投入されることはない。
「僕らはあの島を見張る任務っす」
沿岸警備隊の船や漁船に擬装した艦艇を配備し、それを各国の当局筋や一般人に悟らせないようにするのが主な任務らしい。
根来親通が潜伏していると思われる無人島は紀淡海峡にある。
ここは大阪湾へといたる海上交通の要衝であり、船舶の往来は激しい。
これら船舶の目を誤魔化しつつ島を海上封鎖し、脱出者がいないことを確認する役目だ。
直接的な武力の行使よりも情報戦の意味合いの方が強いのだろう。
そしてやはり、いつきもちびそらに目を奪われる。
「さっきから気になってたんすけど、この子はなんなんすか?」
いつきは手の平を上に向け、そっと手をちびそらの方に近づけた。
ちびそらはその手を両手で掴んでかぷっと噛んだ。
「あ…………」
白音は慌てたが、いつきは平気なようだった。
「大丈夫っすよ。甘噛みっすよね? お名前は?」
「ちびそら!!」
もちろん白音たちに聞いたのだが、ちびそらが直接答えたのでさすがに驚いたようだった。
「?! 喋ったっす…………よ?」
その時いつきの背中に、何かが当たる衝撃があった。
「いたたっ!」
振り向くと空中に拳銃がずらりと並び、銃口がいつきに向けられていた。
橘香の魔法だ。白音たちの見立てでは先程いつきに当たったのは暴徒鎮圧用のゴム弾だろう。
橘香のことだから低威力のものにしてくれているとは思うが、変身せずに食らうと結構痛いものだ。
「火浦いつきっ!! そのだらしない口を閉じろっ!!」
「うわわわっ!! ごめんっす、ごめんなさいっす!」
会場に笑いが漏れた。
「貴様らも同じだっ! 今死にたいかっ!!」
銃の数が増えて全員を射界に捉える。
会場がぴたっと静止した。
変身していないのにこれだけの数の銃が出せるとは驚きだ。
チーム白音がしごかれていた時よりも、明らかに魔法の出力が上がっている。
ここにいるのはギルドの中でも戦闘力の高さで選ばれた魔法少女たちばかりなのだが、橘香の迫力にひと言も声を出せなくなってしまった。
いつきは慌ててエレスケたちのいる席へと戻った。
「あれ?」
白音は、ちびそらがいつきの背中にしがみついているのに気がついた。
もし勝手気ままに動いていて騒ぎを起こそうものなら、橘香がちびそらハンティングを始めそうで怖い。
「いいの? そらちゃん」
「海上封鎖組と連携取りたいから、いつきちゃんと一緒に行ってもらったの」
そらが橘香に気づかれないように、小声で教えてくれた。
「それに…………あっちの方が安全そうなの」
そらがもっと声を落として白音の耳元で囁いた。
今度はちびそらに聞こえないようにしているようだった。
ちびそらがいつきの背中で、こっちに向かって元気よく手を振っている。
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