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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第37話 そらの声 その一

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 青い鳥ブラウアフォーゲル
 彩子はその青い光の鳥に追いつき、切断髪ギロチンでばらばらに寸断した。

 この鳥が白音たちの元へ届いたら何かが起こる。
 そう感じて追い縋ったが間に合った。
 そらはもう死んでいるし、鳥は届かなかった。

 白音たちがひとりで戻ってきた彩子を見た時、その顔が絶望に染まった。
 それを見て彩子は愉悦する。

 多分白音たちにも分かっていたはずだ。
 そらから情報がもたらされれば白音たちの勝ち。
 彩子が先に戻ってくれば逆巻姉妹の勝ち。

 だが、敗者をより美しく飾るはずのその悲嘆の表情は、長く続かなかった。
 何故か白音たち四人はすぐに希望に満ちた表情になり、むしろ今すぐにでも姉妹を倒そうという構えに見える。


「なんだい、アンタら。仲間が死んだのがそんなに嬉シいのかネ?」
「ハン。下らない揺さぶりはやめな。ここから先はアタシたちがあんたらに完勝する、結果の見えた戦いだよ」

 佳奈が魔力を昂ぶらせて赤く、深く自らを染め上げていく。

 彩子は内心、何か見落としがあったのかと焦った。
 仲間を殺されてこんな顔ができるのは、自分たちのような異常者以外には見たことがない。


知的非生命体ボットジングラリテット!!]

 チーム白音の四人には、精神連携マインドリンクでそう叫ぶそらの声が聞こえていた。
 直前にそらの魔力が膨れ上がるのも感じた。
 多分そらが星石と融合を果たし、目覚めた新しい魔法だろう。



[権限委譲確認。魔法『悪魔のダイストイフェルスヴュルフェル』起動します]

 そらがよく分からないことを言っていたが、それはいつものことである。
 そして今も、リンクを通じてそらが戦闘指示を出し続けてくれている。

 こちらに来られないのは怪我をしているのかもしれない。
 少し心配だが声は元気だ。
 姉妹を倒して駆けつければよい。
 四人はそう思った。


 彩子さいこ京香きょうかが並び立つ。
 その威容にはやはり圧倒されるものがある。
 白音たちはふたりが連携して戦うところを、まだ見たことがない。


「いくよ京香」

 彩子は考えを切り替えることにした。
 あるかどうかも分からないことを危惧しても仕方がない。
 目の前にいる敵四人を全力で殺せばいいだけの話だ。
 立ち塞がる者はすべて力ずくで排除する。
 それが姉妹の生き方だ。


「ああ」

 京香は姉の声に呼応して内在する魔力を高めていく。
 今までが全力ではなかったことに、予想はしていたもののやはり驚愕を覚える。
 とんでもない圧力だ。絶対に攻撃を食らいたくないと感じる。

「ここからは全身全霊、本当の全力で行くからね。お前たち、簡単に死ぬんじゃないよっ!!」


 姉妹の間に言葉はいらないようだった。
 目を瞑っていてもお互いのすることは分かる、そういう感じだった。
 だがそれでも、マインドリンクで指示してくれているそらからすれば、ここから先はもはや予測可能な未来、なのだろう。

 京香は白音を標的に選んだようだった。
 おそらく彩子は白音と相性が悪い。
 搦め手を得意とする彩子のやり口は、ほぼ白音には通用しない。

 前回こそ上手く封殺しているが、真正面からぶつかれば白音につけいる隙はない。
 いやむしろ封殺されたからこそ、その借りを返すべく機会を窺っているに違いないのだ。

 そして明らかに、どうやったのかは知らないが白音は前回よりも桁違いに強くなっている。
 であれば京香が真っ先に潰すべきは白音しかない。

 空気が摩擦で燃えるほどの速度で京香がパンチを放つ。
 佳奈でもあるまいに、白音にはそんなもの受け止めるパワーはない。
 光剣を寝かせて拳の勢いを殺して受け流す。

 お互いの魔力が干渉し合って、その波紋が火花のようにふたりの間に広がった。
 当然その怪物担当は自分だと思っていた佳奈が憤慨する。

「おい! お前の相手はアタシ…………、つっ!!」


 佳奈の視覚外、ありとあらゆる方向から彩子の切断髪ギロチンが迫る。
 髪の毛の偽装をやめたそれは、射程が10メートル以上はあろう。
 佳奈を仕留めるために多方向に回り込ませているのだ。

 佳奈はその拳で次々に襲い来る魔力糸を叩き潰していったが、いくつか体を貫かれてしまった。
 しかし今の佳奈には大して効いている様子はなかった。

 むしろこんなものでそらに攻撃していたのかと思うと、猛烈に腹が立ってきた。
 佳奈が自分の体から引き抜いた魔力糸を思いっきり引っ張ったので、彩子が慌てて魔法を解除して切断髪ギロチンを消失させる。
 髪の毛を使っていたら、危うく本当にむしられるところだった。

 彩子が佳奈を引きつけている間に、京香がもう一度白音に攻撃を放つ。

「何度やっても同じよっ!!」
「そうかな? お前のは剣だけど、アタシのは手なんだよっ!!」

 殴り付けた拳がまた光剣に受け流されようとした瞬間、京香は手を開いてその光剣を掴んだ。
 じゅうぅぅぅぅと音を立てて煙が上がる。
 肉の焦げるにおいが辺りに広がるのにも構わず、京香は光剣をぐいと引き寄せてもう一方の拳を繰り出す。
 白音は慌てて死なずに済むよう、魔力を顔の防御に集める。


「白音ちゃん!!」

 間に一恵が割って入った。
 次元障壁では魔力で上回られて粉々にされるため、ほとんど意味がない。
 時間の進行が少し遅くなるような物理式を持った空間が、一恵の周囲を覆っている。
 白音に代わってこの大気を焦がす拳を受ける気なのだ。

 ぶに。

 さらに一恵と赤熱する拳の間に、魔力の壁が割って入った。

アメニティバリアもち!!」

 焼き餅にはならないようだった。
 奇しくも莉美と一恵の考えが一致した結果、柔の防御が一恵を守った。

 しかし柔よく剛を制すまでにはいたらず、もちも物理式も突破して一恵の顔面に拳が届いた。
 頬骨が砕けて一恵が吹っ飛ぶ。


「一恵ちゃん!!」

 防御がなければ死んでいたのかもしれない。
 しかしとりあえず生きてはいるようだった。
 フラフラと立ち上がった一恵は、顔が歪んでひどい有様になっていた。


「このっ。一恵ちゃんの綺麗な顔になんてことするのよっ!!」
(あっ、ちょっと殴られた甲斐あったかも)

 顔を紅潮させて怒る白音を見て一恵は思った。


 結局、それでも結局、逆巻姉妹はそらの最期の魔法、悪魔のダイストイフェルスヴュルフェルの手の平の上だった。

「あのちびはもう死んだ。お前らに勝ち目はもうないネ」

 そう言って彩子は白音たちを再度挑発する。

「何度も挑発するのは、焦ってるって見え見えなんじゃないかしら?」

 白音がウィンクをして、人差し指を立てて振っている。めちゃくちゃ癇に障る言い方だった。

 彩子が顔を怒りに歪め、佳奈から白音に標的を切り替えようとして一歩前に踏み出した。しかし、それにタイミングを合わせて突然、足下に穴が空く。
 四角柱状に綺麗にくり抜かれて、巨大な縦穴が出現する。
 一恵だった。

 そして彩子がよろめいた瞬間、佳奈がその穴に彩子を叩き落とす。
と、同時に京香と対峙していた白音がステップを踏んで横に逃れる。

「今よ、この位置!!」


 莉美が白音の背後で、破天砲ローグキャノンを撃つ準備をして待っていた。
 莉美は少し低いところに陣取っているため、少し撃ち上げる格好になる。
 そらの誘導によるとこの瞬間、上空にも軌道が登録されている人工衛星などは無いので平気らしい。

 白音は精一杯、自分も魔力を高めて京香の注意を引いていた。
 この背筋の粟立つような破壊の気配を少しでも誤魔化すためだ。

 京香もさすがに莉美が何かやっている気配は感じていた。
 しかしその手に集まった莫大な魔力の塊を見て、頭の芯が痺れるほどの喜びを感じた。

 そらの声に[京香は避けない]と言われているのだが、さすがに莉美は半信半疑だった。
 発射までに隙だらけで、京香に避けられないような速度ではない。
 だが京香は腰を落として受ける構えを取った。


「京香!!! やめろっ!」

 叩き落とされた穴の底から彩子が叫んだ。
 けれど京香は、「ごめん」と呟いてその全魔力を防御に集中させる。


ガイデッドキャノンぜったいあたるやつ前駆体いっぱつめ発射!!」

 直径3メートルくらいの極太ビームが京香めがけて飛んでいった。
 二重増幅強化ダブルハウリングリーパーの影響下でこんなことをすれば多分、後で国連の議題になるだろう。それほどの威力だった。

 白音や彩子の位置からでは眩しくて確認できなかったが、京香は止め処なく迸るビームを、真正面から受け止めて耐えていた。
 京香に干渉せずその周囲を通り過ぎた余剰のビームは、トンネルのようになって京香を包んでいる。
 足下の地面はとっくに削り取られて蒸発していたが、高速で通り過ぎるエネルギーの奔流によって内側へと押す圧力が発生し、京香をビームの中心に固定していた。

 京香は、宙に浮いたまま身動きが取れなくなっていることに気づいた。

「む」
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