ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

文字の大きさ
上 下
88 / 214
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第27話 月が見てる その二

しおりを挟む
 リンクスは身動きの取れなくなった白音に、白銀に輝く魔核を見せた。
 それはリンクスを守って戦い、そして散った義妹いもうとの魂なのだという。
 リンクスはこの魔核に適合する体を探すため、異世界からこちらの世界へと渡った来た魔族だった。
 適合する体さえあれば、義妹いもうとをこの世に呼び戻すことができるのだ。
 そして白音と白銀の魔核は呼び合う。魂が共鳴するように、脈動する。

 リンクスは美しく輝く魔核を、白音の胸元に押し当てようとする。

(そうか、リンクスさんが見つめていたのは私じゃ無かったんだ。義妹いもうとさんだったのね)

 白音は瞳を閉じた。

……………………。
……………………。



 その翌日、日曜日の朝からアジトに白音を除いたチーム白音の面々、佳奈、莉美、そら、一恵の四人が集まっていた。
 ただやはりリーダーがいないとまとまりを欠くというか、精彩が無いというか、要するに退屈していた。
 莉美とそらがふたりで用意した昼食の炒飯にも皆あまり箸が進まない。
 もう子供ではないのだから、それはそういうこともあるだろう。
 しかしアジトに顔を出さない、連絡もない白音のことがさすがに佳奈は少し気になっていた。
 白音らしくないと思う。

 しかし莉美はさして心配している風もない。

「リンクスさんとよろしくやってるんじゃないの?」

 みんなうっすらと感じてはいた。
 しかしいきなり、莉美がそれを具現化させてしまった。
 全員がそれぞれの想いで複雑に反応する。

「あのさ、みんな。わたしたちもういい大人だと思うのね。魔法少女って恋愛禁止って訳でもないんだし、温かく見守ってあげられたらって、思うんだけど」

 一瞬凍り付いたような空間を、一恵が再び動かし始める。
 さすがは空間を操る魔法少女である。
 ただし、タレント活動休止中とは言え、一恵だけは事務所から恋愛禁止のお願いを本当にされている身だ。

「ふたりの反応を見るに、既に上手くいくことは確約されていると思うの。あとはリーダーの負担をみんなで分担して、時間を作ってあげるべき」

 そらが今回のミッションで一番問題になりそうな点を指摘する。
 さすがはチーム白音の頭脳、知性の魔法少女である。
 ただし、今回の大人の階段はそらにはまだ早い。

「白音なら大丈夫でしょ。欲しいものがあったら瞬殺すりゃいいだろ。あいつにできないことがあるとは思えないんだけど」

 佳奈が物騒なことを言う。
 さすがはチーム白音随一のハンター。
 身体能力ナンバーワンの魔法少女である。
 ただし、佳奈は口ほどに男性への免疫はない。

「白音ちゃん、最近かわいくなったよね。元からだけど」

 莉美は莉美である。
 これをまとめるリーダーは大変だろう。
 恋愛などしている場合ではないかもしれない。

「でもさあ…………」

 佳奈は一向に既読の付かないSNSを見つめている。

「相談くらいしろよな…………」
「相談くらいあってもいいよね…………」
「相談くらいして欲しいの…………」
「相談されたら天にも昇る気持ちよね…………」

 みんなでハモった。
 結局全員そこが寂しいのだった。
 白音が自分だけのものにならないのはまあ、仕方がない。

 ややあって、誰からともなく笑い出した。
 顔を見合わせて皆で笑う。

「あとで根掘り葉掘り聞いてやるかぁ」

 佳奈のその言葉にそらが目を輝かせた。
 そして一恵は期待に鼻息を荒くする。


「ってあれ? なんだこれ?」

 佳奈が見つめる前でSNS上の白音のステータスが変更になった。
『なりすましの可能性あり、サービス停止中』とある。
 それぞれ自分のスマホを確認するが、やはり白音のステータスは同じく『サービス停止中』である。

「なりすましってなんだよ?」

 不穏な感じがして、佳奈がそらに答えを求める

「AIがこの判断を下すのは、かなり似た魔力紋エーテルパターンでアクセスしようとした時。アップデート前なら認証を通ってたような一致率で、新たに開発された高精度識別アルゴリズムで初めて検出できるような差異しかない場合」
「つまり?」
「うっかり間違いそうなくらいそっくりな魔力紋エーテルパターンでアクセスがあったってことね、そらちゃん? 他人ではあり得ないくらい似てるけど、でも本人じゃない。だから意図的ななりすましの可能性が…………」

 一恵がもう少し噛み砕いて説明しようとしたのだが、そこまで言って急に言葉を止めて青ざめた。

「っ!! そらちゃん。白音ちゃんの居場所突き止めて!!」

 一恵の声が悲鳴に近くなった。

「なんだよ、白音に双子の妹でもいたってこと?」

 そう問いかけた佳奈の両肩を一恵が掴む。

「そんなんじゃない、そんなんじゃないの!! 急がないとっ!」

 一恵がこんな風に動揺するのはいつも白音がヤバい時だ。
 それに今回は一恵の焦り方が尋常ではない。
 訳も分からないまま、その不安がみんなに伝染していく。

 そらがブルームに電話をかけながらコンピュータルームへと駆け込んで行った。
 スマホをスピーカーモードへ切り替えてキーボードを叩き始める。
 ブルームの方でもこの『なりすまし』は把握しているようで、対応を急いでいるところのようたった。
 チーム白音は、魔法少女ギルドの抱えるチームの中でもトップクラスの実力を持っている。
 それはもう疑う余地もない。
 そのチームのリーダーのアカウントが不正アクセスを受けたということは、由々しき事態である。
 少なくとも、一国の政治体制が揺らぐようなテロやクーデーターと同レベルの警戒で当たる必要がある。
 それほどの大事おおごとなのだ。

 そらがロック中の白音のスマホ、そのGPSデータを開示するよう求めた。
 しかしブルーム側に渋られた。

「どうせ断ってもデータはいただくの」

 そんな風に付け加えても彼らは、「今社長がこちらに向かっているところだからその判断を待って欲しい」と譲らなかった。
 その待つ時間が惜しいから言っているのだが、個人情報の開示を渋る立場も分からなくはない。
 なりすましが発生している以上、電話の相手が本物のそらであるという保証すらないのだ。

 これ以上は時間を浪費するだけだと判断して、そらは魔法少女へと変身した。
 そもそもそらは、ブルームのデータベースへのアクセス権を持っている。
 アジトに構築した設備と脳を直接リンクすれば、相手がスパコンであろうと、秘匿された個人情報を引き出すことなど造作もない。

 しかしそらがハッキングに取りかかる前に、一恵も変身して転移ゲートを出す。

「佳奈ちゃんも来て」

 一恵はそれだけを言いのこして素早くゲートに消える。
 意図が分からずのこされた三人は顔を見合わせたが、すぐにスマホから聞こえた音声で一恵の行き先が判明した。

「これで本人確認はできたでしょ。さっさと居場所教えなさい。もし、もし手遅れになったら、この世界に責任とってもらうから!!」

 ブルームに向かった一恵があちらで研究員を脅していた。
 脅し方が悪の親玉のそれになっている。
 佳奈も急いで変身してゲートに飛び込む。

 しばらくは佳奈が間に立って何とか穏便に居場所を教えてくれないかと説得していた。
 しかし研究員は、社長すなわち蔵間の到着まで待ってくれないかと言うばかりで、どうしても折れない。
 そして最後に「ガンッ!!」という大音量の打撃音がスピーカーから聞こえてきて静かになった…………。
 一拍の間を置いてふたりがゲートから返ってくる。

「オッケーだってさ」

 佳奈がしれっとそう言うと、すぐにそらの元にアクセス権限が与えられた。

 緊急事態と判断したとは言え、自分のためにハッキングしたと知ったら白音が気に病むかもしれないと思った。 
 それでそらは少し躊躇していたのだが、佳奈のやり方と果たしてどちらが良かっただろうか。
 わざわざ変身してからあちらへ向かったあたり、佳奈もそういうことを想定していたのだろう。
 ブルームの方で何があったのかそらは見ていない。
 見てはいないが、ハッキングにはいろんな手法があるということなのだろう。
 一恵の焦る様子を見ていると、手段の是非を判断している余裕などないことは明らかだった。


「佳奈ちゃん、ありがと」

 その迅速なハッキング手法に感謝を捧げ、そらは急いで白音のスマホのGPSデータを探った。
 持ち主が魔法少女であると認証されていて、さらに今回のような形でスマホがロックされた場合、電源を落とさない限りは自動的に位置情報をブルームに知らせてくるようになっている。
 その機能は正常に働いているようだった。
 場所は都内らしい。
 白音のスマホは歩くくらいの速度で道路上を移動している。
 なりすました誰かが勝手に持ち歩いているということだろうか。
 しかし一恵の尋常ではない取り乱しようは、もっと別な事態を想定しているようにも思える。


「みんな、この場所へ急ぎましょう!!」

 一恵はもどかしい気持ちを必死で抑えてそう言った。
 GPSが示している場所は、一恵にとって土地勘のない場所だった。
 彼女の転移ゲートは自分が見知った場所、思い浮かべることのできる場所にしか行けない。
 桃澤千尋が使っていた転移魔法のように、柔軟な使い方はできないのだ。

 だが幸いなことに、莉美がその付近の鉄道駅を知っていた。
 以前に利用したことがあるらしい。
 ひとまず四人でその駅へと向かうことにする。
 精神連携マインドリンクで莉美と一恵を繋ぐことで、莉美の知るその駅へと一恵が転移ゲートを開けるようになる。
 そらはリーパーなしでも複数名と同時リンクできるようになっておいて、本当に良かったと思った。

 一恵が転移ゲートを出してくれると、ひとりだけまだ変身していなかった莉美も変身しようとした。
 しかしそらがそれを止める。

「待って。向こうは人通りの多そうな駅前なの」

 そう言ってそらは変身を解いた。

「あ、そうね。そらちゃんありがとうね」

 いつもはそういうことを真っ先に気にする一恵が、そらの言葉に少し冷静さを取り戻す。
 確かに日曜日の真っ昼間、都内の街中を色とりどりの魔法少女たちが駆け抜けるのはまずいだろう。

 変身を解除して、四人で慎重にゲートをくぐる。

「いつでも変身できる用意はしておいてね」
「おうさ」
「了解っ!」
「あい」

 一恵が声を掛けると、三人が頼もしく返事をしてくれた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...