ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

文字の大きさ
上 下
86 / 214
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第26話 魔法少女のお誕生会 その三

しおりを挟む
 若葉学園でのお誕生会。その出し物で、チーム白音の本物の魔法少女ショーが始まった。
 出たとこ勝負のアドリブで、一恵が悪墜ち魔法少女『紫頭巾』を演じる。
 白音たちは人質にされた怜奈れなを取り戻し、『紫頭巾』の捕縛に成功する。


 白音が一恵の紫頭巾ふくめんを剥ごうとすると、彼女が身もだえした。

「と、取らないで。見ないで、お願い!!」

 その迫真の演技に、白音の方が悪いことをしているような気になってきた。
 白音が「いやいや、こっちが正義の魔法少女ですから」と自分に言い聞かて頭巾を剥ぎ取ると、少し上気した一恵の顔が現れた。
 白音を潤んだ瞳で見つめている。

「あん……」

 はらりと髪の毛が一筋、一恵の端整な面立ちに垂れかかった。
 計算でやってるなら本当にすごいと思う。

「うう……。じゃなくて! ま、マジカル……スカイを返しなさい!!」
「はい……」

 悪の魔法少女が観念すると、そらが元いた場所に再び現れた。
 今度は少し上に転移ゲートが現れてそこから降ってくる。
 そらも予期していたのか綺麗に着地すると、子供たちから拍手が湧いた。


「このまま退治しようかしら?」

 白音は手に光の剣イセリアルブレードを出した。
 磔になったまま抵抗できない一恵の喉元に剣を突きつける。
 軽くいびっていると、一恵がなんだかだんだん艶めいた表情になってきた。
 白音が小声で「もう少し反省してる感じにしてよ」と言いながら子供たちの方を見る。
 紫頭巾の処遇は子供たちに仰ぐつもりだ。


「……かわいそう」

 誰かが呟くと、「紫の人を助けてあげて」という声が起こり始めた。

「ですってよ? あの子たちに感謝しなさい。チャンスを上げる。いい子になるなら助けてあげる」
「改心……目が覚めました。正義の魔法少女になります。どうかしら……マジカルチェリーちゃんの下、どれ……仲間にして下さい」

 白音が光の剣を引き、莉美が磔を解くと、一恵は白音の前に跪いた。

「チャンスをくれてありがとう。一生お仕えします」

 一恵が白音の手を取ってその甲にキスをする。
 みんなアドリブで好き勝手にやるから、趣味が丸出しになっている。
 しかしおかしなところは多々あったが、なんとか大団円にもって行くことができた。
 子供たちが拍手喝采を贈ってくれる

 最後は名残を惜しむ拍手鳴り止まず、皆で並んでHitoeの歌を唄った。
 人前で唄うのが苦手な佳奈とそらも、子供たちのためならと頑張ってくれる。
 Hitoeの歌はカラオケに行くと必ず唄うので、みんな全曲振り付きでマスターしている。
 白音は人質役にされてしまった怜奈の腕を取って、一緒に唄った。
 怜奈とは反対側の席がやや取り合いになっていたが、今日はそらが勝利した。
 そらが白音の空いた方の腕を取る。
 子供たちも巻き込んで、その場の全員で大合唱になる。
 白音は誘拐された怜奈や悠月ゆづき明理彩ありさ華音かのんの様子が心配でずっと見ていたのだが、楽しそうにしているようでほっとした。


 夕食を終えると、子供たちお待ちかねのバースデイケーキの時間だった。
 そして九月に誕生日を迎える子たちにプレゼントが手渡される。
 プレゼントは蔵間理事かららしかった。
 日本国中すべての施設にとはいかないが、関東一円の養護施設にはこのような贈り物をしているらしい。
 白音は蔵間の本気を垣間見た気がした。

 白音の分もちゃんと用意してあって、あとで蔵間にお礼を言わなければ、と思う。
 白音には桜貝をあしらった筆記具が送られた。
 顔を知っている子には、ちゃんと蔵間が自分でプレゼントを選んでいると聞いた。
 プレゼントに心が込められているのが感じられて、白音は嬉しかった。
 が、プレゼント選びの趣味が完全に女子だ。
 多分これで勉強してブルームに入って欲しい、とか思ってるんだろうなと想像できる。


 日が落ちて辺りが暗くなってくると、小さな子たちは風呂の時間になる。
 楽しいひと時、お誕生会はここでお開きとなった。
 魔法少女と離れがたい、といった雰囲気のかわいい弟妹たちが、名残惜しそうにしながら先生に連れられて行く。
 そして年長の子はお茶を愉しみながら、もう少し秋の夜長をくつろいで過ごす。
 九月生まれの夜更かし組は、白音だけだった。

「今日は中秋の名月だしね。お月見会、という名目であなたたちへの感謝の会なのよ」

 敬子がそう言った。

 お月見会に参加する年長の子とは、白音の誕生日プレゼントを買おうと企画してくれた七人のことである
 この子たちはこの前の一件では当事者でもあったし、中には肉食猫科覆面チームの活躍を目の当たりにした子もいる。
 だからおおよその事情は既に聞かされていた。

 その七人が白音の前にやって来た。少しはにかんで、怜奈が代表で白音にプレゼントを手渡す。
 桜の花をあしらった小物入れをもらった。

「ありがとっ!!」

 白音が七人を順にハグしていく。

(みんなのイメージってやっぱり桜色なのよね……。以前は白の方が好きだったんだけど)

 しかし今聞かれれば、白音自身も好きな色は桜色だと答えるだろう。
 なんだか星石にしてやられた気がする。

 八人目に随分背の高い子が並んで待っていた。
 一恵だった。
 白音は一恵にも腕をしっかりと回してきゅっとハグをした。
 多分一恵はツッコミ待ちのつもりだったのだろう。
 本当に抱きしめられるとはちょっと予想外だったようで、「ふあっ?!」と変な声を出した。
 けれど今日は『頭巾さん』も頑張ってくれていたと思う。
 感謝のハグだ。

 そうすると今度は、一恵からプレゼントの包みを差し出された。
 チーム白音からのプレゼントで、いつの間に行ったのやら、四人で一緒に選んできたものだと言って白音に手渡す。
 かわいらしいリボンのついたラッピングをほどいてみると、中には淡いピンク色の下着が入っていた。
 白音も「ふあっ?!」と思わず変な声が出た。
 上下のセットアップだ。
 レースのフリルの着いたフェミニンなデザインは女心をくすぐる。
 四人によると勝負下着ということらしい。

(これを着けろって言うの? かわい過ぎるんですけど……)

というのが白音の感想だった。
 男心をくすぐるのかどうか、そんなのは知らない。

 その時、テーブルに置いてあった白音のスマホのバイブ音がした。
 メッセージの通知だ。

「おや、早速勝負下着の出番ですね?」

 莉美が茶化す。

「何言ってんのよ、もう……」

 言いながら白音はさっとスマホをカバンに入れてしまった。
 ちらっと見たところ、確かに送り主はリンクスだった。
 やはり莉美は変なところでさとい。



 賑やかなお誕生会が終わり、その帰り道は満月がとても大きくて明るい夜だった。

 少し名残惜しい気持ちがあるのだが、白音は黎鳳れいほう学院の寮に帰る。
 いつも有り難いことに、一恵がひとりずつ家まで送ってくれる。
 しかし魔法少女であることを知られているとは言え、さすがに学園の皆が見ている前で堂々と転移して帰るのはまずい。
 しばしの間、月夜の散歩を五人で楽しんだ。

 白音がこっそりスマホを確認すると、リンクスからの誕生祝いのメッセージが入っていた。
 若葉学園にいることは知っていたようで、みんなで楽しく過ごして欲しい、とあった。
 お礼の返事を書こうとするのだが、なんだかどんどん季節のご挨拶のような堅くて無味乾燥な文章になっていく。

「ふむふむ」

 気がつけば莉美が覗いている。

「ちょっと!!」
「これは翻訳すると、俺とも楽しく過ごして欲しい、ということですな?」
「いやいや、そんなことないでしょ」

 白音は別段隠し立てすることもなく、みんながスマホを覗き見るに任せている。
 やましいことなど何も無いと、ことさらに強調したいのだ。

「ハートマークいっぱい付けよ? 白音ちゃんならハート一個でひとり撃破可能と推測」

 そらが作戦提案をしてきた。

「ゲームみたいに言わないでよ…………そんなことしないわよ」
「誕生日に自分より友達を選んだから、嫉妬入ってるのかもね」
「えっ……?」

 佳奈が何の気なしにぽろっとこぼした言葉に、白音がフリーズしてしまった。

「まあ、そんな束縛する人じゃないわよ。ちょっと拗ねてるだけじゃないかな?」

 大丈夫、大丈夫、と一恵が慰めてくれる。
 何か違う。

「いや、あんたたち、そんなのまるで恋人みたいじゃないのよ」
「…………」

 無言で四人が白音を見つめる。

「何か言ってよ……」



 一恵が順番に皆を家に送り届けて、最後に黎鳳の寮へと転移ゲートを開く。
 わざわざゲートを一緒にくぐって白音を見送ってくれた。
 去り際に、少し心配したような表情で一恵は白音の手を取る。

「急がないで、ゆっくりね。今更ほんのちょっとの時間、待てなくなんてないんだから、白音ちゃんの思うペースで慎重にね」
「う、うん? 分かった」

 先輩は語ると言う奴だろうか?
 リンクスのことを言っているのだろうなとは思ったが、白音には一恵の言わんとすることがちゃんと理解出来たのか、正直自信は無かった。
 一恵はきっと、そういう経験が豊富なんだろうなと思う。
 でもなんかちょっと言い方おかしいよね、とも思った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...