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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第26話 魔法少女のお誕生会 その三

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 白音が一恵の覆面を剥ごうとすると、一恵が身もだえした。

「と、取らないで。顔を見ないで、お願い!!」

 迫真の演技に、白音の方が悪いことをしているような気になってきた。
 紫頭巾を外すと少し上気した一恵の顔が現れた。
 白音を潤んだ瞳で見つめている。

「あん……」

 はらりと髪の毛が一筋、一恵の端整な面立ちに垂れかかった。
 計算でやってるなら本当にすごいと思う。



「うう……。じゃなくて! ま、マジカル……スカイを返しなさい!!」
「はい……」


 悪の魔法少女が観念すると、そらが元いた場所に再び現れた。
 今度は少し上に転移ゲートが現れてそこから降ってくる。
 そらも予期していたのか綺麗に着地すると、子供たちから拍手が湧いた。


「このまま退治しようかしら?」

 白音は手に光の剣を出した。
 磔になったまま抵抗できない一恵の喉元に剣を突きつける。

 軽くいびっていると、一恵がなんだかだんだん艶めいた表情になってきた。
 白音が小声でもう少し反省してる感じにしてよ、と言いながら子供たちの方を見る。
 紫頭巾の処遇は子供たちに仰ぐつもりだ。

「……かわいそう」

 誰かが呟くと、「紫の人を助けてあげて」という声が起こり始めた。


「ですってよ? あの子たちに感謝しなさい。チャンスを上げる。いい子になるなら助けてあげる」
「改心……目が覚めました。正義の魔法少女になります。どうか白……マジカルチェリーちゃんの下、どれ……仲間にして下さい」


 白音が光の剣を引き、莉美が磔を解くと、一恵は白音の前に跪いた。

「チャンスをくれてありがとう。一生お仕えします」

 一恵が白音の手を取ってその甲にキスをする。
 みんなアドリブで好き勝手にやるから趣味が丸出しになっている。
 しかしおかしなところは多々あったが、なんとか大団円に持っていくことができた。
 子供たちが拍手喝采を贈ってくれる

 最後はみんなで並んでHitoeの歌を歌った。
 人前で歌うのが苦手な佳奈とそらも、子供たちのためならと頑張ってくれている。
 Hitoeの歌はカラオケに行くと必ず歌うので、みんな全曲振り付きで歌えるようになっている。

 白音は人質役にされてしまった怜奈の腕を取った。
 反対側のポジションがやや取り合いになっていたが今日はそらが勝利した。

 子供たちも巻き込んでその場の全員で合唱になる。
 白音は誘拐された怜奈や悠月ゆづき明理彩ありさ華音かのんが心配で様子を見ていたのだが、楽しそうにしていてくれるようでほっとした。


 夕食を終えると、お楽しみのケーキが出された。
 そして九月に誕生日を迎える子たちにプレゼントが手渡される。

 蔵間理事かららしい。
 日本国中すべての施設にとはいかないが、関東一円の養護施設にはこのような贈り物をしているらしい。
 蔵間の本気度が垣間見えた。

 白音の分もちゃんとあって、あとで蔵間にお礼を言わなければ、と思う。
 桜貝をあしらった筆記具が送られた。
 顔を知っている子には、ちゃんと蔵間が自分でプレゼントを選んでいると聞いた。
 だがプレゼント選びの趣味が女子だ。
 多分これで勉強してブルームに入って欲しい、とか思ってるんだろうなと想像できる。


 暗くなってくると小さな子たちはお風呂の時間になる。
 お誕生会はお開きとなった。
 魔法少女と離れがたい、といった雰囲気のかわいい弟妹たちが、名残惜しそうにしながら先生に連れられて行く。

 そして年長の子たちはお茶しながら、ここからお月見会となる。

「今日は中秋の名月だしね。お月見会、という名目であなたたちへの感謝の会なのよ」

 敬子がそう言った。

 お月見会に参加する年長の子とは、白音の誕生日プレゼントを買おうと企画してくれた七人である
 この子たちはこの前の一件では当事者でもあったし、肉食猫科覆面チームの活躍を目の当たりにした子もいる。 おおよその事情は既に聞かされていた。

 その七人が白音の前にやって来た。
 少しはにかんで、怜奈が代表で白音にプレゼントを渡す。
 桜の花をあしらった小物入れをもらった。

「ありがとっ!!」

 白音が七人を順にハグしていく。

(みんなのイメージってやっぱり桜色なのよね……。以前は白の方が好きだったんだけど)

 しかし今聞かれれば白音自身も好きな色は桜色だと答えるだろう。
 なんだか星石にしてやられた気がする。

 八人目に一恵が並んで待っていたので、一緒にきゅっとハグをした。
 ちょっと予想外だったようで、一恵が「ふあっ?!」と変な声を出した。
 きっとツッコミを入れられると思っていたのだろう。
 けれど今日は『頭巾さん』も頑張ってくれていたと思う。感謝のハグだ。

 そうすると今度は、一恵からプレゼントの包みを差し出された。
 チーム白音からのプレゼントで、いつの間に行ったのやら、四人で一緒に選んできたものだと言って白音に手渡す。

 かわいらしいリボンのついたラッピングをほどいてみると、中にはピンクの下着が入っていた。
 白音も「ふあっ?!」と思わず変な声が出た。
 上下のセットアップだ。
 レースのフリルの着いたフェミニンなデザインは女心をくすぐる。
 四人によると勝負下着ということらしい。

(これを着けろというの? かわいすぎるんですけど……)

というのが白音の感想だった。
 男心をくすぐるのかどうか、そんなのは知らない。

 その時、テーブルに置いてあった白音のスマホのバイブ音がした。メッセージの通知だ。

「おや、早速勝負下着の出番ですね?」

 莉美が茶化す。

「何言ってんのよ、もう」

 言いながら白音はさっとスマホをカバンに入れてしまった。
 しかしちらっと見たところ、確かに送り主はリンクスだった。
 やはり莉美は変なところで聡い。



 賑やかなお誕生会が終わり、その帰り道は満月がとても大きくて明るい夜だった。

 少し名残惜しい気持ちがあるのだが、白音は黎鳳れいほう学院の寮に帰る。
 いつも有り難いことに一恵がひとりずつ家まで送ってくれる。

 しかし魔法少女であることを知られているとは言え、さすがに学園の皆が見ている前で転移して帰るのはまずい。
 しばしの間、月夜の散歩を五人で楽しんだ。


 白音がこっそりスマホを確認すると、リンクスからの誕生祝いのメッセージが入っていた。
 若葉学園にいることは知っていたようで、みんなで楽しく過ごして欲しい、とあった。
 お礼の返事を書こうとするのだが、なんだかどんどん季節のご挨拶のような無味乾燥な文章になっていく。


「ふむふむ」

 気がつけば莉美が覗いている。

「ちょっと!!」
「これは翻訳すると、俺とも楽しく過ごして欲しい、ということですな?」
「いやいや、そんなことないでしょ」

 白音は別段隠し立てすることもなく、みんながスマホを覗き見るに任せている。
 やましいことなど何も無いと、ことさらに強調したいのだ。


「ハートマークいっぱい付けよ? 白音ちゃんならハート一個でひとり撃破可能と推測」

 そらが作戦提案をしてきた。

「ゲームみたいに言わないでよ…………そんなことしないわよ」
「誕生日に自分より友達を選んだから、嫉妬入ってるのかもね」
「えっ……?」

 佳奈が何の気なしにぽろっとこぼした言葉に、白音がフリーズしてしまった。

「まあそんな束縛する人じゃないわよ。ちょっと拗ねてるだけじゃないかな?」

 大丈夫、大丈夫、と一恵が慰めてくれる。何か違う。


「いや、あんたたち、そんなのまるで恋人みたいじゃないのよ」
「…………」

 無言で四人が白音を見つめる。

「何か言ってよ……」


 一恵が順番に皆を家に送り届けて、最後に黎鳳の寮へと転移ゲートを開く。
 わざわざゲートを一緒にくぐって白音を見送ってくれた。
 去り際に、少し心配したような表情で一恵は白音の手を取る。


「急がないで、ゆっくりね。今更ほんのちょっとの時間、待てなくなんてないんだから、白音ちゃんの思うペースで慎重にね」
「う、うん? 分かった」

 先輩は語ると言う奴だろうか? 白音には一恵の言わんとすることがちゃんと理解出来たのか、正直自信は無かった。
 一恵は経験豊富なんだろうなと思う。
 でもなんかちょっと言い方おかしいよね、とも思った。
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