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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第26話 魔法少女のお誕生会 その一
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夏休みは終盤に入っていた。
しかし『夏の盛り』とは一体どういう意味の日本語なのか、と問いたくなるほどにずっと、酷暑の気温は高止まりを続けている。
このままでは異世界の介入など待たずとも、こちらの世界は異常気象で滅んでしまうのではいないかと、時折不安を感じるほどだ。
季節感というものが世間から失われて久しいのだが、白音たちの間では変わらぬ季節の恒例行事がある。
この時期になると、佳奈と莉美が夏休みの宿題を手伝ってくれと白音に泣きつくのである。
それが小学、中学と連綿と続くちびマフィアの伝統行事であった。
しかし、今年はもう高校生である。そろそろ古い因習を打ち破って、優雅なライフスタイルが生まれても良いのではないか。白音はそう考えた。
それに佳奈と莉美のふたりも、今シーズンは近年になく頑張って勉強していたと思う。
確実に魔法少女としての活動に時間を取られていたにも拘わらず、いつもよりやり残された宿題の量が少ない。
これは、宿題が間に合うという感動を三人で味わう千載一遇のチャンスだろう。
異世界事案の発生もここ最近はなりを潜めて少し落ち着いていたので、白音は自分の方から宿題を片付けようと誘ってみることにした。
もちろん白音は教えるだけで手伝うつもりはまったくない。
チーム白音のアジトという素晴らしい軟禁施設があるのは、真に好都合なことだった。
エアコンのよく利いた涼しいアジトで勉強会を開いていると、今年はそこにそらが加わってくれた。
白音のコーチングスタイルは、泣き言を許さず厳しく鞭を振るう鬼軍曹タイプであった。
なので佳奈と莉美はこのちっちゃくてかわいいそら先生に、俄然期待を寄せた。
「メタモルフォーゼ!! 精神連携!」
そらは勉強会を始めるなり、いきなりスカイブルーの輝きに包まれて魔法少女に変身した。
そして佳奈、莉美と精神を接続する。
逆巻姉妹との厳しい戦いを経て、そらの魔法も成長を見せていた。
リーパーによる手助けがなくても、複数の精神と同時にリンクを確立することができるようになったのだ。
それをこんなことに使う。
「っ?! もしかして、そらの頭脳を使って宿題解けるとか?」
佳奈は目を輝かせた。
もしそうなら『難問』という言葉が意味をなくしてしまうだろう。
「それはただのズルなの。そんなことしないの」
しかしそらはにべもなく否定する。
「じゃ、じゃあ一体何を?」
その時突然、莉美があり得ないことを言い出した。
「宿題、早くやんなくちゃ」
「あ? り、莉美??」
「精神連携を使って、勉強したいという意欲を増加させたの」
驚愕する佳奈をよそに、そらはさらっと怖いことを言う。
そして…………。
「あー……、そうだな。うん。アタシも早くやりたい」
白音は、佳奈のその言葉に恐怖した。
佳奈が急に素直ないい子になってしまった……。
「ちょ、それ……、大丈夫なの? そらちゃん」
「ん、問題ないの。一時的なものだから悪影響は無い。それと脳の演算速度も少し上げたの。これで問題が速く解ける」
「速くって……、それはズル……じゃあないの?」
「楽に解けるようにはならない。速くなるだけ。だから少ない時間でたくさん苦労できるの」
そらが随分酷いことを言っている気がする。
「ん、ま、まあでも……」
酷い気はするのだが、集中して一生懸命宿題をし始めた佳奈と莉美を見ると、白音も嬉しくなってしまった。
こちらも雑念(?)は捨てて、張り切って先生役を務めることにする。
「でもそらちゃん、莉美によくそれ系の魔法効いたね?」
莉美は心理的な頑強さが桁違いなため、精神操作への抵抗力が異常に高い。
しかもそれが魔法少女の特質として強化されている。
だから洗脳や幻惑の魔法に対してはほぼ無敵である。
「精神操作じゃないから。どちらかというと神経操作なの」
余計怖い。
いろいろグレーな部分に目を瞑って半日ほど頑張ると、驚くほど宿題が進んでいた。
ただしその反動として、終わった時に佳奈と莉美は溶けるようにぐったりと延びた。
さすがに白音は心配になって、アイスクリームとアイスティでふたりを甘やかにする。
そらのおかげで多分、例年の三割増しくらいで効率よく進んでいるが、結果三割増しでふたりがひぃひぃ言っている。
短期で集中して終わらせるつもりだったから、次の日も勉強会は開催された。
その日は一恵も合流してくれた。
去年の一恵はタレント業に忙しくしていたために、宿題はほとんど免除状態だった。
しかし今年は休業しているのでそうはいかない。
それを聞いた佳奈と莉美は一緒にひぃひぃ言おうと待っていたらしかいが、一恵は普通にさっさとやり終えていた。
三年生の一恵先輩は宿題をやっていなかっただけで、やろうと思えばそつなくこなせるらしい。
一恵は佳奈と莉美がひぃひぃ言っていると、たまにお茶を淹れてくれた。
そしてあとのほとんどの時間は、左手でうちわを煽ぎながらふたりに茶々を入れていた。
ふたりは頑張ったと思う。
そらの魔法の助けはあったものの、音を上げずによく毎日ついてきてくれた。
短期集中で数日勉強会を開くと、なんとか夏休み中に宿題を終えられそうな目処が立った。
この史上初の快挙に、白音はふたりと喜びを分かち合おうと思っていた。
思っていたのだが、そこへ何故か莉美がチーム白音への依頼任務を引き受けてきてしまった。
かなりの時間をその任務に割くことになりそうだった。
これで時間配分が再び分からなくなる。
白音は最初、莉美によくありがちな衝動的な行動かと思った。
だから何もわざわざこの時期に引き受けなくとも、と思ったのだが、よくよく聞いてみれば違っていた。
依頼主は若葉学園らしい。
依頼内容は、「ハロウィンで子供たちが着る衣装を作って欲しい」とのことだった。
それを聞いて白音も納得はしたのだが、だったら何故、自分ではなく莉美に依頼を? とは思った。
確かに莉美は裁縫やハンドクラフトが得意ではある。
しかしチーム白音への依頼ということなら、頻繁に顔を合わせている白音に頼めばいいだろう。
実は、若葉学園ではあの誘拐事件以降、魔法少女の人気が急上昇していた。
中でもとりわけ、ライオンマスクの黄金の魔法少女が熱狂的に支持されているらしいのだ。
莉美が弟妹たちに引っ張り回されているところは、白音もよく目撃していた。
そんな中で「一緒にハロウィンやろうよ」となったらしい。
経緯としては赤い奴に助けられた幼き日の白音とまったく同じだった。
魔法少女が颯爽と現れ、体を張って自分の危機を救ってくれたら、それは憧れざるを得ないというものだ。
だから白音もしょうがないな、とは思っている。
(でもそれって、思いっきり正体ばれてるってことよね…………)
あの場に居合わせなかった子たちも含めて、きっと噂になっているのだろう。
子供の情報網が意外と侮れないことを白音はよく知っている。
(……いいのかな…………? まあ……、いいか……)
白音は少しだけ考えて、すぐに割り切ることにした。
弟妹たちにばれたら困る秘密なんて、何ひとつない。
早速五人で顔を突き合わせて、デザイン案を練り始める。
宿題と並行進行しなければなるまい。
ひと口に衣装の製作と言っても何しろ人数が多い。
控えめに見積もっても時間がまったく足りない。
「男の子たちはどうするの? 莉美、何か聞いてる?」
「ううん、何も。魔法少女でいいんじゃない?」
子供たちに信を託された魔法少女ヒロイン、莉美が適当すぎる。
「いやよくな……」
「いいわね!! 見たい見たい!! メイクは任せて!!」
一恵がとうとう男の子まで狙い始めた。
「弟たち多分、泣くわよ…………」
女の子たちの間ではやはり魔法少女が圧倒的な人気らしかった。
男の子もそれに合わせるのなら、仮面の紳士的な奴だろうか。
希望があるかどうかは知らないが。
認めたくはないのだが、どうやらチーム白音は敗色濃厚だった。
数日が経過すると、そらのような予測能力がなくとも、明らかにスケジュールに無理があるのが見えてくる。
白音がそう考えていると、そらから勉強会の効率をもう少し上げていいだろうかと相談された。
もちろんハロウィン案件で狂わされてしまったスケジュールを修正するためだ。
『効率を上げる』とはすなわち佳奈と莉美にもっとひぃひぃ言ってもらう、ということだ。
致し方ないだろう。
それに、白音はむしろそらの言葉に希望を感じた。
彼女がそう判断したということは、まだ宿題が間に合う可能性があるということだ。
佳奈も莉美もこんなに頑張ってくれているのに、間に合いませんでしたでは残念すぎる。
「効率を300パーセント増しくらいに上げたいの」
「佳奈と莉美なら大丈夫よ」
白音は請け合った。
大丈夫だろう、きっと。
ふたりのことはそらに任せて、白音は別任務に取りかかる。
実は若葉会の誕生会用の出し物の準備もしなければならないのだ。
一恵が手を貸してくれるが、ハロウィン用衣装の用意と合わせると、こちらもまあまあのデスマーチである。
「能力強化!!」
白音は一恵と自分にリーパーの魔法を施した。
星石と魂が融合している白音は、この程度の魔法ならもう変身していなくとも使えるようになっている。
「あ、ずりぃ!!」
「白音ちゃん、こっちも、こっちも!!」
佳奈と莉美が目ざとく見つけて、自分たちにも寄越せとアピールしてくる。
確かにこの魔法はずるいと思う。
あらゆる能力をかさ上げしてくれる。
『お誕生会の出し物やコスプレ衣装の準備』などという作業にすら、目覚ましい効果を発揮する。
しかしだからこそ、宿題をしている佳奈と莉美にかけるわけにはいかないのだ。
そらが言うように、速くできる分にはズルではない。
だが簡単に問題が解けるようになってしまっては身につかないだろう。
意味がないのだ。
そうして新学期が始まる直前、佳奈と莉美はまごうことなき本人の実力で、この戦いに勝利した。
実際、佳奈と莉美の夏休みの宿題がきっちり新学期に間に合ったのは今年が初めてだったと思う。
やはり魔法少女はやればできるのだ。
あまりの疲労困憊に色艶をなくし、すっかり灰色の魔法少女になってしまったふたりを見て、白音は嬉しく思う。
しかし『夏の盛り』とは一体どういう意味の日本語なのか、と問いたくなるほどにずっと、酷暑の気温は高止まりを続けている。
このままでは異世界の介入など待たずとも、こちらの世界は異常気象で滅んでしまうのではいないかと、時折不安を感じるほどだ。
季節感というものが世間から失われて久しいのだが、白音たちの間では変わらぬ季節の恒例行事がある。
この時期になると、佳奈と莉美が夏休みの宿題を手伝ってくれと白音に泣きつくのである。
それが小学、中学と連綿と続くちびマフィアの伝統行事であった。
しかし、今年はもう高校生である。そろそろ古い因習を打ち破って、優雅なライフスタイルが生まれても良いのではないか。白音はそう考えた。
それに佳奈と莉美のふたりも、今シーズンは近年になく頑張って勉強していたと思う。
確実に魔法少女としての活動に時間を取られていたにも拘わらず、いつもよりやり残された宿題の量が少ない。
これは、宿題が間に合うという感動を三人で味わう千載一遇のチャンスだろう。
異世界事案の発生もここ最近はなりを潜めて少し落ち着いていたので、白音は自分の方から宿題を片付けようと誘ってみることにした。
もちろん白音は教えるだけで手伝うつもりはまったくない。
チーム白音のアジトという素晴らしい軟禁施設があるのは、真に好都合なことだった。
エアコンのよく利いた涼しいアジトで勉強会を開いていると、今年はそこにそらが加わってくれた。
白音のコーチングスタイルは、泣き言を許さず厳しく鞭を振るう鬼軍曹タイプであった。
なので佳奈と莉美はこのちっちゃくてかわいいそら先生に、俄然期待を寄せた。
「メタモルフォーゼ!! 精神連携!」
そらは勉強会を始めるなり、いきなりスカイブルーの輝きに包まれて魔法少女に変身した。
そして佳奈、莉美と精神を接続する。
逆巻姉妹との厳しい戦いを経て、そらの魔法も成長を見せていた。
リーパーによる手助けがなくても、複数の精神と同時にリンクを確立することができるようになったのだ。
それをこんなことに使う。
「っ?! もしかして、そらの頭脳を使って宿題解けるとか?」
佳奈は目を輝かせた。
もしそうなら『難問』という言葉が意味をなくしてしまうだろう。
「それはただのズルなの。そんなことしないの」
しかしそらはにべもなく否定する。
「じゃ、じゃあ一体何を?」
その時突然、莉美があり得ないことを言い出した。
「宿題、早くやんなくちゃ」
「あ? り、莉美??」
「精神連携を使って、勉強したいという意欲を増加させたの」
驚愕する佳奈をよそに、そらはさらっと怖いことを言う。
そして…………。
「あー……、そうだな。うん。アタシも早くやりたい」
白音は、佳奈のその言葉に恐怖した。
佳奈が急に素直ないい子になってしまった……。
「ちょ、それ……、大丈夫なの? そらちゃん」
「ん、問題ないの。一時的なものだから悪影響は無い。それと脳の演算速度も少し上げたの。これで問題が速く解ける」
「速くって……、それはズル……じゃあないの?」
「楽に解けるようにはならない。速くなるだけ。だから少ない時間でたくさん苦労できるの」
そらが随分酷いことを言っている気がする。
「ん、ま、まあでも……」
酷い気はするのだが、集中して一生懸命宿題をし始めた佳奈と莉美を見ると、白音も嬉しくなってしまった。
こちらも雑念(?)は捨てて、張り切って先生役を務めることにする。
「でもそらちゃん、莉美によくそれ系の魔法効いたね?」
莉美は心理的な頑強さが桁違いなため、精神操作への抵抗力が異常に高い。
しかもそれが魔法少女の特質として強化されている。
だから洗脳や幻惑の魔法に対してはほぼ無敵である。
「精神操作じゃないから。どちらかというと神経操作なの」
余計怖い。
いろいろグレーな部分に目を瞑って半日ほど頑張ると、驚くほど宿題が進んでいた。
ただしその反動として、終わった時に佳奈と莉美は溶けるようにぐったりと延びた。
さすがに白音は心配になって、アイスクリームとアイスティでふたりを甘やかにする。
そらのおかげで多分、例年の三割増しくらいで効率よく進んでいるが、結果三割増しでふたりがひぃひぃ言っている。
短期で集中して終わらせるつもりだったから、次の日も勉強会は開催された。
その日は一恵も合流してくれた。
去年の一恵はタレント業に忙しくしていたために、宿題はほとんど免除状態だった。
しかし今年は休業しているのでそうはいかない。
それを聞いた佳奈と莉美は一緒にひぃひぃ言おうと待っていたらしかいが、一恵は普通にさっさとやり終えていた。
三年生の一恵先輩は宿題をやっていなかっただけで、やろうと思えばそつなくこなせるらしい。
一恵は佳奈と莉美がひぃひぃ言っていると、たまにお茶を淹れてくれた。
そしてあとのほとんどの時間は、左手でうちわを煽ぎながらふたりに茶々を入れていた。
ふたりは頑張ったと思う。
そらの魔法の助けはあったものの、音を上げずによく毎日ついてきてくれた。
短期集中で数日勉強会を開くと、なんとか夏休み中に宿題を終えられそうな目処が立った。
この史上初の快挙に、白音はふたりと喜びを分かち合おうと思っていた。
思っていたのだが、そこへ何故か莉美がチーム白音への依頼任務を引き受けてきてしまった。
かなりの時間をその任務に割くことになりそうだった。
これで時間配分が再び分からなくなる。
白音は最初、莉美によくありがちな衝動的な行動かと思った。
だから何もわざわざこの時期に引き受けなくとも、と思ったのだが、よくよく聞いてみれば違っていた。
依頼主は若葉学園らしい。
依頼内容は、「ハロウィンで子供たちが着る衣装を作って欲しい」とのことだった。
それを聞いて白音も納得はしたのだが、だったら何故、自分ではなく莉美に依頼を? とは思った。
確かに莉美は裁縫やハンドクラフトが得意ではある。
しかしチーム白音への依頼ということなら、頻繁に顔を合わせている白音に頼めばいいだろう。
実は、若葉学園ではあの誘拐事件以降、魔法少女の人気が急上昇していた。
中でもとりわけ、ライオンマスクの黄金の魔法少女が熱狂的に支持されているらしいのだ。
莉美が弟妹たちに引っ張り回されているところは、白音もよく目撃していた。
そんな中で「一緒にハロウィンやろうよ」となったらしい。
経緯としては赤い奴に助けられた幼き日の白音とまったく同じだった。
魔法少女が颯爽と現れ、体を張って自分の危機を救ってくれたら、それは憧れざるを得ないというものだ。
だから白音もしょうがないな、とは思っている。
(でもそれって、思いっきり正体ばれてるってことよね…………)
あの場に居合わせなかった子たちも含めて、きっと噂になっているのだろう。
子供の情報網が意外と侮れないことを白音はよく知っている。
(……いいのかな…………? まあ……、いいか……)
白音は少しだけ考えて、すぐに割り切ることにした。
弟妹たちにばれたら困る秘密なんて、何ひとつない。
早速五人で顔を突き合わせて、デザイン案を練り始める。
宿題と並行進行しなければなるまい。
ひと口に衣装の製作と言っても何しろ人数が多い。
控えめに見積もっても時間がまったく足りない。
「男の子たちはどうするの? 莉美、何か聞いてる?」
「ううん、何も。魔法少女でいいんじゃない?」
子供たちに信を託された魔法少女ヒロイン、莉美が適当すぎる。
「いやよくな……」
「いいわね!! 見たい見たい!! メイクは任せて!!」
一恵がとうとう男の子まで狙い始めた。
「弟たち多分、泣くわよ…………」
女の子たちの間ではやはり魔法少女が圧倒的な人気らしかった。
男の子もそれに合わせるのなら、仮面の紳士的な奴だろうか。
希望があるかどうかは知らないが。
認めたくはないのだが、どうやらチーム白音は敗色濃厚だった。
数日が経過すると、そらのような予測能力がなくとも、明らかにスケジュールに無理があるのが見えてくる。
白音がそう考えていると、そらから勉強会の効率をもう少し上げていいだろうかと相談された。
もちろんハロウィン案件で狂わされてしまったスケジュールを修正するためだ。
『効率を上げる』とはすなわち佳奈と莉美にもっとひぃひぃ言ってもらう、ということだ。
致し方ないだろう。
それに、白音はむしろそらの言葉に希望を感じた。
彼女がそう判断したということは、まだ宿題が間に合う可能性があるということだ。
佳奈も莉美もこんなに頑張ってくれているのに、間に合いませんでしたでは残念すぎる。
「効率を300パーセント増しくらいに上げたいの」
「佳奈と莉美なら大丈夫よ」
白音は請け合った。
大丈夫だろう、きっと。
ふたりのことはそらに任せて、白音は別任務に取りかかる。
実は若葉会の誕生会用の出し物の準備もしなければならないのだ。
一恵が手を貸してくれるが、ハロウィン用衣装の用意と合わせると、こちらもまあまあのデスマーチである。
「能力強化!!」
白音は一恵と自分にリーパーの魔法を施した。
星石と魂が融合している白音は、この程度の魔法ならもう変身していなくとも使えるようになっている。
「あ、ずりぃ!!」
「白音ちゃん、こっちも、こっちも!!」
佳奈と莉美が目ざとく見つけて、自分たちにも寄越せとアピールしてくる。
確かにこの魔法はずるいと思う。
あらゆる能力をかさ上げしてくれる。
『お誕生会の出し物やコスプレ衣装の準備』などという作業にすら、目覚ましい効果を発揮する。
しかしだからこそ、宿題をしている佳奈と莉美にかけるわけにはいかないのだ。
そらが言うように、速くできる分にはズルではない。
だが簡単に問題が解けるようになってしまっては身につかないだろう。
意味がないのだ。
そうして新学期が始まる直前、佳奈と莉美はまごうことなき本人の実力で、この戦いに勝利した。
実際、佳奈と莉美の夏休みの宿題がきっちり新学期に間に合ったのは今年が初めてだったと思う。
やはり魔法少女はやればできるのだ。
あまりの疲労困憊に色艶をなくし、すっかり灰色の魔法少女になってしまったふたりを見て、白音は嬉しく思う。
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