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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第24話 黄金の獅子の魔法少女 その四
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チーム白音の前に突如姿を現した逆巻姉妹の妹、逆巻京香。
しかし彼女には戦う意思はなかった。
重傷を負った姉の彩子を救い出すことだけを考えているようだった。
「お前らのことは気に入ったよ。姉さんが執着するのも少しは分かる。近いうちに決着を付けよう。お互い万全の状態でやりたいね」
そう言って京香が思い切り地面を踏みつけると、地面が崩落してそこに姉妹が落下していった。
「は? なんで?!」
白音が駆け寄ってのぞき込むと、綺麗な縦穴が空いていた。
正確な方形の断面で表面が鋭利な刃物で切り取ったように滑らかになっている。
多分そんなに深くはないのだろう、下から彩子の憤怒の声が響いてくる。
「次は必ずバラバラにシてやるよ」
一恵が転移を阻む結界を構築していたため、足下の地面を結界の下面ギリギリのところまで転移で削り取り、崩落させたのだろう。
転移阻害結界の範囲外まで落下すれば、脱出できるということだ。
薄紅色の灯りを穴の中に投下してみるが、既にふたりの姿はそこになかった。
白音の胸中には逃がしたことを悔やむと同時に、ほっとするような気持ちも湧いてくる。
「このやり方、千尋さんだよな…………」
佳奈が白音の隣にしゃがんで一緒に穴を覗き込む。
正確で鋭利な断面を残して切り取る転移のやり方は、よく見覚えがある。
先程彩子たちが転移を使っていたから、全員薄々気づいてはいただろう。
気づいていたが事実を認めたくなくて、目を逸らしていたことだ。
根来衆が千尋の魔法を使えるということは、そういうことなのだ。
「…………悔しいな。あの京香って奴、わざわざ一番殴り応えのありそうなアタシを選んだんだろうな」
佳奈が拳を振り上げようとして、途中でやめる。
「その腕、平気なの?」
「ああ……、うん。…………?! いったっ!!」
ライオンのかぶり物をしている莉美がいつの間にか佳奈の隣にいて、粉砕骨折した佳奈の腕を取っていた。
「ライオン先生にお任せあれ」
莉美が佳奈の腕の周囲を、薄い魔法障壁で覆っていく。
副え木の代わりなのだろう。
腕に負担がかからなくなって痛みが驚くほど軽減された。
しかもほとんど透明だからよく見ないと分からない。
「助かるよ莉美。あの子たちにあんまりぼろぼろな姿見せたくなかったしな」
「ふぉっふぉっふぉっ、何か異状があったら先生にすぐ言うんじゃぞ」
まだ念のため少女たちを保護しているバリアは解除していないが、そらと一恵が彼女たちの相手をしてくれていた。
少女たちも一恵のことはテレビなどでよく見ていたようで、全員が顔を知っているらしかった。
それはつまりHitoeが魔法少女であるとばれた、ということだ。
しかし彼女は有名人の知名度を使って少しでも少女たちの不安を払拭してやれるのなら、むしろ喜んで利用するつもりのようだった。
そらの方は、もはや少女たちから『そらちゃん』と呼ばれていた。
そらの実年齢は少女たちとあまり変わらないが、見た目はもっと下に見える。
ややもすると頼りない感じに思えるかもしれないのだが、かえって「魔法少女と言えばこんな感じ」というイメージどおりの外見がとてもウケているようだった。
ふたりとも正体を隠す気がなさ過ぎて、白音はちょっと心配になる。
白音、佳奈、莉美の三人が少女たちの方に近づくと、全員が不安そうに彼女たちを見た。
色つきの魔法障壁のせいでよくは見えなかったものの、派手に戦う音が響いていたし、特に彩子の怒り狂う声が怖かったのだろう。
三匹のネコたちは、怪我など何もしてないよ、という風に軽快に魔法少女らしい決めポーズをしてみせる。
『決めポーズ反対派』の佳奈も結局は付き合ってくれている。
その腕が粉砕されていることもなんとかばれずに済んだらしい。
三人の元気な姿を見て少女たちは安心してくれたようだった。
少し回復して安全を確認してから、莉美がバリアを解いた。
白音が正帰還増幅強化を使えるようになりさえすれば、もう一度同じ強度でバリアを張るのは簡単だったし、一恵が転移で近づいてくる者を常に警戒している。
ただ、一恵にはまだこれだけの大人数を転移させるのはきついようだった。
少女たちを順次送り出すよりは、全員が一度に脱出する方が安全だろうと考えて、一恵の回復を待つことにした。
ひとまず少女たちの体調を、ライオン先生とタイガーナースが問診していく。
「一恵、お願い」
佳奈に頼まれて、一恵が次元ストレージから大きな荷物を取り出す。
一恵は体力的にはよれよれだが、少女たちの相手をしていて上機嫌な様子だ。
本人曰く、体力でも魔力でもない、何か別のエネルギーが満タンになっていくらしい。
「はーい、どうぞ」
一恵がとてもいい声で、唄うように返事をした。
荷物はここに来る直前に佳奈が用意して、頼まれて収納していたものだ。
中には大量のパンと飲み物が入っていた。
さらわれた子供たちがきっとお腹をすかせているだろうと思って、佳奈が家業の売り物のパンをごっそりと持ってきたのだ。
みんなに配ると、やはりかなり空腹だったようで、少女たちは無心に食べ始める。
「慌てると喉に詰めるニャ。ねこねこベーカリーのパンはまだまだあるからゆっくり食べるニャ」
莉美がまたよく分からないキャラを作っている。
そしてこういう時は必ず………、
「そ、そうだニャ? お、お、落ち着いて食べるニャ…………」
白音を巻き込んでくる。
少女たちの前で「ニャ?」と言いながらじっと見つめられると無視しにくい。
ちょっと恥ずかしかったがマスクを着けているからまあいいかと開き直ることにした。
パンを手渡すついでに少女たちを捕まえてハグしていく。
完全にどさくさ紛れだったが、ネコネコベーカリーのキャラクターなら許されるような気がした。
ひとりずつ、その体を確かめるようにぎゅっと抱きしめる。
この子たちが無事で、本当に良かったと思う
パンはこの人数でも到底食べきれる量ではなかった。
佳奈はヤヌルベーカリーの商品を根こそぎ持ってきたのではないだろうか。
あの素敵なパン屋さんがつぶれませんようにと、白音は願うばかりだ。
若葉学園の妹たち四人は、何故か一番最後に並んで待っていた。
「どうしたニャ? 一緒に食べるんニャ」
パンを受け取りながら一番年長、白音のひとつ年下の怜奈が、虎マスクで愛想を振りまく白音にそっと耳打ちする。
「助けてくれてありがとう、白音お姉ちゃん。かっこよかった」
悠月、明理彩、華音。三人の妹たちも笑顔で頷いている。
「んん……、ニャニャッ?!」
白音はネコ耳ではない方の本物の耳が、マスクの下で真っ赤になっていくのを感じた。
今頃地上では、少女たちやチーム白音のことを心配してくれているのだろうと思う。
しかしそんな彼らには悪いが地下では電波も通じず、一恵の回復を待つより他に手立てはなかった。
食事をして人心地がついた少女たちに一恵がアカペラで自分の持ち歌を唄って聞かせると、みんなで合唱になった。
少し笑顔が戻ってきたようなのでひと安心だった。
「はい、佳奈」
「ん?」
ひとりで離れて座っていた佳奈に、白音がベーグルとボトルコーヒーを渡す。
コーヒーは佳奈の好みに合わせて魔法で温めてある。
飲みやすいようにキャップも既に開けてあるのだが、腕が固められている佳奈はボトルを口に運ぶのも難しいようだった。
「はい、あーんして」
白音は自分が食べようとしていたカンパーニュを、ひと口大にちぎって差し出す。
すると何も言わず佳奈は口を開いた。
白音はパンを食べさせながら、この子はほんとネコみたいだと思う。
腕が痛むから、みんなに背を向けて我慢していたのだろう。
パンは、甘いもの柔らかいものが先に売れていったから、あまり飾り気のないシンプルなものが残っている。
しかし白音も佳奈も、ヤヌルベーカリーのパンはすべてが大好きなパンだった。
白音はカフェラテを手に、カンパーニュをちぎり、佳奈の口、自分の口と交互に放り込んでいく。
やっぱりおいしい。
体の隅々まで力がみなぎる感じがする。
懐かしさすら感じるこの味は、白音の『お袋の味』と言ってもいいのかもしれない。
「…………わたし、どうするべきだったと思う?」
食べながら白音が、ぼそっと呟いた。
「んー……。白音に分かんないものがアタシに分かるわけないじゃん?」
「正義って言うんなら、逆巻姉妹は全力で倒すべきだったかもしれない。逃がしたことでまた犠牲者が出るかもしれないし」
ただ、それだけでは割り切れない感情が、白音にも佳奈にも確実にあった。
「戦えばみんながもっと傷ついただろうし、下手したら死んでたかもしれない。それに、彩子のこと庇ってる京香見てたら、弱みにつけ込んで倒そうっていうのは嫌だったのよね」
「そりゃ死ぬのは嫌だけどさ、そこはアタシも絶対倒せるって言えなかったのは悔しいって思ってる。次は万全でって向こうから言ってるんだから、それでいいじゃん。次はこうはいかない」
莉美に固められた両腕を白音に見せる。
「あとさ、あの姉妹は根来衆って奴とは別物だよな? 根来衆は絶対に許せないし、何があってもぶっ潰さなきゃいけないと思う。だろ?」
佳奈の言葉に頷く白音。
そこは全員同じ気持ちなのだと思う。
魔法少女なんて未知の存在だったし、やってみなければ分からないこともあると思ってはいた。
が、自分のやりたいことが『正義』というものとは少しずれてきている気がする。
(わたし、やっぱりならず者なのかもしれない。莉美ってなんでかいつも本質ついてるのよね……)
振り向くと、どうしてそうなったのかライオンの莉美がそらを追いかけ回している。
後ろから羽交い締めにして頭からかじりつく。
少女たちもすっかり打ち解けて、皆でわいわいと楽しそうだ。
安心して眠っている子もいる。
もう少し回復を待てば、地上へと還る準備ができるだろう。
しかし彼女には戦う意思はなかった。
重傷を負った姉の彩子を救い出すことだけを考えているようだった。
「お前らのことは気に入ったよ。姉さんが執着するのも少しは分かる。近いうちに決着を付けよう。お互い万全の状態でやりたいね」
そう言って京香が思い切り地面を踏みつけると、地面が崩落してそこに姉妹が落下していった。
「は? なんで?!」
白音が駆け寄ってのぞき込むと、綺麗な縦穴が空いていた。
正確な方形の断面で表面が鋭利な刃物で切り取ったように滑らかになっている。
多分そんなに深くはないのだろう、下から彩子の憤怒の声が響いてくる。
「次は必ずバラバラにシてやるよ」
一恵が転移を阻む結界を構築していたため、足下の地面を結界の下面ギリギリのところまで転移で削り取り、崩落させたのだろう。
転移阻害結界の範囲外まで落下すれば、脱出できるということだ。
薄紅色の灯りを穴の中に投下してみるが、既にふたりの姿はそこになかった。
白音の胸中には逃がしたことを悔やむと同時に、ほっとするような気持ちも湧いてくる。
「このやり方、千尋さんだよな…………」
佳奈が白音の隣にしゃがんで一緒に穴を覗き込む。
正確で鋭利な断面を残して切り取る転移のやり方は、よく見覚えがある。
先程彩子たちが転移を使っていたから、全員薄々気づいてはいただろう。
気づいていたが事実を認めたくなくて、目を逸らしていたことだ。
根来衆が千尋の魔法を使えるということは、そういうことなのだ。
「…………悔しいな。あの京香って奴、わざわざ一番殴り応えのありそうなアタシを選んだんだろうな」
佳奈が拳を振り上げようとして、途中でやめる。
「その腕、平気なの?」
「ああ……、うん。…………?! いったっ!!」
ライオンのかぶり物をしている莉美がいつの間にか佳奈の隣にいて、粉砕骨折した佳奈の腕を取っていた。
「ライオン先生にお任せあれ」
莉美が佳奈の腕の周囲を、薄い魔法障壁で覆っていく。
副え木の代わりなのだろう。
腕に負担がかからなくなって痛みが驚くほど軽減された。
しかもほとんど透明だからよく見ないと分からない。
「助かるよ莉美。あの子たちにあんまりぼろぼろな姿見せたくなかったしな」
「ふぉっふぉっふぉっ、何か異状があったら先生にすぐ言うんじゃぞ」
まだ念のため少女たちを保護しているバリアは解除していないが、そらと一恵が彼女たちの相手をしてくれていた。
少女たちも一恵のことはテレビなどでよく見ていたようで、全員が顔を知っているらしかった。
それはつまりHitoeが魔法少女であるとばれた、ということだ。
しかし彼女は有名人の知名度を使って少しでも少女たちの不安を払拭してやれるのなら、むしろ喜んで利用するつもりのようだった。
そらの方は、もはや少女たちから『そらちゃん』と呼ばれていた。
そらの実年齢は少女たちとあまり変わらないが、見た目はもっと下に見える。
ややもすると頼りない感じに思えるかもしれないのだが、かえって「魔法少女と言えばこんな感じ」というイメージどおりの外見がとてもウケているようだった。
ふたりとも正体を隠す気がなさ過ぎて、白音はちょっと心配になる。
白音、佳奈、莉美の三人が少女たちの方に近づくと、全員が不安そうに彼女たちを見た。
色つきの魔法障壁のせいでよくは見えなかったものの、派手に戦う音が響いていたし、特に彩子の怒り狂う声が怖かったのだろう。
三匹のネコたちは、怪我など何もしてないよ、という風に軽快に魔法少女らしい決めポーズをしてみせる。
『決めポーズ反対派』の佳奈も結局は付き合ってくれている。
その腕が粉砕されていることもなんとかばれずに済んだらしい。
三人の元気な姿を見て少女たちは安心してくれたようだった。
少し回復して安全を確認してから、莉美がバリアを解いた。
白音が正帰還増幅強化を使えるようになりさえすれば、もう一度同じ強度でバリアを張るのは簡単だったし、一恵が転移で近づいてくる者を常に警戒している。
ただ、一恵にはまだこれだけの大人数を転移させるのはきついようだった。
少女たちを順次送り出すよりは、全員が一度に脱出する方が安全だろうと考えて、一恵の回復を待つことにした。
ひとまず少女たちの体調を、ライオン先生とタイガーナースが問診していく。
「一恵、お願い」
佳奈に頼まれて、一恵が次元ストレージから大きな荷物を取り出す。
一恵は体力的にはよれよれだが、少女たちの相手をしていて上機嫌な様子だ。
本人曰く、体力でも魔力でもない、何か別のエネルギーが満タンになっていくらしい。
「はーい、どうぞ」
一恵がとてもいい声で、唄うように返事をした。
荷物はここに来る直前に佳奈が用意して、頼まれて収納していたものだ。
中には大量のパンと飲み物が入っていた。
さらわれた子供たちがきっとお腹をすかせているだろうと思って、佳奈が家業の売り物のパンをごっそりと持ってきたのだ。
みんなに配ると、やはりかなり空腹だったようで、少女たちは無心に食べ始める。
「慌てると喉に詰めるニャ。ねこねこベーカリーのパンはまだまだあるからゆっくり食べるニャ」
莉美がまたよく分からないキャラを作っている。
そしてこういう時は必ず………、
「そ、そうだニャ? お、お、落ち着いて食べるニャ…………」
白音を巻き込んでくる。
少女たちの前で「ニャ?」と言いながらじっと見つめられると無視しにくい。
ちょっと恥ずかしかったがマスクを着けているからまあいいかと開き直ることにした。
パンを手渡すついでに少女たちを捕まえてハグしていく。
完全にどさくさ紛れだったが、ネコネコベーカリーのキャラクターなら許されるような気がした。
ひとりずつ、その体を確かめるようにぎゅっと抱きしめる。
この子たちが無事で、本当に良かったと思う
パンはこの人数でも到底食べきれる量ではなかった。
佳奈はヤヌルベーカリーの商品を根こそぎ持ってきたのではないだろうか。
あの素敵なパン屋さんがつぶれませんようにと、白音は願うばかりだ。
若葉学園の妹たち四人は、何故か一番最後に並んで待っていた。
「どうしたニャ? 一緒に食べるんニャ」
パンを受け取りながら一番年長、白音のひとつ年下の怜奈が、虎マスクで愛想を振りまく白音にそっと耳打ちする。
「助けてくれてありがとう、白音お姉ちゃん。かっこよかった」
悠月、明理彩、華音。三人の妹たちも笑顔で頷いている。
「んん……、ニャニャッ?!」
白音はネコ耳ではない方の本物の耳が、マスクの下で真っ赤になっていくのを感じた。
今頃地上では、少女たちやチーム白音のことを心配してくれているのだろうと思う。
しかしそんな彼らには悪いが地下では電波も通じず、一恵の回復を待つより他に手立てはなかった。
食事をして人心地がついた少女たちに一恵がアカペラで自分の持ち歌を唄って聞かせると、みんなで合唱になった。
少し笑顔が戻ってきたようなのでひと安心だった。
「はい、佳奈」
「ん?」
ひとりで離れて座っていた佳奈に、白音がベーグルとボトルコーヒーを渡す。
コーヒーは佳奈の好みに合わせて魔法で温めてある。
飲みやすいようにキャップも既に開けてあるのだが、腕が固められている佳奈はボトルを口に運ぶのも難しいようだった。
「はい、あーんして」
白音は自分が食べようとしていたカンパーニュを、ひと口大にちぎって差し出す。
すると何も言わず佳奈は口を開いた。
白音はパンを食べさせながら、この子はほんとネコみたいだと思う。
腕が痛むから、みんなに背を向けて我慢していたのだろう。
パンは、甘いもの柔らかいものが先に売れていったから、あまり飾り気のないシンプルなものが残っている。
しかし白音も佳奈も、ヤヌルベーカリーのパンはすべてが大好きなパンだった。
白音はカフェラテを手に、カンパーニュをちぎり、佳奈の口、自分の口と交互に放り込んでいく。
やっぱりおいしい。
体の隅々まで力がみなぎる感じがする。
懐かしさすら感じるこの味は、白音の『お袋の味』と言ってもいいのかもしれない。
「…………わたし、どうするべきだったと思う?」
食べながら白音が、ぼそっと呟いた。
「んー……。白音に分かんないものがアタシに分かるわけないじゃん?」
「正義って言うんなら、逆巻姉妹は全力で倒すべきだったかもしれない。逃がしたことでまた犠牲者が出るかもしれないし」
ただ、それだけでは割り切れない感情が、白音にも佳奈にも確実にあった。
「戦えばみんながもっと傷ついただろうし、下手したら死んでたかもしれない。それに、彩子のこと庇ってる京香見てたら、弱みにつけ込んで倒そうっていうのは嫌だったのよね」
「そりゃ死ぬのは嫌だけどさ、そこはアタシも絶対倒せるって言えなかったのは悔しいって思ってる。次は万全でって向こうから言ってるんだから、それでいいじゃん。次はこうはいかない」
莉美に固められた両腕を白音に見せる。
「あとさ、あの姉妹は根来衆って奴とは別物だよな? 根来衆は絶対に許せないし、何があってもぶっ潰さなきゃいけないと思う。だろ?」
佳奈の言葉に頷く白音。
そこは全員同じ気持ちなのだと思う。
魔法少女なんて未知の存在だったし、やってみなければ分からないこともあると思ってはいた。
が、自分のやりたいことが『正義』というものとは少しずれてきている気がする。
(わたし、やっぱりならず者なのかもしれない。莉美ってなんでかいつも本質ついてるのよね……)
振り向くと、どうしてそうなったのかライオンの莉美がそらを追いかけ回している。
後ろから羽交い締めにして頭からかじりつく。
少女たちもすっかり打ち解けて、皆でわいわいと楽しそうだ。
安心して眠っている子もいる。
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