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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第23話 虎のマスクと豹頭の仮面 その二
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パペットゴーレムが撃った銃弾が白音に命中した。
その痛みは白音がよく知るものだった。
それは、橘香の魔法と同じ攻撃だった。
佳奈ははっとした。
咄嗟に対応できたのは同じ攻撃を何度も訓練中に受けていたからだ。
そして橘香と同じ攻撃ということは、まったく同じ能力を持っていると聞いているその妹、凛桜のものだということだ。
凛桜の能力が使われているとすれば、多分凛桜はもう…………。
「凛桜さんを探そう?」
佳奈がそう言って手を差し出すと、白音はその手を取って一緒に立ち上がった。
「うん」
ずれてしまった虎のマスクを直しながら、白音が佳奈の方を見る。
「でも佳奈。山本さんもあまり乱暴にしないでね」
「了解…………」
今度は黒豹が虎に怒られた。
「莉美、ありがと。バリアを解いて。佳奈、一体任せていい?」
「冗談、白音が一体だよっ!」
走り出すと佳奈は赤い輝線をのこして加速する。
攪乱するように左右にステップを踏むと、パペットは動きを追いきれず弾丸はほとんど当たらなかった。
いくつか命中した弾丸もほぼ跳ね返されるようにダメージを与えていない。
佳奈の身体強化はダメージ耐性も高めるようだった。
「橘香対策だったんだけどなっ!」
白音の方は少し駆ける程度の速度で、ほぼ一直線に近づいていった。
飛んでくる弾丸を大小問わずすべて剣で弾いていく。
「嘘……弾丸って目で見て叩き落とせるもんなの?」
佳奈は橘香との訓練で見たことがあったが、莉美がそれを見るのは初めてだった。
目を丸くしていると、背後から突然肩をぽんと叩かれた。
「ひああぁっ!!」
莉美が驚いて垂直に1メートルほど飛び上がった。振り向くと、そらと一恵がいる。
「リーパーが二乗がけされた今の白音ちゃんなら、弾丸なんてデコピンで落とせるの」
そらの言葉に莉美は思わず自分の額を抑える。
「まじかぁ、あたしたまにデコピンされるんだけどな。穴開いたらやだな」
そらはまだマインドリンクできるほど回復していないらしかった。
一応予めインカムを全員付けているので、ここからでも指示は出せる。
一恵にしても白音たちの方に行かずにこちらにいるのは、戦える状態ではないのだろう。
前衛をふたりに任せてバックアップに回るつもりらしい。虎と黒豹の勇姿を見守っている。
「ネコちゃんたちキレてる?」
白音と佳奈は努めて冷静に戦っている。
しかしひと目見て、その奥底にかなり不穏な空気が流れているのを一恵は感じていた。
莉美があのパペットには、おそらく凛桜の魔法が働いていることを伝える。
「そう…………」
戦況はそらが冷静にコントロールしてくれるだろう。
だから一恵は、白音や佳奈が激情に駆られて無茶な戦い方をしても、しっかりバックアップしなければと思う。
そしてもしふたりが冷静に戦えるようなら、その時は代わりに自分が心置きなくキレようと思う。
チーム白音が、静かな怒りを湛えていた。
「橘香さんて、銃を魔法で出現させてたよね? あんな風に人形に設置するわけじゃなくて、空中に浮いてたと思うんだけど」
莉美は尋ねながら、そうやって体中いろんなところを撃たれたのを思い出していた。
「銃口はフェイクだと思う。私のインカムと一緒。相手をミスリードするの。パペットの装備に見えるように、魔法を重ねて使ってると推測」
そらの推測を裏付けるように、パペットと対峙する白音たちの背後に大量の重機関銃が音もなく出現する。
そらがインカムで警告を発する。
「後ろっ、銃で狙われてるっ!!」
まだ体力を回復中のはずのそらからの突然の警告だったが、ふたりは良く反応する。
振り返って魔力を腕に集中、ダメージを少しでも軽くしようとした。
しかし弾丸が到達する前に、莉美が素早く魔力障壁を展開してこれを防いだ。
橘香にしごかれて、咄嗟の障壁展開はもはや条件反射のレベルになっている。
「ありがとっ!!」
細部までリアルに再現されている機関銃が、自身で発生する熱で動作不良を起こすまで連射される。
しかし障壁には傷すら付けられず、硝煙と粉塵が舞い上がって視界が悪くなっていく。
その時対戦車グレネードランチャーが出現した。
これは橘香が使っているところを見たことがない。
魔法少女たちにはそれが何なのかまでは判らないが、見た目から大きな威力を持ちそうだということは想像がつく。
こっちが本命なのだ。
「よけた方がいいかもっ!!」
そらにも武器の知識はあまりない。
成型炸薬によるモンロー/ノイマン効果。
魔法障壁にぶつかって炸裂したグレネードは衝撃を一点に集中させ、莉美のバリアを破壊した。
飛び散った金属片が多数降り注ぎ、白音と佳奈に突き刺さる。
「うぐうっ!!」
そして衝撃波で吹っ飛ばされたふたりは迎え撃ったパペットに背中を巨大なハンマーのような拳で殴られた。
「あがっ!」
ふたりは血しぶきをまき散らしながら吹っ飛び、並べられた医療用寝台を次々と巻き込んでいく。
「白音ちゃん!! 佳奈ちゃん!!」
以前ミスリルゴーレムにやったことの意趣返しのようになった。
そらは現代兵器を研究していなかったことを悔やむ。
が、ふたりはゆらりと立ち上がる。
「大丈夫」
「へーき」
ふたりの声が荒い息づかいと共にインカムから聞こえてくる。
金属片が体中に大量に突き刺さって血まみれだが、魔法で生成された武器だったので破片も消えてしまったようだ。
体内には残っていない。
であればそんなものは放っておけば治ってしまう。ふたりは魔法少女なのだ。
「多分どこかで見てて攻撃してるのよね。どこにいるんだろう。橘香さんはそんなに離れた位置には銃器出せなかったと思うけど」
一恵は橘香と繰り返した模擬戦を思い出していた。
こんなことで役に立つのは残念だが、対策を立てるのには有効だろう。
「さっきからこっちには攻撃してこないの。私ならこっちを攻撃して守勢に回らせる。銃の能力者はこっちに気づいてないのかも。別の隠蔽能力を持った魔法少女がいる可能性もあるけど」
「そうね。強力な盾を持った莉美ちゃんしかいないと思ってるから、先に前衛を崩そうとしてるんでしょうね。くたくたのわたしたちがいると判れば狙うよね、普通」
「こっちに来てもあたしがバリアでみんな守るから平気!! 今度はさっきの奴でも耐えれるように作るから!」
莉美が明るく請け合ったが、その後背後に庇う少女たちには聞こえないように小声で一恵に囁く。
「橘香ちゃんにさんざんバリアの内側に銃を出されて撃たれたでしょ? こっちに近づかれたら防げなくなるかも」
「銃を出すスペースがないくらい密着させてバリアを出したらどうかしら?」
だが一恵のそのアイディアに、そらが問題点を指摘する。
「体の近くにバリアを出すと、外から攻撃された時に衝撃が伝わってしまうの。さっきみたいな大きな爆発だと、衝撃だけでもまずい…………」
そして嘆息して白音たちの戦況を見守る。
「白音ちゃんたちなら勝てると思うけど、相手が不利になったら必ずこっちに何かしてくると思うの。先手を打っておきたい」
お互いが確認できない位置におそらく銃の能力者がいるので、まずはその位置が知りたいとそらは考えていた。
白音たちが吹っ飛ばした医療機器の破片や、溶け残ったパペットの下半身などを使ってまた新たなパペットが形成されている。
この場所はまだ材料になりそうなものが少ないので、白音たちには幸いだったかもしれない。
それに多分、パペットを作りすぎるとフロアに物が少なくなってしまう。
それは相手にとっても銃の能力者が隠れる場所がなくなることを意味する。
「わたし、多分性格悪いから思いつくんだけど、千尋ちゃんって仲間のふりしたメールで呼び出されたじゃない。でも呼び出した時にうまく騙さないと転移で逃げられるでしょ? そしたら……」
その痛みは白音がよく知るものだった。
それは、橘香の魔法と同じ攻撃だった。
佳奈ははっとした。
咄嗟に対応できたのは同じ攻撃を何度も訓練中に受けていたからだ。
そして橘香と同じ攻撃ということは、まったく同じ能力を持っていると聞いているその妹、凛桜のものだということだ。
凛桜の能力が使われているとすれば、多分凛桜はもう…………。
「凛桜さんを探そう?」
佳奈がそう言って手を差し出すと、白音はその手を取って一緒に立ち上がった。
「うん」
ずれてしまった虎のマスクを直しながら、白音が佳奈の方を見る。
「でも佳奈。山本さんもあまり乱暴にしないでね」
「了解…………」
今度は黒豹が虎に怒られた。
「莉美、ありがと。バリアを解いて。佳奈、一体任せていい?」
「冗談、白音が一体だよっ!」
走り出すと佳奈は赤い輝線をのこして加速する。
攪乱するように左右にステップを踏むと、パペットは動きを追いきれず弾丸はほとんど当たらなかった。
いくつか命中した弾丸もほぼ跳ね返されるようにダメージを与えていない。
佳奈の身体強化はダメージ耐性も高めるようだった。
「橘香対策だったんだけどなっ!」
白音の方は少し駆ける程度の速度で、ほぼ一直線に近づいていった。
飛んでくる弾丸を大小問わずすべて剣で弾いていく。
「嘘……弾丸って目で見て叩き落とせるもんなの?」
佳奈は橘香との訓練で見たことがあったが、莉美がそれを見るのは初めてだった。
目を丸くしていると、背後から突然肩をぽんと叩かれた。
「ひああぁっ!!」
莉美が驚いて垂直に1メートルほど飛び上がった。振り向くと、そらと一恵がいる。
「リーパーが二乗がけされた今の白音ちゃんなら、弾丸なんてデコピンで落とせるの」
そらの言葉に莉美は思わず自分の額を抑える。
「まじかぁ、あたしたまにデコピンされるんだけどな。穴開いたらやだな」
そらはまだマインドリンクできるほど回復していないらしかった。
一応予めインカムを全員付けているので、ここからでも指示は出せる。
一恵にしても白音たちの方に行かずにこちらにいるのは、戦える状態ではないのだろう。
前衛をふたりに任せてバックアップに回るつもりらしい。虎と黒豹の勇姿を見守っている。
「ネコちゃんたちキレてる?」
白音と佳奈は努めて冷静に戦っている。
しかしひと目見て、その奥底にかなり不穏な空気が流れているのを一恵は感じていた。
莉美があのパペットには、おそらく凛桜の魔法が働いていることを伝える。
「そう…………」
戦況はそらが冷静にコントロールしてくれるだろう。
だから一恵は、白音や佳奈が激情に駆られて無茶な戦い方をしても、しっかりバックアップしなければと思う。
そしてもしふたりが冷静に戦えるようなら、その時は代わりに自分が心置きなくキレようと思う。
チーム白音が、静かな怒りを湛えていた。
「橘香さんて、銃を魔法で出現させてたよね? あんな風に人形に設置するわけじゃなくて、空中に浮いてたと思うんだけど」
莉美は尋ねながら、そうやって体中いろんなところを撃たれたのを思い出していた。
「銃口はフェイクだと思う。私のインカムと一緒。相手をミスリードするの。パペットの装備に見えるように、魔法を重ねて使ってると推測」
そらの推測を裏付けるように、パペットと対峙する白音たちの背後に大量の重機関銃が音もなく出現する。
そらがインカムで警告を発する。
「後ろっ、銃で狙われてるっ!!」
まだ体力を回復中のはずのそらからの突然の警告だったが、ふたりは良く反応する。
振り返って魔力を腕に集中、ダメージを少しでも軽くしようとした。
しかし弾丸が到達する前に、莉美が素早く魔力障壁を展開してこれを防いだ。
橘香にしごかれて、咄嗟の障壁展開はもはや条件反射のレベルになっている。
「ありがとっ!!」
細部までリアルに再現されている機関銃が、自身で発生する熱で動作不良を起こすまで連射される。
しかし障壁には傷すら付けられず、硝煙と粉塵が舞い上がって視界が悪くなっていく。
その時対戦車グレネードランチャーが出現した。
これは橘香が使っているところを見たことがない。
魔法少女たちにはそれが何なのかまでは判らないが、見た目から大きな威力を持ちそうだということは想像がつく。
こっちが本命なのだ。
「よけた方がいいかもっ!!」
そらにも武器の知識はあまりない。
成型炸薬によるモンロー/ノイマン効果。
魔法障壁にぶつかって炸裂したグレネードは衝撃を一点に集中させ、莉美のバリアを破壊した。
飛び散った金属片が多数降り注ぎ、白音と佳奈に突き刺さる。
「うぐうっ!!」
そして衝撃波で吹っ飛ばされたふたりは迎え撃ったパペットに背中を巨大なハンマーのような拳で殴られた。
「あがっ!」
ふたりは血しぶきをまき散らしながら吹っ飛び、並べられた医療用寝台を次々と巻き込んでいく。
「白音ちゃん!! 佳奈ちゃん!!」
以前ミスリルゴーレムにやったことの意趣返しのようになった。
そらは現代兵器を研究していなかったことを悔やむ。
が、ふたりはゆらりと立ち上がる。
「大丈夫」
「へーき」
ふたりの声が荒い息づかいと共にインカムから聞こえてくる。
金属片が体中に大量に突き刺さって血まみれだが、魔法で生成された武器だったので破片も消えてしまったようだ。
体内には残っていない。
であればそんなものは放っておけば治ってしまう。ふたりは魔法少女なのだ。
「多分どこかで見てて攻撃してるのよね。どこにいるんだろう。橘香さんはそんなに離れた位置には銃器出せなかったと思うけど」
一恵は橘香と繰り返した模擬戦を思い出していた。
こんなことで役に立つのは残念だが、対策を立てるのには有効だろう。
「さっきからこっちには攻撃してこないの。私ならこっちを攻撃して守勢に回らせる。銃の能力者はこっちに気づいてないのかも。別の隠蔽能力を持った魔法少女がいる可能性もあるけど」
「そうね。強力な盾を持った莉美ちゃんしかいないと思ってるから、先に前衛を崩そうとしてるんでしょうね。くたくたのわたしたちがいると判れば狙うよね、普通」
「こっちに来てもあたしがバリアでみんな守るから平気!! 今度はさっきの奴でも耐えれるように作るから!」
莉美が明るく請け合ったが、その後背後に庇う少女たちには聞こえないように小声で一恵に囁く。
「橘香ちゃんにさんざんバリアの内側に銃を出されて撃たれたでしょ? こっちに近づかれたら防げなくなるかも」
「銃を出すスペースがないくらい密着させてバリアを出したらどうかしら?」
だが一恵のそのアイディアに、そらが問題点を指摘する。
「体の近くにバリアを出すと、外から攻撃された時に衝撃が伝わってしまうの。さっきみたいな大きな爆発だと、衝撃だけでもまずい…………」
そして嘆息して白音たちの戦況を見守る。
「白音ちゃんたちなら勝てると思うけど、相手が不利になったら必ずこっちに何かしてくると思うの。先手を打っておきたい」
お互いが確認できない位置におそらく銃の能力者がいるので、まずはその位置が知りたいとそらは考えていた。
白音たちが吹っ飛ばした医療機器の破片や、溶け残ったパペットの下半身などを使ってまた新たなパペットが形成されている。
この場所はまだ材料になりそうなものが少ないので、白音たちには幸いだったかもしれない。
それに多分、パペットを作りすぎるとフロアに物が少なくなってしまう。
それは相手にとっても銃の能力者が隠れる場所がなくなることを意味する。
「わたし、多分性格悪いから思いつくんだけど、千尋ちゃんって仲間のふりしたメールで呼び出されたじゃない。でも呼び出した時にうまく騙さないと転移で逃げられるでしょ? そしたら……」
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