ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第22話 魔法少女探知レーダー その二

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 行方不明になっている桃澤千尋の、居場所を突き止める方策をそらたちが準備したという。
 千尋の足取りを追えれば、さらわれた少女たちの行方を掴むことも可能だと白音たちは考えていた。

「迎えに来たわ。今そらちゃんが最終調整をしてくれてる。あと三十分もあれば準備できるそうよ」

 そう言ってウインクをする一恵の表情には、少し余裕が戻っている。
 さすがは『悪の天才科学者』コンビである。
 半日欲しいと言っていたが、まだ四、五時間程しか経っていないだろう。

 三十分と聞いた佳奈は一旦家に帰ることにしたようだった。
 一恵に頼んで何やら準備があるらしい。
 佳奈、莉美、そらはまた例によって『お泊まり』してくる、と既にアリバイ作りも万端だった。
 白音は最難関の自分のお母さんには嘘をつく必要がなくなっている。
 幾分か気が楽にはなったのだが、そろそろ三人の親にも何か言われるかもしれない。
 いくら夏休みでも少し度が過ぎているようには思うのだ。



 きっかり三十分後、チーム白音はブルームの小会議室に集合した。
 そこには魔法少女と思われる女性がふたり待っていた。
 名前は知らないが、ギルドの事務方を手伝ってくれている子たちだ。
 リンクス、蔵間、それに橘香は被害児童のいる各地の養護施設と連絡を取り合って飛び回っているらしい。
 一恵が先に、それぞれの施設とここを行き来できるようにこっそりと転移ゲートを設置済みだった。

 事務方の魔法少女たちは、緊急時の連絡や対応を任されているらしい。
 それと白音たちに「こんな時に申し訳ないのですが」と前置きして会話の録音の許可を求めてきた。
 今回行われる『救難信号発信チップの位置特定』のことを研究資料としてのこしておき、後日検証したいのだそうだ。
 録音を行いつつ、さらにメモを取る用意もしている。
 白音はそらと一恵の方を見る。
 ブルームの研究者たちと一緒に技術開発をする上では良い資料になるだろう。
 ふたりにも異論は無い。


「それじゃ今から、チーム白音のみんなの力を借りて、桃澤千尋さんのスマホからくり抜かれていたチップの場所を探すね」

 そらが多分、後で資料化しやすいように意識してそう言った。
 そらはこの場所でそれを始めるつもりらしかった。

「あの廃校を中心にしなくていいの?」

 白音はてっきり、今から小学校へ向かうのだと思っていた。

「これだけ組織だってると、もっと広範囲を調べるべき。それに一度これをやるとチップから魔力信号が出るから、向こうにも気づかれると思う。だからチャンスは一度きりで、カバー範囲は最低でもここからあの小学校と、それに被害に遭った子がいる養護施設を全部丸ごと含めたいの」
「丸ごと……」

 つまり最低でも関東圏をすべて、一度に調べたいということだ。
 かなり覚悟のいる途方もなさだ。

「簡単に仕組みを説明するの。まずここから強力な魔力を全方位に放射して、それによってチップの救難信号を発信させる。そして魔力波エーテルブームとして返って来るその救難信号を捉えて位置を特定する。幸い千尋ちゃんのチップはまだ実験段階だから出回ってる数は多くない。千尋ちゃん以外のチップの位置は既に把握済み。複数反応があっても判別が可能」

 ここまでは多分、初めから皆想定していたことだ。
 大規模にそれを実行するだけの魔力や能力が自分たちにあるのかどうか、だけが問題になっている。

「ただしこのやり方には問題があって、うまく信号を捉えたとしても、方向と大まかな距離くらいしか分からないの。だからそれを頼りに信号の発信位置を探すと時間がかかってしまう。魔力を放射した時点で相手には察知されるはずだから、それだと多分逃げられてしまうの。そのため位置を速やかにピンポイントで特定し、間を置かず転移で一気に向かう必要がある」

 そらもできるだけ分かりやすいように、早口にならないように気をつけて喋ってくれているらしい。
 しかし正直なところ、白音にも大まかな雰囲気くらいしか分からなかった。

 その莫大な量に上る魔力を放射するのは、もちろん莉美の仕事だ。
 ただし位置を繊細に特定しなければならないので、一恵の力を借りて完璧に整流された魔力場、いわば魔力のグリッドのようにそれを整形する。
 そして白音の能力強化リーパーの力を借りて威力を上げ、関東中心に広大なマス目を掛けるのだ。

 返ってきた救難信号を拾うセンサーの役は、最も魔力感度の高いそらが行う。
 信号は遠距離で微弱なため、同じく白音と莉美の力を借りてできるだけ広範囲で詳細な把握を目指す。
 ただしそれだけではやはり正確な方向が分かるのみでデータが足りない。
 このまま位置を特定するには自分たちが移動してもう一度同じ事をすればいいのだが、それでは時間がかかりすぎてしまう。
 そこでグリッドの位相を傾斜させる。


「あたしが傾くの?」

 傾斜と聞いて、莉美は首を四十五度斜めに傾げる。

「傾けるのはわたしがやるわ。莉美ちゃんはできるだけ均質な魔力を三度、パルスで出して。タイミングは精神連携マインドリンクでそらちゃんが教えてくれる。みんなが完璧にシンクロしないといけないから」

 一恵の言うシンクロとは、莉美、そら、一恵の三人がひとつの機械のようになって完璧に動作するということだろう。
 莉美に掛かる負担が随分大きい。
 白音が少し心配して見ていると佳奈と目があった。
 佳奈が頷く。大丈夫だろ、と言っているようだった。
 その役回りがむしろ莉美で良かったと白音も思う。
 莉美以外には任せられまい。
 やる時はやってくれる女の子なのだ。

 傾斜位相で魔力グリッドを三度放つと、魔力の反響エコーの仕方によってそらの頭の中には立体地図ができあがるらしい。
 そして非接触通信チップは、魔力を受けると一旦回路に誘導電流が流れ、その電力によって魔力信号を発振する。
 このため通常のエコーよりは数ミリ秒遅れてこちらに到達する。
 すなわちそらがデータを収集するタイミングをその分遅らせれば、その時最も強い信号が救難信号ということになる、らしい……。
 解像度を考えるととんでもないデータ量なのだが。


「ごめんね莉美ちゃん」
「?」

 何故かそらが謝った。

「この前、魔法少女探知レーダーなんて無いって言ったの。ここにある」
「あたしの言ったことが実現できるのって、そらちゃんだけだよね。むしろびっくりだよ?」

 ここにしかないからまあいいんじゃないかな、と白音は思う。

 魔力グリッドを三度放つのにかかる時間がおよそ三秒。
 そらの脳内にできあがった仮想マップを一恵とリンクしたら、一恵がその地点への転移ゲートを出す。
 他者が脳内に思い描いた特定地点をマインドリンクによって一恵と共有すれば、そこへの転移が可能になることは実験済みらしい。
 十分な解像度さえあれば、たとえ仮想マップでも一恵が場所を指定するのに耐えられるそうだ。

 場所の特定直後はおそらく魔法使用の過剰負荷オーバーロードによって莉美、そら、一恵の三人は使い物にならないだろうから、白音と佳奈が先行する。
 ふたりで千尋やさらわれた少女たちを探し、その安全確保を最優先する。
 敵がいればその排除を行う。
 そして莉美たち三人は回復次第ふたりのバックアップに向かう。
 こういう手筈である


「じゃあみんな準備はいい? 変身よっ!!」

 一生懸命メモを取っていたふたりの少女も、思わず手を止めてその変身に見入る。
 白音のかけ声に合わせて五人が同時に変身すると、桜、空、黄金こがね、鮮紅、菖蒲あやめ、それぞれの放つ輝きが織り交ぜてまるで虹のように美しく彩られ、側で見る者はその中に溶け込んだような錯覚を覚えた。
 全員が変身を終えると、事務方の少女たちは、はっと我に返る。

「よろしくお願いします」
「ご無事で!!」

 そらの精神連携マインドリンクでチーム白音がひとつに繋がると、莉美が呼び止めた。

「あ、待って」

 莉美が持って来ていた鞄から何かをごそごそと探し始める。

「あたしたち魔法少女だからさ、一応白音ちゃんの妹たちには顔見られない方がいいと思うの」
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