ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第21話 魔法少女狩り、再び その三

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 桃澤千尋は救難信号を発信できるチップを持っている。
 しかし現状その信号は拾えていない。
 どこにいるのか見当も付かない彼女の居場所を、白音はそらに見つけて欲しいと頼む。
 さすがにそれは無茶な頼み事だと、大人たちは思った。


「リーダーは私たちにただ指示を出せばいいの。頭を上げて。少し考えていることがある。あのスマホが千尋ちゃんのメッセージなら、絶対にそれを受け取るの」

 そらはさらりと言ってのける。

「半日欲しい。計算と準備が必要。一恵ちゃんとの連携は必須。犯人が根来衆ではない可能性も考慮しておいて。決行時には莉美ちゃんの魔力も必要。多分、ちょっとあり得ないくらい大量に必要なの」

 そらの頭の中には、既にある程度の構想が組み上がっているようだった。

「ふっふっふ。ついにあたしの本気を見せる時が来たようね。あたしの、あた、あたたたたた」

 白音が、調子に乗りたそうにしていた莉美の耳を引っ張って扉へ向かう。

「そらちゃんと一恵ちゃん以外は現場調べましょ。一恵ちゃん、近くまでお願いできる?」
「あいさ。お帰りも隊長の合図あれば迎えに上がります」
「え? ああ、うん。よろしくね」

 一恵が変な言い方をした。
 本人は特に意識していなかったらしいが…………、つい口をついて出たという感じだろうか。
 まるで軍人のような口調だった。

(一恵ちゃんが真顔でふざけてる…………わけでもなさそうね。橘香さんの影響かしら……)



 白音、佳奈、莉美の三人でスマホを発見したという魔法少女の家へと向かった。
 北関東にあると聞いている。
 一恵に頼んでできるだけ近くに転移ゲートを開いてもらった。
 人目を避ける余裕はなかったので、ゲートから飛び出してきた魔法少女たちが素早く辺りを見回す。
 どこからどう見ても怪しい集団だ。

 ふと白音は、海浜公園の時も同じような感じだったなと思い出す。
 自分たちが都市伝説を作って回っているのではないかと不安になったが、今は構っている余裕がない。
 もう日が少し傾き始めている。
 白音は、日が暮れるまでになんとか手がかりだけでも見つけたいと考えていた。
 一恵も一緒に転移ゲートをくぐってついてきて、人目につかなそうな場所をゲート地点として決めると、さっと帰ってしまった。

 千尋のスマホを発見したという魔法少女の家は、ごく普通の一軒家だった。
 両親と弟と共に四人で暮らしていると聞いている。
 玄関で応対してくれたのはその少女本人だった。
 顔を合わせるなり、最初に悲鳴が上がった。

「女帝っ!!」
「あー、それもう定着してるんですね…………」
「あっ、失礼しました。名字川白音ちゃん!! ヤヌル佳奈ちゃん!! 大空莉美ちゃん!!」

 順番にフルネームで呼ばれた。
 どうやらチーム白音はかなり有名らしい。
 ネット動画では莉美がエレスケのチャンネルに出演して知名度を上げてしまったが、魔法少女こっちの業界ではチーム白音が注目されているみたいだった。
 その少女によると、会いたい人ランキング一位が白音なのだとか。
 ちなみに二位はリンクスで三位は橘香だそうだ。
 他の人たちは向こうから実際に会いに来てくれるしね、と白音は思う。
 自分は滅多に会えない幻のレアモンスターみたいな扱いなのだろう。


「すみません。騒いじゃいけませんよね。スマホの調査ですよね」

 少女は名を田上慧たがみけいという。
 年齢は多分白音たちと同じくらいだろう。
 物体を透かして見る透視能力を持つ魔法少女らしい。
 それを聞いて白音たちは反射的に体を隠すが、けいの方は「うふふふふふ」と笑ったのみであった。
 けいが、自室のある二階へと三人を案内してくれる。
 小学生くらいの弟と母親らしき人が、口を開けて白音たちが階段を上がるのを見送っていた。

 窓際に置かれたベッドの下でそのスマホは発見されたのだという。
 けいの許可を得て三人で調べさせてもらったが、部屋にもベッドの下にも特に不審な点はない。
『透視ができる少女だからこそベッドの下に隠した』とも考えられるが、そこに特に意味はないように思われた。
 実際、慧がスマホを発見したのも透視ではなく、単にベッドの下に突っ込んだ掃除機が吸い上げたからだ。


「慧ちゃーん、お茶取りに来て!」

 階下から呼ぶ母親の声が聞こえた。

「すみません。自由に調べてて下さいね」

 慧が下りていくと、一階から大きな声で話すのが聞こえてくる。

「…………ちょっとあんた、あんなお友達いたの? びっくりしたわよ。言っといてくれればちゃんとしたお茶菓子用意したのに!」

 なんでびっくりされたのかが気になって三人は苦笑する。
 あまり無遠慮に部屋を調べるのもどうかと思うので少し待っていると、部屋の外から先程の弟がちらちらと覗いているのに気がついた。
 姉の女友達が気になる、という感じだろう。
 慧が盆にお茶を載せて戻ってくると、弟が女豹に捕まっていた。
 抱っこされて大人しくしている。
 慧はぷっと吹き出すと、お茶請けのせんべいをひとつ弟に咥えさせる。

こう、お姉ちゃんたち大事な話あるから下で待ってて」

 男の子はバイバイと佳奈に手を振ると階段を駆け下りていった。

「ごめんなさいね」
「いいよ、かわいい子だね」

 佳奈も莉美もひとりっ子だが、若葉学園で小さな子たちと遊ぶのは慣れている。
 ふたりからすれば、男の子はみんな大人しくてかわいいものだった。
 実際にはそんなわけないのだが、彼女たちの前では男の子は皆そうなるのだから仕方がない。


「どうです? 何か手がかりはありました?」

 そう尋ねた慧と、同じ顔をして佳奈と莉美も白音の方を見ている。
 一緒に調べていたはずなのだが。

「桃澤さんはこの部屋の場所を前から知っていたんですよね?」
「はい。以前任務で帰りが遅くなった時に、親にばれないように外から自室に直接転移してもらったことがあるんです」

 白音は一恵から聞いたことがあるのだが、目視しないで慣れない建物の室内に転移ゲートを作るのは難しいらしい。
 部屋の中のものを壊しそうで怖いと言っていた。
 千尋の転移はそれほど正確なのだ。

「魔力の気配も感じませんよね?」
「そうですね。発見した前後も不審な感じはありませんでした」

 千尋と慧は任務でたまに顔を合わせることはあったものの、特別親しい間柄というわけではないらしい。
 転移場所にここが選ばれたことに、特別な意味は無いのかもしれない。
 むしろ、ここから5キロメートル以内――すなわち転送可能距離内――の場所で何かがあったのかもしれない、ということを追った方がよさそうだった。
 地図アプリで、半径5キロメートル圏内に何かないかを探ってみる。


「桃澤さんなら魔法を使ったり転移するポイントは、しっかり人目につかないところを選ぶはず」

 白音は千尋の人となりを思い出す。
 地元民である慧に手伝ってもらって候補地をいくつかピックアップしていくと、近くに小学校があった。
 もう廃校になっているらしい。
 ここなら敷地内に、外からの視線を完全に遮ることのできる場所がありそうだった。
 千尋が転移魔法を使用するには都合のいい場所だと言えるだろう。
 この小学校を第一候補として、順に調べていくことに決めた。

 慧やその母親、弟の晄にも礼を言って家をあとにする。

「あの、千尋さんたちのことよろしくお願いします。それにじょて……名字川さんたちも気を付けて下さいね」
「ありがとう。白音って呼んでね。慧さんも気を付けて」

 佳奈が去り際に、見送ってくれた晄の頭をわしゃわしゃと撫でていった。



 廃小学校への道を急いでいると、白音のスマホにブルームから連絡があった。
 声は知らない男性だったが、ブルームの研究員と名乗った。
 千尋のスマホのデータが一部解析できたという報せだった。

 復元できたデータはメールの文面の一部で、内容は千尋への救出の要請だった。
 つまり魔法少女からのSOSを受けていたわけだが、救出の要請地点が慧の家に近かった。
 初めはギルド専用のSNSを使って接触し、肝心の救出場所や時間は通常のメールによって伝えられている。
 魔法少女専用のSNSを使うことで千尋に信用させておく。
 その後ギルドに露見しにくいように、適当な理由を付けて別のメールに切り替える。
 そういう手口だろうと思われた。
 たとえ疑わしくとも、魔法少女が窮地に陥っているかもしれないとなれば、救出に向かわざるを得ないだろう。


「そうやってこの近くに呼び出したってことだな」

 佳奈が腹立たしげにそう言った。
 そういう騙し討ちは、彼女の最も嫌うところだ。

「でも佳奈、それじゃ魔力紋エーテルパターン認証を突破してなりすましたってこと?」

 白音はそらの言葉を想い出していた。
 そらはこの魔力紋エーテルパターン認証のことを、「現状では無理矢理こじ開けることが最も難しい認証方式」だと言っていたはずだ。

「拉致った魔法少女を脅して無理矢理メール送らせたとか、そんなとこだろうさ。すぐならバレないだろ?」
「確かに…………」

 あっさりと佳奈が示した答えに、白音も納得した。
 ハッキングは何も電子的なものばかりとは限らない。
 厳重に管理されたセキュリティほど、意外と物理的に攻略した方が効果があったりする。
 転移能力者を捕まえるために、よく練られた作戦だと思えた。
 千尋に狙いを定め、そのために誰かを拉致してスマホを奪って…………かなり手が込んでいる。

「そこまでされたら、信用しちゃうわね…………」
「なりすまし、ダメ!!」

 莉美が両手の人差し指でバツ印を作ってそう言った。
 白音もその通りだと思う。ゼッタイにだ。

 白音がスマホをポケットにしまおうとしていると、もう一度着信コールが鳴った。
 今度は名字川敬子からだった。
 白音はドキッというかギクッとした。
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