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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第21話 魔法少女狩り、再び その二

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 桃澤千尋と連絡が取れなくなった。
 そしてどうやら千尋は、救難信号を発振できるチップを持った状態でいるらしい。

「俺たちは救難信号を見つけてくれ、というのが千尋君からのメッセージではないかと考えている」

 リンクスがそう言った。

 救難信号と言っても魔力を信号として発するものなので、それは魔法を扱う者にしか感じ取れない。
 ギルドから特に魔力感度の高い魔法少女たちを各地に派遣して信号を探っているが、今のところそのような信号は拾えていないとのことだった。


「敵ならスマホは最初に取り上げるでしょうから、その前にチップだけにして隠して所持しているということでしょうか?」

 わざわざくり抜いた意味は「救難信号を発信できる」と知らせる意味と「小さくして隠しやすくする」というふたつの意味があるのではないかと白音は考えた。

「だとすれば所持品を奪われるような、自由のない状態にあると考えるべきか」

 リンクスが蔵間と視線を交わす。状況は良くない。

「魔力信号を拾えるのは半径10キロくらいが今のところ限界なんだ。スマホが発見された場所を中心に捜索してるんだけど、まだ拾えてない。千尋君の転移距離は最大で5キロくらいだから、移動していないならもう拾えているはずなんだ」
「信号が出ているのならもう付近にはいないということだろうな」


 つまり自由の無い状態で移動させられている、ということだ。かなり深刻な事態だと白音も思う。

「信号を出せば、相手にも気づかれるだろうから、今は出していない、という可能性もあるの」

 そらが指摘する。
 救難信号だとは分からなくとも、相手も魔法が扱えるのならば、何かしたということは察知される可能性が高い。
 であれば千尋も簡単には発信出来ない、ということになる。


「まずはスマホの解析が先だろうね。ミッターマイヤー君、協力をお願いするよ」

 そらが力強く頷いた。

「ギルドは捜索の範囲を拡げていこう」

 リンクスの言葉に橘香が頷いてタブレット端末を操作する。
 ギルドの依頼内容を書き換えているのだろう。


「それともうひとつ、気になる事件があるんだ。関東圏内で児童養護施設を狙っていると思われる誘拐事件が、現在判明している限りで三件起こっている。手口、痕跡から魔法が絡んでいるんだろうと思う」
「なんで……」

 蔵間の言葉を聞いて白音が絶句した。

「政府との取り決めで異世界事案が絡んでいそうな事件は、情報が共有される約束になってるんだよ」
「どうして……、どうして、養護施設なんですか………………」

 白音がようやく絞り出したその言葉に、チームの皆は静かな怒りを感じた。


「星石の適合者は、自分の居場所がない、と感じている人間に多いんだ。つまり社会との繋がりが心許なく、帰属意識の低い者の中に現れる可能性が高いと考えられている。だから……」

「そう…………ですか。それでわたしも…………」


 蔵間が隣の橘香に思いっきりすねを蹴られた。

「いっ!! ……いやっ、白音君! すまない!! また僕は思慮を欠いた言い方を。君は…………」
「…………いえ、気にしないで下さい。わたしは平気です。みんながいてくれますから。そうじゃなくて、妹や弟たちと同じような思いをしてきた子たちから、さらになけなしの幸せを取り上げようだなんて、許せないんです」
「そうか…………。うん、そうだね」
「魔法少女を直接確保できなくなった奴らが、今度は適合する可能性のある者をさらって魔法少女に仕立てよう、ということなんでしょうか?」

 白音の言葉にリンクスも同意する。

「黒幕が根来衆ねくるしゅうだとしたらその線が濃厚だろうね」


 ひとつ打つ手を封じれば、今度はよりこちらの嫌がる手を新たに打ってくる。
 そんな手合いを相手に神経をすり減らされるのは、あまりいいことではない。

 こういう時はチーム白音の明るさが頼もしいと思うのだが、さすがに被害者が自分に近い身の上の子供たちとあっては、冷静でいられないかもしれない。
 リンクスはチーム白音の面々を少し心配したのだが、その時莉美と一恵が意味ありげな目配せをしたことに気がついた。


「犯人は根来衆だと仮定して動こうか。それ以外だと想定のしようがないし、守りに徹するしかないからね。守るには少し数が多いけど、施設側でも警戒してもらうよう通達を出そう」
「通達?」

 蔵間は『通達』と言ったが、公的な機関でもないのにそんな権利があるのだろうかと思った。橘香が白音のその疑問に答えてくれる。

「蔵間はね、少し前から各地の児童養護施設の理事に名を連ねているのよ」


 それを聞いて莉美がにやりと笑った。いいネタを見つけた時の顔をしている。

「魔法少女になりそうな子にツバを付けとこうとか?」

 莉美の笑みの意味を悟った橘香が、それを受けて少し芝居がかって蔵間を睨んだ。

「違う違う、違うよっ? 白音君を見ててね、ちょっと思ったんだ。白音君は多分どんなところにいたって自分の力で世に出てくる人だよ。でもね、チャンスさえあればっていう埋もれた才能が、世の中には一体どのくらいいるんだろうって、考えたら怖くなっちゃってね。何か手助けができればと思ったんだ。白音君はうちの社に欲しいくらいの優秀な人材だしね」
「引き抜きはやめてくれよ。白音君には代わりがいない」

 焦る蔵間にリンクスが冗談めかして応じる。

「いやいやうちの舎に欲しいです」

 すかさず一恵が手を挙げたが、どうも邪な意味に聞こえる。
 多分うちの事務所に欲しいとかそういう意味ではなさそうだ。

「うちのなのしゃ」

 いたってまじめな顔で莉美が張り合って手を挙げた。
 一恵と狙い澄ましていたようなあうんの呼吸を見せる。

「うちのだ、っしゃあぁぁぁぁ!!」

 一恵が猫みたいに莉美を威嚇した。


「ちょっと!! そんなことやってる場合じゃないでしょっ!!」

 養護施設が狙われていると聞いてやはり内心焦りを感じていた白音が、腰に手を当てて眉をつり上げている。
 そして人差し指を立てようとした白音の腕を、今ここぞというタイミングで一恵がさっと取る。

「大丈夫、わたしたち五人が揃えばできないことなんてないから。焦らないで。きっとみんな助かるし、あいつらは絶対止める、ね?」


 みんなが白音の方を見ている。
 白音は爪が食い込むほど握っていた手を少し緩める。
 この自称『人じゃない偽物の魂』の人はチーム白音の皆に揉まれて、着実に白音のトリセツを身につけているようだった。


「範囲が広くて大変だと思いますが、警護はお願いします」

 白音は今すぐ飛んでいきたいほど若葉学園の弟妹たちのことが心配で堪らなかった。
 しかしひとりで抱え込んでもうまくはいかない。
 それをチームの皆から教えられた。


大本おおもとを叩きつぶすことが大事だと思っています。それに根来衆が絡んでるとしたら、逆巻姉妹が出てくる可能性もありますよね。そうなったらわたしたちが対処した方がいいと思いますし、対処させて下さい」
「しかし現状さらわれた者がどこにいるのかすら…………」
「ええ、そうですね。だから……、そらちゃん」

 白音が名を呼ぶと、そらが手を挙げる。

「はい! 白音ちゃん」
「お願いそらちゃん。どうにかして千尋さんの居場所を突き止めて。同一犯なら、そこからさらわれた子たちのことも辿れると思う。無理は承知なんだけど、どうかよろしく」

 白音がそらに頭を下げた。

 現状分かっていることが少なすぎる。
 スマホの解析が済んだとしても有効な手がかりが得られるとは考えにくい。

 そらがほぼ人智を越えた頭脳を持っているのは皆よく知っている。
 しかしいくら頭を下げたところで、それはさすがに無茶な頼み事だろうと大人たちは思った。
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