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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第17話 チーム白音VSエレメントスケイプ その四
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白音の見舞いに、エレメントスケイプの四人がやって来た。
そして、白音たちに頼みたいことがあるのだという。
彼女たちは莉美のエレスケへの電撃加入、そしてすぐに脱退。
その経緯をストーリー仕立てにしてファンに説明するつもりだった。
真実を語るわけにはいかないから、もちろんフィクション大盛りのストーリーになる予定だ。
それを粗く編集して動画にしたものを、いつきが白音たちに見せてくれる。
◇
エレスケがある日、記憶喪失の少女『莉美』を助けるところから話は始まる。
彼女は自分がどこの誰かも分からなかったが、素晴らしいアイドルの才能があり、エレスケに加入することになった。
しかしそこへ歌手を休業しているはずのHitoeが現れる。
彼女は故郷を救うために極秘裏に異世界から遣わされたエルフの歌姫だった。
Hitoeは、故郷を救うためにその少女の歌の力が必要だという。
少女はエルフの国を救うために同行することを選択する。
しかしエレスケはHitoeたちに歌の勝負を挑む。
「わたしたち☆に勝てないようなら異世界に渡ったところで何もできはしない。わたしたち☆を倒す実力があるのなら奪って去るがいい」
結果、Hitoeと『莉美』は歌でもパフォーマンスでもエレスケを圧倒し、人々を魅了する。エレスケは納得してふたりを見送ることにした。
「いつか異世界が平和になったら帰ってこい。一緒に唄おう。待ってるぞ」
◇
昨日の倉庫での乱闘騒ぎもちゃっかりカメラが回っていたらしい。
Hitoeを守るナイトとされている白音が、ぼろぼろになりながらも闘志を失わない姿がめちゃくちゃ格好よく描かれている。
火炎の旋風は幻術だったので映像には映っていないが、それを見た白音は今、顔から火が出そうになっている。
最後の歌勝負はプールでの映像を使うようだった。
「こういう夏休みコラボ企画だったことにするわ。莉美ちゃんがHitoeさんの関係者じゃないのかっていう噂は既に流れているしね。Hitoeさんには申し訳ないんですけど、もう名前を出さないと収まらないと思います」
Hitoeの映像自体は休業中とは言え、権利関係もあるだろうから使わないようにしているらしい。
歌も詩緒たちとしては泣く泣くながらだが、後でもう一度別歌を白音と莉美に録音してもらって映像にかぶせる予定でいる。
「ちょっとファンの期待感あおっちゃうかもだけど、そこは許して。このくらいしとかないと、いろいろと詮索する人が出ちゃうから」
エレスケたちの頼みとは、白音たちの出演許可が欲しいということだった。
白音は自分の映像が配信されるのはかなり恥ずかしかったのだが、莉美がまだ未完成のその映像を見て嬉しそうにしていたので、折れることにした。
そして白音が渋々ながら容認したのを見て、一恵も事務所に掛け合ってみると言い出した。
所属事務所が許可してくれるなら、自分の歌や映像も出せるだろうと言う。
エレスケが、特にHitoeの大ファンのいつきと紗那が驚喜した。
Hitoeまで出演しているとなると注目度が跳ね上がってしまうかもしれないが、好意的に跳ね上がった方が叩かれるよりも迅速に忘れらていくだろう。
そういうものだと詩緒が言った。
ただの切り貼りとは言え、昨日の今日でよくここまでの映像を用意するものだと白音は感心する。
あとは魔法の映っているシーンを適当に誤魔化して、CGを追加して編集するらしい。
白音たちの身元が特定されにくいように、一応の配慮も施される予定だ。
最後の真剣勝負が何故かみんな水着姿になるのだが、このくらいチープな方がかえって夏休みの冗談企画ぽくて見過ごせる感じがする。
莉美がプールサイドでの歌とダンスの映像に見入っている。
その時のことを想い出しているようだった。
白音と、一恵と。一緒に同じステージに立って、唄っている。
「歌勝負の審査員、小中学生だねぇ……」
莉美がぼそっと呟いた。
「CGで銀色のちっちゃい異世界人にするわ」
詩緒の想像の中では、異世界の人というのは随分酔狂で暇を持て余しているものらしい。
◇
次の日の朝、白音は私服に着替えて病院をこっそりと抜け出した。
一週間のお泊まり会が終わる予定の日である。
聞けばみんなは一恵に協力してもらって既に一旦帰宅していた。
アリバイが成立しているらしい。
白音は若葉学園の側に繋げてもらった転移ゲートから出ると、顔を引き締めた。
アリバイはまだいいのだが、お泊まり会の間に大けがをしていたことを知られたくない。
まして敵と戦って殺されかけた、などと説明のしようがない。
しかし学園には強力な嘘発見器がある。
強力というか完全無欠である。
白音の嘘が敬子院長にばれなかったことは、今まで一度たりともない。
白音が『できれば逃げたい』と思う唯一の相手である。
魔法少女としての回復力のおかげで包帯はもうすべて取れていた。
佳奈たちに見てもらったり、鏡を使ったりして隅々まで調べたが、傷跡は綺麗さっぱり治ってしまっている。
だから外見上はまったく問題がない…………はずだった。
けれど敬子は、「お帰り」と言うなり、白音を矯めつ眇めつするような目になった。
大荷物を抱えて玄関を入ってきた白音を見つけると、その体を全身隈無く調べるようにして見つめる。
明らかに何かがあったことを察知している視線だった。
なので白音は耐えきれなくなって、
「友達を助けるために怪我をしたの。もうすっかり平気だけどね」
と報告した。
敬子がなおもじっと白音を見つめる。
そこで視線を逸らすから嘘がばれるのだ。
いや、昔頑張って逸らさなかったこともあるが、結局はばれた気がする。
「そう。それでお友達の怪我は大丈夫なの?」
「うん。わたしが一番酷かったくらいで」
友達が怪我したとはひと言も言っていない。
白音以外に怪我人が複数いることも、今の言葉で伝わってしまった。
「今日これからもう一度病院で診てもらうの。それで何ともなかったら終診だと思う」
「そう……」
敬子はいつも、ジャージ姿にエプロンを着けている。
今年六十二歳になるが、多分先生たちの誰よりもバイタリティがあって、人一倍働いている。
若葉学園の子供たち全員の頼れるお母さんだ。
「気を付けなさいね」
そう言って敬子は、白音の肩の辺りを軽くトンと叩いた。
「いっ………!!」
切断髪の女に貫かれて、肩の骨が砕かれていたところだ。
粉々にされていたのでまだ完全には治りきっていない。
突然の痛みに白音は思わず声を漏らしてしまった。
「ほんとにもう……。まああなたが平気だって言うんなら、いいわ。ああ、そうそう。怜奈ちゃんが、白ちゃんに代わってお姉ちゃんやらなくちゃって張り切ってたから、一度話をしてあげてね」
「怜奈ちゃん」とは若葉学園に在籍する十五歳の少女で、「白ちゃん」こと白音の一学年下、中学三年生である。
寮生活を始めた白音が学園を出たので、今年から学園の最年長となっている。
だから白音をお手本にして、『お姉さん』になるべく頑張っているらしい。
「話をしてあげて」とは、あまり気を張らず肩の力を抜いてほどほどにして欲しい、ということだろう。
いつも働き過ぎの敬子や白音が言っても、まったく説得力はないだろうに。
敬子に報告、という大仕事を終えると、白音は肩の荷が下りて嘘のように気が楽になった。
もう怪我なんかすっかり治ってしまったんじゃないかと感じるほどに心が軽い。
だからその日は丸一日、退院の可否を決める検査が予定されていたのだが、何の不安もなかった。
足取りも軽く、思わずスキップしたくなる。
直通の転移ゲートで魔法少女たちのたまり場と化している病室へと戻ると、佳奈、莉美、そら、一恵が真剣な顔でジャンケンをしていた。
何をしているのかと思えば、白音の検査室巡りの付き添いを決めているらしかった。
みんなでぞろぞろついて歩くと怒られそうなので、誰かひとりが代表することにしたのだそうだ。
激闘の末辛勝を納めた一恵が、その日一日白音の介添えをしてくれた。
白音の予想通り検査の結果には何の異状も見られず、すぐに翌日の退院が決定した。
そもそも魔法少女たちの回復力を驚異的だと感じている医者が、さらにまた驚いていた。
結局莉美のガス抜きを兼ねた魔力循環は、かなりの効果があったのだ。
あの後も白音は何度も、莉美に『強制変身』させられている。
しかしせっかく「元気になって良かったね」と言ってくれている医者に、一恵がしつこく詰め寄る。
「ほんとに? ほんとに大丈夫なの? ちゃんと調べたの?」
別に医者に落ち度は何もないのだが、慎重を期したい一恵がずっと質問攻めにしている。
しかししつこく聞かれたところで、医者にしても説明に困る。
そもそも魔法少女たちは非科学的な回復力を持っている。
その上白音は、そんな魔法科学のデータをも上回るような奇跡を見せて生還しているのだ。
本来ならあり得ないことだし、予後の見解を述べることもできない。
ただ、結果はもう正常だとしか言えないのだ。
「ちゃんと調べたよっ!」
あまりにくどい一恵に、とうとう医者が切れた。
白音は慌ててお礼と謝罪に頭を下げつつ、一恵を連れて診察室を後にする。
もうふらつくこともなく、しっかりと普段どおりに歩いていた白音の腕を、外で待っていた莉美が取った。
「一緒に羽目板外すんだよね」
「外すのは羽目よ。羽目板外したら壁に穴が開くじゃないの」
顔を合わせるなりツッコミ役をやらされている白音に、佳奈が小さく手を上げて笑みを見せた。
佳奈とそらも、待合室で待っていてくれたようだ。
「みんなでアジトのリフォーム?」
そらが小首を傾げる。
まあ、それはそれで楽しいかもしれないと白音は思う。
「夏休みはまだまだ残ってるよねっ! 白音ちゃん!!」
「もちろん。でもまずは宿題よ、莉美。どうせまだまだ残ってるんでしょ?」
白音は莉美が笑っている顔を見て、元気になってくれて本当によかったと思う。
そしてそれは多分、お互い様に莉美の方も同じ事を思っている。
「白音って羽目の外し方覚えてる?」
佳奈がそう言いながら、白音の肩を軽く突っついた。
「いや、何よそれ。人を生真面目な人みたいに言わないでよ」
「お、おう。そか……。なんか……ごめん」
一番治りが遅かったのが砕かれた肩だった。
もう痛くないのか突っついて確かめているのだろう。
朝、敬子に触られた時は痛かったが、半日ほどでもはやほとんど平気になっている。
「大人になった白音ちゃんが羽目? を外すと、どんななるのかちょっと楽しみ」
莉美の想像している『羽目』が何なのか見当もつかない。
しかしよろしい。
チームのリーダーとして、責任を持ってその想像を超えるくらい羽目を外そうではないかと白音は決意した。
やはり白音は、真面目だった。
そして、白音たちに頼みたいことがあるのだという。
彼女たちは莉美のエレスケへの電撃加入、そしてすぐに脱退。
その経緯をストーリー仕立てにしてファンに説明するつもりだった。
真実を語るわけにはいかないから、もちろんフィクション大盛りのストーリーになる予定だ。
それを粗く編集して動画にしたものを、いつきが白音たちに見せてくれる。
◇
エレスケがある日、記憶喪失の少女『莉美』を助けるところから話は始まる。
彼女は自分がどこの誰かも分からなかったが、素晴らしいアイドルの才能があり、エレスケに加入することになった。
しかしそこへ歌手を休業しているはずのHitoeが現れる。
彼女は故郷を救うために極秘裏に異世界から遣わされたエルフの歌姫だった。
Hitoeは、故郷を救うためにその少女の歌の力が必要だという。
少女はエルフの国を救うために同行することを選択する。
しかしエレスケはHitoeたちに歌の勝負を挑む。
「わたしたち☆に勝てないようなら異世界に渡ったところで何もできはしない。わたしたち☆を倒す実力があるのなら奪って去るがいい」
結果、Hitoeと『莉美』は歌でもパフォーマンスでもエレスケを圧倒し、人々を魅了する。エレスケは納得してふたりを見送ることにした。
「いつか異世界が平和になったら帰ってこい。一緒に唄おう。待ってるぞ」
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昨日の倉庫での乱闘騒ぎもちゃっかりカメラが回っていたらしい。
Hitoeを守るナイトとされている白音が、ぼろぼろになりながらも闘志を失わない姿がめちゃくちゃ格好よく描かれている。
火炎の旋風は幻術だったので映像には映っていないが、それを見た白音は今、顔から火が出そうになっている。
最後の歌勝負はプールでの映像を使うようだった。
「こういう夏休みコラボ企画だったことにするわ。莉美ちゃんがHitoeさんの関係者じゃないのかっていう噂は既に流れているしね。Hitoeさんには申し訳ないんですけど、もう名前を出さないと収まらないと思います」
Hitoeの映像自体は休業中とは言え、権利関係もあるだろうから使わないようにしているらしい。
歌も詩緒たちとしては泣く泣くながらだが、後でもう一度別歌を白音と莉美に録音してもらって映像にかぶせる予定でいる。
「ちょっとファンの期待感あおっちゃうかもだけど、そこは許して。このくらいしとかないと、いろいろと詮索する人が出ちゃうから」
エレスケたちの頼みとは、白音たちの出演許可が欲しいということだった。
白音は自分の映像が配信されるのはかなり恥ずかしかったのだが、莉美がまだ未完成のその映像を見て嬉しそうにしていたので、折れることにした。
そして白音が渋々ながら容認したのを見て、一恵も事務所に掛け合ってみると言い出した。
所属事務所が許可してくれるなら、自分の歌や映像も出せるだろうと言う。
エレスケが、特にHitoeの大ファンのいつきと紗那が驚喜した。
Hitoeまで出演しているとなると注目度が跳ね上がってしまうかもしれないが、好意的に跳ね上がった方が叩かれるよりも迅速に忘れらていくだろう。
そういうものだと詩緒が言った。
ただの切り貼りとは言え、昨日の今日でよくここまでの映像を用意するものだと白音は感心する。
あとは魔法の映っているシーンを適当に誤魔化して、CGを追加して編集するらしい。
白音たちの身元が特定されにくいように、一応の配慮も施される予定だ。
最後の真剣勝負が何故かみんな水着姿になるのだが、このくらいチープな方がかえって夏休みの冗談企画ぽくて見過ごせる感じがする。
莉美がプールサイドでの歌とダンスの映像に見入っている。
その時のことを想い出しているようだった。
白音と、一恵と。一緒に同じステージに立って、唄っている。
「歌勝負の審査員、小中学生だねぇ……」
莉美がぼそっと呟いた。
「CGで銀色のちっちゃい異世界人にするわ」
詩緒の想像の中では、異世界の人というのは随分酔狂で暇を持て余しているものらしい。
◇
次の日の朝、白音は私服に着替えて病院をこっそりと抜け出した。
一週間のお泊まり会が終わる予定の日である。
聞けばみんなは一恵に協力してもらって既に一旦帰宅していた。
アリバイが成立しているらしい。
白音は若葉学園の側に繋げてもらった転移ゲートから出ると、顔を引き締めた。
アリバイはまだいいのだが、お泊まり会の間に大けがをしていたことを知られたくない。
まして敵と戦って殺されかけた、などと説明のしようがない。
しかし学園には強力な嘘発見器がある。
強力というか完全無欠である。
白音の嘘が敬子院長にばれなかったことは、今まで一度たりともない。
白音が『できれば逃げたい』と思う唯一の相手である。
魔法少女としての回復力のおかげで包帯はもうすべて取れていた。
佳奈たちに見てもらったり、鏡を使ったりして隅々まで調べたが、傷跡は綺麗さっぱり治ってしまっている。
だから外見上はまったく問題がない…………はずだった。
けれど敬子は、「お帰り」と言うなり、白音を矯めつ眇めつするような目になった。
大荷物を抱えて玄関を入ってきた白音を見つけると、その体を全身隈無く調べるようにして見つめる。
明らかに何かがあったことを察知している視線だった。
なので白音は耐えきれなくなって、
「友達を助けるために怪我をしたの。もうすっかり平気だけどね」
と報告した。
敬子がなおもじっと白音を見つめる。
そこで視線を逸らすから嘘がばれるのだ。
いや、昔頑張って逸らさなかったこともあるが、結局はばれた気がする。
「そう。それでお友達の怪我は大丈夫なの?」
「うん。わたしが一番酷かったくらいで」
友達が怪我したとはひと言も言っていない。
白音以外に怪我人が複数いることも、今の言葉で伝わってしまった。
「今日これからもう一度病院で診てもらうの。それで何ともなかったら終診だと思う」
「そう……」
敬子はいつも、ジャージ姿にエプロンを着けている。
今年六十二歳になるが、多分先生たちの誰よりもバイタリティがあって、人一倍働いている。
若葉学園の子供たち全員の頼れるお母さんだ。
「気を付けなさいね」
そう言って敬子は、白音の肩の辺りを軽くトンと叩いた。
「いっ………!!」
切断髪の女に貫かれて、肩の骨が砕かれていたところだ。
粉々にされていたのでまだ完全には治りきっていない。
突然の痛みに白音は思わず声を漏らしてしまった。
「ほんとにもう……。まああなたが平気だって言うんなら、いいわ。ああ、そうそう。怜奈ちゃんが、白ちゃんに代わってお姉ちゃんやらなくちゃって張り切ってたから、一度話をしてあげてね」
「怜奈ちゃん」とは若葉学園に在籍する十五歳の少女で、「白ちゃん」こと白音の一学年下、中学三年生である。
寮生活を始めた白音が学園を出たので、今年から学園の最年長となっている。
だから白音をお手本にして、『お姉さん』になるべく頑張っているらしい。
「話をしてあげて」とは、あまり気を張らず肩の力を抜いてほどほどにして欲しい、ということだろう。
いつも働き過ぎの敬子や白音が言っても、まったく説得力はないだろうに。
敬子に報告、という大仕事を終えると、白音は肩の荷が下りて嘘のように気が楽になった。
もう怪我なんかすっかり治ってしまったんじゃないかと感じるほどに心が軽い。
だからその日は丸一日、退院の可否を決める検査が予定されていたのだが、何の不安もなかった。
足取りも軽く、思わずスキップしたくなる。
直通の転移ゲートで魔法少女たちのたまり場と化している病室へと戻ると、佳奈、莉美、そら、一恵が真剣な顔でジャンケンをしていた。
何をしているのかと思えば、白音の検査室巡りの付き添いを決めているらしかった。
みんなでぞろぞろついて歩くと怒られそうなので、誰かひとりが代表することにしたのだそうだ。
激闘の末辛勝を納めた一恵が、その日一日白音の介添えをしてくれた。
白音の予想通り検査の結果には何の異状も見られず、すぐに翌日の退院が決定した。
そもそも魔法少女たちの回復力を驚異的だと感じている医者が、さらにまた驚いていた。
結局莉美のガス抜きを兼ねた魔力循環は、かなりの効果があったのだ。
あの後も白音は何度も、莉美に『強制変身』させられている。
しかしせっかく「元気になって良かったね」と言ってくれている医者に、一恵がしつこく詰め寄る。
「ほんとに? ほんとに大丈夫なの? ちゃんと調べたの?」
別に医者に落ち度は何もないのだが、慎重を期したい一恵がずっと質問攻めにしている。
しかししつこく聞かれたところで、医者にしても説明に困る。
そもそも魔法少女たちは非科学的な回復力を持っている。
その上白音は、そんな魔法科学のデータをも上回るような奇跡を見せて生還しているのだ。
本来ならあり得ないことだし、予後の見解を述べることもできない。
ただ、結果はもう正常だとしか言えないのだ。
「ちゃんと調べたよっ!」
あまりにくどい一恵に、とうとう医者が切れた。
白音は慌ててお礼と謝罪に頭を下げつつ、一恵を連れて診察室を後にする。
もうふらつくこともなく、しっかりと普段どおりに歩いていた白音の腕を、外で待っていた莉美が取った。
「一緒に羽目板外すんだよね」
「外すのは羽目よ。羽目板外したら壁に穴が開くじゃないの」
顔を合わせるなりツッコミ役をやらされている白音に、佳奈が小さく手を上げて笑みを見せた。
佳奈とそらも、待合室で待っていてくれたようだ。
「みんなでアジトのリフォーム?」
そらが小首を傾げる。
まあ、それはそれで楽しいかもしれないと白音は思う。
「夏休みはまだまだ残ってるよねっ! 白音ちゃん!!」
「もちろん。でもまずは宿題よ、莉美。どうせまだまだ残ってるんでしょ?」
白音は莉美が笑っている顔を見て、元気になってくれて本当によかったと思う。
そしてそれは多分、お互い様に莉美の方も同じ事を思っている。
「白音って羽目の外し方覚えてる?」
佳奈がそう言いながら、白音の肩を軽く突っついた。
「いや、何よそれ。人を生真面目な人みたいに言わないでよ」
「お、おう。そか……。なんか……ごめん」
一番治りが遅かったのが砕かれた肩だった。
もう痛くないのか突っついて確かめているのだろう。
朝、敬子に触られた時は痛かったが、半日ほどでもはやほとんど平気になっている。
「大人になった白音ちゃんが羽目? を外すと、どんななるのかちょっと楽しみ」
莉美の想像している『羽目』が何なのか見当もつかない。
しかしよろしい。
チームのリーダーとして、責任を持ってその想像を超えるくらい羽目を外そうではないかと白音は決意した。
やはり白音は、真面目だった。
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