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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第17話 チーム白音VSエレメントスケイプ その三
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エレスケのリーダー土屋千咲が、自分の身ひとつでどうにか許してもらえないかと白音たちに懇願した。
「千咲さんだけにそんなこと、わたしも一緒に」
「わたしも」
「僕だって子供じゃないんすから、同罪っす」
他のメンバーにしても、千咲だけに腹を切らせるわけにはいかないという雰囲気だった。チーム白音をなんだと思っているのだろうか。
しかしそんなエレスケの様子にひとり、一恵だけ少しよからぬ事を想像したようだった。
「アイドル魔法少女が四人も手に入っ…………」
そこまで言いかけて、莉美の横にへたり込んだままの白音と目が合う。
「いやいや、何考えてるの。わたしたちがそんなひどい事要求するわけないじゃないの」
慌てて取り繕った一恵の頭を、佳奈がはたく。
「どんなひどい事だよ。お前こそ何考えてんだよ! …………ま、今回の事は莉美が迷惑かけたのが発端だしな。別にケジメとか落とし前とか言うつもりはないよ。な、白音?」
白音は眠る莉美の乱れた髪を手で梳きながら、うんうんと頷いている。
「佳奈ちゃん、業界用語はやめて欲しい。チーム白音の品位が問われるの」
そらの言うとおりだった。佳奈の言葉のせいで多分、エレスケたちは余計に縮み上がってしまった。
莉美は本当にただ寝ているだけらしかったので、佳奈が担いで帰ることにした。
麻袋か何かみたいに運んでいく。
白音のことは一恵が抱き上げようとしたのだが、残念ながら白音がひとりで歩けると言った。
そこで一恵は白音に肩を貸して杖代わりになることにした。
ちょっと背の高い杖だったが、結局一恵の望みは叶った。
エレスケたちはこの後倉庫の片付けをするようだった。
ほぼすべて幻覚だったのでそんなに酷いことにはなっていないのだが、扉だけは綺麗にすっぱりと切り取られている。
白音たちが片付けの手伝いや扉の弁償も申し出たのだが、それはエレスケ側が自分たちの責任だからと固辞した。
ただ、「Hitoe様に切断された扉を記念にとっておいてもいいか?」と聞かれた。
あまり一恵にとっては嬉しい事でもないし、破壊した経緯を余人に自慢していいものではない。
だからてっきり拒否するのだろうと白音たちは思った。
一恵も確かに一瞬、眉根を寄せたように見える。
しかし一恵は、残っていた扉にでかでかとHitoeのサインを書いた。
わざわざ次元の刃を放って扉の表面に綺麗に刻印していく。
そして、後日白音が元気になったらその扉の前で記念撮影をしましょうと約束までした。
もちろんその間も白音の傍は決して離れず、杖の役目をきっちりと果たしている。
いっそ振り切ってすがすがしいHitoe様の神対応だった。
白音も人付き合いには不器用なところがあるから、一恵の気持ちを少しは窺い知ることができた。
本当のところは多分、いつきがまだ縮こまって泣きそうな顔をしていたから、笑って欲しくて一恵はそんなことをしたのだ。
『異世界エルフ』は存外に気遣いをする。
ただ、ちょっと分かりにくいだけなのだ。
やっと白音にもそれが理解できてきた。
白音は一恵に体を預けてぐっともたれかかる。
一恵は喜んでそれを支えてくれた。
頼れる杖だと思う。
白音を法貴総合病院に送って、どうせ平気だろうけどついでに莉美も診てもらおうと話していたら、エレスケたちが、
「見舞いに行かせてもらいます!!」
と、最敬礼で転移ゲートに向かう白音たちを見送ってくれた。
◇
莉美は翌日まで病院で眠り続けていた。眠りこけていた。爆睡していた。
朝早くに目覚めた莉美は跳ね起きて、文字どおり跳ね起きて真っ直ぐに白音のところにやって来た。
問答無用で抱きついて白音の匂いを嗅ぐ。
「や、ちょっとやめてよ。昨日お風呂入れなかったんだから」
「体調の悪い時の匂いがする」
「いやまあそりゃ、良くはないわよ」
莉美がじわっと涙を浮かべる。
「ごめんね……」
「ちょっと、もう、涙で脅迫するのやめてよ。わたしホント何とも思ってないんだから」
それでも白音はそっと抱きしめ返してくれる。
「うん、ありがと。でもこんなに傷だらけにして、リンクスさんに謝らないとね」
「なんでよ! なんでそこでリンクスさんが出てくるのよっ!!」
「うひひ。そんなことよりね。いい事思いついたの。今、白音ちゃん変身できないんでしょ?」
「そんなことよりって……、まあそうね。多分体の回復に魔力を多く割いてるから、変身に必要な魔力を上手く体内に巡らせることができないんだろうって、そらちゃんが」
「でも変身したら回復早くなるよね」
「多分そうよね。一定のしきい値を超えたら上手く回り出す、みたいなイメージかしら」
「あー、シキーチね、シキーチ」
莉美が何か思いついた時の顔をしている。いい笑顔だ、興味の対象が自分でさえなければ。
「あたしがシキーチさんの代わりをしてあげればいいと思うの」
莉美が白音の両手を取る。
「いやちょっと待って!! あんた昨日それでホントにやばかったじゃないの!?」
「大丈夫、もうあたしは昨日までのあたしじゃないんだ。変わったと思うから試させて?」
「ただの実験よねっ! それっ?! わたし爆発したくないわっ!」
「お願い、魔力使わせて。もう起きた時から鼻血出そうなくらい溜まってるの」
「そうよね、あんた変身もしてないのにさっきからうっすら光ってるのよ。怖いのよ」
変身していなくとも魔力が流せるようだった。星石が融合したからだろう。
繋いだ両手でできた円環の中を巡るように魔力が流れていく。
今までとは比較にならないくらい激しく、白音の体が奥底から揺さぶられる。
「いひゃあぁぁぁぁっ…………!! ………ん? あ…………あぁ、でも、ちょっ、気持ちいいかも……」
後ろで括っていたはずの栗色の髪が、髪留めを吹っ飛ばして天井を向いて逆立っていく。
「どう? どう?」
魔力が収まると、白音は見事に変身していた。変身しようとした覚えはまったくない。
「そんなにたくさん流し込まないでよっ……、強引すぎるからっ!!」
「回復早くなりそう?」
「ま、まあ多分ね……」
「もっかい? もっかい?」
「ちょっとやめて、そんなにいっぱい入んないからっ!」
莉美が伸ばしてくる手を、白音は巧みにかわす。
先程とは打って変わってまったく触れることができない。
白音の動きに切れが戻ってきていて、莉美は嬉しくなった。
となるとやはり是非とももう一回やらせて欲しい。
莉美も変身する。
「いや、あの、ちょっと、本気? いい加減にしないと怒るわよ?」
びくっとして莉美が一瞬止まる。
「でも白音ちゃんのためだし。辛いのは最初だけだから。だんだん良くなってくるから。ね?」
莉美が止まったのは一瞬だけだった。ベッドの上で白音を押さえつけてのしかかる。
莉美が夢中になって白音の感触を楽しんでいると、突然莉美の背後から声がした。
「朝から随分お楽しみですね?」
佳奈が莉美の脇腹をつねる。
「いぃだだだだだだだだっ!!」
莉美が悶絶した。
痛みが白音につねられた時の比ではない。
佳奈は変身もせずにただ指で挟んでいるだけ。
なのに変身していてもちぎれるんじゃないかと思うくらい痛い。
「なんでみんなここつねるのよぅ」
「そこが痛そうだからだろ」
佳奈が少し呆れ顔をしている。
「お前らふたりとも病み上がりなんだからさぁ。大人しくしとけよな」
「ごめんなさい……」
何故か白音が謝った。
悪い事をしていた自覚があるらしい。
拡がって爆発したようになった髪の毛を整えている。
佳奈、そら、一恵が連れだって日課の見舞いに来ていた。
今日は途中でエレスケに会ったらしく、一緒だった。
千咲が箱入りのお菓子を差し出した。
朝からわざわざ買ってきてくれた饅頭らしい。
そして全員が整列して深々と頭を下げる。
「指を詰めて入れた方がいいのかどうか迷ったんだけど……」
「いやいや、アタシたちどんな魔法少女だと思ってんの?!」
佳奈はそう言うが、そんな風に思われているのは主に佳奈のせいだろう。
「なるほど、指の代わりの饅頭。饅頭は人の頭の代わ…………」
そらが余計なことを言いそうになったので、その口を白音がぎゅっと押さえる。
「んむぐっ!」
「そらちゃん、お饅頭は美味しくいただく物よ。みんなも頭を上げて。昨日も言ったけど、こっちの話に巻き込んじゃったのがきっかけなんだし」
「あたしの方こそ自分の勝手で引っかき回してごめんね」
莉美もエレスケたちに頭を下げる。
魔法少女に変身している莉美は今、この世のどんなアイドルよりもキラキラと黄金色に光り輝いている。本当に眩しい。
「莉美も見てのとおり元気になってるし、エレスケちゃんたちも怪我なかったみたいだし。もうお互い謝るのはよしましょ?」
「姐さん、変身できるようになったんすねっ! 体調は?」
いつきは、白音たちを姐さん呼ばわりすることに決めたようだった。
桜色の魔法少女姿でベッドに居る白音の傍に、嬉しそうにして膝をつく。
「すっかり元気よ。勇者でも魔王でもかかってこいっての」
「なんで勇者と戦う気なんすか…………」
いや、倒す気なんだと佳奈は思う。
「女帝復活ね」
詩緒が苦笑いした。昨日の圧倒的な恐怖がまだ脳裏にこびりついている。
「女帝って…………」
白音は、呼ばれるならもう少しかわいいあだ名にして欲しいと思う。
「最近現れた魔法少女がとてつもないラスボス級だって噂になってるのよ。配下全員の能力増加とか、とんだチートボスじゃないの。まあ、女帝って言い出したのわたしだけど」
詩緒のせいだった。
『女帝』の名付け親、詩緒がひとつ頼みたい事があると改まって切り出した。
どんどん積まれていく見舞いのフルーツを佳奈と一恵が切り分けてくれた。
皆でいただきながらエレスケの話を聞くことにする。
詩緒が言うには、莉美の加入と直後の脱退の一件をエレスケのチャンネル登録者に納得がいくよう、上手く説明しておかないといけないらしかった。
「自慢するわけじゃないんだけど、わたしたち☆の動画チャンネルにはそれなりの登録者数があるの。このまま莉美ちゃん加入のニュースをうやむやにしてしまったら、いらない憶測を呼んでしまうわ。だから上手くフォローしておいた方が良いの」
いつきが持ってきたタブレットを使い、昨日編集してきたという映像を見せた。
手持ちの素材をつなぎ合わせてストーリー仕立てにしたものだ。
粗く編集してあるが、おおよその筋書きや方向性は分かるようになっている。
「千咲さんだけにそんなこと、わたしも一緒に」
「わたしも」
「僕だって子供じゃないんすから、同罪っす」
他のメンバーにしても、千咲だけに腹を切らせるわけにはいかないという雰囲気だった。チーム白音をなんだと思っているのだろうか。
しかしそんなエレスケの様子にひとり、一恵だけ少しよからぬ事を想像したようだった。
「アイドル魔法少女が四人も手に入っ…………」
そこまで言いかけて、莉美の横にへたり込んだままの白音と目が合う。
「いやいや、何考えてるの。わたしたちがそんなひどい事要求するわけないじゃないの」
慌てて取り繕った一恵の頭を、佳奈がはたく。
「どんなひどい事だよ。お前こそ何考えてんだよ! …………ま、今回の事は莉美が迷惑かけたのが発端だしな。別にケジメとか落とし前とか言うつもりはないよ。な、白音?」
白音は眠る莉美の乱れた髪を手で梳きながら、うんうんと頷いている。
「佳奈ちゃん、業界用語はやめて欲しい。チーム白音の品位が問われるの」
そらの言うとおりだった。佳奈の言葉のせいで多分、エレスケたちは余計に縮み上がってしまった。
莉美は本当にただ寝ているだけらしかったので、佳奈が担いで帰ることにした。
麻袋か何かみたいに運んでいく。
白音のことは一恵が抱き上げようとしたのだが、残念ながら白音がひとりで歩けると言った。
そこで一恵は白音に肩を貸して杖代わりになることにした。
ちょっと背の高い杖だったが、結局一恵の望みは叶った。
エレスケたちはこの後倉庫の片付けをするようだった。
ほぼすべて幻覚だったのでそんなに酷いことにはなっていないのだが、扉だけは綺麗にすっぱりと切り取られている。
白音たちが片付けの手伝いや扉の弁償も申し出たのだが、それはエレスケ側が自分たちの責任だからと固辞した。
ただ、「Hitoe様に切断された扉を記念にとっておいてもいいか?」と聞かれた。
あまり一恵にとっては嬉しい事でもないし、破壊した経緯を余人に自慢していいものではない。
だからてっきり拒否するのだろうと白音たちは思った。
一恵も確かに一瞬、眉根を寄せたように見える。
しかし一恵は、残っていた扉にでかでかとHitoeのサインを書いた。
わざわざ次元の刃を放って扉の表面に綺麗に刻印していく。
そして、後日白音が元気になったらその扉の前で記念撮影をしましょうと約束までした。
もちろんその間も白音の傍は決して離れず、杖の役目をきっちりと果たしている。
いっそ振り切ってすがすがしいHitoe様の神対応だった。
白音も人付き合いには不器用なところがあるから、一恵の気持ちを少しは窺い知ることができた。
本当のところは多分、いつきがまだ縮こまって泣きそうな顔をしていたから、笑って欲しくて一恵はそんなことをしたのだ。
『異世界エルフ』は存外に気遣いをする。
ただ、ちょっと分かりにくいだけなのだ。
やっと白音にもそれが理解できてきた。
白音は一恵に体を預けてぐっともたれかかる。
一恵は喜んでそれを支えてくれた。
頼れる杖だと思う。
白音を法貴総合病院に送って、どうせ平気だろうけどついでに莉美も診てもらおうと話していたら、エレスケたちが、
「見舞いに行かせてもらいます!!」
と、最敬礼で転移ゲートに向かう白音たちを見送ってくれた。
◇
莉美は翌日まで病院で眠り続けていた。眠りこけていた。爆睡していた。
朝早くに目覚めた莉美は跳ね起きて、文字どおり跳ね起きて真っ直ぐに白音のところにやって来た。
問答無用で抱きついて白音の匂いを嗅ぐ。
「や、ちょっとやめてよ。昨日お風呂入れなかったんだから」
「体調の悪い時の匂いがする」
「いやまあそりゃ、良くはないわよ」
莉美がじわっと涙を浮かべる。
「ごめんね……」
「ちょっと、もう、涙で脅迫するのやめてよ。わたしホント何とも思ってないんだから」
それでも白音はそっと抱きしめ返してくれる。
「うん、ありがと。でもこんなに傷だらけにして、リンクスさんに謝らないとね」
「なんでよ! なんでそこでリンクスさんが出てくるのよっ!!」
「うひひ。そんなことよりね。いい事思いついたの。今、白音ちゃん変身できないんでしょ?」
「そんなことよりって……、まあそうね。多分体の回復に魔力を多く割いてるから、変身に必要な魔力を上手く体内に巡らせることができないんだろうって、そらちゃんが」
「でも変身したら回復早くなるよね」
「多分そうよね。一定のしきい値を超えたら上手く回り出す、みたいなイメージかしら」
「あー、シキーチね、シキーチ」
莉美が何か思いついた時の顔をしている。いい笑顔だ、興味の対象が自分でさえなければ。
「あたしがシキーチさんの代わりをしてあげればいいと思うの」
莉美が白音の両手を取る。
「いやちょっと待って!! あんた昨日それでホントにやばかったじゃないの!?」
「大丈夫、もうあたしは昨日までのあたしじゃないんだ。変わったと思うから試させて?」
「ただの実験よねっ! それっ?! わたし爆発したくないわっ!」
「お願い、魔力使わせて。もう起きた時から鼻血出そうなくらい溜まってるの」
「そうよね、あんた変身もしてないのにさっきからうっすら光ってるのよ。怖いのよ」
変身していなくとも魔力が流せるようだった。星石が融合したからだろう。
繋いだ両手でできた円環の中を巡るように魔力が流れていく。
今までとは比較にならないくらい激しく、白音の体が奥底から揺さぶられる。
「いひゃあぁぁぁぁっ…………!! ………ん? あ…………あぁ、でも、ちょっ、気持ちいいかも……」
後ろで括っていたはずの栗色の髪が、髪留めを吹っ飛ばして天井を向いて逆立っていく。
「どう? どう?」
魔力が収まると、白音は見事に変身していた。変身しようとした覚えはまったくない。
「そんなにたくさん流し込まないでよっ……、強引すぎるからっ!!」
「回復早くなりそう?」
「ま、まあ多分ね……」
「もっかい? もっかい?」
「ちょっとやめて、そんなにいっぱい入んないからっ!」
莉美が伸ばしてくる手を、白音は巧みにかわす。
先程とは打って変わってまったく触れることができない。
白音の動きに切れが戻ってきていて、莉美は嬉しくなった。
となるとやはり是非とももう一回やらせて欲しい。
莉美も変身する。
「いや、あの、ちょっと、本気? いい加減にしないと怒るわよ?」
びくっとして莉美が一瞬止まる。
「でも白音ちゃんのためだし。辛いのは最初だけだから。だんだん良くなってくるから。ね?」
莉美が止まったのは一瞬だけだった。ベッドの上で白音を押さえつけてのしかかる。
莉美が夢中になって白音の感触を楽しんでいると、突然莉美の背後から声がした。
「朝から随分お楽しみですね?」
佳奈が莉美の脇腹をつねる。
「いぃだだだだだだだだっ!!」
莉美が悶絶した。
痛みが白音につねられた時の比ではない。
佳奈は変身もせずにただ指で挟んでいるだけ。
なのに変身していてもちぎれるんじゃないかと思うくらい痛い。
「なんでみんなここつねるのよぅ」
「そこが痛そうだからだろ」
佳奈が少し呆れ顔をしている。
「お前らふたりとも病み上がりなんだからさぁ。大人しくしとけよな」
「ごめんなさい……」
何故か白音が謝った。
悪い事をしていた自覚があるらしい。
拡がって爆発したようになった髪の毛を整えている。
佳奈、そら、一恵が連れだって日課の見舞いに来ていた。
今日は途中でエレスケに会ったらしく、一緒だった。
千咲が箱入りのお菓子を差し出した。
朝からわざわざ買ってきてくれた饅頭らしい。
そして全員が整列して深々と頭を下げる。
「指を詰めて入れた方がいいのかどうか迷ったんだけど……」
「いやいや、アタシたちどんな魔法少女だと思ってんの?!」
佳奈はそう言うが、そんな風に思われているのは主に佳奈のせいだろう。
「なるほど、指の代わりの饅頭。饅頭は人の頭の代わ…………」
そらが余計なことを言いそうになったので、その口を白音がぎゅっと押さえる。
「んむぐっ!」
「そらちゃん、お饅頭は美味しくいただく物よ。みんなも頭を上げて。昨日も言ったけど、こっちの話に巻き込んじゃったのがきっかけなんだし」
「あたしの方こそ自分の勝手で引っかき回してごめんね」
莉美もエレスケたちに頭を下げる。
魔法少女に変身している莉美は今、この世のどんなアイドルよりもキラキラと黄金色に光り輝いている。本当に眩しい。
「莉美も見てのとおり元気になってるし、エレスケちゃんたちも怪我なかったみたいだし。もうお互い謝るのはよしましょ?」
「姐さん、変身できるようになったんすねっ! 体調は?」
いつきは、白音たちを姐さん呼ばわりすることに決めたようだった。
桜色の魔法少女姿でベッドに居る白音の傍に、嬉しそうにして膝をつく。
「すっかり元気よ。勇者でも魔王でもかかってこいっての」
「なんで勇者と戦う気なんすか…………」
いや、倒す気なんだと佳奈は思う。
「女帝復活ね」
詩緒が苦笑いした。昨日の圧倒的な恐怖がまだ脳裏にこびりついている。
「女帝って…………」
白音は、呼ばれるならもう少しかわいいあだ名にして欲しいと思う。
「最近現れた魔法少女がとてつもないラスボス級だって噂になってるのよ。配下全員の能力増加とか、とんだチートボスじゃないの。まあ、女帝って言い出したのわたしだけど」
詩緒のせいだった。
『女帝』の名付け親、詩緒がひとつ頼みたい事があると改まって切り出した。
どんどん積まれていく見舞いのフルーツを佳奈と一恵が切り分けてくれた。
皆でいただきながらエレスケの話を聞くことにする。
詩緒が言うには、莉美の加入と直後の脱退の一件をエレスケのチャンネル登録者に納得がいくよう、上手く説明しておかないといけないらしかった。
「自慢するわけじゃないんだけど、わたしたち☆の動画チャンネルにはそれなりの登録者数があるの。このまま莉美ちゃん加入のニュースをうやむやにしてしまったら、いらない憶測を呼んでしまうわ。だから上手くフォローしておいた方が良いの」
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手持ちの素材をつなぎ合わせてストーリー仕立てにしたものだ。
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