ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第16話 莉美奪還作戦 その三

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 白音たちから不意の来訪を受けたエレメントスケイプたち。
 応対に出た火浦ひうらいつきが、慌てて引っ込んでみんなに報告する。
 ひそひそとした話し声が白音たちにも聞こえてくる。

「ちょっとどうすんのよ?」
「追い返す?」
「もう無理でしょ」

 佳奈がそんな彼女たちの都合などお構いなしに、巨大な扉を一気に押し開いて全開にする。
 中には広々とした空間があり、あちこちに照明が設置されている。
 様々な撮影に対応できるように工夫が凝らされているのが見て取れる。

 少し離れた奥の方に、莉美が紗那や千咲と共にいるのが見えた。

「莉美!」

 白音が中に進み入る。
 だが詩緒がその行く手を塞いで、白音を押し止めた。

「知らない仲じゃないんだけど、撮影中は立ち入り禁止なの」
「お願い、少しでいいから莉美と話をさせて」
「莉美ちゃんはどう?」

 詩緒が振り返って尋ねると、莉美は無言で首を振った。

「だそうです。ごめんなさいね。名字川さん」

 詩緒が白音たちを追い返そうとしたのだが、その脇をすり抜けてそらが倉庫内に駆け込んだ。

「あ、こら!」

 そらが走りながらペンダントを取り出して魔法少女に変身する。
 慌てて紗那と千咲がそらを捕まえようとするが、相手の動きを読み、小柄な体格を生かしてすり抜ける彼女は、生半なまなかな速度では触れることすらできない。
 簡単に莉美の元に辿り着いて、その豊かな胸に触れる。
 エレスケたちの邪魔が入る前に、そらは両の手の平を莉美の乳房にぎゅっと押し当て、その魔力紋エーテルパターンを読み解く。


「…………やっぱり精神操作されてる!」
「はぁ?!」

 それを聞いた佳奈の顔が一瞬で怒りに染まり、詩緒の胸ぐらを掴む。

「どういうことだっ!!」
「ちょ、ちょっと待って、待ってよ。確かに魔法使ったけど、そ、そんなに……ぐ、ぎづいものじゃない、わよ……」

 長身の佳奈が、変身もしていないのに軽々と詩緒を吊り上げていく。
 紗那が慌てて仲裁に入った。

「や、やったのはわたしよ。落ち込んでるみたいだったから、気持ちを落ち着かせてあげただけ。わたしたちと打ち解けて楽しく過ごせる程度のものよ。莉美ちゃんも同意してるし、本人にその気がなければ、強制力はないわ」
「信じられるかよ!」

 詩緒の首が絞まってきて目を白黒させている。
 佳奈は片方の手を離して紗那の襟元を掴んで引き寄せた。
 ふたりとも吊り上げる気らしい。


「莉美、お願い話をさせて」

 莉美が白音の声を聞いて、少し反応を見せた。
 しかしあまり生気の無い顔で白音の方を見やる。
 やはり操られているのではないかと思わせるような様子だった。

「わたし、あなたが本気でアイドルになりたいんだったら応援する。でも、でもね、こんな形で離れるのは嫌なの。お話がしたいの。お茶を飲んでお菓子を食べて、馬鹿をやりながら、みんなでお話がしたいの。だめ?」

 白音が話すのを聞くうちに、ほんの少しだけ、莉美の顔に感情が戻ったように見える。
 莉美がいつもとは全然違う、静かな声で話し始めた。

「あたし、白音ちゃんと佳奈ちゃん、ふたりに憧れてた。いつも後ろにくっついて歩いてて、いつか同じ場所に立てたら、隣に並べたらいいなあって思ってた。でも、でもね、あたし、だめみたい……。一緒にいると迷惑かけちゃうみたい。…………けど、けどそれでも白音ちゃんは、きっとあたしが困ってたら助けてくれる。よく知ってる。無理をしてでも、絶対助けてくれる。だから、だから……、このまま一緒にいたら、いつかもっと酷い目に遭わせてしまいそうで、すごく怖いの…………」

 莉美の胸の内を聞かされて、白音が少し困った顔をした。
 だから佳奈が代わりに言葉を継ぐ。


「確かに白音の傍にいるとさ、引け目を感じる気持ちはアタシにも分かるんだよ。こいつすごい奴だから、ちょっとついてけないって、なる時も確かにある。でもさ、アタシたち仲間だろ? 同じ事はできなくていいんだよ。助けるとか助けられるとか、どうでもいいんだよ。お互いがやりたいことやってればさ」

 詩緒と紗那が吊られたままだったので、こっそり一恵がふたりを回収して下ろしてやる。
 佳奈がこのまま言葉を続ければ、ふたりの息が続かなくなりそうだった。

「それにお前気づいてないだろ。お前とっくにアタシたちの隣に立ってるじゃん」
「そんなわけない!」

 佳奈の言葉に莉美が反発した。涙と共に感情が溢れ出る。だが佳奈も決して譲らない。

「だったらなんで!? なんで、お前も白音も今そんな顔してんだよ! おんなじ顔じゃんかよ。おんなじ事考えてんじゃないのかよ。お前が気にしてる差なんて、どこにもないんだよ!!」

 白音と莉美。ふたりの顔が涙に濡れてぐちゃぐちゃになっていく。
 そしてふたりとも同じように自分ではなく、相手のことを思いやって身を切られるように辛そうな顔をしている。
 紗那が莉美にかけた魔法は鎮静効果のあるものだった。
 感情の発現に乏しくなはずだが、今の莉美はそんなことまったく関係がないように泣きじゃくっている。

「エレスケちゃん、ごめんなさい。あたしの夢は、やっぱりアイドルじゃなくて、ふたりみたいな立派なならず者になることだよう………………」

 頑固な莉美がようやく本音を吐露し、そして泣き崩れた。

「……立派なならず者に、なるんすねぇ…………」

 いつきがもらい泣きをしている。

(いや、意味はよく分かんないっすが……)

 しかしいつき以外の三人、特に詩緒は納得できないようだった。

「仲直りして元の鞘に収まりました、とか、わたしたちのこと馬鹿にしすぎじゃない? はいそうですかって黙って帰すと思うわけ?!」
「し、詩緒ちゃん……」

 完全にキレてしまった詩緒を見て、いつきがあわあわしている。

 白音にも、いろいろと言いたいことはある。
 ただ、詩緒の怒りはもっともだと思う。
 自分たちの身勝手のせいで振り回してしまったのは間違いない。
 でもだからと言って、はいどうぞと莉美を差し出すわけもない。
 軍曹の言っていたような双方納得のいく結果にするにはどうすればいいのか、白音には分からなかった。


「みんな、プランBよ」

 悩む白音をよそに、詩緒がエレスケの三人に向かってそう言った。

「!? 冗談……よね?」

 紗那の顔色が変わった。
 彼女たちは、こういう事態を想定して何か物騒な計画を立てていたらしい。
 だが紗那の方は、まさかそれを本当に実行するとは思っていなかったようだ。

「みんな準備して……」

 千咲がそう言って前に出た。

「千咲さんまで!」

 だが紗那もそれ以上は反論しなかった。
 リーダーの千咲が言えば、それはもう決定事項のようだった。
 チーム白音と似たようなものだろう。


「このチャンス逃したら、もうないのよ!」

 詩緒がそんな風に言う。
 その気持ちは、紗那には痛いほどよく分かった。
 メインボーカルとして一番の人気を誇っている詩緒は、エレスケではいつきに次ぐ若さで十六歳。
 今でなくとも、きっとまたチャンスは巡ってくる。
 最後のチャンスかもしれないのは最年長の千咲と、そして多分紗那自身なのだ。
 詩緒は自分たちのために、このチャンスに賭けようとしてくれているのだ。

「分かった…………」

 紗那とて、エレメントスケイプや千咲に対する想いは詩緒と同じだった。

「うわぁぁ、本当にやるんすか…………」

 三人が一斉に魔法少女へと変身すると、いつきも覚悟を決めて変身した。
 エレメントスケイプのコスチュームは、パフォーマンスで使用しているステージ衣装と似た彼女たちしいデザインだ。
 彼女たちの夢を具現化して、より完璧なアイドルの姿となる。

 多分、変身した四人が同時に莉美に対して何かの魔法をかけた。

「最初に一度、わたしたちの魔法を受け容れてるから、いかに頑強でも抵抗はできないわ」

 詩緒の言葉どおり再び莉美の表情から感情が失われ、瞳からも光が消える。

 白音はエレスケたちのカラフルなコスチュームが好きだった。
 四人揃うと統一感があって、なお一層かわいい。

 しかしもし、もしもだ。
 彼女たちが莉美や白音たちから何かを奪おうというのなら、一切容赦する気はない。
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