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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第16話 莉美奪還作戦 その二
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アイドルグループ『エレメントスケイプ』は莉美の頼みを受け容れて、彼女を新規メンバーとして受け容れていた。
白音たちに会った水尾紗那はそう説明してくれた。
おそらく莉美はエレスケのメインボーカル、風見詩緖と一緒にいるだろうということだった。
「皆さんには悪いんですけど、これはすごいチャンスだと思ってます。先輩……鬼軍曹さんたちとコスプレしてた時も、ふたりは女の子にきゃあきゃあ言われてて……。わたしはすごいなぁって思ってるだけでした。でも莉美ちゃんがいてくれれば、エレスケはもっと飛躍できると思ったんです。わたしも輝けるかもしれない」
紗那が詩緒に連絡を取ってくれた。
莉美が白音たちとこのまま物別れになるのは、紗那もできれば避けたかった。
スマホで紗那が詩緒と少し話をする。
莉美は、通話をする詩緒のすぐ傍に居るようだったが、話す事はないと言っているらしい。
佳奈がスマホの向こうの莉美にも聞こえるように大きな声を出した。
「莉美!! いっぺん、会って話しよ。このままってわけにはいかないだろ!」
結局、莉美とは会えずじまいで帰るほかなかった。
紗那が、一度ちゃんと話をするように莉美に伝えると約束してくれる。
「全員にとって納得のいく形で納めろよ。エレメントスケイプにとってもな。まあ双方納得がいくなら多少派手にやっても何も言わん」
軍曹はそう言いのこして先に帰っていった。
一応転移ゲートで帰るからと言い訳して別れたのだが、軍曹も佳奈たちが何かするだろう事は予期していたみたいだった。
マンションのエントランスが見える場所で佳奈、そら、一恵の三人が今後の方針を話し合う。
「それで、どうするの? 少し時間をおいたら冷静に話し合えそう?」
しばらく放っておいて頭が冷えれば、ちゃんと話ができるのだろうか。
一恵にはどうももう少し深刻な問題であるように思えてならなかった。
「いやあ…………正直言うとアタシが耐えらんない。白音と莉美を会わせてやりたい。莉美には少し頭を冷やさせてやりたいんだけど、大けがをして、莉美がいなくなって、弱ってる白音を、見てるのが辛い…………」
佳奈が少し決まりの悪い顔をしてそう言った。
「分かった。じゃあ白音ちゃんには少し帰りが遅くなるってメッセージしておいて欲しいの」
「お、どうにかできそう?」
チーム白音の作戦参謀、そらが動き始めた。
「エレスケの動画のアップされた時間から撮影スケジュールが大体予測できる。毎週一回、どこか屋内で動画撮影してる。それが今晩。ここで待っていればもうすぐ紗那さんが撮影スタジオに向かうはず」
「フフ」
佳奈が少し笑った。
「どしたの?」
「いや、白音が育て方心配してたの思い出した」
「悪の天才科学者?」
「それそれ。でもアタシは答えに一直線で向かうの好きだよ。さすが天才」
「告られたの」
もし今日も推定どおりに撮影をするのならば、莉美にも会うのだろう。
紗那はそれを意図的に隠していたのか、それとも莉美の「会いたくない」という意向を尊重しているのか。
やはり莉美に直接質さなければ、あれやこれやと邪推が宙に舞うばかりだ。
佳奈はそういうのは嫌いだった。
そしてそらの推測を聞いて、少し一恵も思案顔をした。紗那の部屋での記憶を辿る。
「出かけるとしたら、玄関に大きな鞄が置いてあった。撮影用の小道具とかメイク道具が入ってたら結構重いと思う。で、玄関の靴、ヒール高いのが用意してあった。歩きにくそう。距離があるならタクシーに乗るんじゃない?」
「よく見てるな、そんなとこ」
「あら、普通でしょ、普通。わたしたちもタクシー呼んで待機してた方がいいんじゃない? 変身して走って追っかけるのもいいけど」
それだと多分佳奈の仕事になるのだろう。
新たな都市伝説が生まれかねない。
「やっぱお前らふたりいるとコワイな」
真夏に車とマラソンはしたくなかったのでタクシーを呼んで車内で待っている。
すると程なくしてもう一台のタクシーが現れて、マンションの玄関に横付けされた。
そらの予測どおり、そして一恵の睨んだとおり、紗那が大きな荷物を担いでマンションから出てきた。
ヒールをカツカツと鳴らして乗り込む。
「出発時間が結構早い。目的地は少し遠いんだと思う」
そらの予言どおり、タクシーは一時間以上走った。
途中でエレスケのリーダー土屋千咲を拾い、やがて市街区を離れて郊外に出た。
倉庫のような平屋の建物の前でタクシーが止まった。
少し離れた所で佳奈たちも車を降りて身を隠す。
倉庫の巨大な両開きの引き戸が人ひとり分だけ開かれて、中から詩緒が顔を出した。
笑顔で紗那と千咲を迎え入れると、再び扉が閉じられる。
倉庫には窓もまったくないようで中の様子が確認できない。
佳奈が一恵の方を見たが、一恵も肩をすくめた。
「覗けなくはないけど、こんなに近くで魔法使ったら、さすがに気づかれると思うわ」
「詩緒がいたってことは、莉美もいるってことだよな」
「多分そうだと思うわ。それに火浦いつきって子ももう中にいるんじゃないかしら」
「どうして分かるんだ?」
「あの子は確か最年少の十四歳でしょ? あの子以外はもう揃っているから、来るならひとりになる。この時間にひとりで来るとは思えないの。まああくまで多分、という程度の話よ?」
「なるほど…………」
「さて、どうするの? リーダー代行」
「あ、アタシの事かそれ?」
一恵は佳奈の指示に全面的に従うつもりでいる。
「白音ちゃんにとっての最適解を分かっているのは、佳奈ちゃんしかいないと思うの」
そらも同じ気持ちだった。
「……おっけー。ここに白音を連れてきて莉美に会わせたいんだ」
「了解!」
「全力を尽くすの」
一恵が魔力を感知されないよう、少し離れてから魔法少女に変身した。
紫の光に包まれたかと思うと、そのまま転移ゲートを出して消える。
少しして、ゲートから白音が現れた。
入院着に松葉杖を突いている。包帯があちこちに巻かれていてかなり痛々しい。
すぐ後ろに一恵がいるのだが、杖を突く邪魔になるのでそれ以上白音に近づくことができないでいた。
支えたいのに寄り添えない、そんなおっかなびっくりな感じでついて来る。
白音の体調を考えれば、決してこんなことをしてはいけないのだろう。
しかし、白音抜きで皆が納得のいく結論が出せるとは、誰にも到底思えなかった。
「みんな、ホントにありがとう」
杖をついたままでやりにくそうに頭を下げる。
「撮影の邪魔しちゃ悪いから、始まる前に行きましょ」
おおよその状況を教えてもらった白音は、少し覚束ない足取りで先頭を切って倉庫へと向かった。
まだ少し、おなかに力が入りにくいのだという。
倉庫の中では撮影の準備が始められているようで、近づくと声が聞こえてきた。
「今日は莉美ちゃんとりあえずこの衣装ね」
「それでチャンネル内で衣装デザインを募集しましょう」
「裁縫は任せといて」
「あ、うん……あたしもお裁縫はできるから、できるとこは自分でやるね」
「おー、莉美ちゃんてなにげにハイスペックっすね。女子力高いっす」
「歌もダンスも一発で覚えたよね」
「うんうん」
白音の肩が震えているのが分かる。
倉庫の大きな扉をノックしようとしてよろめいた。
慌てて佳奈が支えて代わりにノックする。
扉が少しだけ開いて、火浦いつきが不審そうに顔を覗かせた。
「あ、姐さん方」
白音たちに会った水尾紗那はそう説明してくれた。
おそらく莉美はエレスケのメインボーカル、風見詩緖と一緒にいるだろうということだった。
「皆さんには悪いんですけど、これはすごいチャンスだと思ってます。先輩……鬼軍曹さんたちとコスプレしてた時も、ふたりは女の子にきゃあきゃあ言われてて……。わたしはすごいなぁって思ってるだけでした。でも莉美ちゃんがいてくれれば、エレスケはもっと飛躍できると思ったんです。わたしも輝けるかもしれない」
紗那が詩緒に連絡を取ってくれた。
莉美が白音たちとこのまま物別れになるのは、紗那もできれば避けたかった。
スマホで紗那が詩緒と少し話をする。
莉美は、通話をする詩緒のすぐ傍に居るようだったが、話す事はないと言っているらしい。
佳奈がスマホの向こうの莉美にも聞こえるように大きな声を出した。
「莉美!! いっぺん、会って話しよ。このままってわけにはいかないだろ!」
結局、莉美とは会えずじまいで帰るほかなかった。
紗那が、一度ちゃんと話をするように莉美に伝えると約束してくれる。
「全員にとって納得のいく形で納めろよ。エレメントスケイプにとってもな。まあ双方納得がいくなら多少派手にやっても何も言わん」
軍曹はそう言いのこして先に帰っていった。
一応転移ゲートで帰るからと言い訳して別れたのだが、軍曹も佳奈たちが何かするだろう事は予期していたみたいだった。
マンションのエントランスが見える場所で佳奈、そら、一恵の三人が今後の方針を話し合う。
「それで、どうするの? 少し時間をおいたら冷静に話し合えそう?」
しばらく放っておいて頭が冷えれば、ちゃんと話ができるのだろうか。
一恵にはどうももう少し深刻な問題であるように思えてならなかった。
「いやあ…………正直言うとアタシが耐えらんない。白音と莉美を会わせてやりたい。莉美には少し頭を冷やさせてやりたいんだけど、大けがをして、莉美がいなくなって、弱ってる白音を、見てるのが辛い…………」
佳奈が少し決まりの悪い顔をしてそう言った。
「分かった。じゃあ白音ちゃんには少し帰りが遅くなるってメッセージしておいて欲しいの」
「お、どうにかできそう?」
チーム白音の作戦参謀、そらが動き始めた。
「エレスケの動画のアップされた時間から撮影スケジュールが大体予測できる。毎週一回、どこか屋内で動画撮影してる。それが今晩。ここで待っていればもうすぐ紗那さんが撮影スタジオに向かうはず」
「フフ」
佳奈が少し笑った。
「どしたの?」
「いや、白音が育て方心配してたの思い出した」
「悪の天才科学者?」
「それそれ。でもアタシは答えに一直線で向かうの好きだよ。さすが天才」
「告られたの」
もし今日も推定どおりに撮影をするのならば、莉美にも会うのだろう。
紗那はそれを意図的に隠していたのか、それとも莉美の「会いたくない」という意向を尊重しているのか。
やはり莉美に直接質さなければ、あれやこれやと邪推が宙に舞うばかりだ。
佳奈はそういうのは嫌いだった。
そしてそらの推測を聞いて、少し一恵も思案顔をした。紗那の部屋での記憶を辿る。
「出かけるとしたら、玄関に大きな鞄が置いてあった。撮影用の小道具とかメイク道具が入ってたら結構重いと思う。で、玄関の靴、ヒール高いのが用意してあった。歩きにくそう。距離があるならタクシーに乗るんじゃない?」
「よく見てるな、そんなとこ」
「あら、普通でしょ、普通。わたしたちもタクシー呼んで待機してた方がいいんじゃない? 変身して走って追っかけるのもいいけど」
それだと多分佳奈の仕事になるのだろう。
新たな都市伝説が生まれかねない。
「やっぱお前らふたりいるとコワイな」
真夏に車とマラソンはしたくなかったのでタクシーを呼んで車内で待っている。
すると程なくしてもう一台のタクシーが現れて、マンションの玄関に横付けされた。
そらの予測どおり、そして一恵の睨んだとおり、紗那が大きな荷物を担いでマンションから出てきた。
ヒールをカツカツと鳴らして乗り込む。
「出発時間が結構早い。目的地は少し遠いんだと思う」
そらの予言どおり、タクシーは一時間以上走った。
途中でエレスケのリーダー土屋千咲を拾い、やがて市街区を離れて郊外に出た。
倉庫のような平屋の建物の前でタクシーが止まった。
少し離れた所で佳奈たちも車を降りて身を隠す。
倉庫の巨大な両開きの引き戸が人ひとり分だけ開かれて、中から詩緒が顔を出した。
笑顔で紗那と千咲を迎え入れると、再び扉が閉じられる。
倉庫には窓もまったくないようで中の様子が確認できない。
佳奈が一恵の方を見たが、一恵も肩をすくめた。
「覗けなくはないけど、こんなに近くで魔法使ったら、さすがに気づかれると思うわ」
「詩緒がいたってことは、莉美もいるってことだよな」
「多分そうだと思うわ。それに火浦いつきって子ももう中にいるんじゃないかしら」
「どうして分かるんだ?」
「あの子は確か最年少の十四歳でしょ? あの子以外はもう揃っているから、来るならひとりになる。この時間にひとりで来るとは思えないの。まああくまで多分、という程度の話よ?」
「なるほど…………」
「さて、どうするの? リーダー代行」
「あ、アタシの事かそれ?」
一恵は佳奈の指示に全面的に従うつもりでいる。
「白音ちゃんにとっての最適解を分かっているのは、佳奈ちゃんしかいないと思うの」
そらも同じ気持ちだった。
「……おっけー。ここに白音を連れてきて莉美に会わせたいんだ」
「了解!」
「全力を尽くすの」
一恵が魔力を感知されないよう、少し離れてから魔法少女に変身した。
紫の光に包まれたかと思うと、そのまま転移ゲートを出して消える。
少しして、ゲートから白音が現れた。
入院着に松葉杖を突いている。包帯があちこちに巻かれていてかなり痛々しい。
すぐ後ろに一恵がいるのだが、杖を突く邪魔になるのでそれ以上白音に近づくことができないでいた。
支えたいのに寄り添えない、そんなおっかなびっくりな感じでついて来る。
白音の体調を考えれば、決してこんなことをしてはいけないのだろう。
しかし、白音抜きで皆が納得のいく結論が出せるとは、誰にも到底思えなかった。
「みんな、ホントにありがとう」
杖をついたままでやりにくそうに頭を下げる。
「撮影の邪魔しちゃ悪いから、始まる前に行きましょ」
おおよその状況を教えてもらった白音は、少し覚束ない足取りで先頭を切って倉庫へと向かった。
まだ少し、おなかに力が入りにくいのだという。
倉庫の中では撮影の準備が始められているようで、近づくと声が聞こえてきた。
「今日は莉美ちゃんとりあえずこの衣装ね」
「それでチャンネル内で衣装デザインを募集しましょう」
「裁縫は任せといて」
「あ、うん……あたしもお裁縫はできるから、できるとこは自分でやるね」
「おー、莉美ちゃんてなにげにハイスペックっすね。女子力高いっす」
「歌もダンスも一発で覚えたよね」
「うんうん」
白音の肩が震えているのが分かる。
倉庫の大きな扉をノックしようとしてよろめいた。
慌てて佳奈が支えて代わりにノックする。
扉が少しだけ開いて、火浦いつきが不審そうに顔を覗かせた。
「あ、姐さん方」
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