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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第14話 さくら、散る その一

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 チーム白音が布団を並べて眠ったその翌朝。
 白音が目覚めると、何故かそらを抱きかかえていた。
 抱き枕にはちょうどいいサイズだった。

 温度設定が高めとはいえ、エアコンの効いた部屋で寝るのは白音には少々肌寒い。
 おかげでそらを快適に抱きしめて目覚められたのだが、いつ潜り込んできたのかまったく気づかなかった。
 神がかりのフィット感である。


 昼の間はみんなで買い物に出かけたり、勉強会などをして過ごす。
 勉強会の方は露骨に嫌がる者が若干名いたが、これが解決したらみんなで羽目を外しましょう。そのために今のうちに宿題片付けましょう。
 と、人参をぶら下げると、素直に頑張っていた。

 日中はそらも予測したとおり、特には何も起こらなかった。
 念のため魔法少女ギルド、すなわちギルドマスターのリンクスとビデオ通話で状況の確認をしておく。
 しかしそちらにも何も情報は入っておらず、事件も起きてはいないとのことだった。
 リンクスはアジトに『チーム白音』が五人とも揃っていることに少々驚いていた。


「君たちの行動力にはいつも驚かされるよ。心強い。よろしく頼む」



 その日の夜は、そらがクリームシチューを作ってくれた。
 莉美に料理の手ほどきを頼んだらつきっきりで教えてくれたものだ。
「基礎技術を向上したい」と言うので他の三人もあまり手は出していない。


「これをクリアすると、カレーの段もクリアしたことになるらしいの」

 なるほど確かにルゥや香辛料、調味料をアレンジすればカレーやシチュー、肉じゃがも作れるようになるだろう。
 莉美はいい先生だ。

 ひとくち食べて、白音たちは感動した。
 初めて作ったとは思えないほどの美味しさだった。

 そらのような学究肌の人間にとって料理は理科実験のようなもの、と白音は聞いたことがある。
 変な自己流アレンジを加えて失敗しないので味が安定している。

 さらに家庭料理を母親から叩き込まれている莉美の指導も相まって、初めてにしてもはや完成形と呼べる出来だ。


「パンで食べるシチューも美味しいね」

 莉美がすました顔でシチューを味わっている。

「シチューにご飯なのはあんたとわたしだけでしょ。炊き忘れたくせに……。まあでも佳奈んちのバゲットはホント良く合うわ」
「白音、それバゲットじゃなくてパリジャンだよ。攻撃力150しかないだろ。バゲットは200くらいある」

 パン屋の娘から訂正が入った。
 なるほどそれは、剣術の得意な白音にとって有益な情報かもしれないと思う。
 そして白音は、莉美にも新たなパンの魅力を発見させてくれたことを一応感謝する。



 夕食を食べ終えて、待機任務という名の女子会をしていると、白音のスマホにリンクスから連絡が入った。
 緊急時はいつでも出られるようにそちらに連絡して欲しいとお願いしてある。
 スピーカーモードに切り替えて全員に聞かせるようにする。


「白音君、出動を要請する。ギルドメンバーの魔法少女から救援要請が来た。要請者は佐々木咲沙ささきささ。しのび装束のくノ一だ」

「くノ一!」

 思わずみんなで声を揃えてオウム返しする。


「みんなそこ引っかかってる場合じゃない!」

 だが白音が急かすまでもなく、全員が次々に魔法少女へと変身していく。アジトが色とりどりの魔法の輝きに包まれた。


「他の行方不明事件との関連はまだ不明だが、何者かに襲撃されているらしい。位置情報を送った」
「了解しました。一恵ちゃん、行ける?」


 一恵が転移ゲートで繋げられるのは、自身が知っていて認識できる場所に限られている。
 もし事件の発生した場所が一恵の行けないような場所であれば、一旦転移能力者である桃澤千尋ももさわちひろと合流して送ってもらわなければならない。

「大丈夫、すぐ近くに飛べるわ!」



 一恵は普段からいろんな場所を積極的に歩き、ゲートでカバーできる範囲を増やしている。
 送られてきた位置情報は関東地方のもので、それは一恵のテリトリーとも言えた。


「なお襲撃時、もうひとり魔法少女がいて現在応戦している模様。詳細は不明だが、協力して当たってくれ。……気を付けてな」
「はい!」


 現場は東京湾内の埋め立て地、そこにある海浜公園だった。
 一恵はそこで野外コンサートをやったことがあるらしい。
 さすがはHitoeというところだろう。

 緊急事態ゆえに目撃者が出ることは考慮していない。
 夜中に人通りがあまりない場所とは言え、もしゲート付近に誰かいたらさぞや驚いたことだろう。
 突然開いた銀色の円盤から、あでやかな五人の魔法少女たちが飛び出して来る。

 移動の間にそらが精神連携マインドリンクで情報を共有してくれた。
 佐々木咲沙ささきささは隠密行動に特化した能力を持つ魔法少女である。
 姿を隠しての戦闘も得意で、A級の判定を受けている。

 彼女はその特性を生かして調査、潜入任務を主に請け負っている。
 今回はコンテナターミナルでの調査をしていたらしい。

 よく短時間でこれだけの情報を引き出してくるものだと白音は感服する。
 それにマインドリンクを使うので情報の伝達にも時間は掛からない。
 報せを受けて、変身して、海浜公園へ到達する、五分も掛かっていないと思うのだが、その間にすべてのことをそらはやってのけていた。


[状況から考えれば、海外への異世界関連技術の持ち出しを調査していたのかも]
[計画的に襲っていたとして、隠密調査してる人の居場所突き止めるなんてどうやって……]
[私が今やったようにやれば簡単に分かるの]
[それは……そう、なんだけどね?]


 確かにそらには簡単かも知れない。
 情報が漏れているのは確かなようだが、魔法や特殊な能力を勘案すれば、あまりこういう推理の仕方は意味をなさないのかも知れないと白音は思った。


 公園とは言うが、深夜の埋め立て地に人気ひとけは皆無だった。
 やはり襲撃者のがわも人目を避けて襲う場所を選んでいるのだろうと思える。

 近づくと、上空に飛んでいる人影が見えた。
 フード付きの黒いローブを身に纏い、ほうきに跨がって飛んでいる。
 羽多瑠奏はたるかなだった。パペットマスターの時に共闘した魔法少女だ。

 襲撃者に応戦している、とリンクスが言っていたのが彼女だろう。
 白音たちが彼女を目印にして駆け寄ると、大量に血を流して倒れているくノ一を発見した。

 そのくノ一に狐面に巫女装束の少女が近づこうとしていた。
 しかしそれを阻止すべく、上空から瑠奏るかながくノ一と巫女の間に石弾のようなものを振らせている。

 ふと、巫女が立ち止まると、上空を見上げた。
 先に邪魔な障害を排除することに決めたようだった。
 巫女が自分の周囲に氷柱つららのようなものを大量に発生させ、それを瑠奏目がけて発射した。


「無理無理無理…………!」

 自分に迫り来る氷柱の大群を見て、瑠奏は叫び声を上げた。
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