ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】(タイトル改訂)

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第11話 魔法少女キャラクターショーと怪物 その三

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 巨大な人型生物がショッピングモールに突如現れて暴れ始めた。
 逃げ遅れた人たちを救うため、白音は魔法少女に変身する。
 彼女はリンクスが運転する車から飛び降りて走るつもりだった。
 しかしそれをリンクスが引き留めた。彼も覚悟を決め、その怪物の方へともろともにハンドルを切る

「白音君、やれるかい?」


『魔神の尖兵』、相手はそう呼ばれるモノだった。
 真偽の程は定かではない。
 しかし異世界に住むという魔神がその手駒として使っていた兵士だと言われている。
 今は主のいないそのモノは、ただ意思のない機械のように動き、破壊の限りを尽くす。
 魔獣のような生命体なのか、ミスリルゴーレムのような非生命体の兵器なのかもはっきりしない。
 知性のない破壊装置だ。
 出会ったらやるかやられるかしかない。
 食欲などではない。破壊衝動にのみ突き動かされる、それはモノだ。

 リンクスに「やれるか」と問われて、白音の脳裏にとんでもなくやばそうな情報が次々に記憶として引き出されてきた。
 やはりミスリルゴーレムの時のように、一旦退くべきとの警告が思考をよぎる。
 しかし、と白音は思う。
 この記憶がどうであれ、今の自分はどうやらもっと強くなっている。
 蘇りつつある記憶は魔法少女である自分にとって重要なヒントを与えてくれる。
 だけどそんなに臆病にならなくてもいいのではないかと思うのだ。


「被害が拡がる前に、わたしがやりますっ! 能力強化リーパー!!」

 白音の魔法によってリンクスの魔力も向上していくのが分かる。
 リンクスは即座にその意図を察する。

「OK、頼んだ。支援は任せて」

 白音が魔力を収束させて光の剣イセリアルブレードを作り出すと、リンクスが筋力増強、武装強化、防御強化、速度増加と次々に支援魔法を重ねがけしてくれた。
 白音は何故だか少し懐かしい感じがした。
 デジャヴなのかとも思ったのだが違う。
 この魔法は、以前にかけてもらったことがあるのだろうと感じる。
 そしてさらには、支援魔法のひとつひとつがリーパーで強化されて通常を大きく上回る効果になっている。

 リンクスが愛車のアクセルを全開にした。

「核が頭蓋内にある。それを狙ってくれ」
「はいっ!!」

 しかし白音も、そのことは既に「知って」いた。
 リンクスの言った『核』とは『魔核』と呼ばれているものの事で、魔法少女の星石のように魔法的な力を発生させる源となっているものだ。
 これを潰されれば生物は死亡し、非生物ならばエネルギーの供給源を絶たれて動きを止める。

 リンクスも迷いを捨て、白音を信じて魔神の尖兵に向かって車を突進させる。
 白音が攻撃しやすいよう、怪物の脇すれすれを走り抜けるつもりだ。
 白音は相手の巨体に対応するため、剣をできるだけ長い形状に収束させる。
 それはさながら、騎馬突撃のようだった。
 ただそれでも尖兵の背が高すぎて、一撃で頭部を狙えそうにはない。
 だから白音は、まずは殴って攻撃してくるであろうその腕を狙うつもりでいた。

 対する魔神の尖兵は破壊のための本能しか持っていない。
 だがそれ故に破壊欲求への嗅覚とでも言うべきものを備えていた。
 効率よく相手を壊すために特化された能力。
 白音の突撃に対し、それは尻尾を使って迎撃した。
 振りが鋭く、リーチも拳の倍以上はある。
 白音が想定していたよりも遥かに遠い間合い、それも怪物自身の巨体で死角となるような位置から鞭のような尻尾が飛んできた。
 虚を突かれた白音は、うなる尻尾を剣で受け流すだけで精一杯だった。

 そうやって隙のできた真正面に、怪物は拳を叩き込んだ。
 白音の顔面を狙っていた。
 避けるすべのなかった白音は上半身を横にひねり、左側の肩と肘、腰、膝でなんとか面を作って衝撃を分散させる。
 おかげで顔面を粉砕されるようなことはなんとか免れた。
 しかし白音は軽々と50メートルは吹っ飛ばされ、駐車されていた複数の車を巻き込んで転がっていった。


「白音君っ!!」

 スキール音を引きずって、リンクスが白音の飛ばされた方へ向かう。
 白音が作ったくず鉄スクラップの山に車を横付けすると、しかしその中から白音がよろよろと立ち上がった。
 あの一瞬でコスチュームはボロボロに引き裂かれ、体のあちこちに浅くはない傷ができている。
 リンクスの支援魔法がなかったら死んでいたかもしれない。

「平気か? 応援が来るまで一時退避しよう」


 怪物は白音たちを一番の敵と見定めたらしい。
 他の人間たちは無視して、ふたりの方へと歩き始めた。
 ただ、大きく吹き飛ばされたおかげで少し距離ができている。


「いえ、もう一度お願いします」
「しかし、白音君……」
「お願いします」

 白音の頭の中では再び、「死にたくなければリンクスを連れて逃げろ」と記憶が本能に語りかけている。

(ごめんね。わたしの事心配してくれてるのよね。でもわたし、記憶の中のあなたが思っているよりずっと強いわ。それに、一緒に戦ってくれる人がいる。リンクスさんだって、他の人たちだって、誰ひとり死なせないから!!)

「…………分かった。勝算はあるんだね?」
「はい!」

 白音はもう一度、能力強化リーパーの魔法を投射キャストした。
 先程よりも出力を上げ、味方全員に効果が及ぶようにと意識する。
 そして、今度は車の前方、ボンネットの方に乗った。
 ブーツでボンネットに乗ればへこんでもおかしくはないのだが、何故か傷ひとつ付かなかった。
 頑丈な戦車の装甲の上を歩くような硬質の音がする。
 白音は、車をリンクスの騎馬に見立ててリーパーの効果範囲に含めてしまったのだ。
 思いつきをぶっつけで試したのだが上手く行った。
 やはりリーパーは白音が『仲間だと感じている者』であれば、たとえ無生物でも効果を及ぼせるらしい。

「お行儀が悪くてすみませんっ!」
「いや、非常事態だ。気にするな」

 運転席にいるリンクスの目の前には白音のお尻がある。
 多分ソレのことを言っているのではないだろうとは思う。

 今度はしっかり攻撃が届くよう、白音はできるだけフロントノーズの前方ぎりぎりに立つ。
 リンクスが白音のブーツと車体の間の摩擦を増加させる魔法をかけてくれる。

「ありがとうございます」
「では、行くよっ!」

 リンクスが車を前方に少し走らせてから、ハンドブレーキを使って後輪を滑らせた
 白音はタイミングを合わせて一瞬しゃがみ、右足を側方に伸ばしてその横Gに耐える。
 こういう車の挙動はいきなり練習もなしにできるものではないだろう。
 リンクスは魔法以外にも、有事に備えて様々な訓練をしているのだろうと白音は感じた。

 百八十度ターンした車は、怪物の方に鼻先を向けて再加速する。
 リンクスはブレーキとアクセルを右足のつま先と踵ヒールアンドトゥで操作して減速ショックをできるだけ白音に伝えないようにする。
 フォン。
 いななきのようなエンジン音を上げてリンクスの愛車が強烈な加速を見せた。
 リーパーで強化されたそれは、まるでドラッグカーのように一瞬でレッドゾーンに達する。

 怪物が、今度はこれ見よがしに尻尾を振り上げて構えた。
 白音は剣をランスのように長くしてはいるが、それでも明らかに尻尾の方がリーチが長い。
 それに今度は構えて待っている分、さっきよりも速い攻撃が来るだろう。
 やはりこの怪物は知性を持たないくせに、破壊のための学習能力が高い。
 白音という破壊対象の行動を予測し、対応してきているのだ。
 既にこちらも相当な速度が出ているから、このまま尻尾の一撃を食らえば白音もさすがに無事ではすみそうにない。


「白音君、避けるかっ?」
「いいえ、そのまま突っ込んでっ!!」
「オーーーケイ! 信じるよっ!!」

 尻尾の射程に入る直前、白音は左手にもう一本、光の剣イセリアルブレードを出現させた。

「これは、予測できなかったでしょ?」
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